龍のほこら はつこい 2話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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お待たせしました!!
はつこい2話目になります。
もろに合宿所での日々になります。
堂上は影しか出てきません、堂郁と謳っているのにww
まだまだ切ない郁ちゃんは続くようです。




郁が合宿に参加してから1週間はあっという間に過ぎた。
合宿メンバーと合流して合宿所に入ってから朝から晩まで練習で練習が終わると疲れ果てて早々に寝てしまうような生活が続いていた。
実はコーチ陣からは、郁はよそからの初参加で衝突するかと思われていた。
郁は持前の屈託のなさと真っ直ぐな心根、そして無意識で行う絶妙な距離感が周囲の選手にあっさりと馴染み2週間目が過ぎる頃にはムードメーカーにすらなっていた。
1人だけ、衝突した男子選手が居たがそれも練習に打ち込む郁の姿が認識を変えさせたようで端から見ると良好な関係を築き始めていた。
そして追加の2週間をどうするか決める日が来た。

「笠原、ちょっと。」
「はい。」
「明日で2週間になる。どうする?このまま合宿に最後まで参加するか?」

郁はチーフコーチに相談室へ呼ばれて確認された。
昨日までは多少迷いがあった郁はこくりと小さく息を飲む。
正直なところ、自分が最後まで残れるのか自信はなかった。
ただ、堂上の言葉に支えられてひたすら練習に打ち込んだだけだ。
しかし、今残るか問われるということは少なくとも今すぐ帰れと言われるような醜態は晒していないということだ。
そしてもう一つ、昨夜あった堂上からの連絡。
それは見計らったように郁のいない時に留守電に残されていたけれど、堂上が試合で優勝したという報告と郁も頑張れという伝言。
部活を始めた日に決めた約束は今も生き続けているという事実。
苦しいけど嬉しい。
嬉しいけど、悲しい。
優勝をした時、きっと堂上の隣には河野が居たはずだと思うとどうしようもなく心が乱されて帰りたくなかった。
郁はコーチを見ると残りたいという意思を伝えるために口を開く。
堂上が今まで通りに接してくれればくれるほど、心が押しつぶされそうになる。
何かに打ち込んで、自分を痛めつけて、疲れ切らないと寝ることもままならない。
そんな状態で走って果たしてタイムは伸びるのか…。
けれど郁には走って走って走り続けて頭を空っぽにしている時にしか心の安息がなかった。

「コーチ、1時間ほど流してもいいですか?」

郁は延長を申し入れて説明などを聞いてから最後にそう問いかけた。
今はただ何も考えずに走りたい、そう願ってコーチに許可を得るために聞いたのだ。
コーチは少し考えてから室内のトラックでゆっくりジョギングするくらいならと許可をくれた。
郁はその返事にホッとしたように笑って頷くと椅子から立ち上がる。
しかし、作業のあるコーチが先に退室を促した時一言だけ釘を刺された。
曰く、明日はしっかり休むように…と。
郁もそれは仕方ないことであり必要なことと理解しているので、はい。と返事をして部屋を出た。
それから準備を整えて室内のトラックに来るとストレッチを始める。
足首や膝回り、股関節などは入念にストレッチをして体を温めると手首に嵌めた時計のストップウォッチをスタートさせて走り出す。
足は膝を持ち上げ真っ直ぐ前に、足は踵からしっかりと地面を蹴って…注意点を思い出しながらゆっくりと流しているといつの間にか近くに人の気配がした。
振り返ると男子選手がすぐ近くを郁に合わせてごく軽く流していた。

