龍のほこら 等身大のポートレート 9話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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こんにちは! やっと、久々に、更新、です!!

いやぁ……諸事情によりしばしの間このお話を書くことにちょっぴり嫌気がさしておりまして。
私の癒しが癒しじゃなくなっているぅ~~!! と離れていたんですが、つい最近不意に書きたくなったので書きはじめました。
漸く完成です。あ、でも完結じゃありません、まだまだ話は続きます。
かなり引っ張っていますが、ごめんなさい……思うように堂郁動かないノ∀T`

それでも、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
よろしければ「本編スタート」よりご覧くださいませ。




アトリエに着いた堂上は、ひとまず郁を応接室に通してソファを勧めると自分は給湯室にお茶を淹れに行く。
そうして滅多には来ないが一応来客用にと用意してあるティーカップに紅茶を淹れながら深呼吸をする。
誘ったのは良いが、実の所、このアトリエに女性を招いたことは一度もない。強いて入ったことがある女性に数えるならば勝手に入ってくる自分のマネージャーを気取っている妹と親友であり画商である小牧の彼女だけだ。
その彼女とて、小牧とのツーショットの絵を描いて欲しいと頼まれた時にモデルとして一度か二度入って貰っただけである。
堂上は今更だが自分のアトリエの状態を思い出して、僅かに焦る。つい先日まで、コンクールへ出品する作品を描いている所だった。
なかなか思うように描けずに、締切を確認して一度描くのを中断しようと思ったところで現在のアトリエは使いかけの絵の具や筆、キャンバスがそのままになっている。

「しまったな……今の状態じゃ、綺麗な服を汚しちまいそうだ」

ひっくり返した砂時計の砂が落ち切るのを見ながら、無意識に呟いた声に自分でビクリと肩を揺らすと周囲を見る。
郁は案内した応接室から動いてはいないようでほっと安堵の息を吐きながら出来上がった紅茶をお盆に乗せて運び出す。
念のため、ノックをしてから応接室に入ると小さな悲鳴が上がってがたがたと音を立てた郁が慌てて椅子に座り直している所だった。

「どうした?」
「あ、い、いえ! そのっ!」
「ん?」

紅茶を応接用のテーブルに置きながら、郁の様子を見た堂上はチラチラと応接室とアトリエを仕切っている壁にある窓が開いていることに気付く。
その窓の向こうには、郁が購入してくれたカミツレと対になる絵がお揃いの額縁に入って飾っているのが見えた。
堂上の方はそれを見て、そう言えば郁が購入した絵の話をした時に自分の絵かもしれないとは言わなかったなと思い出す。
郁の様子を見る限り間違いなく、郁が買ったのは自分の絵で、買った場所は小牧の画廊であると確信した堂上はどう説明しようか迷いながらひとまず郁の視界を遮る様に窓に近づいてそれを閉めた。

「あ……」

閉じられた窓の向こうに消えた絵に、郁が小さな声を漏らしたのを聞いて振り返るとはっとしたような表情で見上げられて苦笑が浮かぶ。
別に、隠しているつもりはないが話をゆっくりするにはあの絵が今は邪魔だろうと思っただけの堂上にはどう反応して良いのか判らない。
堂上は俄かに緊張する自分の心を宥めながら、出来る限りゆっくりとした動作で郁の向かいにあるソファに戻ると椅子に座り紅茶を勧めた。
郁の方もそんな堂上の行動で漸く正気を取り戻したらしい、そっとカップを持ち上げると口を付けた。
堂上もゆっくりと紅茶を口にすると、カップを置いて郁を見る。郁は一口飲んだカップの中身に気づいたらしく、ほぅっという吐息と共にゆるりと表情を崩している。

「これ、カミツレが入ってるんですね」
「ああ、よく気付いたな」
「上手く香りが立つようにブレンドしてあるから。それに、飲んだことあるんです……この味」
「そうなのか? これは、俺が足の怪我で入院していた頃に同室に居た人が教えてくれたものだ」

カップを置いた郁の言葉に、堂上は目を瞬かせて首を傾げる。今日、郁に出した紅茶は自分が絵を描くきっかけをくれた恩人が教えてくれた配合で、誰にも教えたことはないと言っていたのだ。
飲んだことがあるといわれてつい、口を滑らせると今度は郁の方が目を瞬かせた。どうやら、不思議な縁があるような気がする。
聞きたいこと、頼みたいこと、きっと郁が気になるだろうこと……それらを考えた堂上の頭からは先ほど紅茶を入れている時に考えていた悩みはすっかりと消え去っていた。
そして、何から話すか迷った末に自分もカップを置くとチラリと背後の窓とその向こうにあるはずの絵へ視線を向けてから、郁へと向き直る。
まずは、郁が疑問を抱いただろうあの絵の話からが妥当だろうと考えて。

