龍のほこら After a marriage meeting 2話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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こんばんは!ここ数日は何くれとなく堂郁の何かを描きたいなぁ……と手が進み始めました。
本日は、前回没案をアップしてから更にどんだけ経ったんだ? というくらい手が進まなかった貴族パロの続きです。
これが正式な続きです!! うん、自分的に満足ですが、多少堂郁とかけ離れましたorz
原作の雰囲気がない気がするので、イメージと違っている方が居ましたら申し訳ありません。
私の限界です←
明日はこの2話を書くにあたって、先に出した没案とは違う没案を公開しようかと思います。
本当はこのシーンが入れたかった! という、シーンが入っています。

よろしければ、そちらもご覧いただけますと嬉しいです。
それでは「本編スタート」よりご覧くださいませ。


拍手[68回]




あの見合いから七日が経った、ハレの日。
私はあの日着けていた鬘もドレスも宝石も、何もかもを取り払って身軽になった身体にお兄様の古着を纏い腰に剣をぶら下げて呼び出した人の自宅の門前に立っていた。

「ここ、で合ってるよね。迎えに来るとか言ってたけど、教会寄りたかったしお断りしちゃったんだけどまずかったかな……」

お断りの手紙を送った翌日に麻子が来て、今回こそは唸らせてやる! と意気込んでいたのに水を差して怒られたのは記憶に新しい……。
あの時の麻子はちょっと、いや、かなり迫力があった……なんて遠い目をしてしまうのは仕方がないと思いたい。
私は深呼吸してもう一度門を見上げる。周囲を見渡してみたけれど家人は見当たらないので声を掛けれる様子もない。

「うーん……時間、早かったしどうしようかな。呼び鈴とかないし……」

大声で叫んでみようかと思ったけれど、不審者になるのは少し頂けないかもしれない……そんな風に思ったからとりあえず約束の時間になるまで門の柱に凭れて待つことにする。
これだけでも不審者に思われる可能性はあるけれど、少なくとも彼から届いた手紙はきちんと荷物に入れて持ってきたから最悪それを見せれば直筆の物だし真偽の確認の為にも顔を合わせる機会は出来るはずだ。
私は、ちょっと早まったなと後悔をしそうになるのを頭を振って遠くに飛ばす様に意識するともう一度背後を見上げる。
大きな門、その向こうに見える屋敷もかなり立派な物に見える。堂上家と言えば王家とはかなり懇意だという話は麻子からの情報だった。
お見合い相手の名前もだけど、お父様が最初は教えてくれなかった推薦者が誰かもあの日泣いて帰ってから教えて貰った。
お父様もその人の薦めだったから大丈夫だろうと思ったらしかったけど、結果は……きっと、私が悪いんだろうなぁ……と思っても過去には戻れない。

「おい……」
「ふぇ?」

ぼんやりとお屋敷を見ていたら、背後から声がかかった。
低く、耳触りの良い聞き覚えのある声に正面に向き直ると酷く不機嫌そうな表情をした男性が馬の手綱を引きながら立っていた。

「お前、何してる?」
「あ……えっと、堂上、様?」

訝しげに問いかけられて、予定していなかった出会いに瞬きを一つしていると眉間に寄っていた皺が更に寄った。ああ、勿体ない……なんて思いながら我に返った私が名前を呼ぶと、目の前の男性は僅かに目を見開く。
正直、顔を覚えるのは苦手であのお見合いの席での顔も告げられた言葉の衝撃に曖昧だった。だけど、衣装と連れている馬の立派さにもしかしてと思って呼んでみたのだけれど返事がない。
余計に皺の寄った眉間が、やはり間違えてしまったかと不安を誘ってきてどうしたら良いかと視線を彷徨わせると小さなため息の音が聞こえてきた。

「迎えを断った理由はそれか……」
「え? ええっと、まぁ……」
「俺は、別に男になった方が良いなんて一言も……」
「え?」

上から下まで、検分するように見ながらぽつりと呟かれた言葉に噂のことを言っているのかな? と思って曖昧に頷く。
すると、視線が逸らされて何かをぼそぼそと言っていたけれどはっきりとは聞こえなくて聞き返したら何でもないと言うように首を振られた。
少しすると男性――堂上様――に気付いたらしい使用人が慌てて出てきて門を大きく開いた。