「手塚?」
「お前、なんでこんな時間に走ってんだよ。」
「手塚こそ。」

郁が驚いて声を掛けると少し離れたところから隣に並んだ手塚が訝しげに聞いてくるのに問い返せば罰が悪そうに視線をそらして口ごもる。
 郁は特に急かすでもなく黙って走り続けていると小さく息を吐く音が聞こえてきた。
手塚とは合宿所で初めて顔を合わせて同じ短距離の強化選手だった。
実力もあり、努力家でもある手塚は郁が参加した初日に同じ組でタイムを測り、結果郁が勝ってしまったために当初酷く怒りを買っていた様だった。
しかし、何がきっかけだったのか手塚の中で何かが変わったようで一週間も経つ頃には普通に話すようになった。
 話してみると何処と無く堂上に似ているところがあり、そのツボを心得ている郁は口喧嘩もするものの手塚からも居心地が良いと思われたのか打ち解けてくれているようだった。
そんなことを思い返していると、漸く言葉を探し当てたのか手塚が口を開く気配がした。
おとなしく話を聞いてみれば、話は至極簡単だった。
幼馴染の誕生日が合宿から帰宅して直ぐだという。

「あいつ、プレゼントしないと怒る上にわけわからない貸しに付けられるしプレゼントしても変なもんだとやっぱり怒るし変な貸しにされるんだよ。」

遠い目をしながら説明する手塚の幼馴染の印象は勝気で照れ屋、そして可愛らしい人だった。
郁は少しだけ羨ましく思いながらも、プレゼントを選ぶ手伝いを了承すると手塚は助かったとホッとしたように表情を和らげた。
それからふと思い出したように郁の方を見てきた。
郁は何?というように首を傾げて見せれば「帰らずに最後まで練習参加してくんだよな?」と確認された。
そのことに少し笑って頷くと、自分も幼馴染が居て頑張っているから負けれないと答えた。
その時、手塚に見せた顔は郁自身はいつも通りのつもりだったがひどく儚げで珍しく手塚が心配そうに郁を見ていた。
しかし、他人の関係に口出しはしない主義だったのだろう何も言わずに走り続けると郁が走り終えるのを待って、明日の予定を決めると別れた。
郁は荷物を片手にシャワー室に行き、個室に入ると幼馴染や誕生日の言葉に堂上とのやり取りを思い出してしまい涙がこぼれる。
思い切り蛇口を捻ると水に近いぬるま湯を頭から被って鳴き声も涙も何もかもを水と一緒に流した。
あと何度、こんな風に泣けば少しは笑って堂上のことを話せるようになるのだろうとぼんやりと他人事のように思う。
それでも、堂上との繋がりを完全に切ることだけは自分からは出来なかった。
郁は堂上が酷く律儀で身内には口は悪いが他人よりもずっと甘く優しいことを身を持って知っている。
それが例え彼女が出来たとしても決して変わらないであろうことも予想はしていた。
だからこそ、あの日凍らせた想いは心の奥深くに沈めたはずなのに。
気付けばしっかりと根を張って気付かぬところで成長を続けている。
未だに枯れることなく育つそれは日に日に根が郁の心を締め付けていく。

「なんであいつを思い出しちゃうんだろう。なんで、全部にあいつが結びついちゃうんだろう。」

苦しい胸の内を水の中に零す。
それでも、厳しい練習の中挫けそうになる心を、折れそうになる足を、奮い立たせるのは堂上のたった一言「励めよ」の言葉。

「苦しいよぉ・・・あつしぃ・・・。」

もっと早くに好きだと言えていれば変わったのだろうか。
しかし、刺さった棘は抜けないまま未だに血は流れ傷がふさがることはなく到底言えるはずもなかった。
一頻り泣いて、落ち着く頃シャワーの温度を上げて温まると郁は自室へ引き上げた。
翌日、待ち合わせた時間より十分ほど前に合宿所の宿泊施設のロビーに行くと手塚は既に来ており、ソファに座って新聞を広げていた。

