龍のほこら はつこい A-7話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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こんにちは!
お待たせ致しました、はつこい篤サイド最終話が漸く書きあがったので公開です。

このお話で皆様に大変ご支持頂いた「はつこい」シリーズも全て完結と相成ります。
長々とお付き合い頂きまして本当にありがとうございました。
出来る限り矛盾がない様に、けれど篤の少年らしい心理描写を心がけてきたつもりですがいかがでしたでしょうか?
最後まで、皆様にお楽しみ頂けましたら嬉しいです。

では、読んで下さる方は「本編スタート」よりご覧くださいませ。

拍手[120回]




堂上は伸ばした手で郁の目をこする両手をそれぞれそっと握り込みその身体ごと足に響かない様に引き寄せる。
手の届くところまで引き寄せると、握りこんでいた手を離して背中に手を回しぎゅっと抱き込んだ。
柔らかでほっそりとした肢体が腕の中に納まるのに安堵を覚える。
抱き寄せられて我に返ったのだろう郁が腕の中で暴れ出すが今度は逃がさないとさらに強く抱き込んで隙間をゼロにすると背中をパチパチと叩かれる。
痛くもないそれは堂上には可愛らしい抵抗で、離さないことを表す様に腕の力を増していけばしばらくして服を掴んだのだろう引っ張られる感覚が伝わってきた。
そこまで我慢して、堂上は漸く郁に言葉を掛ける。

「ごめん・・・郁、ごめん。」

暴れるのを止めたものの泣き続ける郁に、謝罪を伝える堂上の声は酷く情けないものになった。
弱り切った声で何度もごめんを繰り返し郁が落ち着くようにとその背を撫でているとしばらくして徐々にだが泣き声が治まってきて小さく身じろぎをした。
ほんの少しだけ腕を緩めるとおずおずとした視線を向けられた。嗚咽の合間に名前らしきものを呼ばれて、小さい頃を思い出す。
郁はいつでも大泣きした後言うのだ、怒ってる?困らせてごめんなさい。嫌わないで。繰り返された言葉に堂上はいつだって怒ってない、気にするな、嫌いになんかならない、そう答えてきた。
今回もきっと同じだろう。
それに加えて自分がやらかした感満載の堂上は郁の言葉を先取りするように自分が悪いから気にするな、怒ってないし嫌ってもいないからと言い含める。
どうにか泣き止んでもらおうと必死に堂上は情けないのも開き直って懇願する。

「とにかく泣き止んでくれ・・・。」

そう伝えれば、漸くコクリと頷いてくれて、嗚咽の合間に深呼吸を繰り返し始めた。
それを手伝うように相変わらず背を撫でていれば、郁の呼吸も徐々に落ち着いてきてしばらくするとクスリと小さな笑い声が耳に届いた。
その声が聞こえて、堂上は漸く落ち着いたのかという安堵するのと同時に先ほどまでの自分の情けないまでの懇願を思い出して顔が紅くなるのを止められなかった。
ゆっくりと頭を撫でていると目線だけが上げられたのが解って、気恥ずかしさに視線を彷徨わせてしまう。
郁の方は堂上の動揺よりも赤くなっているのだろう顔の方が気になったのか不思議そうに首を傾げ名前を呼んでくる。
泣いたことで掠れた声が舌足らずな甘えを含んで甘く自分を呼び、潤んだ瞳で無防備に見上げてくる。
男にとってそんな表情は何にも代えがたい起爆剤に違いなく、堂上とて男でありつい先日だが郁を自分の特別な女として認識したばかりだ。
要は、馬に人参、好物をぶら下げられているのと変わらない状態なのだから、思わず反射で動きそうになる自分を押し留めたらぐぅっと喉が唸り声を殺すように鳴った。
そのことがさらに郁の無防備さに拍車をかけて、見上げる視線が強くなったことで堂上はこれ以上は無理だと根を上げて郁に怒鳴りつけた。

「っの、バカ!!お前ほんと無防備過ぎだっ!!」

お前は俺をどうしたいんだ!!と続けたいのを我慢して睨みつければ訳が分かっていない郁は条件反射の様に反発してくる。
まるで自分の価値を解っていないその言葉に、堂上は心に押し込んだはずの悲鳴を吐き出すことになった。

