龍のほこら はつこい A-1話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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こんにちは!
今朝は参加させて頂いた企画の告知をさせて頂きましたが、それはそれとして・・・。
少し前から公開しますと宣言させて頂いていた『はつこい』の篤サイドのお話を公開です。

時間軸や話数は郁サイドと対にしてありますので、郁が知らない篤の行動や想いなども描写出来たらなと思っております。
郁サイドでは切なさを目指しましたが、篤サイドでは『色恋に興味が薄い男子高校生』を『等身大』で追っていきたいと思っております。
上手く表現出来ているかは別として、色々とジレジレする部分もあるかと思いますがのんびりとお付き合い頂けると幸いです。

さて、皆様が郁サイドの時に想像した篤と重なる部分があるでしょうか?
もしよろしければ皆様の中でのこのシーンの篤はこうだったよ!などもこっそりと教えてやってくださいませ。
あ、話数のフライングはなしでお願いします←

それでは、読んで頂ける方は「本編スタート」よりご覧くださいませ。

拍手[103回]





「お願い!付き合って!!~~だけで良いから!!」
「……わかった。」
「ありがとう!!」

誰もいない校舎裏で、男子生徒が女子生徒に懇願されていた。
何度か話をしたようだが、結局最後には男子生徒が折れる形で話が付いたようで、女子生徒は心底嬉しそうに微笑んでいた。


堂上は誰もいなくなった教室で荷物を片付けていた。
少し前、呼び出された夕暮れの校舎裏で姿だけなら見た事がある女子生徒に会った。
付き合ってくれと言われて最初は断ったのだが、どうしてもと頼み込まれ期間限定で付き合うことになってしまった。
別に誰かと付き合っているわけでもないし付き合うことが悪いことだとも思っていないが、堂上は了承した時からよくわからないもやもやとしたものが心の奥に渦巻いている気がして深く息を吐く。
何より、このことを隣に住む幼馴染になんと言うべきなのか・・・堂上は考えあぐねて2度目の深い息を吐くと鞄を手に帰路に着いた。
家に着いた堂上は一度荷物を自室に持っていくと宿題を取り出して部屋を出る。
常ならば隣の幼馴染が判らないと泣きついてくるのを待っているのだが、今日は話さなければならないことがあると重たくなる足や身体を引きずって隣の家を訪れた。
なぜ、ここまで気が重たくなるのか堂上には解らない。
ただ、なんとなく憂鬱な気がしていっそ言うのを止めた方が良いんじゃないかと思ったが、脳裏をかすめる幼馴染との約束にそれも出来ないと首を振る。
隣の家の門のチャイムを鳴らし、出てくるのを待つ間になんと言うか考える。
態度を変えるつもりはないし、変えない約束なのだから普通に報告だけすれば良いじゃないかと、鍵の開く音が耳に届いた所で開き直るとほんの少しだけ気の重さが抜けた気がして顔を玄関の扉へ向けた。

「あれ?篤、どうしたの?」

扉を開けて出てきたのは幼馴染の郁だった。堂上を見るなり不思議そうに首を傾げた。
堂上はその様子に無意識に表情を緩めながら持ってきた宿題を掲げた。

「今日の数学の宿題、お前が苦手だって言ってたとこだろ。」
「あ・・・」
「一緒にやるだろ?」
「いいの?」
「ああ。」

堂上の言葉に宿題の存在を思い出したのか、あっと声を上げた郁に堂上が一緒にやることを提案すれば控えめに確認されて当たり前のように頷く。
これが日常だ。
ただし、堂上がこうして郁のところへ来るのは話がある時だけで、きっと郁もそれには気付いているが言い出すまでは気付かないふりをしていてくれる。
これは暗黙の了解で、堂上はいつどのタイミングで言い出すか再び悩みだす。
自分に、郁に、彼女や彼氏が出来たから関係を変える・・・これは堂上の中では最も理解できないことだ。
けれど、この年になれば彼女が居るのに幼馴染を構うのは違うというのは判る。
そして、郁から言い出した約束であっても郁が堂上の彼女を気遣わないわけがないのだ。
堂上はなんと言えばいいのかわからないまま招かれたリビングで郁と向き合って宿題を終わらせる。
時折わからないのか唸り声をあげて手を止める郁に、ノートを覗き込んでヒントを与える。
それを繰り返していればもう堂上のノートも郁のノートも最後の問題を書き込んでいた。
言うならもう今しかない、堂上は不意にそう思い口を開いた。

