龍のほこら 嵐 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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こんにちは!台風の影響で朝から肌寒く、外は大雨、皆様のところはいかがでしょうか?
無事に何事もなく過ぎ去ってくれたら良いなぁ、と思いつつ本日は出勤日の為仕事です。

さて、本日の投稿はお題企画『one titles』様に投稿した7月分お題『乱』への投稿作です。
企画サイト様でもご覧になった方も居るかもしれませんが、よろしければ「本編スタート」よりご覧くださいませ。

拍手[57回]





嵐の前の静けさとでもいうのだろうか、郁の査問から間もなく一年が経とうとしている初夏。
堂上が玄田より2週間の出張を言い渡されて出かけた頃からそれは徐々に郁に忍び寄っていた。


「・・・・あと1週間かぁ・・・。」

早朝、図書基地内に点在している花壇の中であまり人に知られていない1つの前に郁は居た。
郁の目の前にある花壇には郁の背を追い越すほどに大きく立派に育った向日葵の花が今か今かと開花の時期を待っている。
きゅっと縮まった花弁たちはまだ青く、ボールのような姿で身の内のエネルギーを溜めこんでいる。

「教官が帰ってくる頃に咲くかなぁ・・・。」

向日葵を見上げて郁はぽつりと呟くと、向日葵を植えるきっかけになった春を思い出す。
この向日葵の種は堂上が郁へと貰ってきた物で、綺麗に咲いたら見せて欲しいと言われて渡されたものだ。
そこに至った理由は、春の陽気に誘われて出かけた散歩で見つけた1つだけ使われていない花壇に郁が興味を示したことにあった。

「きょーかん」
「なんだ・・・。間延びした呼び方するな。」
「教官。あの、ちょっと来てもらえますか?」

その花壇を見つけた翌日、課業の合間の休憩時間に偶々その近くを通りかかったことで花壇の存在を思い出した郁が堂上を誘ってそこに赴いた。
そこで郁がこの花壇で花を咲かせたいと伝えた所、その数日後に花壇の使用許可と向日葵の種を持って堂上が郁に渡してきたのだ。

「ほら、そこの花壇は手入れが届かなくて花が可愛そうだからとしばらく使わないことになったらしい。図書館で切り花として飾れる花を育てるんだったら使って構わんそうだ。」
「え・・・嘘、教官、許可まで取ってくれたんですかっ?!」
「ついでだ、ついで。とりあえず、夏に飾る花が欲しいって言ってたんでうちの母親が患者さんに貰ったらしい向日葵の種貰ってきたから。」
「わっ、す、すみません!何から何まで・・・!!」
「だから、ついでだって言ってるだろ?」

慌てる郁に、苦笑しながらも手を伸ばした堂上がぽんぽんと頭を優しく撫でてくれた。
査問終了後に手塚慧から落とされた爆弾の爪痕はその後しばらく郁の挙動を不審にし、特に堂上からは逃げる形で距離を置いたこともあったけれど漸く色んな整理が出来て落ち着いた所だった。
事情を知る小牧のフォローもあり、辛抱強く待ってくれた堂上は本当に良い上官だと思う、と郁は振り返りながら上手に育った向日葵に目を細める。
堂上の出張が決まってすぐ、ここを見に来て水を一緒にやったのを思い出して柔らかい笑みが自然と零れる。
未だ自覚していない恋心を大事に育てている郁は、傍目から見ると頑なだったつぼみが綻ぶ様に自然で素朴な女性らしさを表し始めている。

「さて、帰ってきた時怒られない様に頑張らないとね!」

しばらく眺めてから時間を思い出しジョウロに汲んできた水を向日葵にたっぷりと上げると寮の自室へと戻って出勤準備を整えた。
いつも通りに出勤すると既に来ていた小牧、手塚から声がかかり郁は挨拶を返して自席へと着く。

「お前・・・。」
「何?あ、遅刻しなくなったとかだったら言わないでよね!!」
「・・・・解ってるのか。」
「やっぱり!!もう、それはとっくに教官に言われた後だから、あんたまで言わないでよプチ堂上!!」

ふと顔を上げた手塚が郁に何かを言おうとしたのを受けて、準備しながら返事を返した郁は何かに気付いたような表情で手塚を見ると先手を打つ。
案の定だったようで、一拍の間を置いてしみじみと言われた言葉に思わず噛みつけば手塚も噛みつき返してきてきゃんきゃんと言い合いが始まる。
事務所内ではその様子も末っ子たちの可愛いじゃれ合いとして先輩隊員たちに楽しまれているのだが、課業が開始する時間になり小牧が間に入るとピタリと止んで2人はそのまま仕事へと意識を切り替えた。
その日の昼休み、郁は一人食堂で昼食を取っていた。