「そんな可愛い顔して名前呼ぶなっ、バカっ!!」

俺だって男だ!襲われたいのか!!そう言いたいのをかろうじて留め置けたのは奇跡だと、堂上は思いながらも自分の言葉が予想外だったのだろう郁が今度は思い切り動揺した。
大きな目をさらに大きく見開いて、誰か冗談だと言ってくれとでも言わんばかりに視線を彷徨わせて最終的に堂上をまじまじと凝視してきた。
堂上の方は自分が言った言葉を反芻して先ほどの比ではないほどに紅くなっただろう顔を隠すため頭を撫でていた手を離すと腕で顔を覆って隠すように逸らす。
郁は徐々に言われた言葉を飲み込んでいるようだった。
色白な肌が、頬と言わず首筋や見えるいたるところが桜色から桃色に、さらには紅色に染まっていく様を見せつけられて堂上はそれを見ないように、何より自分の赤い顔を見られないようにと自分の顔から腕を外すと郁を強く引き寄せた。
先ほどと同様に、それよりも強く、自分の腕の中に深く抱き込んでしまえばその強さに郁が暴れる。
苦しいという声を聞き入れるには色々と視界に入れたくないし入れさせたくない堂上はその動きを制するようにさらに腕の強さを強めながら叫び返す。
思うよりも低く、勢いのある怒声になってしまったそれに郁がビクリと肩を竦めて身体を硬直させる。
大人しくなった郁に安堵して、少しだけ腕を緩めるとドクドクと激しく脈打つ心臓を落ち着けるように深く呼吸を繰り返す。
吸って、吐いて、そうする間にも腕に抱えた郁から香る甘い香りが鼻先を擽るのが何とも言えない。
それでもどうにか自分を落ち着かせることに成功した堂上は腕の中で大人しくなった郁が自分の言葉を待っているのを確認して、漸く本題を口にすることにした。
どんな返事が来ても、きっと一生自分は郁を見続けるだろうと思った昨夜を思い出しながら気持ちが伝わるように音にする。

「お前が他の男と付き合い始めたって聞いて頭が真っ白になった。俺だってお前には事後報告だったのに・・・だ。それで、漸く解った。俺はお前が好きだ。」

気付くのが遅かったのに八つ当たりだけ一丁前で泣かせてごめん。とは、何故か言えなかった。
言えない代わりに堂上はもう一度繰り返す。

「お前が好きだ・・・。郁・・・。」

硬直したまま身じろぎすらしない郁に、目を見て言わないとダメか?と思った堂上は恥ずかしさを抑えて腕を緩める。
郁の顔を覗き込めば、呆然と目を見開いて堂上をただただ見つめているだけだ。
これはやっぱり伝わってないなと内心苦った堂上は視線を絡めたまま一呼吸置くともう一度きちんと言い直す。

「笠原郁さん、君が好きです。俺と付き合ってください。」

名前はフルネームで、付き合いを申し込むのに定番の告白文句できちんと目線を合わせて言い終わると、1拍置いて郁の瞳から本日何度目か解らない涙が溢れだして堂上は内心慌てる。
そんなに嫌だったのだろうか?もう遅いのだろうか?そんなマイナスのことばかりが脳裏を過り、不安を隠すことも出来ず郁を見つめる。
零れる涙は無視できず頬に手を添えて親指で撫でるように何度も拭う。
何度も拭って、それでも止まらない涙をそのままに漸く開かれた口は堂上の予想外の言葉を紡ぎだした。