「詳しいことは後で聞く。とりあえず入れ」
「あ、はい」

格好について特に何も言われないことに、何故か居心地の悪さを覚えながらついていく。もし、また何か言われたら条件反射のように喧嘩を売るんじゃないかと冷や冷やしていたけれど今のところは大丈夫みたい。
ほっと安堵の息を吐きながら私に合わせてくれているのか馬も堂上様も歩調はゆっくりだ。
もう少し早くても全く問題ないけれど、堂上様にその気はないらしい……。
初めてのお屋敷は良く解らないか何も言われないのを良いことに堂上様についていく。堂上様はまっすぐに馬小屋の方へ足を進めると自分で馬の為の飲み水を用意して、飼葉を入れ、小屋の中も整えていた。

「堂上様、馬がお好きなんですか?」
「……別に、好きでも嫌いでもないな」
「そうなんですか? じゃあ、面倒見が良いんでしょうか?」
「知らん」

堂上様の様子を見ていて零れ落ちた言葉に、ビクリと肩を揺らして私を見たその目はどこか身構える様な、探る様な目をしていると思ったけどふいっと逸らされてぶっきらぼうな返事が返ってくる。
そうして返ってきた答えはとても曖昧でどちらなのか判らなかった。
普通の貴族なら、好きじゃなければ自ら世話をしたりしない。それとも、貴族と言えど王家に関わりがある方は馬に関して何かあるんだろうか?
元々の性格かと思って思い浮かんだ可能性を問いかけてみても、自覚はされていないのかさっきよりも余計にぶっきらぼうな返事が返ってきた。
なんだか、少し納得がいかなくて無意識に膨れる頬をそのままに堂上様を見る。
あんなにもはっきりと、私に対して言葉を口にしていた見合いの日とは違って今日はとても言葉が短い。話したくない程に、私は疎まれたんだろうか?

「あの……」
「煩い、ちょっと黙ってろ」
「なっ……! なんですかっ、それ!」
「いいからっ!」

ここに来たことは、まずかったのだろうかと尋ねようとしたら今度は怒ったような言葉が返ってきた。
不本意なその言葉には、さすがに声を荒げるしかない。呼んだのは目の前の人で、さっき使用人が居たにも関わらず私の案内を頼むでもなくどこに居ろとも言わなかったからついてきたのに……。
なんだか理不尽だ。そう思ったらふつふつと胸の内に溜まっていく衝動そのままに声を出してしまった。
馬にとってはあまり心地よくない、ヒステリックな声を出してはいけないと思うのにどうにも出来なくて叫びそうになった私の口を堂上様が振り返って大きな手でふさいだ。
威嚇するように低く怒鳴った声に思う以上に激しいモノを感じてビクリと肩を竦めると、一歩、二歩、後ずさってしまう。
知らず、視界が潤み始めてしまったのを気付かれたくなくて大きく首を振ってから身体ごと顔を背けると、背後になった堂上様の方からチッと舌を打つ音が聞こえた。

「……っ」

その音に、またビクリと肩が跳ねてしまう。やはり、この人は私のことを受け入れるつもりはないのではないだろうか?
そんな考えが浮かんで、あの時以上にこっぴどく女性であることを否定されるのかもしれないと思うとその場に留まることも難しくなってきてこの場から逃げ出そうと反射的に考えると止まらなかった。
中途半端だった体の向きをぱっと背後に向けるとその場を脱兎のごとく駆け出す。
全く知らない人の屋敷、その庭で逃げ切れるわけがないけれどどうしても今、この涙を晒すわけにはいかないと思った。
あの日も気付けば醜態を晒しているから、これ以上は嫌だった。そう思って逃げ出したのに、それはその場を離れるよりも前に捕まって失敗に終わった。

「どこ行くっ! てか、なんで泣いてるんだ?!」
「は、はなしてっ!」

駆け出そうとしたところを、寸前で手を掴まれたらしい。後ろに思い切り引っ張られてぶつかったのは私より大きな温かい何かだった。
太い何かが回されてがっちりと掴まれれると、もう身動きもとれない。叫ぼうとした口も塞がれて、叫ぶなと耳元で警告されたことで固まって声が出なくなる。
良い子だ、と言われたけれどそれで落ち着けるはずもなく、どうにか逃げ出そうともがけばそれだけどんどん巻き付いた何かの締め付けが強くなる。
耳元で、落ち着け、そう低い声がささやいて頭に温かくて大きな何かが乗る。拘束はそのままだったけど、大きな何かがぎこちない動きで頭を撫でていくことで私は漸く少しだけ落ち着きを取り戻した。
もがくのを止めると拘束していた何かが緩んで、私は周囲を見るだけの僅かな余裕を取り戻す。

