龍のほこら 明日という日 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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おはようございます!
先行予約頂いた方には全員に発送が終わりました!
この土日に追加通販の方も……!と思っていたんですが、父親に付き合って映画に行って……ダウンしましたorz
3Dでもないのに座席が近すぎたせいで画面に酔い、挙句眩暈予備軍なんで発症しかけて昨日1日寝込んでました、申し訳ない……|||orz

しかし、寝込んだおかげで今日は復活しているので、夜から発送作業しますので今週中に第一陣発送が出来るはずです。
また発送しましたら追跡番号と共にご連絡差し上げますので今しばらくお待ちくださいませ。

さて、本日はお題企画『one titles』様に投稿させて頂いた10月分お題「あした」を公開いたします。
one titles』様は今月いっぱいで公開を終了されるとのことですので、素敵作品をまだご覧になっていない方は是非ご訪問下さいませ。

それでは、宜しければ「本編スタート」よりご覧くださいませ。
なお、冒頭の年数が間違ってるかもしれないんですがそういう設定にしたと見なして見逃してくださいね?←


拍手[55回]



十年前の十月四日、燻っていた私の中にやっとはっきり道が見えた。
それまでは中学、高校と培ってきた陸上の足を実業団にと請われていたが郁にとってそれは自分の望む物ではないと感じていた。
ただ、それ以外に自分が母親から逃げ出せる手段が見つからないから、それに縋っていたに過ぎない。
けれどあの日、そんな郁の中の迷いや困惑を打ち消す様に現れた男性は鮮烈な印象だけを残して立ち去った。
それが、始まり。

「明日こそ! って叫んで家飛び出してった日には、何事かと思ったけどなぁ……」
「もう! それは忘れてって言ったじゃないっ!!」
「だってよぉ、帰ってきてずーっとぼんやりとしてたのに、唐突にしまったー!! って叫びだすとかなぁ」

心配するだろ?と、三人の兄に囲まれてわしわしと犬の様に撫で繰り回されたり技を掛けられている郁を苦笑の態で見ているのは堂上だ。
郁が同棲を提案して、堂上が迂闊にも最大級の要らんこと言いを発したがために勃発した冷戦は二人の心の中にそれなりの傷を残した。
同時に、どうやってもお互いしかいないことも再認識して郁からの歩み寄りで仲直りのデートをした日。
郁にとってはとても忘れられない日、忘れたくない大切な日になって人生二度目の転機を迎えた。
それからは、両家の両親に挨拶だ、顔合わせだ、式場の段取りだと堂上がその優秀さを遺憾なく発揮して最短の日取りで式を済ませる運びとなった。
今日はその結婚式の前日で、笠原家は一足先に出て来てホテルで一泊後、式を終えてから帰宅することになり兄妹も勢ぞろいしたのだ。
郁は、堂上に家族と過ごす夜も大事だと促されて、じゃあ食事だけと頷いてこの場に来ていた。
前日だが、通常通りに仕事に入っていた郁が食事に間に合うのは夜だけで、両親、兄弟が泊まるホテルは新宿にあるため堂上が送ってきたというわけだ。

「すまないね、篤君」
「いえ、俺は構いません」
「そう言って貰えると助かるよ。あの子たちは寄ると触るとあんな風に賑やかでね」

少し離れた場所で郁たち兄妹のやりとりを見ている堂上の傍に、郁の父親である克宏がそっと近づいて声をかける。
式の為の何度かのやりとりですっかりと打ち解けたのか堂上も気負うことなく請け負って、二人で兄妹を見る。
明日、郁は笠原から堂上へと姓を変え、二人で新しい道を歩き始める。
郁は見られているのに気付いて堂上の方を振り向くと、ふわりと柔らかく女性らしい笑みを浮かべて堂上に手を振る。
堂上が微笑んで答えてくれるのを見て、きゅっと首を竦めて嬉しそうにはにかむと途端に兄たちにもみくしゃにされてしまった。
郁はそれに反抗して、どうにか脱出するともぅ! と口を尖らせながら堂上の元へ戻った。
堂上は克宏と談笑していて郁が戻ってきたのに気付くと笑って迎えてくれた。