「嘘・・・だよね?だって、篤、私のこと女を感じるほど飢えてないって、妹みたいだって言ったもん。」

 呟くような声で、堂上に告げられた言葉は身に覚えのない・・・正しくは郁に言った覚えのない言葉であって身に覚えはある言葉。
それが郁の口から告げられて堂上は背中に嫌な汗が流れて郁の肩を掴む手に力が入る。
もし、あの頃から郁が自分を異性として見てくれてたなら、聞かれてはいけない言葉だったのだと今なら解る。
力が入りすぎたのか、郁の顔が顰められたのに気付くが上手く力を抜くことが出来ず堂上はそれ以上力が入らない様にするので精一杯だった。
そして何を言えば良いのか迷いに迷って口からこぼれた言葉は郁によって遮られ否定された。
聞きたくないというように左右に振られる頭。
そうしながら、郁はまるで自分に言い聞かせている様に自分を卑下する言葉を紡いでいく。
1つ言葉を落とすたびに俯いていく頭、何も見たくないと言いたげに閉じられる瞳、堂上は言葉を反芻して噛み砕きながら穴が開くほど郁を見つめた。
そして、ふと堂上はいつから郁を女の子として見なくなったのかと疑問に思った。
目の前で緊張に震え堂上の言葉を待つ郁は身長差を差し引いても華奢で守りたくなるような女に見えるのにいつから異性ではなかったのか。
思いついた疑問に囚われて堂上は黙り込む。
記憶を辿って、それが小学生の前半にまで遡ることに気付いた。
幼稚園に通う頃はまだそういう性別に意識などなかったけれど、堂上にとって一番身近で、妹とは違う特別な女の子だった。
小学校に上がって何年目だっただろうか、放課後、帰宅しようとして違うクラスになった郁を呼びに教室に行った時だった。

「堂上君、かっこいいよね~。」
「解る!ちょっとちっさいけどねー。」
「私よりおっきいもん。」
「郁ちゃんは堂上君よりおっきいからダメだね。」

話に混じっていたのかは判らなかったが、郁のクラスメイトがしていた会話が聞こえ思わず足を止めて聞いてしまった。
あの時、郁は何も返していなかったように思うが記憶は曖昧だった。
けれど、その時から郁は少なくとも異性ではなくなったように思う。
そこまで考えて、堂上は自分がもう最初から郁が異性として特別だったことに気付いて内心で苦る。
『自分はダメ』それは自分にとって郁を異性として見ない枷になっていたのだと気付く。
そして改めて郁が零した言葉を反芻すると、郁も同じように思っていたのでは?と、自分にとって都合の良い考えが浮かび困惑する。
見つめている郁は未だに俯いたままこちらを見ようとしない。
なんと声を掛ければいいのか、どう言えば良いのか、告白されているも同然の言葉に聞こえたが自惚れてはダメなのだろうと考え込めば考え込むほど動けなくなる。
どれほどだんまりを決めていたのか反応がなさすぎる堂上に郁が恐る恐る目を開けて様子を伺ってきた。
見つめ続けていた堂上は、その郁の視線とバチリと合ってしまい郁の呼吸すら止めそうな勢いの硬直を呼び戻してしまった。
それを感じて、さらには自分が先ほどから都合よく解釈しようとしてしまう言葉たちについてどう聞けば良いのか考えあぐね堂上は口を開きかけては噤むのを繰り返す。
郁の方は堂上の様子がどうしてそうなっているのか解っていないのだろう、硬直していたにも関わらず時間の経過と共に不思議そうな表情になって首を傾げるほどになった。
堂上はどうやっても考えが纏まらず、疲れて項垂れると郁の肩に額を寄せた。
突然の体重の移動に驚いたのだろう郁が、圧し掛かってくるに等しい堂上の身体を支えようとして手を伸ばしてくる。
耳元で不思議そうな声が堂上の名前を呼ぶのが聞こえ、堂上は思わずぽろりと自分にとって都合の良い部分諸々省略した言葉を落とした。

「お前、それ、裏返したら俺に女に見られたいって思ってくれてるって意味だよな?」

ただの女じゃなくて家族ではない異性として、恋しい相手として、自分に見られたいと郁が思ってくれている。
そう自惚れても良いのだろうか?顔が間近に迫っていても逃げることのない郁のその無防備さが堂上にとっては家族としてしか見られていない、男として認識されていないと思わされる枷なのに。
拗ねた心は届かなかった言葉を聞き返す郁に返事を返す余裕を奪っていた。

