龍のほこら 図書戦異聞 ―1話― 忍者ブログ

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図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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こちらはpixivにて公開していた『図書戦異聞』の一部再掲載になります。

お知らせの通り、原作に入って以降のお話については今後公開予定はありません。
ご愛読いただいた皆様、続きをお待ち頂いた皆様には大変申し訳ありません。

オリジナルの導入部分及び番外編については公開しても大丈夫かと思い、こちらにて再掲載いたします。
少しでも楽しんで頂けますと幸いです。
1話目です。

では、『本編はこちら』よりご覧くださいませ。

拍手[3回]





正化31年、茨城―――

閑静な住宅街の一角でとある覚悟を決めた一人、いや一匹の犬が暫く住まいとしていた住宅の門前で家屋を見上げて佇んでいた。

『この家に拾ってもらってどれくらい経ったんだろう。それまでは、人の言葉を話すことがおかしいなんて気付かなくて口にするたびに拾ってくれた人間が私を化け物と罵ったっけ。この家でだって、お母さんは私のことを怖がってなんでっていつも泣いていたけど・・・。』

過去を振り返って目を細める。犬の脳裏に浮かび上がるのは目の前の住宅に住む人間たちに拾われてから今までの楽しい出来事ばかりだ。

『大兄ちゃん、最後まで反対してたなぁ・・・。』

昨日もこの家の長男と盛大にやりあったばかりだ。なんで出て行くんだ、この家が嫌になったのか、何かやらかしたのか、口にする言葉もそれに伴う心の色も全てが犬である自分を気遣うものばかりでどれほど愛してもらったのかと犬は嬉しそうに目を細めて笑う。

「郁・・・お前、本当に行くんだな。」

犬は背後から声を掛けられて驚きに飛び上がると大慌てで振り返った。そこには仕事に行ったはずの長男が苦しそうな表情で立っていて犬と目が合うとその場にしゃがみこんで郁と呼んだ犬の頬を両手で包み込んだ。

「あんだけ毎日毎日俺が聞いて、それでも出てくってならもう止めない。けどな?これだけは覚えといてくれよ。この家はいつだってお前の帰る場所の1つだ。目的が達成できたら、一度は顔を見せに戻って来い。」

この家族の中で、父と同じくらいもしくはソレ以上に郁を大事にしている長男が苦渋の決断をしたという表情でそう告げるのを郁は黙って聞いていた。
そして、解ったか?と問い掛けられて何度も言われた言葉を反復して理解すると郁は目に涙を一杯溜めながらうん、と一つだけ頷いた。

「ん、じゃあいい。気をつけて行ってこい。あ・・・そうだ。出てく前にコレつけてけ。首輪してないと保健所連れてかれるかもしれないからな。名前、漢字で書いておいてやる。人の時に必要だったらちゃんと苗字も笠原って名乗るんだぞ?」

どこまでも心配性な長男に、それでも郁の行動を許容して見守る姿勢を崩さない懐の大きさに大人しく首輪をつけて貰うとずっと地面につけていた腰を上げて立ち上がる。
長男も同時に立ち上がると1匹と1人が並んで家を見上げる。何の変哲もない一般住宅にけれど思い出だけは沢山詰まっている。

「じゃあ、いってくるね。大兄ちゃん、ありがと!」

さよならとは言わない、帰ってこいと言われたならここもまた郁の帰る場所だと心の中にそっと留めて元気な声で隣に立っている長男に声を掛けると一気に走り出す。
郁が目指すのは一路、東京。5年前、道路で、そして本屋で自分を助けてくれた男性をどうしても忘れられなかった故に彼の居場所を探して色々あたった。
本屋の近所に居た動物達から話を聞き、人の姿で本屋の人にも彼のことがわからないかと尋ねても行った。そして判ったのは彼がこの場所には住んでいないということ。関東図書隊という図書館に勤める人間であること。

『かんとうとしょたいって何かと思ってたんだけど、関東にある図書隊の人って意味だったんだねぇ。』

音でしか聞き取れなかったソレ、しかも極限状態だったために朧気な記憶で間違っているかもしれないと念のため何度も確認して回った結果得られた情報を元に地図を買い方向を何度も確認した。
そうして探しながらも、郁は自分が何故それほどまでにあの男性を探すのか理解し難かった。
郁は犬だ。人の言葉を話、人の姿になれるとしても元々が犬なのだ。そして人間に寄り添おうとするたびに何度も化け物と叫ばれ、蔑まれ、酷い時は暴力にも曝されてきた。だからか今までは人の温もりに夢を描いても誰か個人を求めることなどなかった。
郁は自分が一般的な人間から見れば化け物でありただの犬にも人にもなりきれないことを理解していた。させられたという方が正しいかもしれない。しかしそれで人を憎むことはなかった。ただ仕方がないのだと早い段階で達観し、宿を求めても決して個人を求めることはなかった。