「んー・・・・柴崎とも時間合わなかったのは残念だったな~。」

ご飯を食べつつぼそりと呟いた郁は、近づいてくる人影に気付いて顔を上げた。
見れば最近、堂上が不在になったこの1週間で度々隣の席に座ってくる男子隊員で郁が軽く首を傾げると隣の席に座っていいか聞かれて郁は頷いた。
最近、郁自身は気付いていないが特に査問後の囮捜査からこっち郁の人気は跳ね上がっており男子隊員たちから人気が鰻登りになり要らぬ輩が郁にちょっかいを掛けようとうろちょろとしていた。
普段はよからぬ輩は堂上が番犬となり払っていたが先週から堂上は出張中の為、ここぞとばかりに男性隊員が群がろうとしていた。
もちろん、良い噂のない者や素行の良いと言えない者は柴崎や小牧が知る範囲で早々に特殊部隊の他隊員たちも乗り出して払い落としては居たのだが、この男性隊員に至ってはそんな網を潜り抜けれる品行方正で柴崎も郁が嫌がらない限り黙認していた。

「今日は一人なんだね。」
「あ、はい。皆用事だったみたいで。」
「そっか、もうちょっと早く知ってたら最初から誘ったんだけど。」
「え?」

トレーを置き、席に着いた男性隊員が声を掛けてきてぼんやりしていた郁は慌ててそちらに意識を向けると返事を返す。
思わず聞き返した郁にその男性隊員は俺も一人だったからと笑って言い、郁はなるほどと納得したのかタイミング悪かったですねと笑って返した。
1週間、欠かさず郁に声を掛けていた男性隊員は覚えの悪い郁でもその物腰の柔らかさも手伝って顔を覚えるようになっていた。
お昼ご飯に食堂で会った時に郁が一人、または柴崎と一緒の時は相席をしたり堂上班でいる時は挨拶をしてくれるので返したりしていた。
堂上班でいる時に初めて声を掛けられたときにはさすがに小牧に聞かれたものだが、郁自身はそれほど深く考えていなかった上にその頃は顔をしっかりと覚えていたわけでもないので素直にそれを伝えていた。
小牧は何かを考えているそぶりではあったが、郁の方はそれに気付かずに物珍しいか柴崎狙いなのだろうと思っていたのだ。

「そういえば、笠原さんって王子様を探してるんだよね?」
「あ・・・えーっと・・・その・・・。」
「俺、知ってるんだけど教えてあげようか?」
「え・・・?いえ、でも・・・。」

その日は朝から物思いにふけることが多かった郁は突然の男子隊員の言葉にしどろもどろになって上手く返事を返せなくなった。
知ってますとも教えてくださいとも言えない状況になっている郁に気付いていないのか、調子づいたらしい男子隊員はさらに言葉を重ねていく。
郁は助けを求めて視線を彷徨わせるがあいにくと助けを求めれそうな知り合いはどこにもいなかった。

「それでさ、その人に会わせてあげるから今週どこかで・・・。」
「あ、あの!!すみません、私忘れ物したのを思い出したので失礼します!」

今までそんなそぶりを見せていなかった男性隊員の突然の豹変に怯えた郁は、にじり寄ってきそうな雰囲気に慌てて少し大きめの声を上げるとまだ少しごはんが残っている食器が乗ったトレーを手に席を立った。
追いすがろうとした男性隊員を自慢の瞬発力で躱してトレーを返すと食堂を凄いスピードで出て行った。
そんな郁の後姿を見てチッと舌打ちをした男性隊員に気付かないまま、郁は出てきた勢いのまま最近の隠れ家となりつつある向日葵の花壇まで出て来ていた。