「郁、俺1組の河野と付き合うことになったから」

堂上は何故か郁の返事を緊張して待った。
しかし、郁から返ったのはそっけない頷きの一言とおめでとうの言葉でそれがひどく落胆した。
もっと何か言ってくれるとでも思ったんだろうか?堂上はそう考えるが否定する。
一度だってお互いにそういう対象で見たことはないはずだ。
ならこれもきっと郁の本心であり祝辞に違いない。
そう考えた時、心臓の辺りがチクリと痛んだ気がしたが堂上は無意識にそれを無視して目の前の郁を見る。
互いに宿題の終わったノートを閉じるとあとは帰るだけだ。
明日の朝は頼まれているので河野を迎えに行かなければならない、とは言っても家ではなく電車通学の彼女とは駅で待ち合わせだ。
出る時間は今までとそう大差はないが隣によって郁を起こす時間はないかもしれない。

「お前、明日からちゃんと学校来いよ。遅刻すんなよ」

思わず口から飛び出した言葉に堂上は自分で苦笑する。
どこまでも妹を心配する兄の様だと自嘲が漏れるのを他人事の様に思いながら言えば、郁から呆れたような返事が返った。
心配性・・・そう漏れた言葉はダダ漏れだと気付いていない郁の心の声だ。
堂上は心の中でそうだなと苦笑を返しながら、次に続いた郁の言葉に硬直する。

「うん、でももう篤に甘えられないし」

告げられる言葉になぜ?と疑問が渦巻く泣きそうな顔で無理やり笑いながら、突き放されたような気分になった。

「なんだよ、ソレ。」

知らず低くなる声に郁がびくりと肩を揺らして不安そうな顔をした。
いつかした約束を思い出し、目を細めて郁を見つめる堂上はしかし続く言葉に反論の余地はない。
学校では今まで通りには出来ない。
それは確かに道理で、河野の名前を上げられてしまえば仮にも付き合うことになった相手である。
強くは言えず困った顔の郁を責めることも出来ない。
まだ続く郁の言葉に徐々に心が重くなる。

「家族じゃないもん。」

言い放たれた言葉が何故か正確に心臓を刺した気がした。
家族じゃない、それは間違いなく事実で、ならなんでこんなに一緒に居たんだろうかと今更ながらに自分を顧みる。
小学校の頃は兄妹の様だと思っていたから好きな女の子の話題に郁が上っても自分もそうだとは思わなかった。
中学頃、好みの女の話になった時誰かが口にした郁の名前に不快感を覚えてそれを誤魔化すため、妹の様な郁が変な輩に絡まれないためにあえて否定してみせた。
あれは家族を守るための偽証だったのではないんだろうか?自分の心が見えなくなり、堂上は一瞬こみあげてきた物を唾と共にもう一度飲み込む。

「そうだな。じゃあ、明日からは別々だな。」

鼻の奥がツンとした感じを誤魔化す様に言葉を紡げば、郁が寂しげに微笑んで頷いた。
なんでそんな顔をする?朝が違っても他は今まで通りだろう?そう思うのに堂上が声を掛ける前に郁は背伸びをして背を向けてしまった。
それ以上の言葉を拒絶するような態度に堂上は言葉を紡ぐのを止めた。
そして挨拶をして帰宅した自分の部屋で、また明日と言った郁の顔を思い出していた。
何かを決めたようなその表情を思い出し、誰もいない暗闇で問いかけるように声に出す。