「だから・・・あぁ、もういい。郁、こっち向け。」

殴るなら殴れ、そう思いながら開き直った堂上が郁から少しだけ身体を離して顎に手を掛ける。
自分の方を見るように僅かばかり上を向くよう促せば素直に自分を見上げてくる郁は相変わらず訳が分かっていないらしい。
きょとんとした子猫のようなその表情に堂上は苦笑が漏れる。
これでは、昨日の男子生徒と同じではないか・・・そんなことが脳裏を過るが嫌がられることも怯えられることもないことを免罪符に堂上は苦笑したまま顔を近づける。
名前を呼ばれたような気はするが、それすら遮って口づけた。
あの日、郁が合宿から帰ってきた夜に指先で触れた柔らかな感触を今度は唇で感じる。
手入れなど気にしない自分と違いリップをマメにつけているのだろう郁の唇はしっとりとしていて柔らかく、何より温かい。
目を閉じることのない郁に少し触れるだけで離して目を合わせるが、驚きすぎて思考が止まっているのだろう郁はピクリとも動かない。
泣きすぎて紅く、腫れぼったくなった瞼を最大限に見開いて堂上を見上げてくる。
半開きの唇に誘われているような錯覚すら覚え、自分も大概だなと思いながら堂上は郁の額をぺちりと叩いた。
それでも瞬きすらしない郁に、思わずぼそりと呟きを落とせば漸く思考回路が戻ってきたらしい郁が違う方向でパニックに陥っていくのを見つめることになる。
アワアワと言葉にならない言葉を紡ごうと必死の郁は頬と言わず、顔と言わず、きっと見えない服の下まで体中真っ赤だろうと言えるほど紅く、羞恥に瞳を潤ませていた。
しかし、耐えきれなかったのだろうその瞳はすぐに瞼の裏に隠された。
無防備に堂上に向けられたままの瞳を閉じた顔に堂上は誘われるように唇を落とした。
最初は唇に、すぐに離して涙に濡れた頬に、顎から涙の痕を辿り拭うように口づけて目じりに溜まった涙を吸い取る。
堂上は何度もその動作を繰り返して震える郁の瞼が開かれるのを待った。
その瞳にどんな色が映っても受け止めようと思い見つめても開かれることのない瞼に、言葉が足りないことに気付いて口付けるのを止めると中学時代のあの言葉を撤回するために口を開く。

「あの時は、この感情が異性としての好きだなんて思ってなかったんだ。ただ、俺がお前を女だって認めて可愛いって言ったら他の奴らも興味持つと思って。それが酷く嫌だと思ってああ言った。お前が聞いてるなんて思ってなくて。傷つけてごめん。」

そっと郁の柔らかい髪に指をもぐりこませて撫で梳き、唇を寄せて触れる。
特別に思っていると、大切だと思っていることが伝わる様に、何度も繰り返していると徐々に郁の身体からこわばりが解けてきてその唇からほっと柔らかな吐息が落ちた。

「郁が好きだ。お前以外にこんなことしたいなんて思わない。ちゃんと女として見てる。だから許してくれなんて虫が良すぎるのは解ってる。それでも、手放したくない、傍に居て欲しい。」

諦めきれない思いを口にすれば、フルリとまつ毛を揺らして瞼が開いた。
じっと見つめていた視線が漸く絡んで、堂上の瞳や表情が無自覚に甘く綻ぶ。
郁はじっとそんな堂上の顔を見つめていたが、不意に口を開いた。
郁の口から出てくる確認するような言葉に、堂上は一々返事を返していく。

「ほんと・・・?私可愛くないよ。変われないもん・・・。」

どこが可愛くないんだ、むしろそれ以上可愛くなるな。

「後で後悔しない?」

後悔ならもうとっくにした、漸く認めたんだ手放して後悔なんてする気はない。

「絶対?」

堂上はじっと探る様に見つめられて、その視線を真っ向から受け止めて返しながら肯定の代わりに問い掛けを一蹴する。
何度も繰り返される問い掛けに郁が納得するまで付き合う。最後は切るような返答になってしまったが、早く信じて欲しいという焦りの表れだと見逃して欲しい。
誰にだ、誰かにだ・・・。繰り返した問答は唐突に終わり、最後に信じてくれたらしい郁が今まで見せたことのない女の笑みを見せて堂上を見上げてきた。
その笑みの威力に息を飲み、堂上は自分の中の独占欲に戸惑いながらも僅かに離していた身体の隙間を埋めるように抱きしめて懇願する。

