龍のほこら 春待ちの雨 blog ver. 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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pixivでアップした「春待ちの雨」にて、堂上さんのあの時の心情が気になる。
というお言葉をいくつか頂いておりました。
自分的にはあれはあれで完成形なので別サイドをあちらで投稿するというのはなかったんですが
なんとなく書いてみようかなってことで書いてみました。

pixivと見比べると、視点が逆転しているのが判るかと思います。
pixivでは郁よりだった視点がこちらでは堂上よりの視点、その逆も然りです。
少しでもお楽しみいただければ幸いです。

また冬が戻ったかのような空気の冷たさですが、春もすぐそこ。
しっとりとした雰囲気の中に甘さを出せていたら良いなと思いつつ。

時期:査問・王子様発覚後

拍手[54回]





昼休憩を早めに切り上げて立ち寄った業務部の事務所で書類を受け取り
特殊部隊の事務所に向かっていた堂上は人気のない廊下で直属の部下である郁の姿を見つけた。
静かに窓の外を眺めている姿は、普段の元気な様子とは違い儚げで女性らしさを際立たせる。
堂上はその姿に無意識に気配を殺すとその場で足を止め見入った。

しとしとと控えめに降り注ぐ雨の音だけが聞こえてくるようなそんな風情の中
カラリと音が響き窓が開けられた。
開けたのは窓の外を眺めている郁で、隙間からするりと入り込む空気は未だ冷たい。
何をする気なのだろうかと眺めていれば、郁は柔らかい笑みを浮かべて窓の外へと手を伸ばした。
この窓の上に屋根はなく、外に手を出せば濡れて冷えるのにと舌打ちをした堂上は
わざと靴音を立てて郁の居る方へと止めていた足を進ませた。

「笠原、何してる?」

手を出そうとしたまま振り返った郁が自分を見て柔らかい笑みを浮かべたことにドキリとする。
それを誤魔化そうとしたのが原因かどうも顔がいつも仕事の時にしている表情になっていたらしい。
郁が慌てて時計を確認しようとしたのを見て表情を緩めるとそのまま近づいた。

少し前の郁はかなり挙動不審だった。
何があったのか聞いても言わない上に王子様卒業宣言なるものまでしてきたが、
最近漸くその挙動不審が治まってきたところだった。
振り返った郁の正面に立って頭を撫でてやれば郁はすぐにほっとしたような表情を見せた。
くすぐったいのか僅かに首を竦ませて器用な上目遣いをして堂上を見つめてくる。
その様子は無防備で、向けられた照れ笑いを正面から見てしまい思わず撫でていた手が止まる。

なんだ、その表情は・・・どうしてそんな無防備に俺を見る、信用するな、俺だって男だぞ?
堂上は言いたいことの一文字も音にすることは出来ず、逆にじりじりと追い詰められている。
その焦燥感に煽られて心の奥に沈めた宝石箱の鍵を焼く音が耳の奥で聞こえてきた気がした。
それを止めるために僅かに視線をずらせば目の端に窓が引っ掛かった。
先ほどまで郁が覗いていた窓、その向こうに何があるのか気になってそのまま覗き込む。
堂上の目に映ったのは、煙の様に燻ってしとしとと降る霧雨の向こう側に見える陰湿な風景。

「春を待つ見たいで良くないですか?」

風景に気を取られていて、ふと思い出した手の下の感触にくしゃりと柔らかい髪に指を絡ませ
もう一撫でしてから手を離すと郁から雨を見ていたのだと先ほどの返事が返ってきた。
そして続けられた言葉は郁らしく前向きなもので堂上が陰湿だと思ったものを一瞬で書き換えた。
そのことにはっとして、郁を見ると郁はもう窓の外へ視線を向けて手をそこへ伸ばしていた。
すらりとした腕が窓から出され、ほっそりとした色白の手が細かい雨を受けてしっとりと濡れ始める。

隣に居るのに、郁はすっかりと雨の虜で堂上を見ることもなく手を伸ばし夢中になっている。
その姿がいっそ他の誰かを想っているようで腹立たしくなった堂上は、それを自覚するよりも早く
窓から手を出し郁の濡れた手を掴んでいた。
手首ではなく手の平を包むように片手で覆い指を絡めて引き寄せる。

