龍のほこら はつこい 6話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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おはようございます。
長らくお付き合い頂きましたはつこいもこの話でラストになります。
皆さんが思う二人のカタチに辿り着いているかは解りませんが、この話が私の中では
この2人の落ち着くカタチかなと思っております。

今までコメントや拍手頂いた方には本当に感謝でいっぱいです。
篤がどう思っていたのかを知りたいと仰って下さる方も多く、ネタが追い付いたので
来月からは篤サイドの話を進めていこうかと思っております。
その際はまたよろしくお付き合い頂ければと思います。

それでは、本編スタートよりご覧くださいませ。
はつこい郁編、最後までお付き合い下さりありがとうございました。

拍手[107回]





わんわんと泣く郁は目をこする腕を両方取られ引き寄せられると、再び堂上の腕の中に逆戻りしてしまい嫌だともがく。
しかし、堂上と郁の力の差は歴然としていて隙間なく抱き込まれればもがくことも出来ない。
郁は抱きすくめられ、解放された手を堂上の背中に回すと最初はぺちぺちと叩いていたが放して貰えないと悟るとぎゅぅっと服を握りしめて泣き続ける。

「ごめん・・・郁、ごめん。」

泣き止まない郁に謝る堂上の声は情けなさ一杯だったが、自分で精一杯の郁は気付かない。
背中を撫でられて徐々に治まり始めた涙に身じろいで視線だけ上げると、部屋に来たばかりとは全く違った困った顔で郁を見ている堂上が居た。

「あっ・・・つしっ・・・。」
「うん、ごめん。俺が悪かったから、もう泣くなよ。お前が泣いてるの見るのだけは苦手なんだ。」
「だっ・・・もっ・・・」
「怒っても嫌ってもないから、とにかく泣き止んでくれ・・・。」

嗚咽と涙で上手く話せない郁の言いたいことをわかっているかのように先取りして答える堂上に、本当に怒気もなく心底困り切った声で懇願されて郁はこくりと頷くととにかく泣き止もうと深呼吸を繰り返す。
そうしながら、そういえば小さい頃私が泣き始めるとこうやって困り切った顔で泣くなと必死に宥めるのは実の兄でも歳近い妹の様な堂上の妹でもなく両親でもない、目の前の堂上だったなと思い出してその頃と変わらない様子に思わずクスリと笑う。
その声が聞こえたのか、堂上が頭に乗せた手で撫でてくるのが気恥ずかしくてちらりと再び上目遣いに見ればほのかに顔を紅くしている珍しい堂上が居た。

「あつし?」

郁は泣いて掠れてしまった声で、舌足らずに名前を呼ぶと首を傾げた。
それを見た堂上がぐぅっと喉を鳴らして押し黙るのをさらに不思議そうに見る。

「っの、バカ!!お前ほんと無防備過ぎだっ!!」
「なっ、何よ突然っ!!」
「そんな可愛い顔して名前呼ぶなっ、バカっ!!」
「はっ?へっ??かっ・・・えぇっ?!」
「ああ・・・くっそっ・・・。」

郁を宥めるのに使っていた手を片方外して、腕で顔を隠す様に持ってきた堂上は視線を逸らす。
郁の方もまさか堂上から聞かされるとは思わなかった言葉が飛び出て来て目を丸くして絶句している。
その顔は熟れたリンゴの様で腕の向こうからそんな郁を見ていた堂上はチッと舌打ちすると自分の顔を見られない様に郁の頭を深く抱き込む。

「ちょっ、篤っ?!やだっ、苦しいじゃんっ!!」
「煩いっ!そんまま黙って聞けっ!!」

むぐっと声をくぐもらせながら抗議する郁をさらに抱き込んで、堂上が勢いよく言い返すと郁はビクリと肩を揺らして固まった。
郁は固まったまま逃げることも出来ず大きく上下する堂上の胸元で深呼吸してるのまで判るんだなと他人事ように感じながら、堂上の言葉を待つ。

「お前が他の男と付き合い始めたって聞いて頭が真っ白になった。俺だってお前には事後報告だったのに・・・だ。それで、漸く解った。俺はお前が好きだ。」
「あつ・・・。」
「お前が好きだ・・・。郁・・・。」

信じられないと目を見開く郁に気付いているかのように繰り返された好意の言葉。
そっと腕が緩んで、覗き込んできた堂上の顔も物凄く真っ赤で緊張を伴った表情をしている。
それでも言葉を理解できない、したくない郁は何も言えないまま固まっている。

