龍のほこら はつこい A-2話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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おはようございます。
お待たせした方もいらっしゃるかもですが、「はつこい」の篤サイド2話を公開です。
今回も郁サイドの2話と対で話の時間軸は同じになっております。
郁が合宿に行っていたときの篤の行動や思考などを楽しんで頂けたら幸いです。

それでは、「本編スタート」よりご覧くださいませ。




郁が合宿に行ってから2週間が過ぎた。
堂上はその2週間がやけに長く感じた気がして土曜日の朝を迎えていた。
今日は堂上の出場する試合の日だ。
河野が応援に来たいと言っていたが堂上としては来られても困るという思いもあり、その可否については返事を濁したまま当日を迎えていた。

「今は試合に集中・・・だな。」

来るか否かにとらわれ、気力がそがれそうになったのを息を吐くことで逸らして着替えると家を出た。
集合時間の10分前に会場にたどり着くと何人かはもう来ていた。

「よ、堂上。今日は笠原来ないのか?」
「合宿中だから無理だろう。」
「ここ、近いじゃないか笠原が居るらしい合宿所から。」

集まっている部員のそばに行くと、同級生の古賀が声をかけてくる。
今日は大将は堂上が、副将はこの古賀が務める。

「知らん。郁は今日休みだとは言ってなかったしな。」
「そうかー・・・残念!」

何が残念だ・・・と堂上は古賀を睨みながら鼻を鳴らす。
前々から、この古賀という男は郁を見かけては声をかけ誘おうとしている男の一人だった。
この男が信用できる男なら堂上も何も言わなかったかもしれないが、男連中の間では古賀の女性に関する評判はあまりよくない。
柔道の選手としてはそれなりに良い腕をしているが堂上としてはそれ以外に信用を置いていなかった。
当然ながら、郁の兄弟にもそのことは知れており堂上の試合に応援に来る時は必ず兄の誰かが一緒に来ていて古賀は近づけなかった。
それでも、こうして堂上に声をかけてくるのだからうっとうしいと眉間にしわが寄る。

「堂上も彼女出来たし、俺笠原狙っても・・・」
「それ以上言うなら試合前に俺がつぶしてやるぞ?」

郁に手を出そうという古賀の言葉を途中で遮って、堂上はその襟首を持ち上げた。
身長は大分堂上の方が低いが、堂上の方が筋力も技も古賀より上だった。
それゆえに郁に近づくことが出来ずハイエナの様に隙を伺っていたのだ。
しかし、古賀は堂上に彼女が出来たという話を聞いてその隙をと思ったのだろう。
宣言する辺りがバカの極みだとは思うが、堂上はこいつは兄たちにも連絡だなと思いながら脅す。
古賀も堂上の本気を感じたのか若干顔を青ざめさせ、引き攣った笑みを浮かべてやだなぁと声を漏らす。

「冗談だよ、冗談。」
「・・・・怪我したくなければ本当に冗談にしておけ。俺だけじゃなく郁の兄たちも敵に回すぞ。」

誤魔化すような古賀のそれに不快を覚えて眉を寄せた堂上だが、それ以上何かを言うのもどうかと思いもう一度だけ脅すと襟首を離した。
古賀はおー、こわ・・・と呟きながら他の部員の方へと移動していく。
堂上はその様子を誰かが見ているとは思わなかった。
例え見られているとしても、これは堂上と郁の兄3人が郁の知らないところで協定を組んでいることだ。
他人には関係ないと思っていたのだがそれはいずれ違うということを思い知ることになる。
しかし、今ここでは堂上には何の支障もなく、やがて集まった部員たちと共に控室へと移動していった。
そして試合が開始された。
堂上は個人としてもその技を見込まれていて、今回の試合では団体戦と個人戦の両方に参加していた。
最初は団体戦から行われて、そこそこに強いメンバーでの参加だったため勝ち抜き戦になっていた団体戦ではほとんど大将まで回ってくることはなく堂上は体力を温存していた。
試合中、休憩の折に一度だけ河野が来ていると言われたが集中したいからと堂上は会うのを断った。
そして個人戦。
堂上は自分よりも体格もよく長身の選手相手に苦戦を強いられていた。