「お前はもう今まで通りにしないつもりなのか?あの約束は?郁から言い出したのに・・・。」

なんで彼女という存在が出来るだけで、それまでずっと一緒だった郁と離れる必要があるのか。
郁が女だから?自分が男だから?そんなの関係なくずっと変わらずにいられると思っていた。
だから郁からの約束も何の迷いもなく頷いたのに。

「くそっ・・・。」

何が大切かなんて、もうずっと前から解っていた気がするのに明日から違う朝が来ることに堂上は戸惑いと焦燥を抱きながら、浅い微睡みに落ちた。
翌朝、目を覚ました堂上はだるい身体を起こしてカーテンを開けた。雲一つない晴天になんとなく気分は降下する。
今日から郁を起こすことなく先に出かける日々が始まるのかと思うと僅かに落胆する。
なんだかんだで郁を起こすのは楽しかったのかもしれない。
そんなことを思いながら着替えを済ませると朝食をとってから家を出た。
出る時間はいつもとさほど変わらない。
朝練がない今日はいつも朝練があるよりも少し遅めの時間でも十分待ち合わせに間に合うからだ。
門扉を抜けて道路に出てふと振り返る。
郁がちょうどよく出てこないかと思って隣の家を振り返るが扉の開く気配はない。
堂上は2、3分そこで見つめていたがやがて小さく息を吐くと歩き出す。
向かうのはここで待ち合わせと押し切られてしまった駅の改札前だ。
荷物を片手にそこまでやってくると時計を確認する。
約束の時間の10分前で丁度良い時間だろうと思うと邪魔にならない所に立って河野を待つ。
昨日、別れる前に約束したのは朝夕一緒の登校と休みの日のデートだった。
休みの日のデートと言っても、部活がある日はそちらを優先すると宣言してありそこに異論は出なかったのでそう幾日もない。
しかし、噂になることは間違いないなと思うと気が重いと小さな息をまた吐いた。

「あいつが居たら、幸せが逃げるとか言うんだろうな。」

ふっと数年前に郁が言った言葉を思い出して口元が緩んだ時、視界の端に河野の姿が見えて顔を引き締めるとこちらを見た河野に片手を上げた。

「おはよう、堂上君」
「ああ、おはよう。」
「来てくれてありがとう。」
「約束だからな。」

嬉しそうな河野を見ても、どうしても嬉しいとは思わない堂上はしかし我儘な妹に鍛えられて女性はそういうものであると教え込まれている。
そういう意味でも郁は例外なのだが、自然と合わせることは出来た。
しかし、約束だからと答えた堂上の言葉に一瞬表情が陰ったのを堂上は気付かなかった。
直ぐに改札から背を向けて学校に向かう道の方へ身体を向ける。

「じゃあ、行くか。」

そう言えば河野はうん、と頷いて半歩後ろをついてくるのを横目で見ながら歩調を少し緩めて学校まで歩く。
指定された時間は丁度よく学校へ着く時間だった。
昇降口に着くと見知った顔の何人かが物珍しげに視線を投げてくるのをうっとうしげに無視しながら上履きに履き替えた堂上は河野を振り返る。

「ここで良いか?」
「あ、うん。ごめんね?」
「いや、また帰りに。」
「うん!」

約束だからとそう言えば、僅かばかり落胆していた河野が嬉しそうに頷いた。
堂上はその姿を見て僅かに軋む心に内心で眉を寄せた。
やはり頼みを聞くべきではなかったかもしれない・・・そんなことを思うが今更なことだと思い直すと片手を上げて自分の教室に向かう。
あと数歩で教室に辿り着く、そんな廊下の途中で堂上の良く知った顔が腕を組んで誰かを待っているようなのに気づき声を掛けた。

「小牧、何してるんだ?」
「おはよう、堂上。」
「ああ、おはよう」
「お前を待ってたんだよ。」
「は?」

小牧と呼んだ人物の言葉に、堂上は間の抜けた顔を見せて小牧の顔を見上げる。
小牧はどこか渋い表情をしながらこっち、と手招きした。

「待て、今日1限は移動だろ。荷物置いて授業の用意持ってくるから。」
「ああ、そうだね。じゃあ俺もそうしようかな。」

人気のない場所に行こうとする小牧に、少し時間がかかりそうかと思った堂上は静止をかけて教室に入って行く。
扉を潜ってすぐ、無意識に探したのは郁の姿だった。
教室を一望しても姿が見えず、まだ来てないのかと席へ視線を流せばもう荷物は置いてあった。

