龍のほこら 図書戦異聞 ―番外編2 ひな祭り~2015~― 忍者ブログ

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図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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こちらはpixivにて公開していた『図書戦異聞』の一部再掲載になります。

お知らせの通り、原作に入って以降のお話については今後公開予定はありません。
ご愛読いただいた皆様、続きをお待ち頂いた皆様には大変申し訳ありません。

オリジナルの導入部分及び番外編については公開しても大丈夫かと思い、こちらにて再掲載いたします。
少しでも楽しんで頂けますと幸いです。
番外編2 ひな祭り~2015~です。

では、『本編はこちら』よりご覧くださいませ。

拍手[2回]





それは郁が笠原家に拾われて初めてのひな祭りだった。

「おーい、郁~」
「はーい、なあに? 大兄ちゃん」
「お、部屋入ってこいよ」
「わかった」

犬の姿の郁は、普段は外に置いて貰った犬小屋で生活している。
家の中を自由に出入りしても構わないと言われているが、母親の視線が気になって落ち着かないからと外に居るのだ。
じっと見られる視線は色んな感情が混じりあっていて郁に良い感情を向けていないことを教えてくる。
郁は人に情を寄せ、情を返されて人型になるワイルドハーフという動物の中でも特殊な種族になる。
本物の両親は普通のどこにでも居る犬で、少し変わっているとすればどちらも血統書付の大型犬だったことくらいである。
郁は何か用事かなぁ? と首を傾げながら玄関に回り、長男の開けてくれた扉を潜って中に入ると用意された雑巾で足を拭く。
まだ情を寄せきれていないこの家で、郁が人型になれるのは満月を挟んだ数日間だけ。
今日はその日ではないので犬の姿で長男について家の中に上がると奥の客間である和室に連れていかれて首を傾げる。

「大兄ちゃん?」
「いいから、いいから、ほら!」
「え? わっ、雛人形!」

なんで和室? と首を傾げて長男を見上げた郁に、楽しげな表情で来い来いと手招きし、郁がふすまの前に辿り着くとそれをそっと開けた。
開けた視界に佇むそれは、郁が久しぶりに見るモノで一気にテンションが跳ね上がり郁の尻尾が大きく揺れる。
段数は三段ほどのこじんまりとしたものではあるが、男ばかりのこの家のどこに置いてあったのか、きちんと並べられたひな壇飾り。
近づこうとして一歩踏み込んで、ひな壇のすぐそばに立っている人物に気付いて郁はピタリと動きを止めた。
ひな壇のそばに居るのは自分を拾い、養子として笠原家の末席に加えてくれた大切な人と常日頃自分をからかいながらも大事な時には長男共々守ってくれる次男、三男、そして……。

「お義母さん……」
「……」

ぐっと黙り込んだその視線は、やはり化け物に怯える人のソレで居た堪れなくなって目を伏せ、尻尾を垂らす郁。
そんな郁を見てどこか傷ついた表情をした母親は、しかし郁が視線をあげる頃には無表情になって郁の傍をすり抜けていく。
決して手をあげられたり、ご飯を貰えなかったり、そういう無体をされているわけではない。
けれど、認めて貰えないことが酷く悲しくて、苦しくて、横を通り抜ける気配に視線を向けると目すら合わせて貰えないまま母親は去って行った。

「郁、気にするなよ?」
「嫌ってはいないと思うんだけどなぁ……母さん」
「うん、ありがと……」

捨てられてから初めての温もりを覚えている。
最初に自分を抱き上げて心配してくれたのは誰でもない母親なのだ。
ただ、その時はずぶ濡れだった郁の姿に慌てていて、郁の服に隠れていた尻尾にも髪に紛れて伏せていた耳にも気づかなかった。
人間の幼い子供が迷子だと思った母親が郁を拾い、翌日熱で弱った郁が本来の犬の姿に戻ったことで嫌われてしまった。
郁はしばらくしょんぼりと耳を垂らして母親の出ていた方を見つめていたが、兄たちに宥められて元気になると雛飾りを楽しみ始める。

「ねぇ、これどうしたの?」
「父さんが買ってきた」
「お義父さんが?」
「郁はうちの大事な末っ子だからな」

雛人形を楽しみながらも、郁はふと気になって尋ねた。
初めての飼い主は物心つく前に別れてしまったので覚えていないが、次の飼い主は孫娘が居るおばあちゃんだった。
郁を大事にしてくれたおばあちゃんはこの日になると孫娘が喜ぶからと部屋を一つ全部使うような七段の大きな雛飾りを飾っていた。
郁は家族の都合で飼えなくなって他所に出されてしまったが、この日は女の子の日なんだよと教えて貰ったことはしっかりと覚えている。
女の子の日、つまり、女の子供が居る家で飾られる人形である。
どう考えても、この家は男の子ばかりで雛人形など必要ないのに……そう思った郁が不思議に思って口にした問いかけは、兄たちの温かな心とほっとする陽だまりの匂いと一緒に告げられた。
父親が自分をこの家の子供として扱ってくれる喜びに尻尾は千切れんばかりに振れ、吠える声は高くなってしまった。
後から盛大に母親に怒られたのは今となっては良い思い出だ。

