龍のほこら 紫陽花と君 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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こんばんは!
本日は昼間に大掃除を予定しているため、更新が怪しいので日付が変わった今のうちに公開しておこうと思います。

本日公開するお話は、すでにお読みになった方も多数いらっしゃると思いますが『one titles』様へ投稿させて頂いている作品となります。
6月のお題「あめ」にて投稿させて頂きました作品です。
よろしければ「本編スタート」よりご覧くださいませ。


拍手[63回]





音もなく振り続ける霧雨の下、郁は傘も差さずぼうっと目の前に咲き誇る紫陽花を見つめていた。
時は6月。梅雨に入り連日雨が降り続く中、関東図書基地では研修として他基地の隊員を受け入れしそれぞれが講習や業務への参加を行っていた。
特殊部隊にも数名の隊員が入ってきて、一部特殊部隊員候補だという女性が郁の居る堂上班へと割り当てられていた。
研修は滞りなく進み、研修中の女性隊員も身体能力以外は郁よりもずっと優秀であり堂上の覚えもめでたい様子を間近で見せられてここ最近の郁は意気消沈としていた。
それでも、課業中は自分の出来ることを精一杯やるという意志を持ってあたり影響は出ていなかったが課業が終わると同時に行われるやり取りに郁は必死の形相で日報を書くと逃げ出すように事務所を後にしていた。
そして今日は公休日で、実は前々から堂上と約束していたことがあったのだが今朝一番で見たくない光景と共にキャンセルを告げられたも同然で郁は逃げ出す様にその場を走り去るしか出来なかった。
郁が見たくなかった光景・・・それは、研修に来た女性が堂上に対し熱心に教えを請うことだった。
それ自体は悪いことではないのだが彼女が頼みにいくのは必ず堂上で、郁が居るのを確認してからそうしていることが多々あった。

「別に、なんともないもん・・・。」

ぽつりと零れ落ちた強がりは、雨の中で目の前の紫陽花の上に落ちて消えた。
走って辿り着いた公園の、堂上に見せたかった紫陽花の前で思い出すのは昨夜のこと。
研修に来ている女性隊員に相談があると呼び出されて聞かされた宣戦布告に、まだ自分の心も理解できていない郁は何も言えず女性隊員はそんな郁を満足気に見やってその場を去って行った。
その時の言葉が脳裏に甦ると、ツキリと胸の奥が痛んで鼻の奥がツンとする。
降り続いている雨は既に郁を水浸しにしており、頬を伝う水滴が涙なのか雨なのか判らない状態へとしていた。

「明日、堂上二正に図書基地の事を教えていただくのをお願いしたんです。笠原士長とお約束があるみたいでしたけど次に回せるからって仰ってくれたのでお借りしますね。」

そう言った彼女の目は、郁のことをただの部下なのよと蔑むように見ていた。
課業中や堂上班の男性たちの中では決して見せない女としての色を見せられて、女としては何一つ自信のない郁はただ黙って言葉を聞くしか出来なかった。

「教官は、私の所有物ではありませんから。」

そう言うのが精一杯だったが自分で発したその言葉にすら傷つく自分に、郁はどうしてなのか理由を見つけることが出来ず俯いた。
彼女よりもずっと高い背を縮めるように背を丸めて頭を垂らす様子は彼女にどう映ったのか、楽しげな声でじゃあ、と言って去って行った彼女の後姿は自信に満ちていて堂上と立ち並ぶ姿を思い出して余計にみじめな気分になった。
堂上との約束は、なんてことのないたわいのないことだ。
6月の梅雨に入り色づき咲き始める紫陽花が綺麗な公園があるという世間話から、時間があれば連れてってくれと言ってくれた、ただそれだけのこと。
それはしっかりとした約束ではないし、何よりただのリップサービスだった可能性の方が高くて堂上がそんな男じゃないことは知っていてもそう思うしか諦めることは無理そうで、ただただ紫陽花を眺める。
青く色づいた紫陽花は鍔を大きく広げて咲き誇り、大輪のように幾つも緑の葉の合間に姿を現している。
丁度、今日が一番きれいに咲き誇る日で堂上を誘えたらと共用ロビーに降りてきたところで遭遇してしまった2人の姿に郁は声も掛けれず逃げるように走り去ってしまった。
僅かに触れ合った彼らの腕、恋人同士のような立ち位置に平然としている堂上の顔は郁を見ることはなかったような気がする。