「はぁ・・・吃驚した。なんで、急に・・・。」

今までの1週間、そんなそぶりは1度も見せなかった男性隊員の様子を思い出し眉を顰める。
今の郁は手塚慧の地味な意地悪により王子様の正体を知っているし、王子様に伴う自分の行動がどういう噂になってどう本人に巡っていたかもうっすらと理解し始めていた。
自分自身が発した言葉で傷つけただろうことも、それでも自分を守ろうとしてくれる上官に尊敬の念を抱いていることも自覚している。
それ以上の感情があるのかどうかはまだまだ混乱を抜け出せていない頭では把握することは出来ず、小牧からも本人を見てやってと言われただけですぐに答えを出せと言われたことではないので大切に考えている。
漸く少しだけ心の整理がついたのに、なぜ今またそれを引っ掻き回そうとする人が居るのか郁には理解出来ず花壇の淵に座るとアラームをかけて顔を伏せた。
その日はそれ以降一人で居ない様に気を付けていたので話しかけられることはなかったが姿を見かける度チクリと刺さる視線に気づいて僅かに身震いする。
何かに気付いたような小牧の問いかける視線には説明のしようがなく首を振って応えるにとどまっていた。
それから毎日、郁は一人になる隙を狙うように声を掛けられるようになり、郁はとにかく一人で行動することを極力避けるようになっていた。
まるで査問の時のような郁の様子に心配した柴崎が声を掛け事情を聞かれた翌日、郁はどうしても一人にならざるを得ない状況になり向日葵の花壇へと身を隠しているところだった。

「はぁ・・・。」

郁はコンビニの袋を手に花壇の淵に座って深いため息を吐いた。
2度目に男性隊員が声を掛けてきたとき、初めてその話題を出された時と同じことを言われて郁ははっきりとお断りした。
もう知ってしまったせいもあるがそれ以外にも追いかけたい背中をもう1つ見つけ、王子様に会うのはその背中に追いついた時と決めていたから。
そう思ってお断りしたのに、その答えを聞いた途端に男性隊員の目の色が変わり何故か強硬に王子様に会わせるという主張を繰り返されてその時は無理やり振り払って逃げてきた。
それ以後は決して一人にならないようにと気を付けていたにも関わらず、今日に限って一人になってしまい困り果てて人に会わない様に気を付けながらコンビニに行きこの花壇までたどり着いた。

「・・・・どうしよう。」

どうしたら良いのか判らず途方に暮れた郁は、午後の業務もあるからと一先ず空腹の胃袋に食べ物を詰め込む作業に専念することにしてコンビニの袋を開けた。
おにぎりを1つ取り出して頬張ると空腹を満たされる感覚に自然と笑顔が浮かぶ。

「ん~・・・・とりあえず、見つからないように事務所に戻れば午後は事務仕事だか・・・ら・・・。」

また1つおにぎりを取り出して開けようとしながら午後までの躱し方を考えていると建物の影から人影が近づいてくるのが見えて郁は手を止めた。
一瞬堂上が早く仕事が上がって戻って来たのかと思ったが午前中にそんな連絡はなかったと思い直して警戒して立ち上がると、姿を現したのは最近避けていた男性隊員だった。
どこか思いつめた目をしながら郁を見つめ、口角を上げて嫌な笑い方をしながら郁の正面に逃げ道を塞ぐように立たれて郁はしまったと内心思いながらも出来る限り無表情を作って男性隊員を見た。

「何か御用ですか?」
「そろそろ気が変わるんじゃないかと思って。」
「気が変わるも何もこの間から仰ってる事ならお会いするつもりはありません。」
「どうして?」
「それは、私が聞きたいです。なぜ、貴方がそこまでこだわるんですか?」

男性隊員の隙を伺い、その場を逃げ出す方法を模索しながら郁は慎重に言葉を返す。
しかし、男性隊員は防衛部に所属しており以前の雑談の中柔道が黒帯だと言っていたのも伊達じゃないようで隙なくそこにたたずみ郁を値踏みしている様に上から下へと視線を這わせている。
そのことに郁はフルリと身体を震わせ表情を曇らせる。

「そうだね・・・なんでだろうね。最初はただの興味本位だったんだよ。あの堂上がご執心の女がどんな子なのか気になってね。いつもは堂上が常に見張っているような状態でなかなか近づけなくてねぇ。」
「・・・・堂上教官?なんで?」
「堂上や小牧には歯牙にもかけられたことはないけどね、ずっと妬ましかったんだよ。堂上なんて査問まで受けたのに今やエリートコース、同期の誉れだ。俺だって同じように努力しているはずなのにおかしいだろう?」
「そんなこと・・・。」

目を眇めて郁を見やり、口角を上げたその男性隊員の顔は浅ましいまでに凶悪で自分の欲に濡れた表情だった。
そんな表情をうすら寒く感じながらも語られる言葉に自分がいかに堂上や特殊部隊の面々に大事にされているかを再認識させられてくすぐったさも感じる。
しかし、今はそれに頬を緩める時ではないと内心で自分を諌めながらじりじりと花壇を背に横へと移動を始める。
男性隊員も郁の動きに合わせて正面から外れないようにじりじりと横に動く。
郁の目的は花壇から離れることであって、午後の課業が始まっても来なければ必ず小牧たちが探しに来てくれると信じているため出来る限りの時間稼ぎをしようと男性隊員との間合いを計っていた。