「珍しいな、あいつ・・・。」

いつもなら教室で元気にクラスメイトと会話している郁の姿が見えず、教室に来れば会えると思っていただけに知らず落胆する。
どれも無意識の行動で、後ろから小牧に背中を突っつかれてはっと我に返る。

「笠原さんならいつもの時間に来て今日はもう教室を出てってるよ。」
「別に俺は・・・。」
「ふーん?」

小牧の言葉に自分の無意識の行動を悟って、思わず顔を顰めながら反論する。
小牧はそれに気のない返事をして早く準備しろよと言い置くと自席に行ってしまう。

「なんなんだ・・・?」

微妙に機嫌が悪そうな小牧に堂上は違和感を感じながら荷物を降ろし授業の用意をすると小牧と連れ立って教室を出た。

「で、話ってなんだ?」

まだ移動には早い時間、特別教室棟に入れば人気はなくなる。
堂上は隣で静かに歩く小牧に水を向けると、小牧はんー?と軽く声を上げて足を止めた。
1、2歩先で釣られて足を止めた堂上が振り返ると小牧がいつもの笑顔よりは少し困った様子で堂上を見ていた。

「あのさ、堂上って笠原さんと付き合ってるんじゃなかったの?」
「・・・は?」
「いや、だからさ・・・。俺、今朝笠原さんの地雷踏んじゃったみたいで確認したかったんだよね。」

小牧は珍しく迂闊を踏んだと苦笑しながらも、今朝の経緯を話してくれた。
堂上はそれを受けて渋い顔をすると思わずため息を零して俯いた。
小牧の視線が刺さるが、ここは正直に言うとしたもんだろうと顔を上げると丁度他の生徒たちが移動してくるのが見えた。

「まぁ、ここじゃなんだから放課後な。ちょっと駅まで行ってからになるから1時間後くらいにマックで」
「判ったよ。仕方ないね。」

がやがやとした声が聞こえているからか、小牧も肩を竦めると頷いた。
そしてまた歩き出すと教室に入る。
堂上はまた無意識に郁を探したが姿は見えず、落胆する。
落胆したことを本人も自覚がないのだが、横で見ていた小牧がクスリと笑ったのが聞こえてなんだ?と片眉を上げて見やる。

「なんでもないよ。」

堂上の視線に気づいた小牧が、片手を振って苦笑をするのを視界に収めどうせ聞き出せないからと早々に諦めると席に着いた。
チャイムが鳴る直前に郁が教室に入り込んでくるのが見えて、堂上としては何かあったのかと心配になるが振り向こうとした時には教師が入ってきて叶わなかった。
終わってからと思っていたら、荷物を片付けている間に郁はさっさと教室を出ていた。
声を掛ける暇も、掛けられることもないまま朝1番の授業を過ごした堂上はその日1日完全にタイミングがずれたまま過ごすことになった。
脳裏には教室に入ってきたときに見た顔の、目元がほんのりと赤い郁がちらちらと浮かび授業以外は上の空になっている。

「あいつ、なんで泣いてんだよ・・・。」

どうせまた、人間が立ち寄らないような猫が好む様な場所で泣いたのに違いない。
いつだって探しに行くのは自分の役目だったはずなのに、それが出来ないもどかしさに僅かにこぶしを握った。
そして放課後、どことなくすっきりとしない心地で昇降口まで降りた篤はそこで待っていた河野を見て軽く落胆する。
自分は何を期待していたのか・・・考えるとドツボにはまりそうだと思った堂上はその思考を遠く隅の方へ押しやると靴を履きかえる。