「くっ・・・。」
「やぁっ!!」

相手は堂上が小柄だからか、強気に攻めてくる。
堂上も相手の隙を伺って逃げを取りながら組手を狙うがなかなか奥襟を取らせてはくれない相手に表情がわずかにゆがむ。
試合時間の終了はすぐそこまで迫っている。
観客席から堂上を呼ぶ声がいくつか聞こえたが、堂上の耳には届いていなかった。
いつもならば郁の堂上を呼ぶ声がかかるが、しかし今日はそれがない。
堂上はそのことが自分の集中を乱していることに気付いていた。
だが、いなければ出来ないでは意味がないと堂上は自分を叱咤する。
そこには自分の稔侍もあるが、郁との約束があった。
互いの試合に応援に行けなくても必ず結果は報告する。
それは中学で互いが打ち込める部活を見つけた時に話したことだった。
堂上はその約束をしてから負けたことがなかったわけではないが、少なくとも郁のいない試合では勝ち続け郁が頑張っているのと同じように自分も励んで結果を出しているという自負を求めた。
それが郁が相手だからかどうかなど、こうして完全に離れてしまうまでは考えもしなかった。
ただ、郁に胸を張れる自分でありたいとは思っていた。
それがどういう意味かなど、色恋に興味のない堂上には知る価値がなかったのだ。

「残り1分だぞっ!!堂上っ!!!」

思考が自分の内側に囚われ始めた時、顧問の声が聞こえた。
同時に内側から聞こえたのは、応援に来ている時にいつも投げられていた郁の声だった。

「あと1分!篤、投げてっ!!」

そう、いつも郁はそう言って堂上の背中を押していた。
堂上は自分の内側から組み合っている相手へと意識を戻した。
組手を払うのは互いに無意識で間合いとて互いに譲らずじりじりと計りあっている。
勝負は一瞬、互いの気が緩むその一瞬を見逃した方が負ける。
じりじりと時間だけが迫る緊張感の中、その一瞬を見出したのは堂上だった。
ダンッ!という畳に重たいものを打ち付ける音と共に、会場に「一本!」という審判の声が響いた。
投げられた相手の選手は呆然と畳に転がっている。
それはそうだろう、一瞬で懐に入り込んだ堂上が自分より大きくがたいも良い相手に見事一本背負いを決めたのだ。
堂上は審判の声を聴いて立ち上がると己の開始位置まで戻った。
相手はまだ放心状態だったが、審判に促されると互いに礼を取って下がっていく。
そして静まり返ってきた武道場内に歓声が響いた。
そこそこ大きな試合で、己より二回りほど大きく見える相手を一本背負いで制し優勝を決めた堂上に周囲が一気にわいた。
堂上はそんな観客を横目に大きく息を吐くと乱れた呼吸を整えて顧問の元へ戻る。
顧問は自慢げによくやったと堂上の頭を豪快に撫でてくる。

「ちょっ、玄田先生痛いですっ!!」
「がはは、よくやったな堂上よ!!ほら、いつも来てる嬢ちゃんに電話でもメールでもしてこい!!」
「なっ・・・」

堂上は頭が揺れるほど豪快に顧問である玄田に頭をかいぐられて、痛みを訴えながら手を引き離そうと手を伸ばす。
しかし、そんなことで手が外せるような人物ではなく飽きるまで撫でられてから今度は背中をたたかれた。
そして押し出されたのは控室のある方で、いつもの嬢ちゃんとは郁のことである。
郁が学校に居ることは知っているはずなのだが、いつも嬢ちゃんと呼ぶ玄田に顔を顰めるのは堂上である。
しかし名前をはっきりと言わないのは玄田の良心かもしれないと思うようにしている堂上は、今回はその言葉に甘えて控室へと足を向けた。
なんとなくだが、すぐに連絡したかったのだ控室に向かう途中、後ろから堂上は呼び止められた。

「堂上君、お疲れ様。」
「ああ、来てたのか。」
「うん、初めて見たけどなんかすごいね。」
「そうか?」
「うん。かっこよかった。」
「・・・・ありがとう。」
「あの、それで・・・。」
「悪い、後でも良いか?一度控室戻りたいんだ。」

