龍のほこら 等身大のポートレート 1話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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こんにちは、ブログ内を色々弄っている今日この頃です。
数日で落ち着く予定ですが、本日は『After a marriage meeting』の方を中途半端だったのを加筆修正し『1話』として公開しました。
以前とは少し変わった部分もありますので宜しければ見てやってくださいませ。
のんびりと続きも創作していくつもりですので、気長にお付き合い頂ければ嬉しいです。

そしてもう1つ、今日からこちらもちょっとずつ更新していこうかなと思います。
やっぱりパラレルなのはもう私の脳内がパラレルに染まり切っているからでしょう(笑)

設定は新進気鋭の画家である堂上と、堂上が見つけた女子大学生の郁ちゃん。
この2人の恋模様をお届けしていきます。

興味をお持ち頂けたら、「本編スタート」よりご覧くださいませ。

拍手[98回]





予定のない平日、堂上は散歩と称して少し遠くまで歩いた道筋の途中で歓声のあがる場所に差し掛かった。
足を止めて見上げると懐かしさに目を細めてその場所を見上げた。
そこは市が提供する陸上競技用のグラウンドで、平日にも関わらず陸上大会が開催されていた。

「懐かしいな。」

昔はあの中に混じって走ったなと思い、自然と足は競技場へと向いた。
特に入場料も取られず一般人も入って見学が出来るようで、観客席に向かうとグラウンドを覗く。
現在の競技は100m走の様でレーンには8人の選手が並び合図を待っていた。

「位置について」

少し待つとピストルを手にした審判が台の上に乗って声を掛ける。
選手たちがそれに合わせて各々クラウチングブロックへ足を掛けて目の前に手を付いた。
どの選手も真剣な表情で前だけを見つめ、次の合図を待っている。
観客もざわざわとしていたのが一瞬にして静まり、固唾を飲んでスタートを見守っている。
良い緊張感が広がる中、審判がピストルを持った手を頭上に掲げた。

「用意」

2拍の間の後、パンッ!と火薬の弾ける音が広がり選手たちが一斉にブロックを蹴って飛び出した。
選手たちがゴールを走り抜けるまで十数秒、瞬きをゆっくり2回もすれば終わってまうような一瞬で勝敗が決まる。
いつもの自分なら選手たちの走りよりもそのタイムにより一層の興味を持った。
しかし、この一瞬で堂上はある1人の選手にすべてを鷲掴まれたような奇妙な感覚に陥った。
走り終わった後もその姿から目を離せない、そんな衝撃に包まれてただ茫然と立ち尽くしてしまう。

「・・・・なんだ、あれ・・。」

堂上はポロリと無意識に零れ落ちた言葉に眉を寄せた。
自分で発した言葉であったが、その「あれ」が何を示しているのか自分でも理解できず、しかしその衝撃は今までの自分のすべてを覆すような大きな波を齎していた。

「あの子は・・・。」

ふと気付いてゴールへと視線を向けたが、既に遅く自分にこの衝撃を齎しただろう人物はもう姿を消していた。
どの学校かも判らないまま、その100m走の試合は決勝だったようで最後まで試合を見ていたがもう1度その人物が姿を現すことはなかった。
堂上はその日に受けた衝撃をそれを与えた人物の凛とした後姿と走る姿と共に大切に胸の内に秘めて、翌日から意欲的に創作に取り掛かった。

堂上は新鋭の画家で、そのモチーフへの大胆な切り口と斬新なアイディアを用いながらも古くからの技術や趣を忘れない絵柄で無名の頃から確実に名を上げている人間の1人だった。
人物モチーフだけは親しい人間にしか描かないし送らない主義を徹底しており、堂上の人物画というのはかなりの高額でやりとりされる物であった。
どんな堂上の絵を世に知らしめ、独占的に販売しているのは親友であり画廊を経営している小牧だ。
ある日小牧が堂上のアトリエに顔を出すと、堂上が真剣な顔でスケッチブックに向き合って何かを描いている姿が見えた。
描いている最中、声を掛けると集中が途絶えるから勝手に入ってこいと言われていた小牧はそっとアトリエに入ると背後から堂上のスケッチを覗き込んだ。
そして、そこに描かれたモノに目を瞬かせる。

「珍しい・・・。」

口にするつもりはなかったが、思わずぽろりと小牧の口から言葉が零れ落ちた。
その音にビクリと肩を跳ねさせた堂上が勢いよく振り返ると背後で興味津々な様子で笑みを浮かべた小牧が立っており堂上は失敗したという顔をして見せた。

「何、その子堂上の新しい彼女?」
「違う。」
「えー・・・じゃあ、親戚とか?」
「違う。」
「じゃあ誰だよ。お前、人物画は苦手だから親しい人間しか描かないって前に言ってたでしょ?」

堂上の様子に美味しいネタを仕入れたとばかりに微笑んだ小牧が質問攻めにしてくる。
基本的に嘘がつけない性質の堂上は、苦った表情をしながらも小牧の質問に正直に答えてしまう。
堂上からしてみれば、小牧に嘘を吐いても簡単に見抜かれると思っているが故の諦めの意味も多分にあるのだが。

