龍のほこら 甘えと我儘の境界線 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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おはようございます!1日1記事、難しいですね……。
どんどんストックがなくなっていく一方の龍春です。

かねてから、お待ちください~と土下座しまくっている個人本ご購入の特典ですが漸く送付のめどが立ちました!!
ほんと遅くなって申し訳ありませんでしたー>x<
申請頂いている方には、今週末頃に一斉送信にて送付させて頂きます。
なお、配布したデータについては色々とお願いがございますので、受け取った方はその内容をご確認頂いてご了承いただけましたら幸いです。

さて、本日は新婚期の堂郁をお届けです。切ない系です。
なんかむしゃくしゃした時に書き殴った物なので相変わらず支離滅裂ですが楽しんで頂けますと幸いです。

「本編スタート」よりご覧くださいませ。

拍手[153回]


結婚して数度目の公休日、郁は一人、ぼんやりと人気のないリビングで宙を見つめていた。
結婚式を挙げたのは数か月前だ。それから何度か公休があったものの結婚式の準備中に散々優遇して貰ったツケが回ってきたのもあり結婚式の翌日から2日ほどの休日以来、堂上は全ての公休を返上して仕事に従事している。
明日こそは休めると言っていたはずだったのに昨夜、玄田からかかってきた電話に堂上は二つ返事で出勤を了承していた。

――寂しい

そんなことを思ってはいけない、郁は了承して概要を聞いている堂上の背を眺めながら不意に自分の中に沸いた感情に慌てて蓋をして先にお風呂に入ると告げて引っ込んだ。
風呂から上がると堂上はノートパソコンに向かい何か資料を読んでいるところだったので、邪魔をしてはいけないと思った郁は先に寝ることを告げてコーヒーだけ淹れてそっと置くと先にベッドに入った。
今朝、いってらっしゃいだけでも言おうと思っていたのに堂上は郁を起こさない様に出かけてしまっていて、目を覚ますと郁は一人ぼっちだった。
隣に手を伸ばしても堂上のぬくもりはひとかけらも残っておらず、無意識に込み上げる嗚咽を必死に飲み込んで起き出すと掃除洗濯をこなした。
そうしてすべての家事が終わった頃、郁はリビングのソファの下に敷いてあるラグの上に座り込んで抜け殻のように宙を見つめるだけになった。

「結婚した後の方が離れてるみたい……」

ぽつりと零れ落ちたのはここ最近思っていることだ。
堂上の能力が高く、皆に頼られているのもそれだけ仕事が出来る優秀な上官であることも理解している。
自分はどれだけ頑張ってもちっとも追い付けず、置いていかれるばかりであることも……。

「やっぱり、私なんかには勿体ないくらいの男性(ひと)だった……今からでも遅くない、かな」

郁は昨夜遅くに独身寮に住んでいる堂上が好きだという女性たちに言われた言葉を思い出す。
付き合い始めてから何度もそういう言葉を聞かされることはあった。
その度に堂上が気付いてフォローを入れてくれていたんだな、と今になって漸く気付く。
結婚してからこっち、信じられない女性隊員たちに何度も言われた。別れろ、釣り合わない、なんで結婚したんだ、そんなこと他人に言われる筋合いはない。
筋合いわないが……。

「やっぱり、飽きられちゃったのかな……嫌われては、ないん……だよ、ね?」

考え出すとマイナスループに陥ってしまう自分の性質をさすがに嫌と言うほど自覚している。
このままでは、堂上が帰ってきたときにきっと嫌な自分をぶつけてしまう。
そう思った郁は出かける気はなかったけれど、気分転換に、少なくともここで泣いていることは出来ない、と適当な服装に着替えて家を出た。
あまりのもぼんやりとしすぎていて携帯を忘れたことには気付かないまま……。


郁が出かけてから一時間もした頃、仕事をどうにか終えた堂上は官舎にある自分の家へと戻ってきた。
結婚式の準備を短期間で進めるためにかなりの無理を通して貰ったため、休日の呼び出しにも飲みの呼び出しにも断りを入れることが難しかった堂上は今日も玄田に呼び出されて休日出勤となってしまった。
昨日こそは一緒に居るのに触れ合うことの出来ない郁とゆっくり出来る、と思っていたのに狙った様に入った連絡に断ることは出来ず二つ返事で了承を出した。
じっと見つめたまま何も言わない郁に意地を張っていたのかもしれない。
午前中でどうにか書類を終わらせて、まだ追加が来そうになったところを緒形がさすがに、と止めたことで漸く解放されたのだ。
結婚式から既に数か月が経っていた……。