「そんな顔、他の奴に見せるなよ・・・。」

耳元でそう告げれば、郁は自分の表情を理解していないのだろうどんな顔なのかと問いかけてきたが、堂上はその笑みを表す言葉を持ち合わせておらず抱きしめる腕の力を強めて黙り込むことで誤魔化した。
暫く郁を抱きしめて堪能した堂上はそっと腕を解くと恥ずかしそうに器用な上目遣いで見てくる郁から視線を逸らし、ベッドの郁の隣に腰を下ろした。
片手で口元を覆って顔を逸らしている堂上に郁が服の裾をつまんでクイッと引っ張ってくる。
ちらりと視線を向ければはにかんだ笑みを浮かべた郁と目が合って、堂上は自然と綻ぶ顔をそのままに口元から手を離すと漸く郁の方を向いた。
そうして堂上から合宿はどうだったのかと問いかけて、久しぶりに2人の時間を堪能することになり堂上は心からホッとしている自分に気付いた。
郁が夕飯に呼ばれ、堂上も母親に何も言ってこなかったからと暇を告げることになって郁の両親と兄に挨拶をして玄関に向かうと郁が後ろからひょこひょこと慣れない松葉杖を突きながらついてきた。

「郁、足怪我してんだし見送りは・・・。」
「いいの!」
「・・・・玄関先までだぞ。」
「解ってるって。」

振り返ってここで良い、戻れと言おうとした堂上だったが、少しだけ頬を紅潮させて満面の笑顔で譲らない郁に敵うはずもなく小さなため息1つで切り替えて妥協点を告げれば郁もそれには納得できるのかこくりと頷いてついてくる。
玄関を出ると郁も一緒に出ると言うので扉を支えて先に通した堂上は一体どうしたと言いたげに郁を見た。郁は少し迷ったそぶりを見せてから、堂上を見て恐る恐るという風に口を開いた。

「あのね、ほんとはちょっと怖いの。篤と、その・・・こ、恋人・・・になれたのが・・・夢みたいで・・・。」

僅かに伏せられた目と、俯いた顔。
堂上の方が背が低いためその表情も覗き込めば見えるのだが、堂上はあえてそれをせずに静かに手を伸ばす。
ぽん、ぽんぽん、郁が安心するいつもの調子で手を頭上で跳ねさせてからその髪に指を通してくしゃりと撫でる。
ゆっくりと梳くように指を下して頬にかかる髪を耳に掛けてやりながらそのまま指先で頬を擽り顎まで辿ってそっと俯いた顔を持ち上げる。
不安に揺れた瞳とかち合って堂上は困ったような表情でふっと笑うと顔を近づける。
ちゅっと小さな音を立てて口付けると大きな瞳が更に大きく開かれて、瞬時に綺麗な紅色に頬が染まるのを目を細めて堂上は眺めながらぽんぽんとまた飽きずに郁の頭を撫でる。

「不安になるのは、俺が悪いから気にするな。でも、溜め込まずに出来たら直接言ってくれ。今度はちゃんと聞くから。」

堂上は郁の話を聞くことなく勝手に誤解して泣かせたことを思いだして眉を顰めながら郁の目を見てそう告げる。
郁はその言葉に僅かに目を見開いてから、紅い頬はそのままにふわりと笑うと堂上に手を伸ばしてきた。
請われるままに郁を引き寄せて抱きしめればぎゅぅっと力一杯抱き着かれて堂上は苦笑しながらぽんぽんと背を叩く。
郁が満足するまでそうしてから離れると、じっと堂上を見つめる郁の視線をぶつかった。
真っ直ぐに見つめてくる強い視線に堂上はまた心臓を鷲掴まれたような気になる。

「どうした?」
「ん、あのね、篤もちゃんと言ってね?私、馬鹿だけどちゃんと理解できるようになるから。」
「・・・ああ。ありがとう。」

何か言いたげな表情に促す様に問いかけた堂上は、郁の言葉に泣きたいような気分になりながら頷いて心からの謝辞を伝えた。
それから最後にもう一度ぽんぽんと頭を撫でると今度こそ帰るために抱き着いた時にその辺に転がった郁の松葉杖を拾い上げて渡した。

「明日、朝来る。」
「え?」
「良いだろ?迎えに来るから、一緒に学校行こう。」
「うん!」

松葉杖を受け取りきちんとつくのを確認しながら伝えれば、喜色満面の声と笑みで頷きが帰ってきて堂上はそれに微笑んでから自宅へと戻った。
翌朝、堂上が迎えに行くと玄関先に郁と長兄が立っていた。