「俺が彼女を絵にしたことがないのはお前も知ってるだろう。」
「そうだね。でも今そこに描いてるの女の子でしょ?だから、とうとうたった一人に堕ちたのかなって思って。」

にこやかな笑顔のままそんなことを言う小牧に、小さく、しかし深く息を吐くとそんなんじゃないと拗ねたように顔をそっぽ向けて堂上はスケッチブックを丁寧に閉じて仕舞い込む。
そのスケッチには他にどんなものが描かれているのか、親友だと豪語する小牧ですら中を覗いたことはない。
しかし、いつだったかの酒の席で恩師に飲まされてほろ酔いになった堂上がそのスケッチブックはとても大切なもので唯一が見つかった時にだけ使いたいと言っていたのを覚えていた。
言った本人の堂上は小牧にソレを言ったことを綺麗さっぱりと忘れ去っているらしく、小牧の言葉に数秒の間の後、改めて反芻してその意味に気付いたのか目を見開き勢い良く振り返ってきた。

「なんでお前がそれ・・・!」

誰にも言っていないつもりだったのだろう、堂上は掴みかかりそうな勢いで問い詰めて小牧を上戸に陥れた。
小牧はもともとが笑いやすい性質らしく堂上と出会ってからは上戸に入ることが増えた気がすると思考の横で考えながらどうにか笑いを収めつつ軽く手を振る。

「いつだったかなぁ・・・もう大分前の話だよ。一度だけお前ほろ酔い、しかも潰れかけまで酒入れたことあっただろ?」
「・・・・・あったな・・・まさかあの時・・・か?」
「そう、あの時もお前そのスケッチブック持ってたんだよ。で、あんまり大事そうに持ってるから何が描いてあるのか聞いたら教えてくれたんだ。」

クスクスとまだ小さな笑いをもらしながら答えた小牧に、苦った表情をした堂上がガシガシと片手で頭をかいてからはぁーっと深い息を吐いて項垂れた。
このスケッチブックのことだけは誰にも言うつもりがなかったのだ。
どこの乙女だと言われるに違いなく、しかしどうしてもそうしたかった理由もきちんとあるのだ。

「理由は、しゃべったか?俺・・・。」
「いや?どうしてって聞いたけどそれだけは言わなかったな。中も見せてくれなかった。」

どさっと椅子に座り直した堂上に問われて素直に答えた小牧に、ちらりと視線を投げて堂上は迷うように視線を動かした。
小牧はこういう時決して無理に聞こうとはしない。
それは堂上との信頼関係の上で話せることと話せないことを理解してくれているからに他ならない。
少し迷った堂上は、やがて小さな息を吐くとスケッチブックの表紙を眺めながら小さく話し出した。

「俺が陸上を出来なくなった時、同室になったおばさんが持ってたスケッチブックがあったんだ。
 結婚してる人で、走れなくて落ち込んでた俺をそんまま受け入れて励ましてくれた。」

その当時を思い出しているのか、目を細めながらスケッチブックのその向こう側を見ているような表情で語る堂上の言葉はとても静かでほとほとと落ちていく。
小牧は少し長くなるかな?と考えると近くの椅子を引き寄せるとそこに座って静かに聞く体制を取った。
堂上は椅子を引き寄せる音にちらりと小牧の方を見たが再びスケッチブックに視線を戻していた。

「そのおばさんな、癌だったんだ。末期癌で、もう治療の意味もなさないくらい転移しててな。
 なのにいつも嬉しそうに幸せそうに笑ってんだよ。痛いはずなのにその痛みも感じさせないくらいだった。
 俺がその人と同室になったのは偶然で、どうにも部屋が空いてなかったせいなんだけどな・・・。
 その人が見せてくれたスケッチブックは全部旦那さんのスケッチだった。
 泣いた顔、笑った顔、嬉しそうな顔、悲しそうな顔、とにかく色んな表情が描かれてた。」

その頃の堂上は走ることにしか目を向けていなかった。
自分の内側にだけ目を向けて、決して他人をおろそかにしていたわけではなかったが周囲は見れていなかったと思う。
そんな堂上が目指したものをなくした瞬間は絶望しか見出せなかった。
もう思うように走れないと知った時の衝撃、目指した果てを見る前に断念するしかなかった無念さ。
色んなものが綯交ぜになって死にたいとすら思ったほどに苦しく重たい何かに心を押しつぶされるような気がした。

「篤君、何をそんなに急いでいるの?」
「・・・・別に、急いでなんかいませんよ。ほっといてください。」
「篤君、私ね、もうすぐ死なないといけないんですって。」
「え・・・?」
「私ね、癌なんですって。もう手遅れで、主人が方々に手を回して駆けずり回ってくれたけど無理なんですって。
 転移している場所が多すぎてもう治療も役に立たないの。」
「そんな・・・・なんで?」
「なんでかしらね。でも、私これで死んでも後悔しないと思うのよ。
 癌になったって知ってから主人とね、たくさん話をしたわ。それまでの仕事人間が嘘のように私を中心に生活してくれて、慣れない家事もやろうとして。
 最初はね、死ぬなんて怖くて仕方なかった。でも今は平気なの。」