「ただいま」

自宅に居ても居なくても鍵はかけるように言い含めてあるので、玄関に鍵がかかっていることに何も疑問を持たなかった。
鍵を取り出して、開けて、出かける予定も言っていなかったよな……と、部屋に居るはずの郁に声を掛ける。
しかし、いつもなら返ってくる柔らかい声が返らず、堂上は転寝でもしているのかと首を傾げる。
時刻はもうすぐ昼に差し掛かろうとしていた。

「郁?」

三食きちんと食べる派の郁が、この時間に昼ごはんを作っていないということはなく。
今までの休日出勤も昼に帰れば郁が慣れないながらもご飯を作ってくれていて、声を掛ければ嬉しそうな顔で迎えてくれていた。
なのに、今日はそれがない……堂上はその事に漸く訝しんで慌てて室内に駆け込むとガランとした温度のない空間が広がっていた。
人気のないその部屋に、堂上は寒気を覚えてそれほど数のない室内をあちこち開けて郁の姿を探す。
閉所恐怖症の気があるのにそんなところは入らない、と、少し考えれば解るのにそれすらも思い至らずクローゼットから押入れ、入れそうなところは全て見たが見つからない。
ただ、寝室に充電したまま忘れられた携帯だけがぽつんと取り残されて、誰からかの着信を伝えていた。

「……くそっ」

郁、どこだ! 携帯を鳴らしたくても目の前にあるから鳴らすことも出来ない。
堂上は携帯を取り出すと最初に頼るだろう郁の親友である柴崎に連絡と取ったが、結果は空振りで逆に何かあったのかと問い返されて苦りながらも事情を説明すれば電話越しでも解る冷気が伝わってきた。

「教官なら笠原を大事にしてくれると思ったから譲ったんです。見つけられないなら、私が奪いますからね!」
「誰が渡すかっ!」

怒りに震える声で文句を告げてきた柴崎に、僅かに竦むも自分の手から奪われるのは敵わないとはっきりと返せばそんなこと言うならなんで今更なのかと余計に怒られたがここ一、二か月の郁の様子を聞かされて堂上は手を握り締める。
結婚すれば余計な横やりなど入らないと高を括っていたのだ。
自分の仕事を解っている郁だから、きっと休日出勤も大目に見てくれる、そう、勝手に思い込んでいた……。
上司に恨まれようが何しようが突っぱねて郁を優先すればよかった! 今更後悔しても何も始まらないが、悔やんでも悔やみきれないと堂上は歯噛みしながら聞くだけ聞くと柴崎との通話を切った。
荷物の整理も着替えも後回しにして携帯と財布、それに鍵だけを手に堂上は官舎の入口を飛び出した。

その頃、郁はふらふらとした足取りで近所の公園へと来ていた。
公園には小さな子供を連れた母親が何人か集まり、子供たちが一緒になって遊ぶ様子を眺めながら会話をしている。
郁は少し離れた奥まったベンチまで歩くとそのベンチにストンと腰を下ろして幸せそうなその様子を眺め始める。

――私が居なければ、私と結婚しなければ、ううん、少しでも早く一緒に住みたいなんて、そんなことを言わなければ無理をして時間を作って今こうやって寂しい思いをしなくて済んだのかな?

寂しいと思うこともいけないことだ、と郁は自分に言い聞かせて今までやり過ごしてきた。
帰る頃になると入る堂上からのメールが唯一の支えだったが、ここ二、三回はそれも入らなくなって久しい。
しっかりと顔を見て堂上と会話らしい会話をしたのはいつが最後だったか、郁はそれすらも解らないなとぼんやりする。
柴崎に相談したこともあったが、寂しいって言えばいいのよ! と言われてしまったのでそれ以後相談することは止めた。
寂しいと言えれば確実に変わるとは解ってはいたけれど、仕事に真剣な堂上も好きなのだし頼られて無下にできない堂上だから一緒に居たいと思ったのだと思えば寂しいなど言えないと思った。
郁は深いため息と共に下を向いたことでポロリと零れた雫に気付く。

――ああ、泣いたら目が腫れる……篤さんに心配かけちゃう

笑っていなくちゃ、そう思って必死に堪えようとしたが限界だった……。
傍に居るのに向けられない視線、疲れた様に落ちる肩、笑った顔も仕事が増えるごとに見れなくなった。
家でだけでも寛いでほしくて色々考えたけど郁よりも手際も要領も良い堂上は料理でも既にその辺りの主婦程度には腕をあげてしまって自分の作る料理とは雲泥の差。
それでも何とかしたくて頑張ってみるけれど、疲れて帰ってくると食事の量も減る。
口に合わなければ余計に食べる気力はなくなるのだろう、翌朝になって目の当たりにする残ったおかずに唇を噛み締めたことなど数えきれない。

