龍のほこら 等身大のポートレート 8話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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こんにちは!通販の先行予約を準備中ですが、煮詰まった時につい筆が進んでしまって現実逃避に書いておりました←
本日のお届は等身大のポートレート8話になります。

無事に再会した画家堂上さんと実業団陸上選手の郁ちゃん、その行く先はどうなるのか。
未だゆっくりとした歩みですが、着実に進んでいる……と思いたいです(笑)
郁ちゃんの視点になります。お楽しみ頂けますと嬉しいです。

「本編スタート」よりご覧くださいませ。

拍手[101回]





――これは一体何が起こったの……?

そんな思考に囚われながら、郁は手を引かれて競技場に向かっていた。
郁は一歩前を歩く堂上の後頭部を見て、そのまま視線を下に向けていく。
がっしりとした肩は郁より僅かに線が下に来るが頼りがいがありそうなもので、辿ると自分の手を引く大きな手に辿り着く。
家族にも滅多にされない頭をぽんぽんと撫でる手は、大きくて温かく、ほっと肩の力を抜かせてくれる魔法の手だと思ったのは初めて会った時だ。
真っ直ぐに向けられる漆黒に逸らせなくなって会話を続けながら、人の目を見て話すなんていつ振りだろうかと考えたのも記憶に新しい。

実は、郁は今日、堂上に会うまでに2回ほど競技場を訪れていた。
その時は最初に教えられた通りに一つ先の道まで行って、その角を曲がって迷わずに辿り着いた。
今日、前と同じ道を通ったのは郁の気まぐれで、ほんの少しだけ予感があって会えたらという期待を込めていた。
駅から迷子になったあの日の自分の足取りをゆっくりと辿って着いた場所に、望んだ人が居て、からかわれた言葉に剥れながらも郁は嘘を吐いた。
本当は迷ってはいなかったけれど、もう少しだけでも一緒に居たくて吐いた嘘に堂上が思わぬ提案を投げて来て困惑したまま承諾することになってしまった。

チラリ、チラリ、と堂上を伺いながら進める歩みは沈黙が降りているが居心地は悪くないと感じてきゅっと繋いだ手の力を強めると同じように返されるのがくすぐったいと頬を緩める。
チラリと振り返った堂上の視線に気付いたが、まだ赤い顔をしている郁はその視線を見返すだけの勇気はなかった。
結局、競技場に辿り着くまでは終始無言のまま時間が過ぎて入口までたどり着くと握られていた手が離された。

「あっ……」
「ん? どうした?」
「あ、いえ! き、着替えてきますね!!」
「ああ、ゆっくりで良いから。俺は先に中で待ってる」
「はい!」

離れた手の熱が寂しくて無意識に漏れた声を拾ったらしい堂上に問いかけられて、郁は落ち着きかけた頬を再び一気に染めると握られていた手を胸元に引き寄せて荷物を抱きかかえた。
俯いて、出来る限り顔を隠しながら口早に言い置いて、受付で握っていた使用料を払うと駆け足でロッカーに向かう。
背中から追いかけてきた声に声だけで返事を返した郁はロッカーに辿り着いて一人になるとずるずると座り込んだ。

「わけ……わかんない……もぅ、なんなの、あれ……」

人気が全くないのを良いことに、へたり込んだまま荷物を床に落として両頬を抑えると小さく呻くように声を上げた。
競技場にたどり着くまでに繋いだ手は気付けば指を絡める、いわゆる恋人繋ぎという物に変わっていた。
まだ出会って2度目だ、なのに、嫌ではない、むしろ心地よい、安心する、そんな気持ちを覚える自分に困惑する。
郁は何度か深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着けるとのろのろと立ち上がって空いているロッカーに荷物を詰め込んだ。
今日は本格的に走ってみようかとスパイクも持ってきていた。

「とりあえず、走りに来たんだし着替えて行かなくっちゃ……」

手早くジャージとTシャツに着替えて貴重品とスパイク、水分とタオルと言った必要品を入れたトートを手にフィールドへ向かう。
トラックに出ると前回と同じように入口付近で壁に凭れてフィールドをぼんやりと眺めている堂上を見つけた。
どこか目に見えない遠くを見ているような様子に、郁は声を掛けそびれてすぐ近くで立ち止まってしまった。
じっと見ていると視線に気づいたらしい堂上が郁を振り返って、遠くを見ていた漆黒が郁を捉えて柔らかく和んだのをまともに見てしまった郁は大慌てで視線を逸らした。
近づいてくる足音に早鐘を打つ心臓を抑えるのに必死でどうしたら良いのかとオロオロとするばかり。
視線を彷徨わせて、俯いて、忙しなくしていた郁の頭にぽんっと載せられる大きな手。