「お疲れ、もう良いのか?」
「もういいよ、大兄ちゃん以外酷いんだもん!」

声を掛けられて、もみくちゃにされたことで乱れた髪を手櫛で直そうと自分の頭上に持ち上げながら答える。
すると、そうかと笑った堂上が郁の手を止めて自分の手で撫で梳いて乱れた髪を直してくれるのが気持ち良く、目を細めて大人しくしてしまうと横からの視線に気づく。
はたと我に返って横を見れば父である克宏と母である寿子が堂上とのやりとりを微笑ましげに見ていた。

「えっ? わっ、ちょっ! お父さんもお母さんもそんなとこで見てないでよ!」
「いやいやいや、お前がそんな風にしてるのを見るのは久しぶりだからな」
「そうね、本当に……」

両親に見られて恥ずかしいと顔を紅くして慌てだす郁に、開き直ったのか平然と笑っている堂上。
何故か涙を溜め始めた寿子に克宏が苦笑しながら肩を抱き寄せる。
郁はそんな両親の姿を見てわたわたと手を振っていたのをピタリと止めると両親と堂上を見比べてから、そっと堂上の手を握る。
堂上も微笑んでその手に指を絡めて握ってくれるのが嬉しくて、郁の顔は満面の笑みだ。
少しだけ照れが混じって頬が色濃く染まっている自覚はあるがそれも無視するに限る、と気づかないふりで郁は改めて両親を見る。
寿子とは堂上と訪れた挨拶の日、郁の姿を見て言葉を失ってから少しずつだが歩み寄っている。
まだ二人で話すにはぎこちないがこうして家族そろって、堂上が隣にいる時は以前の様にささくれ立つことはない。

「お父さん、お母さん、今日はありがとう。兄ちゃんたちも!」
「お前、俺らはついでかよ……」
「まぁまぁ、仕方ないよ。あんだけ掻き回せばな」
「大兄まで……」

改めて、堂上と並んで家族と向かい合う郁は晴れ晴れとした気持ちで誇らしげに笑みを浮かべる。
両親への挨拶は披露宴の時に手紙を用意しているが、郁にはどうしても言いたいことがあった。
皆の前ではなく、今、この時に、家族と堂上の前で……。

「私、篤さんに会うまでこんな自分が大っ嫌いだった。どんなに頑張ってもお母さんが望む様な可愛い女の子にはなってあげられなくて、だからいつも泣かせてしまって。お母さんが好きだったから、好きになって貰えない自分が嫌で、それを当たっちゃう自分も嫌で、お母さんの傍に居たくなかった」
「郁……」
「偶々、走るのが好きで、それが人より出来ることだったから逃げるための手段にして、高校も、大学も、卒業後も実業団とかで走ってるのかなって漠然と思ってた。でもね? 本当は、自分が自分でいても良い場所が欲しかった。お母さんにも、こうやって胸張っていられる私が欲しかった」

郁は向かい合った両親と兄たちを見てから、すっと足元に視線を落とすとぽつりぽつりと話し始める。
両親へ、こうして素直に胸の内を話すことは初めてだ。
寿子よりも歩み寄っている克宏にだって言ったことはないことで、隣に並んで郁を見てくれる堂上に僅かに口元だけで笑って返してきゅっと絡めた指に力を込める。

「篤さんに出会って、図書隊を知って、もちろん悩んだよ? 追いかけることもだけど、これが本当に私のやりたいことなのか。でも、本が好きで、走ることしか能がないけどそれが役立って、自分らしく走っていられる場所じゃないかって飛び込んだ世界なの」

一つ深呼吸して顔を上げた郁は、堂上が出会った時に一目で恋に堕ちた凛とした背中を持つ女性そのままで、変わらない姿に堂上が目を細めるのが視界の端に見えた。
まっすぐに両親を見て、言えなかったけど伝えたかったことを言葉を探しながら告げる。