「私じゃ、疲れるだけ……だよね」

もう、傍に居る権利もないんじゃないだろうか……一度そちらに転がった思考はそんなことない、と言い聞かせるには追い付けないスピードでどんどんと落ちていく。
一つ、一つとゆっくりと零れていた涙は、いつの間にか滝のように溢れだし止まらないまま郁の頬を、手の甲を、膝を零れ落ちていく。
嗚咽は零れない、ただ郁の想いとは裏腹に静かに溢れ零れ続ける。
どれだけそうしていたのか解らなかったが、郁が肌寒いなと思う頃には気付けば青かった空は茜色になり、はしゃいだ子供たちの声も穏やかな主婦の会話も消えて公園に一人取り残されていた。
枯れない涙は未だに郁の視界を遮って、全てを水の中へと埋没させている。

「帰らなきゃ……」
「郁っ!」

涙は止まらないが、そろそろ帰らなければ堂上が帰ってくるかもしれない。
そう思って立ち上がろうとしたとき、少し離れた公園の入口だろう場所に人影らしきものが見えて郁の名前を思い切り叫んだ。
その声は酷く焦燥に駆られていたが聞き間違えようもない郁の大切で大好きな人の声で、郁が驚きに目を見開いてそちらを見る頃には水の中に浮かぶ人影は郁のすぐ傍までたどり着いてきつく郁を抱きしめていた。
郁は反射でその腕から逃れようと身を捩るが、もがけばもがくほど締め付けられる腕に観念して大人しくなると少しだけ腕が緩んだ。
覗き込んでくる顔は、今の郁には水面に映り歪む虚像しか見えず、それすら見たくなくてきつく目を閉じると顔を俯かせる。
その行為の郁を捕まえた腕の持ち主、堂上は傷ついたような表情を見せるがふっと息を吐いてそれをやり過ごす。

「郁、家に帰ろう……」

堂上が息を吐きだしただけで、郁は過剰に反応してビクリと大きく肩が跳ねた。
それがとても痛くて、哀しくて、堂上はギリリと奥歯を噛み締めるが柴崎から聞いた話が原因なら自業自得である。
何も言えないまま、懇願するように帰宅を促せば迷うような間の後、小さく頷く郁を確認出来てほっとする。
それでも逃げられるのが怖くて堂上は郁の手を掴み指を絡ませるとしっかりと握ってから帰路に着く。
歩いている間も郁の瞳から零れ落ちる涙が止まることはない。
嗚咽を零すような激しい泣き方ではない分、余計に堂上の胸を締め付けるそれは今日まで郁が我慢した寂しさや哀しみなのだと思うとやり切れない。
官舎の自宅に辿り着いて郁を先に入れると堂上が後から入って玄関の鍵を閉める。
玄関に立ちつくす郁を促してソファに座らせるとホットミルクを作って郁に持たせ、堂上も隣に座る。
お互いに何を言い出せばいいのか迷い、沈黙が落ちた。

「……私、独身寮に戻りたい……です」

少しして、ポツリと郁が零したのは限界まで我慢したが故の本音だった。
独身寮なら誰かが、柴崎が、傍に居てくれる。
傍に居てくれれば寂しいと思う割合も少なくて、こんな風に堂上を困らせることなどなかったはずだ。
この半日、公園で座り続けてぐるぐると陥っていた思考をそのままぽつぽつと零す郁の言葉を、堂上は震えながらも邪魔せずに聞いていた。
まだ、別れたいと言われないだけマシなのかもしれない。けれど、いくらツケが回ってきたとはいえ郁をここまで我慢させてまでやることだったのか、と後悔が堂上を苛む。

「我儘だって、解ってるんです……。仕事の方が大事だし、篤さんが優秀で、頼られてて、そういう篤さんも好きで……でも、今は私のせい、なんですよね?」
「違う……」
「違わないですよ。だって、私が早く一緒に住みたいって言ったから皆に反対されたの押し切って結婚式最短でやって、それやるためにたくさん、今、無理してるんですよね?」
「……そんなことは」
「疲れて帰ってきて、でもまだ仕事終わってなくて、声掛けても生返事、寝るタイミングがずれるだけなら良いけど家でも私が役立たずだから篤さんの方が家事の負担だって大きくて……」