「どうした?」
「あ……え、いえ……何も……」

問う声にふるふると首を振った郁は、さっきまでの大荒れになった心の波が一気に静まるのを感じる。

――やっぱり落ち着く。

ゆるゆると髪を撫で梳いていく手に目を細めて撫でられていると、何度か動いた手がすっと離れていく。
郁はそれと同時にゆっくりと目を開けて目の前を見ると、僅かばかり困った表情で自分を見る堂上と目があった。

「……――あんまり無防備な顔見せるな」
「え?」
「……いや、なんでもない。今日はスパイク持ってきたんだな。走ってたのか?」
「あ……はい、もう二回くらい……あっ」
「ん?二回??……迷子は嘘だったのか?」

堂上の呟きは低すぎて郁の耳には届かず、僅かに首を傾げて問うように見れば首を横に振られて話題を変えられてしまった。
郁は何だったのだろうか? とは思ったがあまり聞かれたくないことかもしれないと思えば深追いも出来ず話題に乗って頷く。
頷いて、つい、素直な性分が表に出てしまった。
慌てて口を両手で覆ったが落ちた言葉は取り戻すことは出来ず、堂上の耳にと届けられた。
不思議そうに首を傾げて郁の顔を覗き込んでくる堂上に何をどう返したらいいのかと視線を彷徨わせてから、どうにも取り繕えなくなって項垂れる。

「うぅっ……ごめんなさい」
「なんで謝る?」
「だって、堂上さん優しいから困ってるって言ったら付き合ってくれちゃうじゃないですか。今だって……」
「笠原さん、俺が君になんて言ったか覚えてるか?」
「えっ……と」
「迷惑じゃないし、走るところを見せて欲しいって言ったんだ。つまらなくないし、迷惑でもない、とも言ったな。好きでここに居るんだから君が気にしなくていいんだ」

嘘を吐いたことを指摘されるかと思っていた郁は、もう何度目か判らない頭上に降りる温かい手にそろりと目線を上げる。
器用な上目遣いになったが、今はそこではなく自分を見ている堂上の目が柔らかいことにほっとしてじっと話を聞いた。
言われたこと、と考えるが答えが出る前に堂上が言葉をくれる。
何度でも、根気よく繰り返される言葉は徐々に郁の中へと浸透して落ち着き始めていた。

「本当に、本当ですか?」
「ああ、むしろ嬉しかった」
「……嬉しい?」
「嬉しいだろう? 嘘をついてまで一緒に居たいと思ってくれたんじゃないのか?」
「あ……」

郁の何度目か知れない確認の言葉にも嫌な顔をせず頷いてくれる堂上に、また少しだけ安堵した郁は続けられた言葉に首を傾げる。
嬉しいなんて言われるようなことは言ってもやってもいないよね? と自分の行動を思い返していた郁は、告げられた内容に自分が嘘を吐いた理由を思い出して声を失くした。
そこまでダダ漏れになってしまう自分の行動が恥ずかしく、気付かれたその感情を嬉しいと言って受け止めてくれる堂上がくすぐったく、郁は顔を真っ赤にすると俯く。
もじもじとトートバックの持ち手を弄りながらちらちらと堂上を見ては視線を落として、何を言ったらいいのかを考え込んでしまう。
堂上はその間、何も言わずにただ黙って頭を撫でていて、それが余計に郁の羞恥心を煽って口籠らせる。

「え……と、……思ってました……けど、ご迷惑だと思ってて、迷子しか言い訳思いつかなくて……」
「ありがとう」

結局、素直に自分の気持ちを吐露すれば返されたのは柔らかい声が紡ぐ謝辞で、郁は落としていた視線を思い切って上げると紅い顔のまま微笑んだ。
途端に堂上が息を飲んで口に手を置くと横を向いてしまって、郁は何か悪かったかと首を傾げる。
ただ、頭上に置かれたままの手だけがなんでもないと言いたげに何度も跳ねていた。

