龍のほこら 等身大のポートレート 13話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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ご無沙汰しております、お忘れの方もいらっしゃるかもですが、龍春です。
昨年の異聞再録以外で新規作品投稿を確認したら2018年11月のきみのとなりの番外編がさい、ご……?

うわぁ;;;;どんだけ更新をストップしてるんだ私ぃーーー!!!!
他のジャンルにも浮気して、あっちこっちで書きかけをこさえているにしても更新止まりすぎでした。
新規に作品を捻出出来るかはさておいても、連載は完結させるって思っていたのに更新がぁーー!!!!
と、言うわけでもうすっかりと更新ないなと思われていても間違いない状態ですが、ひょっこりと更新です。

今回は画家さん堂上氏の更新となります。
なんかちょっと長文書く癖がついてるのか切りが良いところまで書いたら予想外に長くなってしまった^p^;
久しぶり過ぎて矛盾が発生してないといいんですけど、ね。
おかしなところは『ザ・ご都合主義!』の呪文でするっとスルーしていただけたら幸い。

ではでは、楽しんで頂けますように!
『本編スタート』よりご覧くださいませ。


拍手[4回]


郁が自分の古巣に戻り、堂上が依頼を精力的に受けるようになって数か月が経った。
あの約束は嘘だったのかもしれないと思うほどに互いに音沙汰のない日々が続いていく。時折不安になることもあったが、互いが互いにメディアの片隅に載るお互いの事に気づいてからはまた細々と信じる日々が続いていた。
そうして訪れた約束の日。郁から堂上へ一つのメールが届いた。

『堂上さんへ。ご連絡が遅くなってすみません。先日は賞の受賞おめでとうございます。凄いですね。綺麗な風景画で、あんな場所で走ってみたいなって思ってしまいました』

そんな出だしで始まったメールは思いの外長く、堂上は筆を止めてその文章に見入る。
色んな事があったことは文脈からも読み取れて詳しくは会えた時に……。そんな雰囲気の内容に無意識に口元が緩む。
彼女は順調に勝ち進み、最終決勝でもある全国大会への出場権を手に入れたらしい。試合日程と場所の連絡は、堂上がチェックしていた全国大会の日程二日目にあった。
予選、準決勝、決勝と三本走るのだろうと思うが、きっと彼女なら大丈夫だ。そう思わせる自信が伺える文章にホッと安堵の息を吐き堂上は目の前のキャンバスを見る。
キャンバスには木炭で描かれた絵があった。まだ見たことはない、一面のカミツレ畑の中で満面の笑みでこちらを見る郁の姿。
走る姿を描きたい。そう思い、五年もしつこく焦がれ続けたのは五年前の堂上だ。けれど、迷っていた彼女と出会ったあの日から彼女との時間が増える度、堂上の中では走っていない時の彼女を描きたいという思いも募ってきた。
ラフ画の許可は貰っていたがこの絵を描くことは伝えていない。この絵は堂上にとっていつか見たい、見るために努力をする、いわゆる決意表明のようなものである。

「これが完成したら……」

五年も焦がれた走っている姿。もちろんその姿の絵も描こうと思っている。けれど、これはそれとはまったく違う話なのだ。
と、堂上は目の前の下絵を見て目を細める。この部屋はアトリエの中でも唯一、人が覗ける高さに窓がなく小牧も入ってこない部屋である。
そこにこれを置いたのは誰にも見られたくないからで、けれどいつかは彼女をこの部屋に招き入れたいとも思っている。
この絵の前で、カミツレの花束を抱える彼女に告げたい言葉がある。それほど感触は悪くないと思っているが、彼女ほどの純朴さならどういう結果になるのかはわからない。
ふっと息を吐くと書きかけのキャンバスに布をかけて部屋を出る。今から彼女が出場予定の試合の日までに仕上げなければならない依頼があった。
どうせなら、依頼を全て消化してから身軽な状態で彼女に会いに行きたい。そう思い、堂上は依頼の絵を描いているキャンバスに向かって座り筆を執った。
依頼の絵は締め切りの前日に完成し、小牧を通して依頼主へと無事に受け渡しは終わった。
日付はもう、郁の試合の前日になっていた。

「スケッチブック、カメラ、双眼鏡、後はなんだ……?」

明日試合を見るために必要な物を鞄に詰めている最中、堂上の携帯が無機質な機械音を鳴らして着信を告げた。
時計を見ればそろそろ二十二時に差し掛かるような時間だ。こんな時間に連絡してくる人間は小牧くらいだが、と思いながら携帯を取ると画面には笠原郁の文字。
何かあったのかと内心で慌てながらも素早く着信を取ると受話器の向こうで小さな声が上がった。

「ぁっ……」
「郁?」
「どうじょうさん……」
「どうした、もう寝る時間じゃないのか?」
「あの、えっと、ご、ごめんなさいっ! こんな時間に……」
「別に構わん。何かあったのか?」