呼び止められて振り向いた先に居たのは河野で、堂上はその姿を認めると若干気落ちした。
郁が来るはずはないのは試合日を連絡していなかった自分が一番分かっているはずなのだが期待していた事実を突き付けられた。
そんな中、河野に褒められて悪い気はしないが良い気にもなれなかった。
何かが違うと感じ始めている自分を誤魔化して、付き合いを続けているのは自分であるという自覚が堂上にはあった。
それが何なのかはっきりわからなければ彼女を断ることは出来ないと思っている。
かけられた言葉と労いに礼を返すが、今は控室に戻って郁に連絡を取りたかった。
たぶん、予想が当たるなら今は練習中で電話は取れないだろうが留守電を残すことはできるはずだと踏んでいたから。
河野は堂上のそんな様子をどう思ったのか、堂上にはわからなかった。
少しだけ困ったような表情で笑ってから頷いた。
そして踵を返そうとしたところを、堂上は呼び止める。

「帰り、送ってくから。」
「え?」
「現地解散だから、送ってく。」
「うん。」

声を掛けられたことに驚いたらしい河野が振り返って目を瞬かせる。
しばらくして、堂上の言葉を理解したらしい河野が嬉し気に頷くのを見てチクリと胸が痛むのを堂上は知らないふりをした。
なぜ痛むのか、その理由をまだ理解できるとは思わなかったから。
そうして戻った控室で携帯を取り出すと送信履歴の一番上にある郁の番号を呼び出した。
5コールで出たのは案の定留守番電話の機械的な音声で、堂上は発信音の後にメッセージを吹き込む。

「お疲れ、今日試合だった。お前に言い損ねてたけど買ったぞ。個人も団体も優勝だ。お前も頑張れよ。」

手短に、伝えたいことだけを吹き込む。
そして通話を切ると外が騒がしくなった。
他の部員も戻ってきたようだ。
それぞれがシャワーを借りたり着替えをしたりと帰宅準備を始める。
堂上も順番にシャワーを借りて汗を流すと制服に着替えて荷物を持って控室を出た。
エントランスから出て一旦部員が集まって玄田の話を聞いてから解散となった。
堂上は何人かの部員に声を掛けられ返事を返しながらその場を離れる。
少し離れたベンチで河野が一人本を読んで待っていた。

「悪い、待たせた。」
「ううん、ごめんね。私が勝手に来たのに。」
「いや、時間が時間だしな。河野一人で帰すのも危ないだろうから。」

河野に声をかけた堂上は立ち上がって申し訳なさそうに見上げてくる河野に何ともないといった風に返して先に歩き出す。
河野も本を鞄に仕舞って追ってくる。

「堂上君はいつも個人戦と団体戦に出るの?」
「いや、試合前の模擬で成績の良い順だ。」
「へぇ・・・。」

問われれば素直に返す、しかしそれ以上の会話につながることがない。
この沈黙が実は堂上には居心地が悪かった。
何か話しかけた方が良いのかもしれないとは思うが、何を話すべきなのか思いつくこともなければ特に知りたいと思うこともなく、堂上から問いかけることは出来ない。
無言のまま歩いていると、河野が急に立ち止まった。
堂上は1歩先に進んでから気づいて立ち止まると振り返る。

「河野?」
「ね、堂上君。古賀君から明日は部活が休みだって聞いたの。」

逆光で夕日を夕日を背にしている河野の表情は見えない。
ただ、どこか悲しそうに響く声が言葉を紡いで堂上に届ける。
古賀の名前が出てピクリと肩が揺れるが、表情には出さず河野を見つめる。

「明日の放課後デートしたいな。」

強請るような、媚びるような声が届いて堂上は無意識に眉間に皺が寄る。

「なんでだ・・・。」
「なんでって・・・一応、その、付き合ってるし。思い出にしたいなって。」

思わず口を付いたのは理由を問う言葉。それに返った声は先ほどの媚びるように聞こえたソレではなく恥らいを含んだような声。
堂上は小さく息を吐くと軽く目を伏せた。

「わかった。」

断れない状況に僅かばかり苛立つが、小牧に言えば自業自得と一蹴されるだろうというのはこの2週間ほどで痛感している。
河野が教室に顔を出すたびに冷めた目で呆れたように睨まれているのを思い出し、僅かばかり疲れた息を吐く。