***

その頃、事務室では郁のここ1週間の不思議な行動と柴崎が得た情報より男性隊員についての身元調査が行われていた。

「堂上教官にひそかに妬みを持っている人物だったようです。堂上教官自身が自覚していたかは判りませんが、初の女性隊員であり堂上教官が目をかけている隊員ということで以前より笠原に興味を持っていたとのことですが・・・。」
「恋愛感情云々という可能性は?」
「ないですね、彼女が居るらしくつい最近結婚を申し込んだという話を同僚である方にお聞きしました。それに、私が居る時に声を掛けてきた時もそんな感情みじんも見せませんでしたから。まぁ、何か言いたそうではありましたが・・・。」
「そう。」

会議室で堂上班と副隊長の緒形、それに調べてきた柴崎が情報を交換していた。
本来なら郁を呼ぶべきなのかもしれないが、本人には情報を与えると逆に暴走しそうだからという意味で召集がかけられなかったのである。
しかし、それが仇になったことに気付くには全員がその男性隊員の情報を持って居なさすぎた。

「とりあえず、一人になるのを嫌がっている様なので極力一緒に行動しようとは思っています。」
「そうだな、それで様子を見るか・・・。」

小牧が最後を締めくくり、緒形が同意したところで解散となり柴崎は自分の業務に、小牧と手塚、それに緒形が事務所に戻ると出張から戻ったらしい堂上が眉間に皺を寄せて事務室の入口で立っていた。

「あれ?堂上、おかえり。早かったね。」
「ああ・・・今日の分の業務が昨日に繰り上がって早めに終わったんで書類だけ提出して帰ってきたんだが・・・もう業務始まっているだろう?何やってたんだ。笠原は?」
「え・・・笠原さんまだ戻ってきてないの?」
「・・・・もしかして、まずいかもしれんな。堂上が居る間は近づけなかったなら、堂上の出張期間を最初に聞き出されていたら・・・。」

堂上が戻ってきた小牧と手塚の姿を見て事務室に居ない郁も一緒だろうと思っていたのに姿がないことを訝しんで尋ねると、小牧が目を見開いて事務室を見渡した。
確かに姿がないことを確認すると緒形を見て、その言葉に頷きながら堂上を見た。

「実は・・・・。」

何だ、と苛立つ堂上に小牧が手身近に事情を話すと堂上は弾かれたように事務所を飛び出して真っ直ぐに走り出した。
その後を小牧と手塚が慌てて追いかけていくが、堂上はそれを気にかけることなくますますスピードを上げて走っていく。

「ど、堂上・・・・どんだけ・・・・。」

そのスピードたるや、小牧は上戸に入りそうなのを堪えてそれだけ言うと今は郁のピンチだからと堂上の姿を追いかける。
手塚は堂上の様子と先ほどの話し合いでさすがに郁が危険だと解っているため追い付こうとスピードを上げる。
堂上が真っ直ぐに向かったのはまだ誰にも話していないし、ここは滅多に人が来ない穴場だからと郁が言っていたあの花壇の場所だった。
綺麗に咲いたら一番に見せますね、と笑っていた郁があの場所の話を誰かにしているとは思えず隠れるならその場所だろうと踏んだのだ。

「笠原!!」
「堂上教官っ!!」

そして、堂上がその場に辿り着いた時、その予想が当たったのと同時に郁は問題の男性隊員だと思われる男に無理やり捕まえられるところだった。

***

郁はじりじりと横にずれながら間合いをはかっていた。
隙さえあれば横をすり抜けることも可能かもしれないとも思いながら、背後の花壇が途切れるところまで横にずれると再び男性隊員と向き合っていた。

「誰も来ないよ?ここ、誰も知らないんでしょ?」
「・・・・なんでソレ・・・。」
「ここを貸してほしいって堂上が相談しに来た時に丁度俺も居たんだよね。偶々そこにはその上司と俺以外に居なくて、堂上は別に黙っててくれとは言ってなかったんだけど笠原さん絡みだったから相談を受けた上司も笑って誰にも言わないことにしたんだよ。使える花が育ったら改めて言うってことでね。」