「笠原郁さん、君が好きです。俺と付き合ってください。」

固まったまま動かない郁に、もう一度深呼吸した堂上が今度は目を見て告げる言葉に、郁は目を見開いたまま何度目か判らない涙を零す。
頬を伝う水分を、返事を待つ堂上が不安そうにしながら拭っていく。

「嘘・・・だよね?だって、篤、私のこと女を感じるほど飢えてないって、妹みたいだって言ったもん。」

夢だ、これは都合の良い夢に違いない。
嬉しいと思ったのもつかの間、郁は中学時代の堂上の言葉を思い出し首を横に振って嘘だと呟く。
そんな郁に堂上は声を掛けあぐねているのか、肩を掴んでいた手に力が入って郁はその痛みに顔を顰める。

「そんなこと・・・。」
「直接は言われてない。けど、中学の時に教室に忘れ物取りに行って聞いちゃったから。だから・・・。それに、皆私のこと山猿って言ってるんでしょ?胸もないし、男勝りで可愛げもないし当然だよね。」

少しして、絞り出したような堂上の声が聞こえて郁は聞きたくないと再度首を横に振ると聞いた時のことを口にする。
郁の脳裏には、中学の時のあの出来事とつい最近見た河野の姿がちらついている。
小柄で堂上と並ぶと理想的な身長差の彼女。外見だってとても可愛らしくて、守ってあげたい女の子だ。
そんなことを思えばこんな大女がこんなに泣きわめいて軽蔑すらされるんじゃないかと、もう堂上の顔すら見れなくて目を閉じて俯く。
そんな郁に堂上はどう思ったのだろうか、長くも短い沈黙が郁の部屋に落ちる。
家族は堂上が来ているので遠慮してるのか静まり返った部屋に階下からテレビの音と兄たちの騒ぐ声が聞こえてきた。
郁は最終宣告を待つように身体を緊張させ堂上の反応を待った。
言うんじゃなかったと思っても口から出てしまったものを取り返すことは出来ないのだから、ばっさり切られるいい機会だと郁は思い込もうとした。
しかし、いつまで経っても何も言わない動かない堂上に郁の方が不安になってそっと目を開けて下から伺うように堂上を盗み見る。
すると堂上はじっと郁を見ていたのかバチリと視線が合ってしまい、郁は固まって動けなくなった。

「・・・・お前、それ・・・。」

何かを言おうとしては言葉を選びかねているのか口を噤んでしまう堂上に、郁は訳が分からず首を傾げる。
先ほどまでのシリアスさなど滑稽なほどに間抜けな状況だなと思う。
しかし、何が言いたいのか想像もつかないのだから仕方がない。
そう思ってしばらく見つめていると、堂上が深く息を吐いて郁の肩に額を寄せるように項垂れた。
郁は少しとはいえ急に堂上の体重が肩にかかって慌てて支えるように手を伸ばす。

「篤?」
「お前、それ、裏返したら俺に女に見られたいって思ってくれてるって意味だよな?」
「え・・・?」
「だから・・・あぁ、もういい。郁、こっち向け。」
「あつ・・・んっ・・・」

耳元で確認するように呟かれる言葉の意味を半分も理解できない郁は、聞き返そうと声を上げるが堂上は説明する時間すら惜しいと頭を上げて郁の顎を掴んだ。
何をされるのか全く分かっていない郁はきょとんとした無防備な表情で促されるままに堂上を見上げる。
堂上が苦笑するのが目の前一杯に広がって温かな感触が唇に触れた。
少しかさついたそれは覚えがあるようでまったく違う物で、驚きに目を見開いてしまい直ぐに離れた堂上に見られてぺちりと額を叩かれる。

「こういう時は目、閉じろよバカ。」
「なっ、だっ、なっ?!」

堂上に指摘されて漸く状況を飲み込んだ郁は、今度は違う意味でパニックに陥り口をぱくぱくさせている。
その表情は顔と言わず首と言わず全身真っ赤だと断言できるほどで、郁は体中が熱いと思いながらくらくらする頭に目を閉じる。
ちらりと見えた堂上は表情自体はいつも通りだった気もするが、いや、いつもより優しい?と思いつつその顔色はかなり良かった気がする。
自分を落ち着けるためなのか先ほどの堂上による衝撃行動から意識を逸らすが、考えるのは堂上の事。
しかし、堂上は無防備に目を閉じている郁を隙ありとでも思ったのか、再び唇に触れてくる。
かさついたソレは頬や目じりにもまるで涙の痕を辿る様に掠めていく。