「明日、きょ・・・。」
「昇降口で待っててくれ。」

教室に来ても良いかという問いを遮る様に、堂上は待ち合わせ場所を告げた。
河野の影が揺らいだ気がしたが、堂上は気付かぬふりで踵を返す。

「行くぞ、直に暗くなる。」
「うん。」

付いてくる足取りが軽くなっているのに気付いた堂上は、逆に自分の足取りが重くなった気がしたが無視した。
河野を最寄駅まで送って自宅に着く頃には空は真っ暗で星が見えている。
堂上は自室に荷物を置いて風呂も食事もさっさと済ませるとベッドに倒れ込んだ。
マナーモードにしていた携帯が震えているのに気付いて手に取ると、郁からのメールが届いていた。
携帯を開いてメールを開く。

**************
From:郁
To:篤
Sub:お疲れ様
――――――――――――――
お疲れ。優勝したんだ、さすが篤
だね!応援行けなくてごめんね。
今日は合宿仲間と買い物出かけ
たよ。あのオイル買っちゃった。
帰ったら篤にも見せるね。



**************

当たり障りはないが、郁らしい言葉が並ぶメールにふっと力が抜けて無意識に笑みが零れた。
あのオイルと言われて堂上は自分のデスクの引き出しに視線を向ける。
そこには数年前に郁から貰ったカミツレのオイルが入っている。
開封したのが1度きりのまま入れてあるためどうなっているか判らないが、それは郁と郁の祖父との思い出が絡んだ物でいつだったか試合で負けて落ち込んだ時に郁が持ってきたものだった。

「これね、心を落ち着かせてくれるんだって。私も調子悪い時があって、でもこれ使ったら大分落ち着けたんだ。じいちゃんの言ってた通りだった!」

元気をくれる花だねと微笑んで、お湯を張ったマグカップに1、2滴垂らしたのをベッドサイドの棚に置いた郁。
それ以上は何も言わずに堂上がベッドでふて寝して出てこないのも気にしないでいつも通りにただ居るだけだった。
堂上の所持している漫画を読んだり、小説を眺めたりしていたのを布団の隙間から見ていてほっとしたのを思い出す。
周りは負け方が酷かったせいで同情してくれたらしいが、堂上はそんなものは欲していなかった。
郁にそれを言ったわけではないが、互いに負けん気が強いことは知っていたからだろう。
自分がされて落ち着くことをしていたのだろうと思う。
堂上は起き上がって部屋を出ると使っていないマグカップにお湯を張って部屋に持ってきた。
古すぎて変異していそうなソレを取り出して垂らしてみる。
あの時の香りはなかったが、僅かに香る残り香のようなソレが堂上のささくれ立った心を静めてくれるような気がした。
堂上はオイルの瓶を仕舞うとあの時郁がそうしたようにベッドサイドの棚にマグカップを置いて寝転がり目を閉じた。
翌日、朝練はないが約束もしてないと思い朝の迎えはせずに学校へと向かった堂上は教室で小牧が河野と話しているのを見つけた。
何か聞かれているのか、小牧は困ったような表情で首を横に振っていた。

「おはよう、何してるんだ?」
「おはよう、堂上。河野さんがお前に用事だって。」
「俺に?」

やっと来たという表情で小牧が堂上に告げれば、堂上の方は不思議そうに首を傾げて河野を見る。

「あ・・・その、今日お休みだったけど約束の時間に駅にいなかったから。」
「ああ・・・悪い、今日は寝坊したんだ。」
「そうだったの。」

どこか焦った様子だったように見えた河野は俺の返事にホッとした様子で頷くと、放課後ねと嬉しそうに自分の教室へとかけていった。
それを見送ってから教室の入り口を振り返ると小牧が呆れた表情で堂上を見ていた。

「なんだ?」
「いや、なんでもないよ。まだ自覚してないんだなって思っただけ。」
「・・・・わかってる。」
「何を?」
「考えてる。ただ、河野にきちんと説明出来るだけの言葉が見つからない。」

この数日の違和感については堂上もきちんと向き合っていた。
しかし、その答えが漠然としすぎていて捕まえ切れないのが本当のところだと肩を落としている。
それがはっきりしなければ河野も断れないと、そう思って考えている。
堂上がそういえば、小牧は僅かばかり目を瞠ってからぽんっと堂上の肩を叩いて教室へと入っていった。
堂上も教室の中に入ると自席で準備をする。
違和感の原因が郁がそばにいない、常になく連絡を取り合っていないことだとは気付いていた。
ただ、それがどこに由来するものか自身でも掴みきれず、堂上はただ困惑していた。
そして、自分の気持ちに向き合うのに必死過ぎて河野に対しておろそかになっていることも多少は自覚していたが、堂上に気遣う余裕はなかった。