息を呑むような音が聞こえ、ディスプレイを見間違えたかと思い名前を呼び掛けた堂上に泣きそうな声で自分の名前を呼んだ郁の声が届く。
無事に全国大会に出場を決めた郁だが、本試合までに何かあったのか? 無理をして出場権を手に入れたのか? どうしたんだ?
色んな不安が脳裏を駆け巡り、鍵を手に郁の家まで飛び出しそうな自分の焦燥を抑え込んで穏やかさを心掛けた声で呼びかけると我に返ったような郁が矢継ぎ早に電話を切ろうとする。
だが、堂上はそれを遮ってもう一度問いかけた。数か月ぶりの郁の声に、電話を切るなど勿体ないと思ったのだ。
一秒でも長く声を聴きたい。こんなにも弱った時、自分を頼って電話をくれた郁が愛おしいと、素直にそう思った堂上の声に何を思ったのか迷ったような郁の気配が感じ取れた。
息を潜めて、迷ったような郁の気配に堂上は辛抱強く待つ。数分だったかもしれない。お互いの呼吸だけが耳に響く空間で、ポツリと郁が吐き出した弱音に堂上も気づかれない様に長く細い息を吐く。
郁は頑張り屋で、前だけを真っ直ぐに見つめて走り続ける。それは実際の走りだけではなく、その心の在り方が真っ直ぐなのだと判るひたむきさだ。
けれど、それはがむしゃらに前を向き、弱音を吐くことを知らないままに走り続けてきたと思わせるような物でもあった。
誰にも弱音を吐けない。それがどれほど苦しいかは堂上が一番よく知っていた。

「大丈夫だ。一足早く声が聴けて、俺としては嬉しいくらいだ。だから、謝らないでくれ。寝れないなら少し話をしないか?」
「……いいの?」
「ああ。緊張してるだろ? 誰かと話すのは悪いことじゃない」
「うん……」

出来るだけ優しい声を意識して引留め、誘う堂上に本当は眠いのだろうと思わせるような幼げな郁の声が返る。
電話口で震える吐息に泣いているのかもしれないと思えて、堂上は今すぐにでも家に尋ねたい衝動に駆られるが悟られない様に深呼吸をして気を落ち着ける。
無意識にでも頼ってくれたのならそれに応えたい。そう思ったからだ。
ポツリ、ポツリと話される内容は他愛のない、けれど戻ってからの郁の努力の軌跡で。堂上はそれを話して貰えることに喜びを覚えつつただ黙って話を聞き続け時折相槌を打つ。

「あのね、私、高校の時に一度陸上を諦めようと思ったんです。母と……、母の理想の娘じゃない私は可愛くなくて、陸上なんてやってるからだって言われて。でも、私、走るのが好きだった。だから諦めきれなくて、お母さんと喧嘩して、家を飛び出して競技場に行ったらいくつかの大学が合同練習してて」
「……郁の故郷は茨木だったか」
「うん、そう。それで、堂上さんが走ってるのを見たの。長距離で回りよりちょっと背が小さくて、でも、残り一周になった瞬間に堂上さんのスピードが一段上がって、ぐんぐん前に居た人を抜いて、その時の顔が凄く、凄く楽しそうで……私、子の人みたいに走りたいって、その人の背中を追いかけたいって思ったんです」
「そうか……」

言われて思い出す。怪我をして陸上を止める直前の合同練習会で茨木の競技場に、確かに行った。練習試合形式で長距離に出て、ラスト一周で前を走っていた選手を抜いて上位に躍り出た。
その後の怪我で、あの時の、走っている間の喜びも何もかもを忘れようと努力したが出来ずに今もジョギング程度しか出来ないが、良い気晴らしになるからと自分に言い訳をして走っている。
過去の自分が郁の走る理由になっているとは思わなかった。眠そうな、夢心地の声があの時の堂上を酷く美化している言葉で語ってくれるが自分も大概だったので文句は言えないと黙って聞く。
他人から見た自分は、やはり走るのが好きだったのだと、そう思える。

「私、走るの好きなんです。お母さんは女の子なんだからって言うけど、女の子でも一杯、走ってる人居るのに私は女の子らしくないから、だから女の子らしくなるために走ったらダメなんだって言うんです、でも、走るの好きで……」
「郁は十分女の子だろう?」
「そんなこと……私なんか、ぜんぜん、しばさきのほうが……」
「俺から見たら、郁は十分女の子だ」
「……っ」
「……ぽんぽん。ほら、頭撫でたぞ、元気出せ」
「……撫でたんですか?」
「ああ。いつもみたいにな」
「ふふっ! どうじょうさんに撫でられたんですか……。ふふっ、かさはら、もうすこしなでてもらいたい、な」
「あほか。サービスは終了だ。ほら、もう寝ろ」

泣きそうな声で、堂上が会ったことのない、けれど郁との会話でよく名前を聞いている柴崎という女性と自分を比べて卑下するのを聞いていたくなくて途中で遮りながら押し切る。
堂上にとっては本心から、郁は可愛い女の子だ。ともすれば一番、何よりも特別な女性であることに嘘はない。
それでも息が詰まったような、今にも泣きそうな呼吸に口からは自分でも馬鹿なと思うようなセリフが出ていた。少しして郁から不思議そうな声が返り、開き直って頷けばクスクスと笑いだす。
機嫌が直ったらしい郁に時計を見て寝るように促す。

「わたしもどうじょうさんみたいにはしれるかな……」
「ああ、走れるさ。きっと俺よりももっと、な」
「そうだといい、な……」
「大丈夫だ。郁なら出来る。おやすみ、良い夢を」

すぅっと話していた声が寝息になって暫く、返事が来ないことを確認して堂上は通話を終わらせると眉間に寄った皺を揉み解す。
過去の自分を王子様みたいと評す郁の感覚には、かなり誤解だと叫びたい気持ちが大きいが小牧が聞いていなかっただけ良しとしようと息を吐き携帯のディスプレイを見つめる。
通話を切ったばかりで着信履歴が表示されたそこには、一番上に笠原郁の文字があるのを見て顔が緩むのを自覚する。
明日はきっと見たかった彼女が見れる。そう確信した堂上はもう一度、明日持っていく荷物を再確認すると眠りに就いた。
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職業:サボり癖のある事務員
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実写映画から図書戦に完全に嵌りました。暢気で妄想大好きな構ってちゃんですのでお暇な方はコメント等頂けると幸い。

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