「きょーかん・・・・。」

振り続けている霧雨は、徐々に粒が大きくなりしとしとと音を立て始めていた。


一方で、堂上は目の前の書類を片付けながらイライラとして殺伐とした空気を醸し出していた。
どうしても外せない仕事が出来てしまい、休日出勤を余儀なくされた公休日。
郁が先日世間話でしていた咲き頃は今日辺りじゃなかったかと思い、もし誘ってくれるのなら午後からと伝えたくて共用ロビーに出れば研修に来ている女性隊員に捕まってしまった。
漸く話が終わって郁は来ないかと周囲を見渡していれば、去って行った女性隊員と入れ違いに声を掛けてきて小牧に逃げるように外に出て行ったと言われた。

「なんで声を掛けない、あの馬鹿!」
「あれは、声掛けれないでしょ・・・・堂上、あの女性隊員と恋人みたいだったよ?」
「なっ?!」
「時間、いいの?」

思わず口を突いて出た悪態は、小牧に冷たい一瞥と共に告げられた言葉と共に取り消された。
そもそも、堂上が悪いと言いたげな小牧は午前中に入った堂上の仕事を知っていて時計を示してきた。
確認すればもう出なければならない時間で、舌打ちしたい気持ちを抑えて堂上は庁舎へと赴いて仕事をしている。
郁はどうしているだろうかと窓の外を見つめてため息を零す。
少し前、謂れのない査問に押しつぶされそうになりながらも毅然と立って前を向いていた郁は最近課業中以外では肩を落とし背中を丸めて歩いていることが多かった。
何かあったのか?俺じゃ相談に乗れないのか?とう思って声を掛けようとする堂上に、ことごとく邪魔をしてきたのは研修中の女性隊員。
玄田からは郁に次ぐ特殊部隊員になるかもしれないから無下に扱うなと注意されているのと、話の内容が仕事のことだったので断ることも出来ず話を聞くことになっていた。
だが、いい加減堂上としてもイライラは募っていた。
ただでさえ辛い思いをさせた数か月の査問、見縊っていた士長試験での見事な成長の証明、そして突然の王子様卒業宣言。
自分の気持ちを認めても良いか迷いながらも今はただ上官としてで良いから郁を甘やかしたいと思っているのにそれが出来ず剰え褒めることすら出来ていない。
確保してもいつものように褒めることが出来るタイミングがないのだ。
女性隊員の前だからというのもあるが、調書などについてすかさず質問されたりして会話の機会すら失くしている気がする。

「堂上、出来たか。」
「はい、あと少しです。」

イライラと考えながらも視線は画面を追い、手はカタカタとキーボードを打ち、頼まれた書類は完成目前だった。
数行打ち込んでプリントアウトすると声を掛けてきた緒形へと提出する。

「ああ、すまなかった。今日、笠原と約束があるんじゃないのか?」
「っ?!」
「昨日帰る直前の笠原に会ったんだよ。嬉しそうだったから聞いたら、明日お前を案内出来るかもしれないと言っていたんだが。」
「・・・・今朝、何も言わずに出てったそうです。」
「そうか、なら追いかけてやれ。」

書類をとんっと音を立てて揃えながら、緒形は目の前で葛藤している可愛い部下に言葉を掛ける。
昨夜、廊下で出会った郁は研修が始まってから久しぶりに本来の明るい笑みを見せていた。
よっぽど楽しみにしているのだろうと約束の内容を知らない緒形にも判るほどで、微笑ましくなって楽しんで来いと告げたばかりだ。
しかし、予定を変更させてしまったのは自分のせいでもあり迷っている風のこの部下の背中を押すことでそれを報いれればと思った。
同時に自分の時のようなすれ違いはしないで欲しいと思っての言葉でもあった。

「何を案内して貰う予定だったんだ?」
「紫陽花を・・・。」
「紫陽花?」
「この間、世間話で梅雨に入る時期は紫陽花が綺麗だと言っていて。図書基地の近くにも綺麗に咲くところがあるんだと言っていたんで見てみたいと言ったんです。」