「待たせたか?」
「ううん。」
「そうか。」

河野とはこんなにも会話が続かない。
何を言ったら良いのか判らないし、どう反応が返ってくるのかも予測が出来ない。
別に予測が出来ない相手と話すのが苦になるわけではないが、女の考えていることは解らないことが多いというのが堂上の経験からくる結論だ。
そうなると何を話しても有益なものは何もない気がして自然と無口になる。
これが男や郁相手ならば反応が判り易いのだが・・・と、考えてまた思考が戻ってきていることに気付く。

「ちっ・・・。」
「堂上君?」
「あ、いや、悪い。ちょっと忘れてたことがあったから。」
「そうなの?学校?」
「いや、家の用事」
「そっか」

戻ってきた思考にいらだって舌打ちをしてしまった堂上は、河野から声を掛けられてはっと気付くと即座に謝罪を口にする。
言い訳のように言葉を並べれば学校の忘れ物かと心配されて首を横に振る。
話をそれ以上聞かれたくなくて適当に誤魔化すと、河野は信じたのかそれ以上会話は続かない。
そうこうしている間に駅に辿り着いた。
改札前で足を止めると河野も同じように足を止めた。

「今日はありがとう」
「どういたしまして。」
「明日もここで良い?」
「ああ。」

堂上が頷けば、嬉しそうに微笑んだ河野が「また明日!」と言って改札を抜けて行った。
堂上はそれを見送ってから踵を返すと小牧と待ち合わせているマックに向かう。
マックでは小牧が既にシェイクを手に席を取っていた。

「悪い、待たせた。」
「大丈夫、本読んでたから。で?」
「ああ・・・ちょっと待て、コーラ買ってくる。」
「ん。」

先に席に向かい、荷物を置くと小牧と言葉を交わす。
こいつとの方がよっぽどデートの待ち合わせみたいだな、などとバカみたいなことを考えながら列に並びコーラを買うと受け取って席に戻った。

「何を知りたいんだ?」
「とりあえず、お前と笠原さんの関係?」
「・・・・ただの幼馴染だろ。普通よりちょっと手がかかるが・・。」
「ふーん。」
「なんだよ。」

椅子に腰を落ち着けてすぐ、手っ取り早く話を済ませようと小牧に単刀直入に聞けば思わせぶりな返事が返ってきた。
そういえば、河野が告白してきた時も郁と付き合っているか聞かれたな・・・と、やはり横道にそれたことへ思考は走っていく。

「お前さ、河野さんと付き合い始めたの?」
「あ?なんだよ急に。」
「うん、今朝地雷踏んだかもって言ったろ?その時に詳しくはお前に聞けって言われたんだよね。」

あいつはどうしてるか、などと堂上が郁のことを考えた時、唐突に小牧が問いかけて来て思わず凄んだような声と表情で小牧を見る。
小牧はそんな堂上など見慣れたものと意に介さず軽く肩を竦め、だから単刀直入に聞いてみたと返してくる。
堂上は僅かに痛み始めたこめかみを指で揉むようにしながら昨日から何度目だろう深い息を吐く。

「昨日、河野に郁と付き合ってるのか聞かれて・・・。」

堂上は小牧にはごまかしようがないと昨日の出来事を話し出す。

昨日、堂上は部活へ行こうと少し離れたところにある部室に向かっていた。
その途中、人気のない場所で呼び止められると河野が立っていた。
河野は学年の中では可愛い方に入るらしいという噂は聞いていたし、男どもが騒ぐので顔くらいは堂上も知っていた。
呼び止められたから立ち止まって振り返ると、河野はまっすぐに堂上を見て口を開いた。

「堂上君、好きです!私と付き合ってください!!」

堂上にとっては、片手に足りるほどの経験ではあるが受けたことのある告白の言葉だった。
小牧の様に柔らかい応対が出来るわけではないが、優しくしない方が良い時もあるというのが持論で、こういう告白はきちんと断っていた。

「悪いが、俺は君と付き合う気はない。」
「なんで?」
「なぜ、と言われてもな・・・。今の俺にはその気がない。」
「そんなの!付き合ってみたら変わるかもしれないでしょ?それとも、笠原さんと付き合ってるの?」
「なんで郁が出てくる。」