死を目の前にしている人間とは思えないほどに穏やかにその女性は訥々と堂上に語った。
自分がいかに幸せで、結婚した相手がどれほどに自分を見て、自分を愛してくれていたか自分は気付けなかった。
でも、気付いてからたくさんの相手の表情を見て、それを描きとめてみたらこんなにも自分は幸せだったんだなって思ったの。

「篤君は、描いてみたことない?風景だったり、家族だったり、学校の授業でもやるんでしょう?」
「・・・・・昔は、やりました。」
「そう、描きとめるってね、とっても難しいの。その瞬間をしっかりと見ていないといけないし心に留めてないと描けない。
 風景はゆっくりと変わっていくからそんなに大変じゃないけど、人の表情って一瞬なのね。
 でも、私の中にはこんなにたくさんの主人が残っててその場に居なくっても描くことが出来る。
 こんなに愛せる人とずっと傍に居れたんだなって思うとなんだか嬉しくって・・・最期までその人と一緒に居られるんだし。」

ふふっと笑ってスケッチブックを眺める女性は大人びて見えるのにどこか幼さの残る少女のような笑みで嬉しそうに語った。
そして、堂上の方を見て少し小首を傾げて提案してきた。

「篤君はまだ若いしその怪我以外は健康でしょう?走れなくなっても、また目指すものを見つけるだけの時間があるわ。
 もし見つからないなら描いてみたらどうかしら?貴方が心惹かれる物を、その中に見つかるかもしれないわ。
 下手でも誰にも見せなければいいでしょ?」

名案!とばかりに顔を輝かせて自分に宛がわれた棚を漁った女性が出したのが、今も手にしているスケッチブックだった。
差し出されて、これ一杯に貴方が心惹かれる物を描き入れたら見せに来て頂戴と微笑んで渡された。
最初は断ったが、大きなお世話かもしれないけど自分の最後の我儘だから聞いてほしいと言われれば元来お人よしな性質である堂上には断れなかった。

「そのおばさんと色んな話をしたんだよ。時々旦那さんも混じってな、楽しい話も苦しい話もたくさん聞いた。
 俺が退院する日もそのおばさんはまだ病室で、もう起き上がれないくらい体力がなくなってたけど笑ってた。
 んで、描けたら絶対見せに来てねってそれまで頑張るからって俺を見送ってくれたんだ。」

しかし、その女性は堂上が約束を果たす前に静かに息を引き取ってしまった。丁度画家になることを決心してその報告に訪れた時に、その庭の花を描かせて欲しいと滞在させて貰ったころだ。
描いてと言われたが描くものも思いつかず持ち歩くだけのスケッチブック。
ただ、その言葉のおかげで周囲を見るようになったし、絵に興味を持った。
そして凝り性だった堂上は次第にスキルを上げて今の地位を確立していった。

「それでも、これに描こうと思える被写体ってのはなくってなぁ・・・。
 旦那さんはまだお元気で過ごされてるみたいでな、季節の挨拶ははがきくれるんだ。」

だから、埋めたら会いに行きたいと思ってるんだがなかなか埋まらないと苦笑し1ページ目を開いた。
その1ページ目は先ほど堂上が描いていた少女の姿ではなく壮年の女性が微笑んでいる絵が描かれていた。
それがきっと今話した女性の堂上が最後に見た顔なのだろうと思うと小牧は何も聞かず、そっかとだけ頷いた。
少しだけ2人の間に沈黙が落ちる。
決して居心地の悪い沈黙ではないが、堂上が少しだけスケッチブックを眺めてからそれを小牧へと差し出してきた。

「何、見ていいの?」
「ああ、今日だけな。」
「そう。」

差し出されたそれを受け取って、小牧はゆっくりとページをめくってみる。
一枚目に描かれた女性の絵は今の堂上の絵を知る小牧には確かに下手だなと笑ってしまうようなレベルで、しかしそれであっても惹かれるモノがある絵だった。
そうして1枚ずつめくる絵は徐々に上手くなっていくがモチーフは風景や動物ばかりだった。
ゆっくりと捲っても半分にも辿り着かないそのスケッチブックの最新の数ページは、決して人物画は描かなかった堂上の希少な人物画があった。
それは、1人の少女・・・いや、もう女性と言っても良い領域に差し掛かっているだろうか。
少女とも女性とも言える一人の女が走る躍動感に溢れた姿と走り終えた時の凛とした佇まいを感じさせる立ち姿。
そして、太陽を思わせるような満開の笑顔が1枚。

「・・・・・言うなよ。」
「解ってるよ。」

最後の1枚に目を見開いた小牧の口を先手を取って塞いだ堂上はもう終いだと言って小牧からスケッチブックを取り上げた。
もう一度彼女にと思わなくもないが、この姿を見た日探した時にはもう遅く所属の大学も何もかも判らないままなのだ。
だからこそ、このスケッチブックに描き込んだと言っても良いその人物を思い描いて堂上は丁寧にスケッチブックを閉じて仕舞った。

それが堂上とその彼女の最初の出会い。
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