「おはよう、早いね。」

郁が近付いて声を掛けると顔をあげた手塚はああ、と返事をしながら新聞を畳んで立ち上がる。

「新聞読みたかったからな。」
「ふぅん、で、おはよう。」
「…おはよう」
「よろしい。」

早かった理由を聞いて頷いた郁が言外に挨拶、と含ませてもう一度おはようと口にすれば少し間が開いて挨拶が帰ってきたことに笑顔になった。
ふふっと小さく声まで漏れるのを聞いて手塚は不服そうに顔を顰めたが、自分が劣勢だと思ったのか黙り込む。

「今日のお前の格好…」

少しして、じゃあ行こうかと言った郁に続きながら手塚はふと気付いたことを口にしかけて慌てて口を閉じた。

「ん?ああ、これはお兄たちからのお下がり!万が一ってあるし、誤解されたくないでしょ?」

手塚の言いかけた言葉に自分の服を見下ろしてから何食わぬ顔でそう答える。
本当は別の理由があるが、それを手塚に伝える必要はない。
手塚は疑問の残る表情をしながらも、そんなんじゃない!と食ってかかりながら合宿所の玄関を出る。
外に出てキャップを被った郁は黒系統のメンズラインをしっかりと着こなしており、遠くからパッと見るとまるっきり男のようだった。
手塚も濃い緑色のパーカーに下はモノクロのTシャツ、ボトムはジーンズで似たような雰囲気だった。
二人が並ぶとイケメンの2人組に見えるのだが、本人たちにその自覚はない。

「しかし、2人で女が良く行くようなとこ入ったら目立たないか?お前、キャップ被ると男にしか見えないぞ?」

じゃあ行こうかと歩き出した郁を追いかけながら、手塚が素直に思ったことを口に出すと郁は少しだけ痛そうな表情をして苦笑した。
しかし、何も言わずに肩を竦めて前を向く。
それから少し歩いて漸く口を開いた。
その間、手塚は気まずそうに視線を彷徨わせながら郁の少し後ろを歩いていた。

「あんたが気にしなきゃいいのよ。彼女のプレゼント選んでますって風を装えば良いでしょ?友達に相談してるんですって感じ。後で女と一緒だったなんて噂が立って変に勘繰られるよりずっといいと思うけど?それに、実は私女の子の服って持ってないの。」

前半は真面目に考えていた、自分だったらどうだろうか・・・と。
男だと思ってたのが女だと知るのも結構なダメージだが、人から聞く話なら男と一緒の方が安心できる。
事実はどうあれ・・だ。
そして後半は嘘だ。
母親は郁に女の子らしくを強要してくる。
たとえそれが郁に似合わない物でも女の子らしい物であれば良いのだ。
だから自室の箪笥にはこれでもかというほどにフリルやらなんやらが付いたスカートやブラウス、その他色々なものが詰まっている。
しかし、郁としては動きづらいことこの上ないし着れば似合わないと笑われるのが解っているため箪笥の肥やしとなっている状態だ。
普段は兄たちからお下がりを貰ってそれを好んできている。
女に見られることの方が少なく、堂上と居る時は逆ナンされることもしょっちゅうだったなとまた堂上との出来事を思い出して苦い笑みが出る。

「・・・悪い」

ふと、隣に気配が来て顔を上げると手塚が言いづらそうに謝罪を口にしてきた。
郁はその様子に自分の表情が困らせるような表情になっていたことを悟って無理やり笑って首を振った。

「こっちこそごめん!変な空気にしちゃった!気にしないで、たぶん変な顔しちゃったと思うけど手塚が言ったことに対してじゃないから。」

わざと声のトーンを明るくしてそう言うと少し足を速める。
空に視線を投げれば青く澄んでいて気持ちが良い天気だ。
落ち込んでも仕方がないし、ここにその相手は居ない。
手塚は郁の様子を見て口を開くのを止めたのか、無言で隣に並んだ。

