龍のほこら 等身大のポートレート 2話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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こんばんは、龍春です。
本日は日付変更付近で更新です。珍しく起きてました(笑)
明日は休日出勤でやらねばならぬ仕事があるので、最後のあがきです←
単発のネタは尽きたし、そろそろ毎日更新は無理なので次が出来るまで気長にお付き合いくださいませ。
皆様から拍手コメントで頂いた作品への続編希望などは余裕があれば考えさせて頂きます。
ネタが飛んだらごめんなさい、書けません^^;

さて、本日の更新は等身大のポートレートです。

画家堂上さんと郁ちゃんの恋模様、どうなるか・・・。
2話は当初郁ちゃんが大学生から社会人になっております。
実は当初大学生で進める予定だったのに気づいたら社会人になっていたオチ^^;
楽しんで頂ければ幸いです。
「本編スタート」よりご覧くださいませ。

拍手[87回]





その日、郁は何もする気も起きず、かといって部屋に籠っているのも酷く暗い気分になると感じて昼前に適当な服装に着替えて街へと繰り出していた。
郁は中高大学とすべて陸上部に所属し、その足で記録を出しスタイルの良さや記録の伸びを期待されて実業団入りしていた。
しかし、ずっと伸び続けていた郁のタイムは実業団入りして1年も経たないうちに伸び悩むようになった。
元々、20歳を過ぎれば女性としては身体が衰え十分なタイムを期待するのは難しくなってくるものなのだが、今までがずっと伸びていたために郁はその当たり前を適用して貰えなかった。
故に、実業団の中でも陰口を叩くものも出始めて郁は徐々に走ること自体が楽しくなくなってきていた。

「もっと走れる場所に行ける、そう思って実業団入ったんだけどなぁ・・・。」

入ってから練習だけじゃなくタレントの様にあっちやこっちや引っ張りまわされて、郁はその窮屈さに息が出来なくなっていた。
今までもそれがなかったわけではないが、それでも大学と社会人では違い実業団ともなればスポンサーが居なければやっていけないのが実情で・・・。
今までは走ることでそのストレスを解消していたが、今はすっかりと走ることがストレスの源になってしまっていた。
その為、楽しい、嬉しい、もっと早く、もっと前に、もっと風を感じたい、そんな気持ちだけで前へ前へと走っていた郁のフォームは崩れ、タイムは落ちた。
そしてタイムが落ちれば当然の様に叱咤が飛び、さらに自分を責めるタイプの郁は走れないことが苦痛で練習を繰り返していた。
無理をすれば身体が壊れるのは道理で、医者にも今無理するのを止めなければ一生走れなくなると脅されている。
医者は昔から懇意にしているスポーツ医科学専門の医者で、郁に心理カウンセラーにかかることを勧めて、実業団にはしばらくの療養を要するという診断書を突きつけて郁を陸上から離した。
走れない郁はどうすることも出来ず、身体が鈍らない様に朝の軽いジョギングをする以外は医師の言う通り療養生活を余儀なくされていた。

「ふぅ・・・。」

走ることを考えるだけで疲れたため息が出る。
いつからこうなったんだろうかと考えながら人の波をすり抜けて歩いている時、視界に白と黄色の何かが飛び込んできた。

「・・・・絵?」

そこは小さな画廊だった。こじんまりとした、存在を主張しないそこは配置良く趣味の良い絵画が飾られており小さなギャラリーには新進気鋭の画家の展示が行われていた。
郁が惹かれたのはその中の1枚。20cm四方のキャンバスに真っ青な夏の空を思わせる青とそこにのびのびと枝葉を伸ばし黄色い花芯を中心に小さな白い花弁が囲む花の絵。
郁は誘われる様にギャラリーへと進み、その絵の前に立った。
伸び行く枝葉が空を掴むように大きく広がり、凛とした花の立ち姿が自然と心に響く。絵の下を見るとタイトルだろうか、『苦難の中の力』という言葉が記されていたが画家の名前はなかった。ただ、絵の右下に少し右上がりのソレは力強く繊細な文字でDというアルファベットが記されている。
再び絵に描かれたその花に視線を戻すと、なぜか酷く心が緩み涙が滲んできた。一度緩んだ涙腺は止まることが出来ずにぼろぼろと大粒の雫となって郁の頬を伝った。