「はぁ・・・。」

1限の始まる鐘に隠れてため息を吐いた堂上は、前を向いて授業に向かった。
そして何事もなく授業をこなし放課後になった。
堂上は荷物を片付けると鞄を持って昇降口に向かう。
待ち合わせている手前、いつもより多少急いだがあまり気が乗らないこともありほどほどの速度でその場所にたどり着いた。

「待たせたか?」
「ううん。」
「そうか、じゃあ行くか。どこに行くか決めたのか?」
「うん、とりあえず駅前まで出て、映画見て、あとは雑貨屋に寄りたいな。」
「わかった。」

河野に行先を尋ねれば明確な返事が返ってきて頷いて駅に向かう。
隣に並ぶ河野を歩道側にして歩く堂上のそれは無意識だが、河野はそれだけで頬を染めて嬉しそうに微笑んでいる。
堂上はそれを視界に入れて普通の女子だなというなんとも失礼な感想を抱く。
堂上にとって身近にいる女子が郁と妹の静佳で郁は男勝り、静佳は女の子らしさはあるが計算高くしたたかであるため参考にならないと思っている。
だからごくごく普通の女の子という存在が理解できないしどちらかというと物珍しい。
興味がないというわけではないが、自分からどうこうしたい対象にはなっていなかった。
時折河野から話しかけられ、答えながら映画館に着くとチケットを買う。
堂上が払ったが、ここで郁なら絶対に割り勘を主張するなと思い浮かんで内心で苦笑する。
チケットを渡すと河野はお礼を言って割り勘やら払うという言葉を言うことはなかった。
堂上はそのことにわずかな物足りなさを感じるが、普通ならば付き合っている男女が割り勘ということはないだろうと何も言わなかった。
河野が見たがったのは今話題の恋愛ドラマで堂上はあまり好みではなかったが見れないものではなく隣り合わせの席で画面を見つめた。
時折横から視線を感じるが、ドラマの内容に面白味を感じるわけでも流されるわけでもなく淡々としている自身に堂上からは行動を起こすことはなかった。
ただ、少しだけ肩に寄りかかってきた河野を振り払うこともしなかった。
それが同情なのか無関心なのか堂上には理解出来ないまま2時間半が過ぎた。

「面白かったね。」
「そうか?ありきたりだったことないか?」

映画が終わり、席を立つと2人並んで歩き出す。
堂上から手は取らず、河野からも手を伸ばしてくることはない微妙な距離感を保って歩く。

「雑貨屋だったか?」
「うん。」
「どこだ?」

映画館を出ると自然と河野の荷物を持って歩き出す堂上を、河野は切ない目で見つめていたが堂上はそれに気づかないまま先に進む。
河野が行きたがった雑貨屋は映画館からほど近く、中は男も何人かいるようだったので堂上も誘われるまま中に入った。
店内は女性が好む可愛らしい雑貨というわけではなく、生活雑貨をメインに取り扱っているようで海外輸入の商品も多く並んでいた。
堂上は河野の横に並びながらそれらに視線を落として眺める。
ふと、視界に青い何かが掠めそちらを向いた。
陳列された棚の一部にその正体が置いてあり、堂上は惹かれてそちらに足を向けようとした。
と、一歩を踏み出す前にくんっと服を引っ張られて振り返ると河野が見上げていた。

「あ、悪い。」
「ううん、面白いものあった?」
「いや、ちょっと見たことあるもんが売ってるかと思ったんだが違ったみたいだ。」
「ほんと?」
「ああ。河野、買い物良いのか?」

河野と視線が合い、なんとなく気まずくなった堂上は誤魔化しながら河野に買い物を促す。
河野はじっと堂上を見つめていたが、やがて小さく息を吐くと俯いて踵を返した。
数歩先で堂上を振り返った河野が店内の一角を指さす。