正直、押しの強い女子は苦手だった。
こちらの事は考えずに自分の都合を優先するという印象が強かったからだ。
正直、郁とのことで痛くもない腹を探られるのも不快である。
不機嫌に睨み返せば、一瞬竦んだ河野はしかしまだ食い下がってきた。

「お願い!付き合って!!転校するまで、ううん、私とは絶対無理って思うまでで良いから!!」

必死になって食い下がってくる河野に、堂上はこれ以上断る理由を見つけ出せず困惑する。
一瞬郁の顔が脳裏に浮かんだが、短期間で諦めてくれるならそれもありかと魔が差したのだ。

「転校するまでってどれくらいなんだ。」
「2か月とちょっと」
「・・・・わかった。」
「ありがとう!!」

結局のところ、誰とも付き合っていない、好きな相手も居ない、そんな状態で捨て身の河野の告白を断り切ることが出来なかった堂上は期限付きで付き合うことを了承した。
その夜、郁に報告して今に至る。
回想から戻ってくると、小牧が目の前で渋い顔をして堂上を睨むように見ていた。
堂上としては、その視線の意味が解らず首を傾げる。

「お前、相当なバカだったんだな。」
「はぁ?なんでそんなこと言われにゃならん。」
「お前がバカだからだろ。」
「どういう意味だ。」
「自分で考えろよ。」

呆れた、と表情で言いながらも口にはせず小牧はシェイクの残りを飲みきると席を立つ。

「おい・・・。」
 「とりあえず、自分でよーく考えな。どうしてもわかんないなら相談にのらないこともないから。」

話は済んだとばかりに堂上の声を無視して店を出ていく小牧に、訳がわからない堂上は追いすがることも出来ずその背を見送った。
それから少しして、堂上もコーラを飲みきると店を出た。
マックから家までは歩いて大体15分ほどで、空はもう夕闇が迫っていた。

「あいつ、もう家帰ってるかな。」

部活で遅くなっているならまだ居るかもしれない、そんなことを考えながら家に辿り着くと堂上は門前で郁の母親に会った。

「あら、篤君。おかえりなさい。」
「ただいま、おばさん。郁は?」
「あの子まだなのよ、部活終わってないのかしら?」

もう暗くなるのに、今日は自転車でもないし・・・と心配そうに呟いた郁の母親を見て堂上は僅か思案する。

「俺、迎えに行ってきますよ。」
「あら、いいの?」

未だにぶつぶつとダダ漏れで独り言を言う郁の母親に声を掛けると、母親は嬉しそうに笑って堂上を見た。
確信犯なのか否かはこの際置いておいて、信用されているのだろうということにして頷く。
そのまま鞄だけ部屋に置くと堂上は学校へと舞い戻った。
部活にまだ出ているのかとグラウンドを覗けば陸上部はもう片付けを済ませて引き上げた後だった。
部室へと足を向けると丁度出てきた顔見知りの男子部員に郁の所在を聞く。
今日は居残りか何かで部活には出ていないらしい。
顧問にもその連絡が来ていたというからまだ教室に居るのかすれ違ったか・・・と、堂上は予想を立てながら部員に礼を言って踵を返すと校舎に向かう。
居残りならまだ教室だろうと足を向けると郁の机に鞄が置いてあるのが見えた。
中に入ってみたが郁は居ない。
そもそも、今日は1日郁に避けられている気がする・・・そう思い出すと堂上は不愉快な気分になって郁が来るだろう扉を睨みつけた。
少し待っても誰も来る気配のない教室で、堂上は郁の机に凭れ掛かりながら扉を睨みつけていた。
今朝、一緒に登校出来なかったのは仕方ないとしても学校に来てからことごとく会話をする機会をつぶされていた気がして意識しても降下していく機嫌に堂上の口からため息が零れる。
なぜ、避けられなければいけないのか、それが解らないから苛立ちは強くなる。
何か悪いことをしたのだろうかと考えるが思いつかず、首を傾げるばかりだ。
ふっと意識を自分の思考から戻すと軽い足音が聞こえた。
郁だろうかと思い堂上が扉に改めて視線を向けると、予想通り郁が廊下から顔を出した。
郁は何か考え事をしているのか、泣きそうな顔で下を向いてドアの手前に来てもまだ堂上に気付いていなかった。
扉を潜ったのと同時にあげられた視線で、漸くその琥珀の瞳と出会い堂上は知らずゆるりと表情を和らげた。
篤、と郁から声にならない声で名前を呼ばれて、不機嫌に凝り固まっていた心がゆるりと解けるのを感じながら、格好だけは不機嫌を装って声をかける。