「あ、篤おはよー!」
「ああ、おはよう。大兄もおはようございます。」
「おはよう。今日からしばらく、たぶん松葉杖が取れるまでかな?俺が途中まで送っていくから。降したとこからは篤、頼むな。」
「はい。」

堂上が長兄に尋ねる前に、長兄から声を掛けられてなぜ居るのかを告げられた。
その言葉に頷くと長兄が満足そうな表情をして堂上の頭をぽんぽんと撫でてきたので、素直に受けてから促されて車に乗る。
郁と一緒に後部座席に乗ると、なんだか隣が落ち着かない気配で堂上はクスリと笑みが漏れる。
長兄は郁の様子も堂上の態度も判っているのか特に何も言わず、帰りのことなどを堂上と確認しながらある程度学校の傍まで来た所で2人を降して去って行った。
堂上は長兄の車を見送ってから郁の鞄を自分のと一緒に担ぐと郁を促して歩き始める。
松葉杖の郁に合わせてゆっくりとした歩調で歩く堂上に郁はくすぐったそうな表情をしながら時々堂上を見て照れた様にはにかんでくる。
それが可愛くて仏頂面なんぞどこかへ投げ捨てたような堂上が出来上がっていて、正門前、偶然居合わせた小牧に朝一番から上戸に入られて堂上は顔を真っ赤にしながら小牧を蹴り飛ばし郁を促して歩き出す。
教室に着く手前で足を止めた郁が、ドアの前を凝視しているのに気付き堂上が見れば俯いた河野が壁にもたれかかって待っていた。

「河野・・・。」
「河野さん、おはよう!」

ぽつりと名前を呟いた堂上に反して、郁は笑顔で河野へと挨拶をしていた。
今までほとんど話したことがない相手だったハズで更には足の原因に間接的にだがなったハズなのに、そんなことはどうでも良いとばかりの郁の態度に堂上は頭が下がる思いで先に歩みを再開した郁の後ろをついていく。
その思いは河野も同じだったようでちらりと堂上を見てから郁を見て苦笑を浮かべながら朝の挨拶を返していた。
堂上が見守る中、郁は河野と二人っきりで話す約束をして堂上にも絶対に付いてこないでと念を押してきた。
堂上としてはあの直後であるのも手伝って難色を示してみたが郁が聞くわけもなく、結局終わったら連絡をするということで落ち着いた。
堂上は小さくため息を吐き放課後になると郁が河野と約束した場所の近くまで送ってから一度部室へと向かう。
もうすぐ試験期間も始まってくるため部活への参加は自由になっている。
玄田が顧問だからこその仕様だろう。
堂上は今日はひとまず帰るとして洗った道着を部室のロッカーに入れておこうと立ち寄っただけだった。
しかし、立ち寄ったそこには古賀が居て、ベンチでぼぅっと空を見上げていた。

「古賀?」

様子がおかしい気がして、声を掛けるとびくりと身体ごと飛び跳ねた古賀が慌てて振り返って堂上を見た。

「どうしたんだ?」

怯えたように自分を見る古賀に僅かに不愉快そうに眉を顰めた堂上だが、先日の朝のことを思えば仕方ないと内心でため息を吐く。
そして、それ以上近づかない様にしながら穏やかな声を意識して問いかければ古賀はまた一つビクリと肩を竦ませながら視線を彷徨わせた。
最終的に辿り着いた視線は堂上のソレと絡んで怯えながらも後悔が滲んでいる目で見てくる。
それを受け止めて堂上は無言でどうしたと先を促す。
少しだけ流れた沈黙は、視線を落とした古賀の小さなため息で破られた。