『笠原の家だって、お父さんも兄ちゃんたちも優しくて温かくて居心地は良かったけど出てけって言われたら仕方ないなって思える程度でこんなに必死になってなかったのに・・な。』

今までで一番長く身を落ち着けていた家で、それでもその家にも家族にもここまで必死になるほどに執着を覚えては居なかった。自分を大切にしてくれていることは十分に伝わってきたし同じように心を、情を寄り添わせはしたけれども。

『とりあえず、逢ってからだよね!まずは迷わず東京っていうとこに行かなくっちゃ!!』

郁は体力に自信はあっても、方向感覚には若干不安のある郁は感傷に浸り始めた心を頭を振ることで彼方へと吹っ飛ばすと歩調を歩きから駆け足に変えて住宅街を駆け抜ける。幸いなことに郁がつい先ほどまで居た家から人間が言う高速道路という物までは存外近い。
東京という文字を覚えてきた郁は昨晩遅くまで口論した挙句、折れた長男が教えてくれた内容を思い出す。

『電車とか、バスとか、そういうのは人間の姿じゃないと乗れないしお金がなくても乗れない。お父さんとかは出してくれるって言ったけどそんな迷惑はかけられないし、この姿で走る方がいくらか楽だよね。本だけは持ってきたけど・・・コレ、見つかるとマズイのかなぁ・・・私、犬だし。』

背中に背負った風呂敷包みのその中身を思い出して若干不安に囚われつつも駆け足だった速度は今や全速力になっていた。人間達がつむじ風かと思うほどの速度で商店街を突き抜けて郁は高速道路に辿り着くとその道に沿って山沿いを走り出す。

『犬の姿で高速を走ると目立つから、東京の文字と方向を確認したらそのまま山道を走れって大兄ちゃん言ってたよね。えーっと、これが高速っていう奴だから・・・。』

最近はETCも増えて人間が立つ場所も減ったそこは人目に付かずに入り込むには十分で速度を落とさずに料金所を通り抜けると看板を確認する。そして休む間もなく最初のトンネルまで走り続けた後は山道へと入り込んだ。
夜が更ける頃まで緩急つけた速度でひたすら走り続けた郁は、丁度2つ目の山を越えたところで力尽きその日の宿を山の大きな大木の上でとった。

『・・・お腹すいた。でも、食べれそうなのないしな。なまじ会話できるって食べるのに困っちゃうなぁ・・・木の実とかあればいいんだけど。明日はゆっくりと散策しながら歩いて食べ物探そう。』

野ねずみや野生動物を食料に狩ればいいのかもしれないと思ったが、普段会話が成り立ってしまうそれらの命を奪ってまで食事をしようという気にはなれなかった郁は宿と決めた大木の幹の上で寝そべると目を閉じる。
今は冬が終わった春先、新しい季節の訪れに暖かくなった気候が手伝って植物が楽しげに目を出し花をつけ実を宿しているものも少なくない。
郁が心の中でそう結論付けるとぐうぅ~と空腹を訴え鳴くお腹に無視を決め込んで目を閉じた。


同日、東京―――

「堂上~、何してるの?」

関東図書基地内にある独身寮の一室。夜も更け始めた時刻にその扉を開けた男が部屋主の名前を呼びながら室内に足を踏み入れた。
堂上と呼ばれた部屋主は自室のベッドに腰を落とし手に缶ビールを持ってぼんやりと佇んでいた。

「・・・・小牧か。何の用だ?」

普段から事前の約束がなくても勝手に部屋を訪れては酒を酌み交わす中ではあるが、用がある時もあるため堂上は入室してきた男、小牧に用件があるのかと尋ねた。小牧はその様子に軽く肩を竦めると手に提げていたビール半ダースを掲げて呑みに来ただけだと言外に告げて定位置に座った。

「もしかして邪魔だったかな?」

ビールと小牧へ視線を流し、そのまま窓の外まで視線を動かして気が抜けたようにぼんやりとしている堂上の様子に僅かに心配の色を乗せた視線で見やり無言で持参したビールの口を開けると小牧は一口含んだ。苦味を含む炭酸が喉を焼いていく。

「いや・・・。」

数拍遅れて、堂上は小牧の問い掛けに否定の言葉を返すとベッドから立ち上がって棚からつまみの乾し物を取り出してテーブルの上に広げる。そのままテーブルの脇、何時も部屋呑みで座る定位置の床に腰を降ろすと先に開けていたビールを飲み干して持ち込まれた新しいビールを手に取った。