「ふっ・・・ぅ・・・・。」

郁は、この花を知っていた。白い花弁、黄色の花芯、のびやかに力強く枝葉を伸ばして育つこの花は郁が実業団に進むか迷った時に導いてくれた今は亡き女性が大切にしていた花。その女性は女性のお母さんと母親がガーデニング仲間だったのがきっかけで知り合った。
その女性もお母さんの影響だと言ってガーデニングに凝っていて、数年に一度お家を訪ねる母親についてお宅を訪問させて貰っていた。
郁が迷っていた頃にはもう、その女性は惜しまれながら若くしてこの世を去っていたがその意志をしっかりと受け止めて穏やかに暮らす旦那さんが郁を家へと迎え入れて話を聞いてくれていた。

「そうですか・・・。確かに、陸上を趣味にして一般企業に入るのも一つの道ですね。お母様が将来をご心配されているのも良くわかります。
しかし、これは笠原さん、貴女の人生です。貴女はそれで満足できますか?後悔しませんか?」
「・・・・判りません。何が正しいのか、母に反発したいだけなのかもしれなくて・・・。」

郁はそれまで母親に女の子らしさを押し付けられて辟易していた。
陸上を始めたのも母親への反発心がそうさせたのが最初だ。
しかし、やり始めるとただ走るという単純な行為の中にある奥深さに、自分を見つめ直し真っ直ぐに進むことの難しさに次第にのめり込んでいた。
中学を卒業するころにはすっかりと陸上に、その走る魅力に憑りつかれて走り込んできた。

「正しくなくても良いと思いますよ、貴女の人生ですから後悔のないようにお進みなさい。一度実業団に入ったから一般企業に入れないということはないでしょう。迷っているならやれるだけやってみたらいかがでしょうか?」

迷う心のまま、取り留めのない言葉の羅列の様に心中を暴露した郁にそれを聞いてくれていた女性の旦那さんがそっと言葉をくれた。
その言葉の後、呼ばれて眺めた花壇には今目の前にある絵の中の花と同じ花が思い思いにその枝葉を伸ばし育っていた。

「この花はカミツレと言うんです。今はカモミールという名前が一般的でしょうか。」
「カモミールなら聞いたことあります。ハーブティーとか、色々売ってますよね?」
「ええ。この花は家内の好きな花でね、子供のように手を掛けて育てていたんですよ。花言葉が好きなんだと言っていました。」
「花言葉・・・。」
「知っていますか?」
「いいえ、花も実物を見たのは初めてです。」
「そうですか・・・。この花の花言葉はね、『苦難の中の力』と言うそうですよ。」

女性の旦那さんが昔を懐かしむように、愛しい人の姿を見るように目元を和ませて話してくれるのを静かに聞いていた郁は、その花言葉が心に沁み込んでくるのを感じて目を閉じる。
瞼の向こうに見えるのは風に靡いて揺れるカミツレの花と、その中を走る自分の姿。

「カミツレは何度踏まれても翌日には何事もなかったようにその枝葉を空へ伸ばし真っ直ぐに立ち咲いているそうです。『苦難の中の力』はその逞しさから、『苦難に耐える』という言葉を当て嵌めてついたんでしょう。」
「苦難の中の力・・・・。」

説明を聞きながら、その言葉を繰り返した郁はふっと『走りたい』という気持ちが根底から湧き上がってくるのを感じた。今はただ、走りたい、自分の力を試してみたい、あの緊張感の中風を切って走る瞬間が幸せだと思う。気持ちが見えればすっきりとするものなのだろうか。今まで肩に入っていたのが嘘のように力が抜けてしばらくぶりに心からの笑みが零れた。女性の旦那さんはそれを見て、もう大丈夫ですねと微笑んでくれるのに郁は深く頭を下げてもう少し世間話をしてから暇を告げた。

「・・・・カミツレ・・・。」

絵を前に静かに涙を零していた郁は不意に隣に立つ人の気配に気づいてはっと我に返った。
振り返ると自分よりやや背の高い男性が柔和な笑みを浮かべて立っていた。

「あ・・・えっと・・・す、すみません!」

郁はパニックになり、思わず大きな声で謝罪の言葉を口にするとがばっと頭を下げた。拍子に鞄の中身が床に散らばり静かなはずの画廊が俄かに賑やかになる。

「くくっ・・・す、すみません・・・。驚かしちゃったみたい・・・で・・・。」

真っ赤な顔で慌てて散らばった中身を拾う郁を見て何がツボに入ったのか笑いながらも謝罪されて、中身を拾い終わった郁は恥ずかしさに逃げ出したい気分を味わいながらもそんなこと!と大きく首を振る。
少し待つと笑いが治まったらしい男性が改めて、と微笑んで自己紹介をしてくれた。