「あの絵は、つい最近売れた絵の片割れだ。元々は横に長い一枚だったのを、半分に分けたんだ」
「え?」
「どこに出しても賞どころか審査員の目にも留まらなかった絵なんだ。俺の処女作でな……。まぁ、目が出来てきた今見るとかなり拙いのは判ってるんだが……」

郁には突然に感じたのだろう、堂上が話し始めると一瞬訳が判らないという表情で聞き返す様に声を漏らした。しかし、話し続けるとそれ以上は声に出さずただ静かに聞く姿勢を取ってくれた。
その態度にホッとしながら、堂上は誰にも、売るにあたって本来の姿を知っていた小牧くらいしか知らない話をし始める。

「前に、膝を壊して走れなくなったと言ったことがあったろう? あの時、怪我の治療で入院した病室で同室になった女性が居たんだ。俺の母親より少し若いくらいの人で、末期がんだったと聞いた」

小牧に話した時よりもずっと鮮明に恩人である彼女を思い出すのはどうしてだろうか。
話す傍らで、ぼんやりとそんなことを考えながら口にする過去は陸上を今もやり続けている郁には少し痛みを感じる内容かもしれない。
怪我ではないが、実際に走れないところまで追い込まれた郁には想像するのも小牧よりはたやすいだろうと思う。
堂上は所々で休憩するように紅茶を口に含ませながら恩人と出会った頃の自分、恩人が恩人となった時の話、そして、その一枚の絵を描いた時の話をしていく。

「あの絵を初めて描いた時は、丁度画家になることを決心した時だった。彼女はもう余命幾許もない状態で、永眠を自宅で迎えたいと退院していたから、お礼と報告をしに退院の時に教えて貰った住所に行った」

彼女は、庭に面した部屋に置かれたベッドの上でただ静かに死を待っていた……。恐れることなく、憂うことなく、その連れ合いである男性と共に日々をゆっくりと過ごしているのが良く解った。
堂上が顔を出すと、彼女はあの変わらない笑顔をそのやせ細ってしまった顔に浮かべて手招き庭を指さした。
視線をそちらに向けると、そこは庭の中央の大きな花壇一杯に青空を目指しのびのびと育ったカミツレ――カモミールが咲き誇っていて堂上は無性に目頭が熱くなり顔を伏せた。
その、どこまでも生き生きとした様子がどこまでも精一杯に生きている証の様で……。

「俺は、その庭に咲いたカミツレを描きたいと思ったんだ。彼女も、その旦那さんも快く許可を下さってな。部屋はあったんだが、描く場所がないと告げたら場所まで貸してくれて描きあがるまで泊めて貰ったんだ。彼女が亡くなったのは、丁度俺があれを描き上げた頃だった」

彼女は、息を引き取る直前までいつも通りに過ごしていた。
掛けられる声も、伸ばされる手も、その表情すら死の際に居るとは思えないほどに生を感じさせるものだったが身体だけはほっそりとして、死を予感させる様子だった。
堂上が描く絵を、いつも後ろから覗き込んでは素敵ね、上手くなったわね、そんな声を嬉しそうにかけてくれていた。
何日もかけた絵が完成して筆を置いた堂上が振り返ると彼女は柔らかい笑みを浮かべて良い絵ね、と言ってくれた。
そうして、眠る様に目を閉じて息を引き取った……。

「彼女が、俺が居ない時に言っていたらしい……。あの絵はきっと一枚ではなくて、二枚で一つの絵になるんじゃないか、と。それを聞いてもう一枚描こうとも思ったんだが、思うように描けなくてな……」

半分に切って、それぞれを一枚絵としても見れるように直したのが今の形だと告げると堂上はすっとソファを立ち上がる。
先ほどは閉めてしまった窓を開けると、そこには郁の絵と似たような、けれど少しだけ違うカミツレの絵がもう一度姿を現す。
その絵は誰の目も惹きつけなかったが郁の視線はやすやすと惹きつけるようで、郁は姿が見えた途端にその絵に釘付けになった。

「笠原さん。君だろう? 小牧の画廊であの絵の対を買ってくれたのは」
「……はい。偶々、通りかかったのが小牧さんが経営されている画廊で、一目見て惹かれて……懐かしい、気がしたんです」

堂上が問えば、郁は素直に頷き買った時を思い出しているのか目を細めて優しい表情で窓の向こうにあるもう一枚のカミツレを見つめている。
堂上はやはりと思う反面、どうしてもこれが偶然とは思えず、他のことも確認がしたくて窓を開けたまま話の続きをするためにソファへと戻った。

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