「私、あそこのかわいい雑貨が見たいから堂上君その間店内見てて。さすがに嫌でしょ?」
「あ、ああ・・・悪い。」
「ううん、じゃあ、後でね。」
「ああ。」

ひらりと手を振って河野が離れていくのを見て、堂上は申し訳なく思いながらもう一度気になった一角を振り返った。
視線の先には昨日引き出しから取り出した瓶と同じものが並んでいた。
近づくといくつか見知った植物の中に1つだけよく知る植物を見つけてそのラベルの瓶を取り上げる。
”カモミール”そう表記された瓶は昔郁がくれたものと同じで、値段を確認するとその当時の郁にはほどほどに高かっただろうことが伺える値段だった。
堂上は少し迷うとその瓶を手にレジへ向かう。

「お会計ですか?」
「はい。」

河野がまだ品物を選んでいるのを確認して、会計スタッフに簡単なプレゼント包装を頼むと袋とリボンの色を選び堂上は会計を済ませてそれを鞄の中へとしまう。
そして雑貨の購入を済ませた河野と共に店を出ると近くのスタバに寄ってお茶をしてから駅で別れた。
別れ際、河野が何か言いたそうで堂上は足を止めてその言葉を聞こうとしたが河野は笑って手を振ると改札の向こうに入ってしまった。
何を言いたかったのか、なんとなく気付き始めた堂上だったがはっきりとした答えを見つけられないまま自宅へと戻った。
自室で堂上は買ってきた物を包装ごと手に取りベッドで眺めていた。
どうしてこれを買ったのか、ただ渡したいと思ったから買っただけだがなぜそう思ったのか。
郁とは物心がついた頃から一緒で、気付けばどこに行くにも大体一緒で高校もたまたま互いのやりたい部活の強豪が同じだったから同じ学校に入った。
偏差値もそこそこの高校で、郁の勉強のレベルでは多少苦しいものがあるが陸上で推薦をもぎ取ってきたので入学後の勉強を篤が面倒見る形で過ごしていた。
郁が特別であることは堂上の中ですでに当たり前のこととなっていた。
それが異性としての特別かどうかなど考えもせず隣に居るのが当たり前だと思っていた。
それがもしかしたら違うかもしれないと思ったのは中学の時、誰かが郁をそういう対象で見ようとしているのを知った時だった。
あの時は郁の女らしくない部分を強調してその誰かの意識を違う人物に向けてしまったが、そうした理由までは深く考えなかった。
ただ、郁の兄たちが余計な男を寄り付かせるなと言っていたからそうしたのだと無意識に自分を納得させていたような気がする。
それから中学を卒業するとき、何かのきっかけで郁とそんな話をした時も隣に居ないことが当たり前になるとは思っていなかった。
自分に女が出来ても、郁に男が出来ても、変わらず兄妹の様に過ごす日常があると思っていた。
だから郁からの提案のような約束もわかったと受け入れたのだ。
しかし、今を見ればその約束を守ることが難しいということを実感する。
そして、郁との間が開きつつある現状を不快だと思う自分も・・・。

「あとちょっとか・・・。」

じっと見つめていた包装からカレンダーに視線を移し、郁が戻ってくる予定の日にちを確認する。
もうすぐ郁に会えると思うとホッとするような落ち着かないような心地になる。
これがどういう意味なのか、特別の意味が異性としてあるのか、堂上はその日考えながら眠りに落ちた。

なかなか答えが出ないまま、数日が経った。
時折河野が教室に訪ねてくる以外は何もなく、放課後は部活に励み帰宅する日々。
そしてちょうど郁が帰ってくる予定の前日、堂上は携帯を片手にメールを作成していた。
書いては消し、消しては書いてを繰り返しながら少しばかり緊張した面持ちで文を組み立てる。
堂上は、自分の気持ちがどういうものか考えすぎてわからなくなっていた。
ただ、郁が帰ってくると思った今日一日中気持ちが浮き立っているのを自覚していた。
郁と話せば何かがわかるかもしれない、この数日で出した結論はそれだった。
ただ、郁と携帯を通さずに会話をしたいだけかもしれない、とはちらりと思ったがそれ以上は考えなかった。
ただ、会いたい、明日には会える、その気持ちだけでメールを打った。
郁からの返事は来なかったが、堂上は気にせずやることを片付けると眠りについた。
明日は郁に会える、そう思いながら。

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