なにも手伝えない、負担にしかならないなら、別々で暮らした方が堂上の負担が少ないに決まっているのに……そう呟いて、今度こそ嗚咽を零し始めた郁に堂上はどうしたらよいのかと途方に暮れる。
堂上としては、寂しい思いをさせている自覚があって、自分に合わせて帰宅が遅くても起きて待っていてくれる郁を少しでも寝かせたくて朝の準備をしたり、休日も出勤前の時間に家事をやって……。
全てお詫びのつもりで、郁に自由な時間を満喫していてほしい、そう思っての事だったがすべてが裏目に出ているとは思わなかった……。
朝すれ違っても帰宅してありがとうと笑顔で言われて、伝わっていると思っていたのにそれすらも郁が堂上に心配を掛けないための強がりだったのだ、と。
今更気付いてもこれほどに傷ついている郁をどう慰めていいのか、何をどう伝えたら堂上の想いを伝えられるのか解らず途方に暮れる。

郁を見つめたまま固まった堂上の前で、郁はポケットからカサリと音を立てて1枚の紙を出した。
それをそっと堂上の前に置くとソファから降りて床に正座をした郁は膝前に両手をついて深く頭を垂れる。

「今までありがとうございました。短かったけど、奥さんになれて嬉しかったです。何も出来なくて、負担しか増やせない奥さんでごめんなさい。もう、これ以上篤さんの負担は……」
「やめろっ! やめてくれっ! 俺は、帰る場所に郁が居るだけで十分だったんだっ!! それに、どう考えても俺が悪いだろっ?!」
「そんなことないよ。篤さんは素敵な旦那様だったもの。私が……」
「嫌だっ! 絶対に認めないっ!」
「篤さん……」

郁が堂上の目の前に差し出したのは離婚届と書かれた紙で、郁の欄は全て書かれていた。
まだ、結婚して新婚と言われる期間で、こんなにも寂しい思いをさせて追い詰めたのは自分なのに、と堂上は郁の言葉を遮り離婚を拒絶する。
駄々をこねるように嫌だと繰り返す堂上を、郁は困ったような表情で見つめているだけで何も言わない。

「郁、郁……ごめん、俺が悪かった。郁に、寂しいって言ってほしかったんだ。お前は仕事を理解してる分、我儘を言わないから最初は恩があって断れなかったのは確かだ。でも、いつの間にかいつでも毎回でも約束を反故にして休日出勤する俺を笑って見送るお前に……」
「篤さん……」
「寂しいと言って貰えないのが悔しくなって……ごめん、意地張って、こんなに泣かせて。愛想尽かされても仕方ないのは解ってる。それでも……」
「だって、私……仕事も、家事も、何も手伝えない……頑張ったけど、他の人だって間違ってるんだって」
「他の奴なんて関係ない! それに、何も出来ないわけじゃないだろ? 家事だって、仕事だって、出来ないことでも出来るようにずっと頑張ってたのを俺は知ってる。他の奴らが何と言おうと、だ。第一、俺は郁以外欲しくない」
「でも……だって……」
「郁……頼む、俺を捨てないでくれ。郁じゃなきゃダメなんだ」

床に正座した郁の前に降りて、堂上は郁を抱きしめると縋るように腕に力を込める。
内心では、今後二度と休日出勤などしないと硬く決心しながら頑なになった郁の心をどうにか溶かそうと必死になる。
郁は堂上の腕の中で告げられた言葉の意味を考えていた。

――寂しいって言ったら、負担になるんじゃないの?
――いつも、約束なんてあってないようなものだって思ってた……
――このままの状態が続いたら、私が捨てられるんでしょ?

郁、郁、と繰り返し名前を呼ぶ堂上に、落ち込んだ心が少しずつ引き上げられて郁は少しだけ身体を捩ると自分を抱きしめる堂上との間に隙間を作ってその顔を覗き込む。
いつもはまっすぐに力強く輝く漆黒は、不安と焦燥で揺れて今にも泣きだしそうだった。

「私、篤さんの負担にならないですか?」
「癒されることはあっても、負担になんてならん」
「寂しいって言ったら、重くないですか? 無理、するでしょ?」
「無理しない。お前が寂しいっていうならいつだって休日出勤は蹴る。元々はオッサンらの仕事なんだ、自分でやればいい」
「じゃあ、なんで……」

一つずつ、確認するような郁の問いかけはほぼ即答で力強い、郁にとって嬉しいと思える返事が返ってきて迷う。
郁は視線を彷徨わせながら、今まで全て受けていた休日の呼び出しを蹴ると即答した堂上の、その理由を理解できなくて、聞きたくて言いかけて堂上の表情に口籠る。
そんな郁に、堂上は困ったような拗ねたような表情で視線を逸らし、ガシガシと頭を掻くと観念したように深く息を吐いて理解が追い付いていない郁に噛み砕いて説明するために言葉を探して視線を彷徨わす。