「堂上・・・・その、笠原さんに・・・。」

古賀は言いづらそうに、けれど落とした視線を堂上に戻しながら懇願を含んだ声で意を決したように言う。

「笠原さんに会わせてくれ!」
「却下だ。」

何を言うのかと古賀を凝視していた堂上は、その申し出を聞いて即答で却下する。

「お前のことは郁には説明してない。だから、あいつに謝罪するつもりなら会わせる気はない。」

堂上は拒否の言葉に何とも言えない表情をした古賀を見て、その理由を告げると泣きそうな顔で古賀は俯いた。

「郁のお前への態度は変わらないだろう。お前は郁が遭ったことは知らない。」

良いな?と念を押す様に告げて、堂上はそれ以上の会話を拒絶するように古賀へと背を向けた。
古賀は今、何を思っているだろうか・・・少なくともあの時の自分を後悔しているのは間違いないだろう。
それこそ、堂上の言葉に泣きそうになるほどには。
今回は間に合った、けれど次も同じようにして間に合うかどうかなど誰にも判らない。
やらないに限るが、そのためには枷が必要なのだ、古賀にも、そして堂上は自分にも必要だと自嘲気味に考えながら道着を仕舞い終わると部室のドアに向かう。
古賀は堂上が入ってきた時と同じベンチに座りこみ俯いていた。
堂上はその背に何の言葉も掛けずにドアを開けると部室を出た。
今、何の言葉を掛けた所で堂上からの言葉は古賀を救う物にはなりえないだろう。
部室を後にした堂上は図書室ででも時間をつぶそうかと思っていると、携帯が着信を告げた。
開いてみれば郁からで、話が終わったという内容だった。
どうやら古賀と相対したことで思ったよりも時間を使ってしまったらしいと苦笑すると堂上は荷物を手に郁が待つ裏庭へと向かった。
裏庭に辿り着くとそこにほど近いベンチに夕日に照らされて紅く染まりながらぼうっと空を見つめる郁が居た。
今にも消えそうな儚げな雰囲気だったが、空を見つめる目には生気が満ちていてどこかホッとしながら堂上は近づく。

「話、出来たのか?」

正面に回ってそう問えば、空から堂上へと視線を戻した郁が屈託のない笑みを見せて頷く。
堂上はそのまま続けられた連絡先を聞いたという言葉に苦笑をしながら、柔らかいと知っている郁の髪に手を伸ばす。
労うようにそっと撫でれば気持ちよさそうに無防備に目を細めて擦り寄られてくすぐったいような落ち着かないような気持ちを味わう。
それでも、撫でる手を止めずにいれば郁から河野と付き合う要因になったことを告げられる。
ピクリと肩が揺れてしまったのは反射だったが、郁はそれを予想していたようで何も言及しては来なかった。
ただ、河野から宣言されたのだろう事柄を教えてくれる。

「篤よりいい男捕まえて私に自慢するって言ってたよ?」

郁の言葉を黙って聞きながら、最後に告げられた言葉に堂上は無意識に眉間に皺を寄せた。
悪戯っ子の様な表情で見上げてくる郁には、そういう意図はないと解っている。
ただ、反応を見てみたいだけなのだろうと予想出来るのに堂上はそれを許容しきれなかった。
落ちそうになる思考に口を突いて出た言葉は、しかしあっさりと全てを言う前に郁に言い当てられて真っ向から否定された。
堂上が固まっている間に頭に乗せていた手を郁に取られて、郁の手元へと降ろされていた。
ほっそりとした指が絡められてきゅっと握っては解かれ、節くれだった堂上の指を撫でたりする。
離されることのない手に、目を逸らされずに伝えられる言葉に、堂上は救われる。
本当にこいつは・・・と内心で苦笑し、全面的に白旗を上げた堂上は素直に認める。
恋心に気付いていない頃からずっと郁だけが自分にとって特別だったのは間違いないのだから、これが自分も初恋である・・・と。
素直に郁にそれを伝えれば、僅かに目を瞠った後ふわりと女の色を乗せたはにかんだ笑みを返された。
それを直視できなくて取られていた手を逆手に取って引っ張って立たせると帰るぞ、と一言告げる。
堂上は脇にあった松葉杖を取り上げて手渡すと郁の荷物を手に帰路に着いた。
それからの日々は堂上が河野と付き合うと郁に告げたあの日より前の穏やかな日々と変わりなく、けれど郁の怪我が良くなりリハビリが始まったりと慌ただしくもある日々が過ぎた。
あの事件以来、堂上はかなり過保護になった自覚はあるがあんなことは二度とごめんだと開き直って部活が終わったら必ず一緒に帰ること、郁が終わったら部室か武道場の人の目のある場所で待っていること等色々としつこく言い聞かせて頷かせた。
郁は当初多少は拗ねていたが、あんな思いはさせたくないししたくないと正直に言えば少し考えたそぶりをしてからコクリと頷いてくれて堂上もホッとしていた。
そうして一緒に帰る日々、堂上は郁の松葉杖が外れてから割とすぐに何気なさを装って郁の手を掬い上げて繋いでいた。
一度繋いでしまえば抵抗もなくなり、堂上はその翌日からほぼ毎日学校からある程度離れた場所で郁の手を掬い上げて指を絡めていた。
郁の方はどう思っているのか、時折確かめるように強く握られるのをくすぐったく思いながら、堂上は同じ強さで握り返す。
それが幸せだと思ったのは初めてだな、と考え事をしていた堂上は郁に声を掛けられて視線を向けた。
特に気負った雰囲気のない郁に重い話ではないと判断して堂上はそのまま前を向いて歩き続けると郁が話を続ける。