だから、今この場所を君が使っていることを知ってるのは堂上とその上司と俺だけなんだよと下卑た笑みを浮かべ始めた男性隊員がじりじりと間合いを詰めてくるのに気付いて郁は無意識に後ずさる。
トンっと背中に壁が当たって郁は追い詰められたことに顔を顰めるが決して男性隊員に屈することなく睨みつける。
その様子に楽しげな表情で迫ってきた男性隊員は一瞬の隙で逃げようとした郁を易々と捕まえると壁に押さえつけた。

「捕まえた・・・さて、王子様のことは知りたくない、俺と食事には行きたくない、どうやったら君を手に入れて堂上をあっと言わせられるのかな?」

ねぇ?と澱んだ目で覗き込まれて郁は嫌悪を露わに睨み返す。
顔が近づいてきてそれに抵抗しようと足を振り上げかけた時、名前を呼ばれて男性隊員の背後に視線を向けた郁はその声の持ち主をそこに見つけて思い切り叫んだ。
男性隊員はその声と郁の呼ぶ名前を聞いて顔を歪めると郁を羽交い絞めにしながら後ろを振り返った。
郁がもがき、逃げようとする間に小牧と手塚も堂上に追いついてその場に居合わせる。

「これはこれは、堂上、今日まで出張だったんじゃないのかい?」
「・・・・・笠原を離せ。」
「冗談、漸くここまで追い詰めたのに。良いね、その顔・・・。」
「何のためにそんなことしてるんだ。」
「さー?お前には解らないよ、どれだけ努力を重ねてもお前と比べられるどころか隊員の底辺から出ることも出来ない俺の気持ちなんてね。」

同じ図書大卒のはずなのに、5年経っても三正のまま上がることがない男性隊員の澱んだ妬みの矛先にされていることに堂上は愚かその場に居合わせた全員が顔を顰める。
郁に至っては怒りに震えているのか身体を震わせて顔を俯かせていた。

「階級なんぞくそくらえだろうが、同じ本を守る同志として入隊したんじゃないのか?」
「はん、そんな綺麗ごと言えるなんてまだまだ青いね、堂上君は。ああ、それとも俺より階級が上になって順調にご活躍されているからのお言葉かなぁ?」
「・・・・いったい何がしたいんだ。」
「んー・・・・お前の大事な大事な子をめちゃくちゃにして、お前が苦痛に顔を歪める様を拝みたいんだよ。そうしたらすっきりするんだ。」

そのはずなんだ、とまるで自分にも言い聞かせるように言う男性隊員は常軌を逸しており精神を病んでいるとしか思えない表情で喉を鳴らして笑いながら告げられる言葉に困惑を露わにする小牧、手塚、そして怒りを露わにする堂上。
そして、堂上が何かを言おうとした時それまで俯いて震えていた郁が思いっきり頭を上げて斜め上にあった男の顎に頭突きをかました。
ゴッと凄い音がして、唖然とした堂上班の男性陣を余所に郁はその痛さに羽交い絞めにしていた郁を手放して蹲る男性隊員を睨みつける。

「ふざけるなっ!!!階級が何だ!本を守るのに上も下もないのに、階級が上がらない?!階級があがんなきゃあんたの本を守ろうって意志がなくなるって言うならさっさと図書隊辞めちまえっ!!!堂上教官は階級や身分なんて本を守る時にそんなこと考えてないわ!!!たとえ自分より下の階級の人だって尊敬できるところがあればそれを尊重してちゃんと見てるんだからっ!!!」

本をないがしろにされ、剰え尊敬する上官である堂上も馬鹿にされたと怒り心頭の郁はまとまらない頭の中で思い浮かんだ言葉をぶちまけるとふー、ふーっと息を切らして興奮しすぎたのか涙を零しながらふざけるなっ!と繰り返してる。
あっけにとられていた堂上たちで一番最初に復活したのはやはり堂上で、悔しいっ!!と全身で怒り狂う郁に毒気を抜かれて苦笑を浮かべるとそっと近づいて少しだけ自分より上にある頭に手を伸ばしぽんぽんと撫で叩いた。
そこで漸く正気に戻ったのか、ビクリと肩を揺らした郁にもう一度頭を撫で叩き、肩を諌めるように叩いて堂上はそっと自分の後ろに庇った。