「もう何年だっけ・・・?」

暫く静かに飲んでいた小牧がポツリと問いを落とすと、ピクリと肩を揺らした堂上がやや長いため息を溢しながら低く「5」と返事を返す。
小牧が問い掛けたのは5年前、研修で出かけた茨城で行った己の未熟な行為。そしてそれを行うに至った要因についてだ。あの日、あの時間、偶然あの場に居合わせた自分が何をしたのか、それがどういうことなのかは後日身を持って理解させられた。
そうして、それではダメだと気付き、堂上は己を律し作り変えたのだ。猪突猛進と言ってもおかしくなかった無鉄砲な自分から冷静無比な判断を下せる自分へと。

「もう5年かぁ・・・。あれから茨城のその本屋には行ってみたの?」

小牧はしみじみとその5年という歳月を振り返ってみる。図書大学校最後の卒業生である小牧と堂上は、名前こそ主席、次席で知ってはいたが全く関わりを持ったことはなかった。防衛部に入っても、関わりを持つような仕事を持つことはなくその出来事がなければ今だって関わっていなかったのではないだろうかと、小牧は感慨深げに息を吐く。

「行ってない。それに、あれはもう過去だ。あの頃の俺ももう居ないしな。」

軽く肩を竦め、2本目の缶ビールを勢いに任せて半分煽ると堂上は返事を返す。堂上の脳裏には凛とした背中が思い出されていた。真っ直ぐに、何も力を持たない少女がそれでも汚名を着てまで本を守ろうとするそのひたむきさに心を打たれたが故の行動だったと今でも思い、そして後悔もしてはいない。

「後悔はしていない、が・・・同じ轍は踏まない。」

そのために、あらゆる努力を払ったのだ。と言外に告げて、しかし、なぜ今それを思い出したのだろうかと自問自答する。小牧は普段他人に踏み込むことを良しとはしない。そういうおせっかいをするタイプではないのだと理解している。なのにそう声を掛けてきたということは、堂上自身がソレを思い出していたという指摘に他ならない。

「うん、それは知ってる。でも俺はあの時、あの出来事があったから堂上とこうする機会を貰えたからね。」

なんか感慨深いよね~と軽い口調で言う小牧に、堂上はほざけ、と軽口で返してビールを煽る。
そして、何故あの時を思い出したのかという自問自答を再び始める。季節は秋だった、今は春で繋がるモノはない。今日は館内業務だったが、あの出来事を思い起こすようなことは・・・と、堂上はそこまで思い出してふと気付いた。

『ああ・・・今日、あの時彼女が持っていた童話を探しに来た親子にレファレンスを頼まれたんだったな。』

きっかけを思い出し、グシャリと飲み干した空き缶を潰してテーブルに置くと3本目に手を伸ばしながら記憶はあの日へと巻き戻っていく。

『いいわよ、行くわよ!店長さん、警察呼んで!あたし万引きしたから、盗った本と一緒に警察行くからっ!!』

今でもはっきりと思い出せる、凛とした背中と同時に潔さと強さを秘めた意思の強い声が本を守るために汚名を切ることも厭わないと言い切ったあの瞬間の言葉。
本が好きで、その物語がとても大切だと主張する声は良化委員会の男すら一瞬ひるませるほどの強さを持っていたと思い馳せる。
彼女は今、どこで何をしているのだろうか。こんな風に思い出すのは久しぶりで、何かの前兆だろうかと馬鹿なことを考えて堂上は緩く首を振った。

「堂上?何、可愛い彼女のことでも思い出してた?」

それまで静かに酒を呑んでいた小牧が、からかい口調で声を掛けてくるのに軽く眉を寄せてアホウと言葉を返した堂上にククッと楽しげに喉を鳴らして「まぁ、いいけど。」と流す言葉を口にするともうその話題はそれでお終いという合図になった。
小牧と堂上は、その後は業務のことや寮内の噂話などを肴に数刻、酒を酌み交わし翌日の為に就寝することになった。
そして、ベッドに入り込んだ堂上は先ほど思い浮かんだ馬鹿なことをもう一度思い浮かべる。

『まさか・・・な。』

そわそわと落ち着かない心内を、自嘲の笑みでやり過ごし事実を確認する。彼女は茨城に住んでいるはずである。しかももう5年も経っているのだ。自分は名前を告げては来なかった。聞くこともしなかったのだから探す術もない。
そこまで考えて、やはり何かを期待している自分に堂上は呆れて目を閉じると意識を手放すこととした。

彼と彼女が出会うまで、あと少し・・・。
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実写映画から図書戦に完全に嵌りました。暢気で妄想大好きな構ってちゃんですのでお暇な方はコメント等頂けると幸い。

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