堂上はその時のことを思いだす。
士長試験を終えて、郁の植物に関する知識の広さに驚かされたのと同時に興味を覚えて何気なく見た花の図鑑。
品種や育て方、花の形や葉の形状、名前の由来や花言葉に至るまで書いてあったその中で目についた紫陽花の花。
花の色が土の酸性度で変わるこの花は青い花が付いたから翌年も青くなるわけではなく、紅くなったり途中でも色が変わるところから移り気や浮気などの花言葉が多い。
しかし、その中でひときわ目についたのは「元気な女性」という言葉。
海外からの花言葉かもしれないが、その言葉を見て雨の日も元気で賑やかに警備をする郁を思い出し郁の様だと思った。
丁度その少しあとに出た話題で、綺麗だと聞いたら見たくなったので何気なく言った言葉だったが郁からじゃあ、見ごろになったらと返されて嬉しいと感じたのは確かだった。

「あ、堂上二正こんなところに・・・!お仕事されてたんですか?」
「・・・・。」

緒形との話が途切れた所で事務所のドアが開き、研修に来ている女性隊員が顔を出した。
私服で来たところを見ると研修熱心で来たというわけではないようで、堂上の眉間に皺が寄る。
無言で返せば、何故かにこやかに微笑まれて堂上の中にあった我慢という名の忍耐の紐が切れそうになる。

「どうかしたのか?」

口を開かない堂上に変わって緒形が声を掛けると、女性隊員は困ったように笑ってから堂上を見て口を開く。

「図書館の方を案内お願いしたくって、堂上二正だったらポイントとか教えてくださいそうだと思って。公休じゃないとあちらの案内はお願いできないですから。」
「悪いが、断る。」
「何でですか?ここに居らっしゃるなら笠原士長との約束はなしになったんですよね?」

嬉しそうにお願いとやらをしてくる女性隊員に苛立ちを抑えながら返事を返せば、ピンポイントで堂上の地雷を踏んでくる。
緒形はここ最近の女性隊員の行動に思うところがあったのだが、確信に変わったことに小さなため息を吐いた。
玄田から緒形が聞き及んでいたのは、女性隊員が堂上班の誰かを引き抜きにかかるだろうと言う憶測だ。
一番可能性の高いのは玄田の懐刀として名高い堂上だとも聞き及んでいた。
女性を全面に出しながらも仕事をきっちりとやり、自分へと意識を惹きつけていたつもりの女性隊員だが緒形は内心で馬鹿だなと呟く。
堂上が、どれだけ否定していても笠原をないがしろにされて靡くはずがないのだ。
仮にもこの2年半、一番近くで無意識にも意識的にも自分の感情を押し殺してまで育て上げてきた唯一の女性隊員であり今はまだ否定するが最愛の女なのだから。

「お前には関係ない。」

堂上は我慢も限界を超えたのだろう、冷淡な声と視線で女性隊員を一蹴すると一瞥もせず緒形にだけ会釈して事務所を出て行った。
追いかけようとする女性隊員は緒形に声を掛けられて振り返る。
そこにある視線も冷たいモノで女性隊員は身震いをしながらも視線を逸らさずに見返してくる。
そのプライドには感嘆するものがあったが、緒形は淡々と告げる。

「あの2人を引っ掻き回すな。堂上は落ちないし、そちらの隊にも移動はしない。」

目を眇めて女性隊員を見れば、見る間に青ざめて慌てて事務所を出ていく。
引き抜きを掛けようとしていたのは間違いないようだな、と緒形は確認すると玄田に報告するために席を立つ。
ちらりと堂上の席を見つめて、頑張れよと内心でエールを送るとそのまま隊長室へと入って行った。


事務所を出て傘を手にした堂上は真っ先に図書館に行くと館内業務中の柴崎を捕まえて郁の居場所を聞く。
尋ねられた柴崎は最初笠原を泣かせたと冷たい目で堂上を見ていたが、隊長命令があったことも日に日に苛立ちを募らせていたことも気づいていたので小さなため息で怒りを吐き出すと口を開く。