「…………さっきも言っただろ。お前、恋人の頃から仕事で約束が潰れても文句ひとつ言わなかっただろ。結婚してからも、新婚なのに笑顔で送り出してくれ て……。普通なら、文句の一つも出るところなんだろうと思うとありがたい……が、寂しかったんだ。甘えて貰えないって……」
「私、十分甘えてます……よ?」
「まだ、足りない。もっと甘えて欲しいんだ。寂しいって言われても、それを解消するために蹴れる仕事とどうしても行かないといけない仕事とある。蹴れるときは蹴ったって良いと、俺は思ってる」
「でも……」
「言うくらいは我儘じゃないし迷惑でも、重くもない。むしろ、言ってくれた方が嬉しい」
「……」

口下手で、要らんこと言いで、肝心なことは言えなくて、プロポーズだって酷いもんだった……そう振り返った堂上は、しかし離婚届を前にしてまだ意地を張れるほど郁に対して軽くはない気持ちを持っている。
むしろ、絶対に、郁が心底嫌がっても離すつもりはないと固く誓っているし、離さないために自分が変わる必要があるならいくらだって言葉を尽くそうと開き直る。

「出来ないことは出来ないと言う。が、言われないと郁がどう思ってるのか解らない。柴崎曰く、朴念仁だからな」
「……でも」
「今すぐ、なんでも言えるようになれとは言わん。俺もきっと要らんこと言いも肝心なことを口に出せない口下手も早々は変われない」
「言っても……良いんですか? 困らないですか?」
「困っても、郁に困らされるなら良い。だから、言ってほしい」

傍に居て欲しい、繰り返し告げる堂上に、少しずつ溶かされた郁の心はほんのりと温もりを持つ。
困らせたくはないけれど、言わない方が寂しいと言ってくれるなら少しくらいは伝えても良いのだろうか。
仕事を優先しなくちゃいけないと思っているけれど、それでも、何百回に一度くらいは自分を優先して貰えるんだろうか。

「郁、郁、頼む。お前が居なくなる方がつらい」
「篤さんは、私が好きですか?」
「っ……」
「一杯、我儘言って、困らせてしまうかもしれなくても、好きでいてくれますか?」
「当たり前だっ!」

じっと堂上を見つめる郁の瞳は、いつもの快活さも強さもなく、不安に揺れている。
堂上はそんな郁の目を見て恥ずかしさを捨てて開き直ろうとしながらも、捨てきれずにぎゅっと郁を抱き寄せてその耳元に唇を寄せる。
そうして、恋人の頃から何度も伝えようとしては言えなかった言葉を緊張と共に音に乗せた。

「……愛してる、この先ずっと、郁だけだ」
「っ!?」

低く、掠れた声で告げられた初めての言葉に郁は驚きで声も出ないまま身体を硬直させる。
堂上は、そんな郁に顔を上げると頬に手を添えて目を見つめながらもう一度同じ言葉を繰り返す。
お互いの顔は頬と言わず耳と言わず、間違いなく全身真っ赤に違いないが暫く見つめ合うとどちらからともなく二人微笑み合った。

「私も……私も、篤さんだけずっと好き……」
「知ってる……今までごめん」
「ん……私も、ごめんなさい」

堂上の言葉で郁の中に残っていたわだかまりは一気に氷解した。
郁にとって他の誰よりも信じている堂上の言葉よりも重いモノはなく、その堂上が自分だけだとはっきり告げてくれたならそうなのだろうと信じられるのだ。
そして、同時にほんの少しだけ甘えても良いかな? という気になった郁はそれまで下に下ろしたままだった両手を堂上の背に回し肩に額を擦り付けると今まで寂しかったと呟く。
一度呟いてしまえば、それまでに色んな想いは次々と零れだし、堂上は静かにそれを受け止めてある時は謝罪をし、ある時は褒め、久しぶりにゆっくりと郁の体温を感じながら言葉を交わした。

翌日、堂上から玄田、緒形に進言があり郁がそれまで我慢していたことなど洗いざらい吐き出したことで休日の呼び出しは緊急時以外は受け付けないことが確定した。
そこまで溜め込ませてしまったお詫びも込めて、特殊部隊の全員から郁と堂上に特別休暇が出されることになったのはまた別の話……。
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職業:サボり癖のある事務員
趣味:読書・昼寝・ネットサーフィン
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実写映画から図書戦に完全に嵌りました。暢気で妄想大好きな構ってちゃんですのでお暇な方はコメント等頂けると幸い。

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