「それで、手塚はあげたいモノとか考えたの?」
「いや・・・そろそろネタ切れだしな。」
「ふーん?今まではどんなのあげてたの?」

話題を変えようと問いかければ、手塚もそれに乗ってきてさっきまでの空気は一掃された。
すっかりといつもの調子を取り戻した郁と手塚はバス停に向かいながら手塚の幼馴染について話を聞いた。
今まであげたことのあるもの、あげたことのないもの、あげてみたいもの、色々聞きながらなんとなく郁には手塚がその子を好きじゃないかと思えた。
合宿所は都心から少し離れていて、街に出るのもバスで数十分だ。
そして、最寄りの街も堂上の行動範囲からは真逆の遠方の場所だったので出会うこともない。
そんな安心感で手塚と2人色んな店舗を物色した。
最終的にあげたことのないアクセサリーを見ている手塚に微笑ましく思い相談されたこと以外は口を出さずに眺めてれば背中に視線を感じた。
ちりちりと首筋が泡立つようなどこか鋭く観察するような視線、そう思って視線を感じた方に顔を向けると綺麗な女の子が立っていた。
その視線はキツく、どこか覚えのある視線だなと思い過去を振り返って気付く。
昔から堂上の隣で笑いあってる時によく感じた視線、嫉妬を含んだソレに首を傾げる。
今一緒に居るのは手塚だが、この街に来てから逆ナンは何度かされたが誰もそんな視線を投げてこなかったように思う。
羨望の視線は手塚に集中していたが、あからさまな敵意はなかった。
邪魔するのは悪いかと思ったが、これは手塚に知らせた方が良いと直感して手塚に視線を戻す。

「なあ、手塚?」
「あ゛?邪魔すんなよ、選んでんだから。」
「うん、解ってるけどたぶん後ろ確認した方が良い。逃げられる前に」
「え・・・?」

 わざと男を意識したしゃべり方を選んで声を掛けると余程真剣に選んでいたようで、物凄い顔で睨まれたが気にせず背後を示せば反射で視線が追いかけた。
そのまま多分こちらを見ていた彼女を見つけたのだろう、血相を変えてお店を飛び出して行く。
店員が驚いて手塚を見るが郁には関係ないことだったので視線をディスプレイに戻すと自分では絶対に寄り付かないだろうアクセサリーという女の子らしいものへ視線を向ける。
しばらくそうしていれば、彼女を捕まえて誤解を解いたらしい手塚が彼女の手をしっかりと握って戻ってきた。
しかし、向けられる視線から察するに誤解は継続中のようだと郁は困った様に微笑んで彼女を見つめ返す。
こんなにもしっかりと手を繋がれているのに、それでも不安なんだろうか?少なくとも、手塚が手を離さない限りは傍に居られるのに。

「こんにちは、初めまして。」

 にこりと今できる精一杯の笑みを浮かべて挨拶をすれば拗ねた顔で横を向きこちらを見ようとしない彼女がなんだか可愛くてクスリと笑みが零れてしまった。

「可愛いね、彼女。手塚が大事にしてるの解るな。」

ふふっと笑ってそう言えば、目の前の2人して勢い良く郁の方を見た。
どちらも顔を赤くして口をパクパクしている。
そんな様子を見た郁はきょとんとした表情で見て首を傾げた。

「えっと、何か悪いこと言った?」
「・・・っの、バカっ!!」
「えぇ?!なんで?!だって、大事じゃなかったら覚えてないことや気付かないこと多いじゃん!!」

郁の『大事にしている』の言葉は異性としてではなく人としてという意味だったのだが意識し合っている目の前の2人には異性としての意味で取られたようで、そのことに気付かない郁はなんで怒られるのか判らないと膨れっ面になってもう良いよ!と叫ぶと違うコーナーへ行ってしまった。
手塚はその姿を見て漸く我に返ると隣でそれでも手を離さなかった彼女を見た。

「あー・・・・あいつは合宿仲間で女ってよりは男みたいな奴だから。」
「光、それ失礼だと思うわ。あんなに可愛いのに・・・。」
「なっ・・・お前が誤解したからだろっ。それに、俺には女に見えん。」
「まぁ・・・。」
「とりあえず、お前の欲しいモノ選べよ。」