「あの時は、この感情が異性としての好きだなんて思ってなかったんだ。ただ、俺がお前を女だって認めて可愛いって言ったら他の奴らも興味持つと思って。それが酷く嫌だと思ってああ言った。お前が聞いてるなんて思ってなくて。」

傷つけてごめん。そう言いながら何度も触れてくる堂上に、少しずつ凝り固まった心が解れてずくずくと痛んでいた傷が癒されているような気がして郁は知らずほっと息を吐く。

「郁が好きだ。お前以外にこんなことしたいなんて思わない。ちゃんと女として見てる。」

だから・・と続く言葉に、郁は漸く目を開けると間近にある堂上の目を見返す。

「ほんと・・・?私可愛くないよ。変われないもん・・・。」
「充分だろ。」
「後で後悔しない?」
「しない。」
「絶対?」
「しつこい。」

不安で何度も繰り返し聞く郁に根気よく返事をくれる堂上。
切るような言葉であってもいい加減な言葉だけは返ってこなくて、郁は堂上の言葉を信じることにした。
そうして信じたら温かくなった心のままに笑みが零れて、それを見た堂上が息を飲むのを不思議に思って見返すとまた抱きしめられた。

「そんな顔、他の奴に見せるなよ・・・。」

ぎゅっと力いっぱい抱きしめられながら、耳元で言われた言葉にそんな顔ってどんな顔?と問いかけるが返事はなかった。
それから夕飯に呼ばれるまで、郁は堂上と合宿に行った日からのいろんな話をした。
堂上が誤解した相手についてもきちんと説明をして、親友になった柴崎とその相手である手塚に会ってほしいと言えば罰が悪そうな顔をしながらも頷いてくれたことが嬉しくて笑った。
堂上はそんな郁を撫でたり手を握ったりしながら話を聞いてくれて本当にいつ振りかというほど安心できる時間を過ごした。
翌朝から、2か月ほど前と変わらぬ堂上が朝迎えに来て一緒に登校する生活が再開した。
足首が直るまでは長兄が学校近くまで送迎し、車を降りてからは堂上が荷物を持ってのんびりと登校することになった。
そして郁は学校に登校すると直ぐに河野と裏庭付近のベンチで会う約束をした。
堂上には女同士の話だから来ないでとお願いして、あんなことの後だから渋られたけど河野さんも一緒だからと説得して頷いて貰った。

「笠原さん、足の具合は?大丈夫なの?」

裏庭にほど近いベンチで座って待っていた郁に一人でやってきた河野は心配そうに声をかけてきた。
郁はそれに大丈夫と笑顔で頷き、松葉杖を退かすと隣へ座る様に河野を促す。
河野の方も少しは長くなるかもと思ったのか、促されるままに腰を下ろした。
しばし沈黙が流れ、先に口を開いたのは河野の方だった。

「今回は、本当にごめんなさい。私が堂上君に無理を言ってなかったら…。」

河野は郁がこういう目に遭ったことを酷く悔やんでいるのだろう、膝の上に置いた手をきつく握り締めて俯いたまま言葉を紡いでいる。
郁はそんな様子の河野を見てなんと言葉を返そうか悩みながら、空に視線を投げた。
裏庭の木々が開けた場所に広がる空は綺麗に澄み切った青だ。
郁はその青に背中を押される様に空から河野に視線を戻すとゆっくりと言葉を探しながら口を開く。

「篤に聞いたよ。河野さんが篤に私が危ないって教えてくれて、あの男子生徒けしかけた犯人も先生に突き出してくれたんだって。私バカだから、顔覚えも悪いし、きっと二人が味方で居てくれなかったら今頃走れなくなってたかもしれない。」

そこで一度言葉を止めると郁はふわりと柔らかい笑みを浮かべてまだ俯いたままの河野を見た。
そして、堂上に話を聞いた時からきちんと伝えたいと思っていた言葉を口にする。

「私のこと助けてくれてありがとう。」

郁がそう言えば、俯いていた河野が弾かれたように顔を上げて郁を見た。
その目は潤み始めていたが決して雫が零れることはなかった。
ただ、しばし見つめ合うと河野はふっと苦味を帯びた笑みを浮かべて肩を竦めた。