「え?え?な、何ですか??」

突然の堂上の行動に思考が追い付かない郁が狼狽えて細い声で問いかけてくる。
その声で我に返った堂上はしかし、誰もいないこの空間で無理やり自分を抑えることは放棄した。
ひんやりとした中に僅かに残る温もりは外に降る、郁が言うところの春を待つ雨の様で
その手を温められるのは自分だけでありたいと無意識に切に願って両手で包み込む。

「まだ冷たいんだから風邪引くだろう?」

温めてやる、という言葉は音にはならなかった。
ただ両手で包んだ手の指先に唇を寄せて自分の熱を分けるように息を吹きかける。
そうしてその熱が逃げずに浸透するように包んだ両手でさすった。

「きょっ、教官?!」

堂上の行動に、郁は何事かと声を上げた。
焦って手を取り戻そうとする郁は、自覚するほどに顔が熱くほてっている。
きっと真っ赤に違いない、放して欲しい、大丈夫だからと思うのにその逆も思っている。
このまま手を握っていてほしい、放さないで傍に居させてほしい、出来るならずっと。
バクバクと心臓が激しく胸を打ちつける音を聞きながら、恥ずかしさに知らず視界が滲む。
どうしたら良いのだろうか、誰か来たらなんて言ったら堂上に迷惑を掛けずに済むのか。
郁はパニックになりかけてそんな栓もないことを考え始める。
それでもかろうじて絶対大丈夫だと思えたのは目の前に堂上が居てその体温が判るから。

ぺしりと額を叩かれて、はっと顔を上げるといつの間にか手は放されていた。

「温めてやったんだろうが、慌てる前に感謝しろ、感謝」

冗談めかした口調で言われて、あの行為に意味はないと言われた気がするのに
その表情をちらりと見上げれば見つめてくる堂上の視線は常になく柔らかく穏やかで
うっと言葉に詰まるとお礼、お礼と心の中で繰り返しながらどうにかお礼の言葉を口にする。
盗み見るように俯かせた顔から上目遣いに堂上を見るとバチリと視線が重なった。
あ・・・と思った時には堂上の手が郁の頭をぐっと抑え込んでいつもより乱暴に髪を掻き乱す。

「わっ?!ちょ、教官!!教官、髪ぐしゃぐしゃになりますっ!!止めてー!」

目一杯叫んで手を外そうとするが、同じ戦闘職種なら男性である堂上の方が力が上で、
さらには経験の差は簡単に抵抗をいなされて封じられてしまう。
堂上の思うままに掻き乱された髪は、また堂上の気分で終了すると同じ手がスルスルと
乱れた髪を整えるように動いて撫で梳いていく。
それが気持ち良くて梳かれるままに目を細めて受け入れていると、整え終わったのか
最後に終わりを示す様にぽんぽんといつもの撫で方で大きな手が2度跳ねた。

「ほら、もうそろそろ時間もまずいし事務所戻るぞ。」

堂上は郁が頭を上げる前にさっと背を向けた。
撫でる手にすべてを委ねて預けきった表情を見せる郁の可愛いことと言ったら。
指の間をスルリと滑り落ちていく髪の柔らかさ、ふわりと風に香る甘やかな香り。
どこが戦闘職種の大女だと言うのだろうか?
堂上は先ほどまで郁を撫でていた手を目の前に持ってくるとぐっと握りこむ。

両手で包んだ手の小ささ、ほっそりとして滑らかなその肌は女性でしかない物。
守りたいと心の中に改めて決意する。
上官とか、男としてとか、そういう括りでは簡単に表せない複雑な想いがある。
ただ、言葉にするなら「守りたい」の一言に集約されるだろうそれ。
それが「愛しい」の言葉に置き換わるにはまだ少しの時間を要する。

「笠原!置いてくぞ!!」

少し歩いた先で、郁が後に続いていないのに気付いて立ち止まった堂上は
いつもの仕事中の上官の顔で郁を振り返って呼ぶ。

「はーい!今行きます!!」

呼ぶ声にたっと軽い足音で駆け寄ってくる郁に、見えないところで浮かべた笑みは
愛しいモノを想って浮かんだ春の日差しのような柔らかな笑み。
郁が歩き出したのを確認した堂上も再び足を動かすと顔を引き締めて事務所に戻る。

今はまだ降り続ける冬の雨が春を請い願うほのかな温もりを抱いている様に
ゆっくりと歩み寄る二人に朗らかな春が訪れるまであと少し。
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