龍のほこら 図書戦異聞 ―3話― 忍者ブログ

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図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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こちらはpixivにて公開していた『図書戦異聞』の一部再掲載になります。

お知らせの通り、原作に入って以降のお話については今後公開予定はありません。
ご愛読いただいた皆様、続きをお待ち頂いた皆様には大変申し訳ありません。

オリジナルの導入部分及び番外編については公開しても大丈夫かと思い、こちらにて再掲載いたします。
少しでも楽しんで頂けますと幸いです。
3話目です。

では、『本編はこちら』よりご覧くださいませ。

拍手[4回]





緒形と玄田が基地へ帰還する途中、あと10分ほどで基地に辿り着くというところでソレは起こった。

「うーん・・・・おなか、すいたぁ・・・・。」

しんと静まった車内に、女性の声が響く。緒形と玄田は一瞬何事かと塊、背後から聞こえてきたその声に助手席に居た玄田が振り返り運転席の緒形はバックミラーで背後を覗き込む。
まさか、パーキングで休んでいる間に車に女性が入り込んだのか?と、ありえないことにまで思考が及んだ2人だがしかし背後には人影はない。玄田の視界には後部座席に伏せている犬である郁が1頭しか見当たらない。

「・・・・おう・・じ、さま・・・・私、アナタに・・・」

注意して車内を見渡している2人を前に、もぞりと郁が寝返りを打つように動くのと同時に再び声が漏れた。玄田がそれを注視し、緒形も自分の耳を僅か疑って基地近くの人気がないコインパーキングに車を停めた。

「隊長・・・これは。」

もぞり、寝返りと打つたびに寝言を言っているのは郁でそれは間違いなく人間の言葉を成している。不測に事態に犬を連れて来た玄田を見やり、緒形が問い掛けるように言葉を切ると何かを考え込んだ玄田はじぃっと郁を見ている。

「緒形、こいつは愉快な拾いもんをしたかもしれんぞ。」

暫し、郁を見ていた玄田がニヤリと口元をゆがめて緒形にそう告げると正面を向いて基地への帰還を命じる。緒形はそんな玄田の様子に若干の不安を残しながらも了解しました、と返事を返しコインパーキングを出ると基地へと帰還する。

「おい、わんころ、着いたぞ。」

起きろ、と声を掛けられ頭をがしがしと揺らされたことで飛び起きた郁は周囲を見渡して一体何事かと首を傾げる。そして数瞬で現状を思い出すと頭を玄田へと向けてわんっと吼えて応えた。
促されて車から飛び降りると、そこはだだっ広い土地に倉庫があるような場所で、同じ服を着た人間が車の荷台に積んでいる箱を手分けして運び出しているところだった。
そして運転をしていた人物が何か手続きをしている横で玄田が立ち、郁を手招きした。

「こっちこい、とりあえず、お前をここで飼えるかここの責任者に聞きに行くからな。」

呼ばれて直ぐ、足元に駆け寄っていくと屈んだ玄田が大きな手でがしがし、わしわしと頭を撫でながらそう告げてくる。そしてちゃんと付いてくるんだぞと言う注意と共に立ち上がると手続きが済んだらしい緒形と共に郁の先に立って少し離れた建物へと向かって歩き出した。郁もその後を追って立ち上がると駆け出す。
その辺の人間よりもずっと早い速度は、郁を駆け足にしたが元々のんぎり歩くより走り回るのが好きな郁としては特に問題はなく建物に入って階段を登ったり角を曲がったりする2人にしっかり付いていく。
そして、あるドアの前に辿り着くと緒形が玄田を振り返り、2、3言言葉を交わしてからドアの向こうへと消えていった。

『さっきの人はここに用事なのかな?んーっと・・・』

私はこっちの人に付いていけばいいんだよね?と不思議そうに玄田を見上げた郁に、楽しげな笑みを浮べた玄田がお前はこっちだと手招きをしてさらに建物の中を進んでいく。
そして行き着いたのはエレベーターの前。どうやらこれに乗って上の方だか下の方だかに行くらしいと考えて郁は若干尻込みした。閉所恐怖症の気があって、エレベーターなどの密閉された箱というイメージが拭えない場所というのはどうにも苦手なのだ。
しかし、玄田も居るし犬の姿の自分ならこの箱の中も多少は広いだろうと思いなおすと素直に一緒に乗り込んだ。そしてやってきたのは大きく重そうな木製のドアの前だ。

『なんだか、偉い人が居そうな部屋だなぁ・・・。ここで住めるか聞くって言ってたし、やっぱり偉い人なのかなぁ。』

郁は辿り着いたドアの前で立つ玄田の1歩後ろに座りながらドアを見上げて暢気な思考を展開する。ゴンゴンと少々勢いの強すぎるノックの音が響き、玄田がドアの向こうへと声を掛けてからソレを開けた。
扉の向こうはシンプルに整った部屋で、やはり偉い人らしき人が奥に控えていた。玄田の顔を見ると柔らかい笑みを浮べて待っていましたよ、と声を掛けてきた。