手塚が言い訳の様に郁のことを説明し始めれば、上げ足を取る様に彼女が答える。
それにむっとして返すのを彼女はクスリと笑って見上げた。
手塚は彼女のどこかほっとしたような様子に気付いて小さく息を吐いて気分を変えるとせっかく本人が居るのだからとアクセサリーコーナーに促した。
拗ねた振りで2人の前から逃れた郁は、少し離れた場所で2人の様子を眺めて僅か哀しそうな儚い笑みを浮かべた。
無自覚なそれは周囲に居た女性たちの頬を染めさせたが、本人は気付いていないため少しばかり目深にキャップを被り直して棚を眺めて時間を潰す。
この後別行動になるにしても、拗ねたまま別れたのでは合宿所に帰ってから手塚が居心地が悪いだろう。
プレゼントが選び終わる頃戻れば良いだろうと思い棚に視線を走らせていると青い瓶が目に入った。
近づいてみるとアロマオイルで香りを示す花のイラストが貼られていた。

「これ・・・。」

たくさん並ぶ瓶の中の1本を見て、心惹かれた郁は手に取った。
描かれた絵は黄色い花芯に白い花弁を持つ小さな花。
いつだったか、父の田舎に帰った時に祖父が教えてくれた花だと気付く。

「カモミール・・・。」
「それ、買うの?」
「っ?!」

1つの瓶をじっと見て集中しすぎていた郁は背後に近づいた気配には気付けなかった。
声を掛けられて声にならない悲鳴を上げると大慌てで振り返る。
そこには自分よりもずっと小柄で可愛らしい手塚の彼女が居て、手塚も一緒に立って郁の反応に驚いた表情を見せていた。
彼女は横から郁の手元を覗き込みカモミールの瓶を見て郁を見上げるとにこりと笑う。

「可愛いわね、貴女に似合うと思う。私、柴崎麻子よ。貴女の名前聞いても良いかしら?」
「あ・・・え?えと、笠原郁・・・です。」

郁の態度に何も言うことなく自己紹介をする彼女、柴崎に目を瞬かせながら郁は聞かれるままに名前を答えると柴崎はするりと郁の腕に自分の腕を絡めてきた。
あれ?この子手塚のことが・・・え?いいの??内心でそんなプチパニックを起こしている郁を余所に、柴崎は郁の手から瓶を取り上げてしげしげと眺める。

「これ、好きなの?」

改めて問いかける柴崎に漸く解凍した郁が柴崎の手に渡った瓶に視線を戻すとふっと微笑んで、うん、と頷いた。
それは歳よりもずっと幼く見える笑みとしぐさで柴崎は僅かに目を見開き郁を見上げた。
先ほど逢った時の郁は酷く大人びて憂いを帯びた表情を見せていたのに、こんなにも素直なのかと嫉妬も通り越し感嘆し同時に裏表がないことに驚いた。

「おじいちゃんが教えてくれたの。カモミールの花言葉。苦難の中の力。カモミールってね、他の植物の傍に植えると傍に居る植物を元気にするんだって。私もそうなりたいなって思って・・・。」

あの時、祖父の説明を一緒に聞いたのは偶々近くにキャンプに来る予定があったお隣さんである堂上だった。
2人で待ち合わせて、祖父の畑を手伝いながらその畔に植わっていたカモミールを見て問いかけたのだ。
春先と秋口の2度咲く時期があるそれは普段触れ合わない香草で2人とも興味津々に眺めて説明を聞いたものだ。
今はもう、その思い出も遠く戻ってくることはないのだが。
郁は意識を柴崎に戻すとふうん、と相槌を打ちながら手の中に戻された瓶を受け取った。