「笠原なら、朝から出かけてますよ。帰ってるかは判りませんが、近所の公園に見事な紫陽花があるんだと数日前に報告してくれました。」

どこの公園かは知りません。と付け加えて業務に戻るそぶりを見せると堂上は恩に着るとだけ告げて去って行った。
その後ろ姿を見て、柴崎はそんなに必死になるならさっさと気持ちを認めて笠原を捕まえてください。と小さく呟いた。
堂上は柴崎の言葉など届いておらず足早に館内を抜けると傘を手に外に出た。
郁がどこに居るのかはっきりとは分からないが、図書基地近辺の公園を片っ端から当たってみようと地図を思い出して近場から潰していく。
1件、2件、見つからないことが堂上を焦らせるが、携帯を鳴らしても出る気配のない郁にとにかく歩くしかなく公園を渡り歩いた。
堂上がそうして郁を探し始めた頃、郁はまだ公園で立ち尽くしていた。
傘も差さず立ち尽くした郁は、霧雨から本格的な降りに変わった雨に濡れ続けて身体は芯まで冷えていたが心が冷え切っているからか寒いとも感じずただ紫陽花を見つめ続けている。
雨に打たれて揺れる紫陽花に、花言葉の移り気という言葉を思い出す。
しかし、堂上は雑談の時、郁のような花だと書いてある図鑑があったと言っていたし小牧は堂上みたいだよとも言っていた。
郁は移り気と浮気、そして無情という花言葉以外を知らず今日誘えたら聞いてみようと思っていたのだ。

「・・・・もう無理かな・・・。」

歯の噛み合わない状態で声を出したが泣いたせいらしく掠れて音にはならなかった。
気付けば周りは雨のせいもあり暗くなり始めていた。
郁は小さな息を1つ落とすと寮に帰らなくてはと漸く紫陽花から顔を上げた。

「一緒に見たかったな・・・。」

最後にもう一目と紫陽花を振り返ってから、郁が公園の入り口に顔を向けると傘を差しながらもズボンをびしょ濡れにして肩で息をする堂上が険しい顔で郁を睨んで立っていた。
郁はその表情に怒り心頭なのを悟ってビクリと肩を揺らすと僅かに後ずさる。

「お前・・・・なんで傘差してない・・・。」

後ずさった郁は、しかし冷え切った身体がかじかんで上手く動かず足早に近づいてくる堂上に手首を掴まれて逃げることが出来なくなった。
低い声で唸る様に言われて、再び肩をびくつかせると俯いて小さくなる郁に堂上はふぅっと息を吐くと郁をグイッと引っ張ると腕の中に引き込む。
郁は咄嗟に堂上の胸元に両手をつくと腕の中から逃げ出そうとする。

「教官!!濡れちゃいますから離して・・・!!」
「誰が離すか!!女が身体冷やすなっていつも言ってるだろうがっ!!」
「なっ・・・だ、大丈夫ですっ!!寒くなんてないからっ!!」
「寒くないならなんで震えてるんだ・・・!」

腕を突っ張って拒絶を示す郁を、しかし堂上は放さずにさらに引き寄せると腕の中にしっかりと抱き込む。
郁は堂上の体温を傍に感じて急激に寒さを実感するとカタカタと震えだして抵抗する手も上手く力が入らなくなる。
それでもこれ以上の迷惑は掛けられないと必死に逃れようとする郁に、堂上が苦しそうに言葉を出した。

「笠原、頼む。大人しくしてくれ・・・。約束守れなくて悪かった・・・。」
「きょ・・・か・・・。」
「忘れてない、今日も午前中はどうしても緒形副隊長に頼まれた仕事を断れなくて午後から案内してほしいと言うつもりだった。昨日のうちにメールしておけば良かったのにしなくて悪かった。」

片方は傘で郁にこれ以上の雨が当たらない様にしながら、片腕で力一杯抱きしめた細い身体が冷え切っていることに自分への憤りを感じながら堂上が謝罪をすれば抵抗していた郁の動きがピタリと止まった。
暫くして、おずおずと服を握ってきた手と、肩に乗せられた額に堂上は気付かれない様に安堵の息を吐く。
小さく噛み殺した嗚咽が堂上の耳を打つがその合間に教官、教官と繰り返される声が堂上のまだ認めていない何かをゆっくりと満たしていく。