「玄田三監、只今書籍回収を完了して帰還しました。先にご連絡していた件でご相談があります。」

びしっと敬礼をして柔らかい笑みを浮べている偉い人に言葉を返している玄田を見て、ここに自分が居ても良いのかと首を傾げた郁は挨拶が終わってから自分を呼ぶ玄田の手に気付き入り口から玄田の横へと駆け寄る。いつの間にか玄田は偉い人の前へと移動していたのだ。

「稲峰司令、実はうちでこいつを飼いたいと思うんですが。」

横に来てきちんと座った郁を確認して、玄田は早速偉い人、稲峰へと報告を始める。稲峰は静かに玄田の言葉を聞いている。

「こいつは賢いらしく人の言葉を理解します。それと・・・これはまだ確認してないんですが、もしかしたら人の言葉を話すことも出来るかもしれません。」

どこで拾ったかなどを説明していた玄田の最後の言葉にビクリと飛び跳ねた郁は座っていた場所から一目散にドアへと向かうが犬の姿ではソレを開けることは適わず、振り返った玄田に腰を低くして唸り声をあげる。
それが玄田の発言を肯定していることになるとは思いもつかない郁は辿り着いて早々に予想外の危機を感じて全身の毛を逆立てて警戒を示す。
玄田はある程度予想をしていたのか、そんな郁を見ても動じることはなくむしろ楽しげな笑みを浮べている。

『何?どうして?!私、来るかって言われた時にはちゃんと犬になってたよね?!』

パニックになった郁にまともに考えるということは出来ないのか、じりじりと後退していく。緊迫した空気がその室内に満ちたところで稲峰から言葉が発せられた。

「玄田三監、それはこの犬がワイルドハーフである可能性がある・・・ということですか?」

静かな仕草で郁へと視線を向けた稲峰から発せられた言葉に、郁は毛を逆立てていたのも忘れて目を見開く。ワイルドハーフの存在を知っている人間は本当に限られているのだ。自分とて、遠い過去にワイルドハーフを知る犬と逢わなければ自分がそれだとは知らなかったくらいなのに。

「その可能性はあるだろうと思っております。その可能性がなくても、人の言葉を解し、話せる犬というのは我々特殊部隊には非常に有利な存在かと思いましてな。」

玄田も知っている人間の1人なのだろう、稲峰の言葉を肯定してその存在意義を主張しここで飼うことを認めてほしいと再度交渉をしている。
郁は2人のやり取りを呆然と見つめ、その展開に付いていけないとその場にへたり混むように座り込んだ。
そんな郁を視界に入れたからか、稲峰が僅か考えるそぶりをしてから郁へと視線を戻して口を開いた。

「私にも、猫のワイルドハーフの友人が居ます。私には娘、いや・・・孫のような存在ではありますが。彼女の存在を知っていますから、アナタの存在を否定しようとは思いません。もし、私を信用してもらえるのでしたらお名前を教えていただけますか?」

犬に対して、そこまで馬鹿丁寧に・・・と言わそうなほどに対等に扱ってくれるその言葉と音の柔らかさ。そしてどこまでも落ち着いた心の色を嗅ぎ取った郁は少し迷ってからおずおずと玄田の横まで戻ると稲峰を見上げて言葉を返す。

「わ・・・私、笠原郁です。その・・・私、5年前に関東図書隊の人に助けてもらってその人にどうしても逢いたくてここに来たんです!」

笠原の家で過ごした年月よりも、自分を突き動かした感情を吐露した郁はそのままの勢いで今度は稲峰にだからここに置いてください!なんでもします!!と拝むように言い深く頭を垂れた。
稲峰も玄田もその様子を見て僅かに考える。5年前、図書隊である騒ぎが持ち上がり査問が行われた。それは1人の隊員が勝手に行った見計らい図書の執行についてだったが・・・。
深く頭を下げている郁は気付かなかったが、何か面白いモノを見るような顔になった玄田と思案する稲峰は1度視線を交わして頷きあうと稲峰から郁へと声を掛ける。

「笠原さん、ですね。その隊員が誰かは判りませんが、ここに居てもらうのは構いません。アナタはこの玄田三監が隊長を務める特殊部隊に所属するという形をとらせていただきます。住まいは私の友人のワイルドハーフに同室を依頼しましょう。」