「初めまして、ここの支配人をしてます小牧と申します。先ほどは笑ってしまって申し訳ない。」
「い、いえ・・・その、私の方こそ騒がしくしちゃってすみませんでした。」
「大丈夫ですよ、今日は客も入っていませんから。この絵、気に入りました?」

自己紹介を終えて隣に並んだ男性、小牧は郁の見ていた絵に向き直りながらそう問いかける。
郁はそれに釣られる様にもう一度絵の方を見ながらはい、と頷く。

「こんな風に空に向かってのびのびと咲くこの花を見たことがあるんです。この絵のタイトル、この花の花言葉なんですよ。」

そして郁は迷っていた時背中を押してくれた人が居ること、その時にこの花のことを教えて貰ったことを何故か小牧相手に話してしまった。
そしてはたと気づいて男性を見上げると再びすみませんと頭を下げた。

「あの、勝手に話してすみません。つまらないですよね、こんな話。ええっと、この絵って買えるんですか?」

頭を下げた郁は話題を変えようと、疑問に思ったことを口にしてみると小牧は軽く首を傾げて悩むしぐさをした。

「うーん、即売会も兼ねてるけどこの絵は売って良い奴だったかな・・・ちょっと待っててくれる?」
「あ、はい。」

小牧は思い出せないから聞いてみると告げると一度事務所へと下がって行った。
郁はそれを見送って改めてカミツレの絵を眺める。
今度は先ほどのように取り乱すほどの衝動はなく、やんわりと穏やかな気持ちで絵を眺めることが出来た。
郁はその絵を見つめて力強い中に繊細で細やかな優しさを携えた絵に心にぽっと火が灯ったような温かさを感じてほっと息を吐く。
他の絵も同じような印象を受けるが、今郁に必要なのはこの絵のような気がする・・と、絵心など一つもない郁だったが何故かこの絵を描いた人物に興味を覚えた。
しかし、見渡す限り置いてあるのは絵だけで画家の情報は極力抑えられていて拾うことが出来ない。

「お待たせしました。本当は売る気はなかったらしいんだけど、希望者が居るならってオッケー貰えたよ。買う?」
「良いんですか?」
「うん、構わないって。」
「なら、ぜひ。その、今日は持ち合わせとかなくて・・・あの・・・。」
「ああ、大丈夫だよ。ちょっとこちらからもお願いがあってね、それを叶えて貰えるならお安くするしお金も今日じゃなくて構わないから。」

郁は小牧が持ってきた返答に驚き、不安そうに本当に良いのか聞いたが構わないと快く頷いた小牧のお願いというのに出来ることならと大きく頷く。
小牧はそんな様子に目を細めて微笑ましそうに笑みを深めると納期を1週間後にさせてほしいと願い出た。
郁はそのお願いに了解して、携帯で写メを撮っても良いか確認して写真を撮らせて貰うと預かり証を記載して店を出た。
店を出た郁の心は、今日部屋を出た時と違い非常に軽るく温かな気持ちに満たされていた。
何かを許されたような気分を味わってほっと一息吐けた気がしたのだ。

「もう少し・・・まだ、走るのを嫌いになったわけじゃない。まだ、私は走りたい。」

あの時、実業団に入るか迷って肩に力が入りすぎていた頃助けてもらった時の様に久しぶりに肩から力が抜けている。
タイムが落ち目になっても、もう使えないと言われるまでは走っても良いのだから自分なりに頑張ればよい。
人間、いつでも調子が良い時ばかりではないのは今までの試合で嫌と言うほど経験してきたのに何を凹んでいたんだろう。

久しぶりの軽やかな気分に、どん底に落ち込んでいた郁の気持ちは一気に浮上した。

『苦難の中の力』

これが繋ぐ縁はまだ始まったばかり・・・。
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職業:サボり癖のある事務員
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実写映画から図書戦に完全に嵌りました。暢気で妄想大好きな構ってちゃんですのでお暇な方はコメント等頂けると幸い。

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