あれから十年近くは経っただろうか、あの日以来、毎年笠原家の一室にはひな祭りに合わせて雛人形が出されることになった。
父親が買ったソレを、何故か自分を嫌っているはずの母親がマメに飾っていた気がする……。
郁は図書館に飾られる大きく立派な雛飾りの前に座り込んで、過去を振り返って理解できない複雑な想いに耳と尻尾を垂らすと、不意にかぎ慣れつつある匂いがして頭に大きな手が乗った。

――ぽんぽん、わしわし

何も言われないけれど、撫でる手から伝わってくるのは労わりの感情だろうか。
郁が大人しくされるままになりながら手が伸びてきた方向へ視線を向けると、仏頂面をしていつも通り眉間に深く皺を寄せた直属の上官―堂上が心配そうな表情をその黒に浮かべて郁を見ていた。
暫く撫でられてからばっさばっさと尻尾を振ると、ふっと空気が緩んで撫でていた手が引いていく。

「別に、何もないですよ。ちょっと思い出しただけです」
「そうか」

何も言わないけれど、立ち去りもしない堂上に少しだけ居心地が悪くなってもぞりと座り直しながら何もないと告げたが頷きが返っただけで何も言われない。
それがまた居心地が悪いな、と郁はもぞもぞと身体を動かし始める。
そこで気付いたのは今日が堂上班の公休日であり、堂上がここに居る必要がないことだ。
郁は犬の姿でも図書館の中にスルーパス……なんてことはなく、犬の姿の時は図書館員が一緒でないと入れないのだが、先ほどまでは柴崎と一緒に居てレファレンスに呼ばれた彼女を待つためにここに座っているのである。

「きょーかん?」
「なんだ」
「なんで居るんですか」
「……柴崎が、お前が図書館で放置されてるから拾いに来いとメールしてきた」
「えー……」

そんなメール送るなよ、柴崎め! とか、なんでそれで来るんですか! とか、色々思う所はあるもののなんとなく落ち込んでいた郁に気付いていた柴崎の配慮なのだろうと思う。
相変わらずクソ教官!と暴言を吐きたくなる相手ではあるが、それでも自分がピンチの時に絶対見捨てない人間であることはなんとなく理解し始めて尊敬しつつある。
傍に居たいかと言われるとまだ解らないけれど、傍に居ることが苦痛ではなくなりつつあるのでやはり複雑な心境で耳を垂らしながらも僅かに尻尾を揺らして郁は立ちあがる。

「もう良いのか」
「はい、十分です」
「なら行くぞ」
「え?」
「散歩だ。どうせ遊び足りないんだろ。付き合ってやる」

腰を上げた郁を見て確認してくる堂上は普段の鬼教官の姿はなく、ただ静かに声を掛けてきた。郁もそれに釣られて静かな声でこくりと頭を上下させた所で出た誘い文句にピコンと耳と立てる。
口から出たのは間抜けな声ではあったが、堂上はそれに気を悪くするでもなく細かく言い直すと先に立って歩き出す。
郁は呆然とその後ろ姿を見送っていたが首輪を引っ張られると、慌てて駆け出す。首輪につけっぱなしのリードは床に転がっていたはずなのにいつの間にか堂上の手の中だったらしい。
郁は先導する堂上の横に追いつくと駆け足だった速度を緩めて図書館の外へ出る。そのまま正門を抜けて外に行くらしいのを見て取ってさっきまでのしんみりとした少しだけ憂鬱な気分が晴れる様で尻尾を大きく振ると一歩前に駆け出す。

「わんっ! わんわんっ!」
「ああ、わかった、わかった、河原まで我慢しろ」
「わふっ!」

外なので人間の言葉を話すのは憚られ、急かす様に堂上に咆えたてた郁に呆れた様な声でそれでもわかったと言ってくれる堂上に犬面では解らないだろうが満面の笑みで返事を返し、郁は散歩を満喫するために過去への意識を手放した。
郁と堂上を知る図書館員や常連たちにとっては、その様子は微笑ましく平和なひな祭りの一コマであったのは言うまでもない。
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