「あーあ、嫌になっちゃうわ。一昨日も負けたって思ったのにこう何度も見せつけられちゃったらさ。」

郁から視線を逸らした河野は両手を上げるとぐっと上に伸ばして背を逸らした。
彼女が見上げる空も澄んだ青だろうか?そんなことを考えながら様子を見守る郁にパタリと両手を下した河野がふぅっと深く息を吐く。

「私が笠原さんを助けたのは、自分の為よ。私の為って言いながら犯罪まがいのことをやったあの子たちと同類になりたくなかったし。」

息を吐き切った河野は軽く目を閉じて郁を見ないまま話しだす。

「あんなの見逃したら、自分の努力とか全部なしになるじゃない?堂上君を自分の力で振り向かせたかったの。」

だからあなたの為じゃないしお礼も要らないとはっきり告げる河野のその意志の強さに郁は目を瞬かせ、
それからふわりとまた笑った。

「そっか。でも、私は感謝してるから言いたかったんだ。だから、受け取ってくれると嬉しいかな。」
「そう・・・いいわ、受けとってあげる。それで・・・?」
「あ・・・う・・・えと・・・。」
「私には聞く権利あるわよね?」

話してみるとさっぱりしていい子だなぁ・・・などと感想を抱いていた郁は唐突に振られた話題についていけず慌てる。
口籠ったところをさらに追撃されて何を聞かれているか悟ると、今度は真っ赤になってオロオロしてしまった。
河野は楽しげな表情でそんな郁を見てくる。

「あの時の堂上君、凄かったわよ。私が行った時組手してたんだけど体格差があって苦戦してたのに、笠原さんが危ないって教えた途端その相手投げ飛ばして走ってっちゃって。」

その時を思い出したのか笑い出した河野のその眦に光るものが見えたのは気付かない振りで、赤い顔のまま思わず身を乗り出して聞いてしまう。
河野は暫く笑った後、そんな郁の様子を見て柔らかく笑った。
初めて見る表情だなと郁もつられる様にはにかんで、羞恥で俯きながらぽそぽそと口を開く。

「えと、その・・お付き合い、することになりました。」

申し訳なさもあって声は小さかったが、遠慮をする方が河野に失礼だとこの数分の会話で無意識に理解していた郁は素直に白状する。
郁が河野をちらりと見ると満足そうな表情で頷いていた。

「そう、仕方ないわね。私も振られちゃったし・・・両親の事情で引っ越すから、新しい恋でも探すわ!で、彼氏が出来たら貴女に自慢してあげる。」

吹っ切れた、そう笑顔で言いきる河野の強さと優しさに郁は心から感謝して、連絡先教えてよという河野の申し入れを受けて連絡先を交換すると少しだけ他の話もしてから別れた。
郁も一緒に途中までと誘われたが、実は堂上から待ってるように言われていると言えば過保護!と叫んだ河野は笑いながらまたねと言って去って行った。
郁は堂上に河野との話が終わったことをメールすると漸くすべてが終わって一心地着いた、そんな気分でベンチに座り直してぼうっと空を眺める。
夕暮れの色が見え始めた空をのんびりと眺めていたら堂上が迎えに来た。

「話、出来たのか?」
「うん。連絡先交換したよ。」
「そうか。」
「引っ越すんだってね。」

目の前に来た堂上を見上げると、堂上から声を掛けられた。
少しだけ心配そうな表情で掛けられた言葉に笑顔で頷き報告をすればどこか呆れたような笑みを浮かべて頷かれた。
すっと伸びてきた手は迷いなく郁の頭に乗せられて柔らかに労うように撫でていく。
郁はそれが気持ち良くて身を委ねるように目を閉じて撫でられながら、堂上がなぜ付き合うことを了承したのかなんとなく知ってそう口にする。
ピクリと堂上の撫でる手が跳ねて止まったけれど、知らぬ振りで郁は話を続ける。