彼女もこの図書隊に今年から入ってもらうことになったんですよ。犬の姿のままでは何かと不便もあるでしょうが、帰る場所がないなら滞在するにもその為の部屋など入用でしょうからね、と言うとがばっと顔を挙げた郁がありがとうございます!!と叫ぶ。
そして今後の話をいくつかすると玄田に連れられて郁は緒形が消えていった扉の前に戻って来ていた。
扉の前で一度立ち止まった玄田が郁へと声をかける。

「笠原、とりあえずこの部隊で飼うことになったっていうのと言葉が話せるっていうのは伝えるぞ。」

玄田が告げた内容にビクリと肩が揺れる。また、化け物と罵られるのだろうか・・・ここまできて、自分が異質であることを強調されるのは正直なところ非常に苦しいものがある。しかし、言わなければうっかり声を出してしまった時にどうしようもならない。

「判りました。」

逡巡してから、僅か緊張した面持ちで頷く郁に玄田は褒めるようにその頭を大きな手でなでてから扉を開けた。

「おう、今戻ったぞ!それと、新しい仲間を連れて来た。世話は堂上班に一任するから、しっかり面倒みろよ!」

開けて直ぐ、大声で叫んだ玄田は隊員を全員集めると屈んで横に居た郁を前にと押し出す。隊員たちはその小さな新隊員に何事かと注視し、玄田の次の言葉を待っている。

「笠原郁、見たとおり犬だが人間の言葉を喋る。これから色々使えるだろうからしっかり訓練つけてやれよ、堂上!」

郁を紹介した玄田は、がはは、と豪快な笑いと共に立ち上がって呼びつけた堂上という人物の頭をかいぐると後は任せたと緒形に言い残して隊長室へと入っていく。
置いていかれた郁としては、大きくて強面が多い隊員たちに囲まれて見下ろされてビクビクとしながらも堂上を見上げてみる。
逆光にその顔を見ることが出来なかったがどこか見覚えがある気がして僅かに首を傾げるが聞こえてきたほか隊員たちの声に毛が逆立った。

「隊長、犬が喋るなんてあるわけ無いのに何言ってんだか。喋ったらそいつは犬じゃないだろう。」

化け物だよ、化け物。と軽口を言う隊員の言葉にぐっと奥歯を噛んだ郁はあげていた顔が下がっていくのを感じる。自分だって好きでその化け物に生まれてきたわけじゃあないのに、そう言いたくてもそれすらも口にすることが出来なくてじっと床を見つめる。

「ま、犬飼うのは決定事項なんだろうけどな、世話頑張れ。」

隊長の命令は絶対だからな!と豪快に笑った隊員たちが指名された堂上の肩を代わる代わる叩いて自分たちの仕事に戻っていくのを見送って堂上はその場に屈むとぽんっと郁の頭に手を置いた。
その手に郁が顔をあげると、眉間に皺が寄った表情でけれどくしゃりと玄田よりよっぽど優しいなで方で頭をなでられて手が離れていった。

「良く判らんが、この部隊で飼うってことならきっちり訓練してやる。ちゃんと覚えろよ。」

堂上の内心は良く判らないモノの、掛けられた言葉に応えるようにわんっと一声鳴くと堂上はふっと笑みを見せてから直ぐに仏頂面に戻って自分の席へと戻っていった。
自分が言葉を話せるかどうかなどは確認しなかったが、それは信じたのかどうか判らないわけで暫くは注意しないとダメだと自分に言い聞かせた郁はひとまずどうしたら良いのだろうかと首を傾げる。
ぐるりと室内を見渡し1段高いところに居る緒形を見つけると、緒形は苦笑を浮かべて郁を見て軽く手を挙げていた。
けれど、どうしろという指示はない。自分の居場所を考えあぐねていると堂上が声を挙げた。

「こっち来い!明日にはお前の定位置作ってやるから、とりあえず今日はここにいろ!」

時刻は夕暮れ、あと数刻もすればここも定時というものを迎えるのだろう。呼ばれて駆け寄った郁は堂上に示された場所に腰を落ち着けると伏せる体勢になってその部屋を見た。明日は明日、まずは寝床を確保できただけよしとしようと常日頃のポジティブさで自分を納得させると自分の部屋となる場所に案内されるまで堂上に示された場所で時間を過ごすことにした。
それからふと、図書館に犬が常駐して良いのか・・・などという一般的なことに思考が働くのは部屋に案内されて稲峰の友人だという猫のワイルドハーフに逢ってからになるのだが。
それはまた、違う話である。
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職業:サボり癖のある事務員
趣味:読書・昼寝・ネットサーフィン
一言:
実写映画から図書戦に完全に嵌りました。暢気で妄想大好きな構ってちゃんですのでお暇な方はコメント等頂けると幸い。

★ 別ジャンルのHP&ブログあり
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BLOG:the vernal sunshine
取扱1:最/遊/記(夢・BLCP小説)
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