「おい、なんで今日避けた?」
「やだな、避けてないよ。朝は確かにちょっと気まずくて避けちゃったけど、他はただの偶然だよ?」

問いかければしどろもどろに返される返事に緩んだ表情がすぐにしかめっ面になる。
そのまま問い詰めれば、小牧に河野のことを言ってしまったのが気まずかったと言ったが郁の揺れる瞳にはもっと違う何かがある気がして堂上はじっと郁を見つめた。
しかし、きつく結ばれた唇がそれ以上のことを紡ぐことはなく、堂上は引くことを選ぶと気分を切り替えるために小さく息を吐いてから郁を見た。

「わかった、なら帰るぞ。」

軽く頷いて郁の鞄を手に取るとそう声を掛ける。
郁は驚いて目を見開くと慌てて鞄を取り返しに来た。
それを交わしながら堂上は、時間を見ろ、遅くなるなら家に連絡入れろと小言を言えば泣きそうな笑顔を見せる。

「堂上って・・・。」

郁が名前を呼んだ。
いつもの名前ではない、苗字で呼ばれる自分の名前に不快感を覚えて言葉を遮って呼び方を指摘する。

「あー・・・でも、ほら、河野さんが・・・」

困った顔で河野の名前を出してきた郁に、郁は特別なのだと改めて意識する。
それは男女のそれではないけれど自分にとってはそれ以上に大切で当たり前のことだった。
だから堂上は重ねて訂正を求めた。

「郁に苗字で呼ばれるのは落ち着かん。」
「何それ、篤ってほんとお人よしで朴念仁。」

郁の感想に、なんだそれと眉を寄せると郁は解らなくていいと堂上に告げて帰ろう!と先になって教室の出口へ向かった。
堂上はそれを追いながら郁の呼ぶ自分の名に安堵を覚える。
それからの1週間は偶然なのか故意なのか郁とはほとんど時間が重ならなかった。
堂上も武道場の整備が終わって部活が再開したこともあり河野の送迎もほとんどなくなっていたためいつも通りの日々を送っていた。
ただ傍らに郁が居ない、それだけが違和感を与えていたが、互いの部活が忙しいときはそれも当たり前だったためそれほど気にはしていなかった。
そして一週間後のある日、起き出して朝食の席に行くと堂上は母親から郁の合宿参加の話を聞かされて慌てて外を見る。
隣の玄関先を見ると見覚えのある教師が車から降りてくるところだった。

「あのっ、バカ!!」

なんで言わない!!そんな思いが腹の中でぐるぐると渦巻くが、それでも郁が伝えられない原因は堂上にもあったのだろうと考える。
何しろ、河野と付き合うと伝えた日から郁の様子はおかしいばかりだったのだから。
だから、郁を一方的に責めることは出来ないと怒りを飲み込むと自室に戻って携帯を取り上げる。
電話をしても、きっと郁は出ないと踏んでメールの新規作成画面を立ち上げると車が出るのが判るように窓から見ながらメールを送った。
端的だが、郁が決めたことだから頑張ってほしいとも思う、その心そのままを。
車が発車する直前、郁が振り返ったのが車の中に居るのに堂上には判った。
その表情ははっきりとは見えなかったが、少なくとも言わなかったことを良いことだと思ってはいないだろうと思えば、先ほど一瞬で湧いた怒りも簡単に沈下して堂上は手を振った。
見えてるかは判らないが、メールに綴ったように頑張れると良いと願って。
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