「私、今すごく幸せなの。明日、私は笠原郁じゃなくなって、堂上郁になるけど絶対に後悔だけはしないと思う。だから、許してくれてありがとう。これからも、よろしくお願いします」

挨拶に行った日、両親にありがとうもよろしくお願いしますも言えなかった。
まだ頑ななままだった寿子に、郁も歩み寄ることが出来ずに克宏の促すまま黙って頭だけを下げて寮に帰った。
許しは貰えたけれどずっとわだかまっていたことを、どうしても『笠原郁』の間に両親に伝えたかった。
郁が母親と上手くいかずに泣いていた時も、なんだかんだでずっと傍に居てくれた兄たちに伝えたかった。
自分が、自分であれる場所の幸せと、それを受け止めてくれる人の存在の誇らしさが自分を少しだけ変えてくれたことを。
郁のその様子に、眩しそうに眼を細めた克宏と本格的に泣きだしてしまった寿子、その二人を支えるように良かったな、と言いたげに微笑む兄三人。
郁が家族に深く頭を下げると、堂上も一緒に頭を下げてくれた。
顔を上げると、皆笑っていて郁は心からほっとした息を吐きながらいつからか両親には見せれなくなった、郁本来の笑みを浮かべた。

「じゃあ、今日は帰るね! どうしても、今夜は柴崎と居たいんだ」
「ああ、わかってるよ。また明日、式場でな」
「寝坊、しないのよ」

寿子の言葉に、笑っていた顔が膨れっ面になると周りがわっと笑い出す。
それに釣られて郁も笑いだすと、もう一度、今度はおやすみなさいと告げて堂上と二人で両親が泊まるホテルを後にした。
帰り道、最寄である武蔵境駅で降りて寮までの道をゆっくり歩きながら郁は堂上の肩に頭を預ける。
堂上がどうした? という風に郁の方へ視線を向けるのを感じながら、きゅっと絡めたまま解かれることのない指に力を入れる。

「あのね、今日、ありがとう」
「……どういたしまして、だ」
「ほんとはね、お正月に実家に帰った時に言いたかったの。でも、お母さんがあんなだったし、篤さんにも申し訳なくて……」
「気にしてたのか」
「ちょっとだけ……」

すりっと頬を摺り寄せると、くいっと手を引かれて堂上が一歩先を歩いていつもデートの終わりに立ち寄る公園に引っ張り込まれる。
外灯の灯りを避けた人気のない場所でくるりと振り返った堂上が、急な動きに止まれなかった郁を抱き留めてぎゅっと強く抱きしめる。

「篤さん?」
「俺も……俺のままを受け入れてくれるのがお前で良かった」
「……っ」

ぎゅっと抱き込まれて身動きできない状態で、首筋に顔が埋まるのを受け止めて困惑に声を掛ければ聞こえるか聞こえないか微妙なほどに小さな声が堂上から落ちた。
悲鳴をあげそうになるほど力一杯、一瞬だったが抱きしめられた直後には緩められて上がった堂上の顔が至近距離にあった。
ちゅっと可愛らしいリップ音がして、郁を見つめる堂上の柔らかい漆黒とかち合う。

「明日、やっと帰る場所が一緒になる。もう、離してやらない。覚悟しとけよ?」
「っ……望むところです!」

全ては明日……。

出会いの日から、いつも思っていた明日こそはあの人に会いたい、それが叶っただけじゃなく明日からは毎日傍に居られる。
毎日訪れる明日に必ず横に居る約束を、喧嘩もするだろうけれど傍に居られる幸せを分かち合える。
それが、嬉しい。

郁は弾けるような笑顔で堂上に抱き着いて元気に応えた。
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職業:サボり癖のある事務員
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実写映画から図書戦に完全に嵌りました。暢気で妄想大好きな構ってちゃんですのでお暇な方はコメント等頂けると幸い。

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