「引っ越したとこで彼氏が出来たら教えてくれるんだって。」
「・・・・・。」
「篤よりいい男捕まえて私に自慢するって言ってたよ?」

上目遣いで、いたずらっ子のような表情をした郁が堂上を見上げると眉間に皺が寄っていた。
何かを考えているような表情で、郁と視線が合うと少し真剣な表情になった。

「お前は・・・。」
「俺で良いのかなんて言わないでね。もう8年は片思いしてたんだから。」

堂上が言いかけた言葉を珍しく察した郁が先回りして止める。
頭に置かれた手を取って胸の前に下すとその手に指を絡めて握ったりほどいたりしながら。

「初恋なの。何度も諦めようって思ったし、他の男の子も見てみようって思ったけど出来なかった。篤と比べちゃって先輩に憧れることはあったけど恋にはならなかった。」
「・・・・俺も。」
「え?」
「俺も、お前が初めてだ。」
「篤も?・・・えへへ、そっか・・・。」

嬉しい、囁くように言った郁に微笑んだ堂上はそろそろ帰るぞと手を引いて郁を立ち上がらせる。
松葉杖を取り上げて手渡すと荷物を持って郁と帰り道に着く。
それからの日々は引っ越す河野を見送ったり、その間に松葉杖もなくなってリハビリが始まったりと郁は多忙を極めあっという間に過ぎ去った。
家が隣同士だし、部活で遅くなるのも同じで以前と同じようにむしろ以前より過保護になった堂上に言いつけられてしまい必ず一緒に帰るようになっていた。

「ねー、篤ー。」

学校からある程度離れた場所まで来ると、自然と手を繋ぐようになったのは付き合い始めてからいつの間にか・・・だ。
なんとなく触れた手を堂上から握ってくれたように思うが、あまりにも自然すぎて郁はいつからかはっきりと記憶にない。
でも繋ぐ手が嬉しくてきゅっと握ると同じ強さで握り返してくれるから郁は顔がにやけるのを止められない。
相好を崩したまま堂上に声を掛けると返事はないがちらりと視線が返ってくる。
しかし、返事はなくこういうところは相変わらずだと思いながら言葉を続ける。

「私の足も治ったし、今度部活の休み重なるじゃん。」
「そうだな。」
「柴崎とさ、手塚にも会ってほしいんだ。」

手塚、という名前に反応してきゅうっと堂上の握る手の強さが強まる。
郁はそこに幸せを感じてふんわりとした笑みを浮かべながら、繋いだ腕に抱き着いてみた。
ピタリと足が止まって硬直する堂上に、顔を覗き込んで声を掛ける。
身長差は5センチ、堂上の方がやや低いが郁は器用に上目遣いをしてみせる。

「篤?」
「・・・・判った。」
「何が?」
「会うんだろ?」
「いいの?」
「嫌なのか?」
「んーん、嬉しい。」

渋い顔で、それでも頷いた堂上に花が綻ぶような笑みを見せる郁に堂上は視線を逸らす。
少し前なら不安になったそんな仕草も幼馴染としての視線を取戻し、さらに恋人になれた今なら照れ隠しだとはっきりわかる。
横顔を見て、耳の辺りが紅くなっているのを確認するとふふっと笑い声が零れてしまった。
堂上にちらりと見られて思わず首を竦めるが、そのまま肩口に擦り寄って口を開く。

「ありがと。」

心から出てきた感謝の言葉をぽろりと零した郁に堂上は繋いでいない方の手に持っていた荷物を肩にかけて手を空けるとぽんぽんと郁の頭を撫でてくる。
撫でる手の気持ち良さに目を細めてうっとりして油断していたらそのまま後頭部に回った手に頭を引き寄せられた。
何事かと肩から顔を上げるとちゅっと軽いリップ音を立てて口付けられて、今度は郁が硬直する。
しかし、堂上の歩みは止まらなかったために数歩広がった距離で手を引っ張られて漸く郁は正気に戻る。

「ちょっ、篤?!」

真っ赤になって抗議するも堂上は楽しそうに笑ってそれを受け止めるのみ。
これから先がどうなっていくのか、まだまだ先の長い彼らには予測のつかない物だけれど、
今はただ繋いだ手を離さぬようにやっと手に入れた”初恋”をいつまでも続けてきたいと互いに願う。
そんな彼らに幸多かれと、澄み渡った夕暮れに一番星が光った。

Fin


※ ラストはツイッター連載中、毎日篤コールで続きを望んでくれたまりん様に捧げます。
  ありがとうございました!! リンクはまりん様素敵ブログへ行けます♪
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実写映画から図書戦に完全に嵌りました。暢気で妄想大好きな構ってちゃんですのでお暇な方はコメント等頂けると幸い。

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