少しして、お互いに気持ちが落ち着いた所で漸くウォーミングアップを始める。
この間と同じようにベンチ荷物を置いて、堂上の方も今日は上着を羽織っていたのでそれだけ脱いで郁に付き合う。
最初はウォーキングから、徐々にジョギングへと移行していく。
ウォーミングアップを長めに取って身体を温めると、郁は漸く上着を脱いだ。

「スターターするか?」
「あ、はい……できればタイムの方も……」
「ん、距離は?」
「とりあえず、30mから」
「了解」

郁が上着を置いて走れる状態になると、解っているかのように堂上から声がかかる。
確か、前の時に陸上経験者だと言っていたなと思い出しながらその好意に甘えてお願いする。
スタートラインに立って堂上の声に集中すると、久しぶりの高揚感と同時に不安が襲ってくる。

「……っ」
「Get set!……Go!」

堂上の声に数拍遅れてスタートした郁だったが、走るフォームは以前よりもずっと昔の自分だと思えて安堵する。
スタートのタイミングはしばらくのブランクがあるのだから仕方がない……そう思えるようになっただけマシだと短い距離を走り抜けながら思う。
直ぐに止まらずある程度流した所で足を止める。
そういえば、ストップウォッチを渡していなかったと堂上を振り返ると自前の腕時計に機能が付いていたのだろう、腕時計を見ている姿が目に入る。

「お疲れ、久しぶりにしては良いタイムだな。しかもランニングシューズで」
「え?」
「100m走ったら12秒台じゃないか?」
「……あんまり自分のタイム覚えてなくて」

堂上に言われて過去のタイムを思い出そうとしたが、郁は走るのが楽しかった当初は記録を意識的に把握していなかったことを思い出し困ったように笑った。
そんな郁に堂上は特に何も言わずに、そうかとだけ言って微笑むとあと何本走るのかとだけ聞いてくる。
実業団のホームに居た時にはありえない居心地の良さに郁は先ほど構えた時に入った肩の力が抜けるのを感じた。
そして、走るのが楽しいという気持ちが心を満たすと次からのスタートのタイミングはぐんと良くなった。

そのまま何本も郁の気の済むまで走り、スパイクでもタイムを計測して最後に100mを一本だけ走ると練習を終了させた。
靴を履きかえてクールダウンをしている時、堂上が声を掛けてきた。

「笠原さん、今日はこの後予定は?」
「あ……今日はもう予定ないんです。何するか決めてなくて……」
「良かったらアトリエに来てみないか?」
「え?」

トラックを数周し終えて、足を止めた郁は堂上の誘いに驚いて振り返る。
郁の少し後ろで足を止めた堂上はどこか気恥ずかしそうな表情をして郁から視線を逸らしていたが、横目でちらりと郁を見てくる。
頬を掻く指、そのまま手が持ち上がって堂上が自分の頭をがしがしと掻いて、照れ隠しの様なその動作がスローモーションに見えた。

「嫌なら良いんだ、気にしないでくれ」
「え? あ、やっ! 嫌なんかじゃないです!!」
「じゃあ……」
「でも、アトリエってお仕事する場所ですよね? 嫌じゃないですか?」
「嫌なら誘わない」

まじまじと堂上を見つめるだけで返事をしない郁に、堂上の方がその返答を悪い方で取ったらしい。
郁としては、男性からそういう誘いを受けること自体が初めてで驚きすぎただけだったのだが、慌てて嫌じゃないことを伝えようと勢いよく返した返事に堂上の顔が正面を向いて郁を捉えた。
交わる視線に無理強いはしたくないと言いたげに言葉を濁した堂上を見て、郁は確認する。
実業団での孤立は郁に人に対しての不信感を植え付けた。
だからだろうか、なかなか自分に向けられる好意を素直に受け止めることが出来ず疑心暗鬼を生ずるのは……。
郁の不安を打ち消す様に即答してくれる堂上は、さらに郁が受け入れるのを静かに待ってくれている。

「じゃあ……ご迷惑にならない時間だけ……」

沈黙が落ちたのは数秒か、数分か、郁の中で折り合いをつけて返した返事はアトリエを訪れる事だった。
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