「私の足も治ったし、今度部活の休み重なるじゃん。」

確認するような言葉にそうだなと相槌を返せば聞きたくない名前を聞いて思わずぐっと郁とつないだ手に力が入った。
郁から抗議が来るかと思ってすぐに力を抜いたが、それよりも衝撃的な感触が腕に纏わりついて堂上は思わずピタリと足を止めた。
柔らかく温かい郁の身体が自分の腕に寄り添い、剰え抱き込んでいる。
堂上は内心で何の拷問だ!!と叫びながら郁を見ると、郁は堂上の顔を覗き込もうと僅かに頭を下げて器用な上目遣いで覗き込んできていた。
その表情にまたドキリと心臓を跳ねるのを感じながら郁とは繋いでいない方の手をぐっと握りこむことでどうにか色んな物を抑え込む。

「篤?」

無自覚な小悪魔は堂上の色々な葛藤などお構いなしで可愛らしく小首を傾げてこちらを伺ってくる。
それに合わせて表情が渋くなるのは許して欲しい、誰にだ、誰かにだ。
この場合は郁にか?と現実逃避をし始めながら、堂上は郁の言外の問いかけに解ったと肯定を返す。
郁はその言葉を真に受けなかったのか本当に解らなかったのか何についてかを問いかけてくるので端的に返事をすれば花が綻ぶような綺麗な笑みを堂上に見せた。
堂上はその笑みをまともに正面から見てしまい、顔が紅くなるのを自覚してふいっと視線を逸らしたが耳まで紅いだろうことは郁にも解ってしまったのだろう。
ふふっと小さな笑い声が漏れ聞こえて思わず郁の方を見やれば、なぜ見られたのか解っているのだろう軽く首を竦めて肩に懐かれた。
堂上はその無邪気な様子に諦めにもにた気持ちを抱えていると郁からぽつりと謝辞が零れ落ちた。
堂上はそれを聞いて繋いでいない手に提げていた鞄の紐を肩に掛けて空けると肩に乗った郁の頭に手を伸ばす。
ぽんぽんといつも通りに撫でれば、肩にさらに擦り寄ってくる様子に不意に思いついた悪戯を実行するために手を滑らせる。
郁の後頭部にまで滑らせた手でぐっと引き寄せれば郁は何事かと頭を上げた。
そこを狙って顔を近づけると、ちゅっとわざとらしくリップ音を立てて口付ける。
もちろん、周囲に人が居ないのはしっかりと確認済みだ。
してやったりと郁を見るが、郁は目を大きく見開いて固まったまま腕を抱き込んでいた反対の手も力が抜けてスルリと落ちた。
繋いでいた手だけは堂上が離さなかったので堂上と一緒についてくる。
結果、堂上に引っ張られて漸く正気に戻った郁が駆け足で堂上に追いつき抗議の声を上げる。
堂上はそれを受け止めて、そんな風にじゃれあうことが出来る喜びに声を上げて笑う。
郁とじゃれ合いながら帰る道すがら、堂上は空を見上げて密かに願う。
この先もずっとこの”初恋”が変わらず在るように、と。
郁を見れば同じ様に空を見て、堂上に視線を向けて柔らかい笑みを浮かべた。
堂上はそれに笑みを返しながらこの先は解らないけれど、互いに同じ願いを胸に少しでも長い道のりを今この時の様に寄り添い共に歩るければ良いと思い家路を辿った。
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