「お前が昇級しないのは確保の実績よりもそういう事件が発生した時に一番早く一般人の保護に立ち回っているからだろう。確保した方が点数が上がるから防衛員なら犯人を追いかける方を優先する奴が多いのにもかかわらず、だ。」
「・・・・・。」
「上司だってその辺は見てて、近々推薦する予定でいると言っていた。なんで悲観したのかは知らんが、見てる奴は見てる。」
「・・・・・・なんで・・・。」

郁の頭突きから復活した男性隊員は、がくりと肩を落とした。
最終的には郁の温情によりこの事件は不問とされたが、後から柴崎が調べてきた情報によると男性隊員は丁度郁に王子様の話を持ちかけた前日プロポーズした彼女と大喧嘩の末破局したらしい。
しかも、その時に彼女が図書館で偶然レファレンスしてくれたという堂上を論っての別れの言葉だったことが男性隊員の劣情に火を点けたらしいということだった。
もっと言えば、マリッジブルーに陥っていた彼女は友人に相談したことで正気に戻り言い過ぎたと後悔して男性隊員に連絡を取って良いのかと迷っていてその最中のことだったとのこと。
最終的には郁の頭突きと堂上の言葉で憑き物が落ちた男性隊員に彼女から連絡が入り元のさやに納まったとのことで郁は良かったと笑顔で祝辞を述べていたのだが。

「ほーんと、笠原ってお人よしよねぇ・・・。」
「何がよ・・・。」
「あんなことされたのにさー。」
「だって、最初の1週間はほんとにいい人だったしさぁ・・・。」

別に怪我させられたわけでも何かされたわけでもなかったしぃ~と、気のない返事を返す郁に柴崎は苦笑を浮かべる。
喉元を過ぎてしまえば与えられた痛みすら許容してしまえるこの懐の大きさは郁の利点だわね、と一人内心で語ちりながら不穏な空気を漂わせて起こりかけた嵐が過ぎ去ったことに柴崎はほっとした。
同じころ、堂上の部屋でビールを持参した小牧と連れてこられた手塚で部屋飲みが開かれており話題に上っていた。

「良かったね、堂上。笠原さんが・・・・ぶふっ・・・・お・・・・お・・・じ・・・・くくっ、あははははっ!!」
「うるっさいっ!!!笑うだけならさっさと出てけっ!!」
「小牧二正・・・?」

小牧が上戸に入りながら、王子様を紹介されなくて良かったねと必死に言おうとしているのを堂上が蹴りつけて部屋から追い出そうとしていた。
手塚は2人の会話に入り込めず、オロオロと見守ってるのみだ。

「それにしても、笠原もあそこで頭突きするとは思いもしませんでした。」
「まぁ、それはな・・・・しかし、だからこそあいつは特殊部隊でもなじめるんだろ。」
「それはそうですね。とてもじゃないですけど、俺は女には見えません。」
「・・・・・。」
「ぶふっ・・・・。」

収まりかけた上戸を手塚の一言で復活させて瀕死になる小牧と、同意も出来ず困惑した表情で視線を逸らしてビールを煽る堂上に不思議そうに首を傾げた手塚は堂上に勧められるままに酒を煽って潰された。
床に転がされた手塚にタオルケットを掛けながら上戸の治まった小牧がちらりと堂上を見る。
何を言われるのかとでも思っているのか盛大に眉間に皺の寄った堂上に苦笑しながら小牧は自分の定位置に戻って新しいビールを開けながら言葉を発した。

「ね、堂上。」
「・・・・なんだ。」
「あの種あげたの堂上なんでしょ?」
「・・・・・・だったらなんだ。」
「いやいや、可愛いよねぇ・・・2人共。」

むすっとした表情で、しかし律儀に小牧の問いかけに返事を返す堂上にクスクスと上戸ではない笑みを零しながら小牧は軽くビールを持ち上げる。
無言で堂上に差し出せば片眉を器用に上げて嫌そうな表情を作りながらも、堂上が応えてビールの缶をぶつけてきた。
小牧はそんな堂上に苦笑のような微笑ましさを感じさせるような微妙な笑みを浮かべ、それを隠す様にビールを煽った。

堂上が渡して、郁が大切に育てた向日葵の意味するところは『貴方だけを見つめる』
本人たちがそれを意識しているかはともかくとして、お互いがお互いをしっかりと見据えているのに色んなしがらみだったりプライドだったりが壁になってなかなか視線が合わない二人。
漸く顔を見合わせるタイミングが迫ってきているのかもしれないと思うと、今後が楽しみだと小牧は内心にその感情を隠しながら堂上との他愛ない会話へと戻っていった。
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by NONAME 2014/08/18(Mon)21:41:37 編集
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