「買うの?」
「うん、せっかくだし買おうかな。」
「そう。ね、この後予定あるの?」
「え?いや、私はないけど・・・でも、えーっと」
「麻子で良いわよ。」
「あ・・・麻子ちゃんは手塚とどっか行くでしょ?」
「なんで?」
「え?・・・だって・・・。」

手の中に戻った瓶を大切に扱いながら、柴崎の3度目の問いかけに頷いた郁は続いた問い掛けに戸惑ったように柴崎を見た。
郁を見上げて綺麗に笑っていた。そんな柴崎はとても綺麗で、同じ年齢の子と比べても群を抜いている。
そしてそれを自覚している自信が垣間見えるのを郁は無意識に羨望の眼差しで見下ろしてしまいながらオロオロと手塚と柴崎を交互に見る。
狼狽えた郁の様子が面白かったのか柴崎は面白い物を見つけたという顔でふふっと笑うと首を傾げて郁を見上げる。

「光とはいつでも話せるもの、貴女と話したいわ。」
「で・・・でも。」
「いい、麻子は言い出したら聞かないんだ。」
「そうよ。それと、あ・さ・こ・・・よ。私も郁って呼びたいし」
「う・・・うん。」

困って返事に窮している郁を見かねてか手塚が横から気にするなと言葉を挟み、柴崎の勢いに圧される様に頷いた郁はそのまま腕を取られレジで精算を済ませると色んなショップを連れまわされた。
それこそ自分では行かないような女性服を売っているようなお店を転々と連れまわされて合宿所に向かうバスのバス停で別れる頃には手塚と2人ぐったりとしていた。
しかし、メンズ服に身を包んだ郁を見て同じ女であると気付き、さらには女の子として接してくれる女子は実は珍しく、たくさん話をしてその頃にはすっかりと打ち解けていた。
別れ際、郁と柴崎は嬉々としてお互いの携帯アドレスを交換してまた戻ったら遊ぼうと約束をした。
合宿所に戻った郁と手塚は、予定通りみっちりと扱かれる2週間を過ごした。
郁はとても充実した1か月だったと合宿所で過ごす最後の夜を満ち足りた心持ちで過ごしていた。
メール画面を開くとこの2週間で柴崎とのやりとりが大半を占めるようになっていた。
けれど、その間にポツリ、ポツリと堂上からのメールや自分が返した近況メールが入っているのを見て明日には戻ると思うと泣きそうになった。
ロビーのソファーで座ってぼうっとしながら携帯の画面を眺める。
専用にしてあるフォルダには堂上からのメールが詰まっていた。
堂上に会えるのは嬉しい。でも、傍に居られないのは苦しい。
もう堂上の隣は自分の居場所ではない。
苦しさに息が詰まっていた所で携帯がメールの受信を知らせた。
青と赤のランプの点滅は堂上だけに設定してある点滅色だ。

「篤・・・。」

思わず名前を呟きメールを開く。

**************
From:篤
To:郁
Sub:お疲れ。
――――――――――――――
 今日で合宿終わりだよな。
お疲れ、良い経験が出来たか?
明日そっち顔出すから、家居ろよ。



**************

書かれた内容に嬉しいんだか苦しいんだかわからなくなる、でもやっぱり嬉しい・・・ぽろぽろとあれから、堂上に河野との交際を知らされてから何度目になるか判らない涙が零れてジャージを濡らしていくのを郁は嗚咽を噛み締めて眺めていた。

「篤、ほんとバカ・・・もうほっといてくれたら良いのに・・・。」

そんな奴じゃないのは解ってるけど、嬉しい気持ちと苦しい気持ちが心を押し潰していく。
いっそ忘れられたら、そう思う。
でも、忘れたくないとも思う。いつかは違う人を想うかもしれないけれど、これ以上に想う相手は出てこないことだけはもう今の時点で確信できていた。
郁は涙が止まるまでロビーで時間をつぶし、顔を洗うと宛がわれた部屋へと戻った。

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