「ごめ・・・なさ・・・。」
「何がだ。」
「心配、かけちゃいました・・・たくさん・・・。」
「いい。今回は俺が悪い。」

どれくらいそうしていたのか、堂上の体温が移ったのか僅かに体温を取り戻した郁が小さく話しかけてくるのに堂上も声を潜めて返すと申し訳なさそうな声が返事を返す。
その声に大丈夫だというように背に回していた手を頭に回して濡れてしまっている髪を梳きながら撫でてやると安心したように肩から力が抜けた。

「とりあえず、今日は帰るぞ。これだけ濡れたら明日風邪引くのは確定だ、アホウ。」
「・・・・ちょっとだけ・・・せっかくだから。」

落ち着いたのを見計らって顔を覗き込んで渋面で言えば、それでもすがるような表情で郁に懇願されて思わずコクリと喉を鳴らした堂上は慌てて顔を逸らす。
ダメですか?と情けない声でお伺いを立てられれば、小さな甘えに絆されるのは仕方のないことだと堂上は自分に言い訳をして息を吐く。

「ちょっとだけだぞ。もう暗くなってきたし。」
「はい!」

嬉しそうに笑った郁に苦笑を浮かべ、ぽんぽんと撫でると向きをくるりと変えた郁を追って歩く。
傘は二人に差しかけて、未だ降り続く中二人の世界のようなその中で紫陽花の前に立った。
綺麗に咲き誇っていた青は薄暗がりの中街灯に照らされてほのかに白味を帯びている。
良く見ればすぐ隣には少し小さな、けれど背丈は青いのよりも僅かに高い赤みを帯びた紫陽花が並んでいて郁は気付かなかったと目を瞬かせる。

「確かに、その辺に咲いているのより綺麗だな。公園なのに手入れされてるのか・・・?」
「ここはご近所の方々が交代で植木などの世話をされている公園なんだそうです。紫陽花も世話をきちんとされてるんだそうですよ?」
「なるほどな。」
「株を増やす予定で、今はこの2株しかないらしいんですけど・・・。教官、私みたいってどういう意味ですか?」

並んで見た紫陽花はここに来た時よりもずっときれいに見えて、自然と綻んだ顔で思い出したように問いかける。
問いかけられた堂上は一瞬考えたものの、いつの話かを思い出せばああ・・と声を漏らして紫陽花を見つめている郁を見た。

「『元気な女性』という花言葉があるというのを少し前に見かけたんだ。お前みたいだろう?」
「・・・・・そう、ですか?」
「少なくとも、俺はそう思ったが。」
「そう、ですか・・・。じゃあ、小牧教官が言ってた教官みたいっていうのは?」
「・・・・知らん。」

答えを示せば驚いたように振り返った郁の目は真ん丸に見開かれていて、濡れて張り付いた髪を見て無意識に手を伸ばし横に流してやる。
思い出したように上着を脱いで郁にかけてやりながら会話を続けていると続いた問い掛けには一瞬黙り込んだ後、堂上はしらを切った。
暗に堂上をからかって言われた言葉だと知っていて、知らないふりをする。
まだ、開けない、まだ、開いていない、開けてはいけないと堂上は自分の中のジュエルボックスを見ないふりをした。

「ほら、帰るぞ。」

カタカタと揺れ始めるソレに、早々に根を上げるとそれ以上考えなくて良い様に郁に帰寮を促す。
郁もさすがにこれ以上はと思ったのか素直に返事を返してついてくる。
2人並んで歩いて帰る道は行きとは違いとても早かった。
寮についてすぐ、郁は風呂に入るようにと堂上に上官命令を出されていつの間にか堂上から連絡が入っていた柴崎に連行されていった。
堂上はそれを見送りながら小さく息を吐く。
小牧が言った堂上を揶揄した花言葉はきっと『辛抱強い愛情』
それは、上官としてのソレを指しているのか、それとも・・・・。
考えればカタカタと音を立てる胸中の箱に堂上は再び無視を決め込んで自室へと返った。
翌日、案の定熱を出した郁の為にコンビニで買いこんだ見舞い品を柴崎に渡したり、メールをしたりかいがいしい姿を見せる堂上に部隊の誰も何も言わなかったのは頑張った郁へのご褒美である。
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実写映画から図書戦に完全に嵌りました。暢気で妄想大好きな構ってちゃんですのでお暇な方はコメント等頂けると幸い。

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