「悪かった……」

少しだけ、私の気持ちに余裕が戻ったことに気付いたらしい拘束していた何か……ここには堂上様しか居ないんだから、堂上様本人なのだろう。
緩んだ腕に振り返ろうとするとぽつりと耳元で呟きが落ちてきて、すとんと私の中の何かが落ち着く場所に落ち着いた気がした。
一瞬止まって、改めて振り返ると拘束していた腕はするりと外れて困ったような苦虫を潰した表情で立っている堂上様と目があった。
あの日は気付かなかったけれど、私よりも少しだけ低い場所にある肩がチクリと私の胸を刺す。ああ、やっぱり私は女として規格外だなぁ……そんなことを思ったらまたポロリと涙がこぼれた。
ぽろぽろとこぼれたそれを慌てて堪えようとするけど、どうにも止まらなくてやっぱり逃げ出そうとしたらその前に頭に手が乗って引き寄せられた。

「なっ?!」
「……貸してやる、ハンカチ代わりだ」

何で泣いているのかとまた聞かれるのかと身構えた私に、堂上様は何も聞かずに私の顔を肩に押し付けると泣いていいと言わんばかりに黙り込んだ。
私は、頭に置かれた強引だけど酷くない手と、目元に触れる温かく硬い肩の力強さにどうしようもなくなって声を堪える事しか出来なくなって泣いた。
行き場のなくなった手は、いつの間にか堂上様の胸元で身体を支えるように置きながらその服を握りしめていた。
どれくらい泣いたかは判らないけれど、気付けば堂上様の肩口の布はしっとりと濡れて色を変えていて声も嗚咽も治まった私に気付いた堂上様がゆっくりと身体を離して私は酷いだろう顔を隠すために俯いた。

「落ち着いたか?」
「はい……ご迷惑、おかけして……」
「いい。気にするな。仕事の説明をしたいんだが、いいか?」
「は、はい!」

隠そうとする私に気付いたのか、覗き込もうとしていた堂上様は一歩引くと声を掛けてきた。なんで泣いたのか、今になったら良く解らなくなってしまってただ問い掛けに頷くしか出来ない。
泣きつくして枯れた声でどうにか言葉を紡ごうとすると途中で遮られてしまった。本来の目的を話題に出されて慌てて顔を上げると、堂上様はもう踵を返して背中を向けている。
大きく頷くと先に立って歩き出したのでその背を追いかけてついていく。
私よりも少し背が低いことに無意識に落胆していたけれど、泣きつくした今見ている背中はとても広くて大きい……。

「女として、見て貰えないかもしれないけど仕事、頑張ればいつかは……」

――私を私として見てくれるかな?

そんな、淡い期待を抱かせるには十分な力強さを持つ背中で私は、その想いがどんな風に育つのかなど考えもせずに胸に浮かんだそのささやかな想いをふわりと抱きしめてその背中を追いかけた。
堂上様は玄関に先に着くと扉を開けて待っていてくれた。従者の人とかが開けるんじゃないのかな? と思ったけど、開けてくれている堂上様を待たせるわけにもいかずに慌てて駆け寄ると扉の中に飛び込む。
屋敷の中は質素堅実という言葉が似合うような、何もないわけではないけれど華美でもない、落ち着いた雰囲気の面持ちだった。

「こっちだ」

使用人は最低限しかいないのだろうか? 首を傾げ、きょろきょろと辺りを見渡しながら後をついて歩く私を時々チラチラと確認しながら堂上様が先導してくれる。
普通なら屋敷の手前の方に応接室があるのだろうけれど、それらしい扉は全部スルーして奥に入っていくのに少し不安になるけれどさっきの件もあって声が掛け辛い。
どうしよう……。迷っている間にも歩みを進める堂上様はどんどんと奥の方へと進んでいく。

「あ……」
「? どうした?」
「な、なんでもない、です」

どうにか勇気を出して声を掛けようとしたのと、堂上様がある一枚の扉の前で足を止めて振り返るのとは同時だった。目が合って、堂上様が不思議そうに首を傾げるのに慌てて首を横に振るとそうか、と頷いてまた正面を向く。
堂上様はそのまま辿り着いた一枚の扉を大きく開くと一歩中に入って扉を押さえながら私を手招く。

「ここまでの道、覚えたか?」
「え? いや、えぇっと……」
「まぁ、いい。しばらくは誰かしら迎えに出るようにしとく。仕事の話と、その恰好の理由を聞きたい」

堂上様は、さっき慰めてくれた時が嘘のように厳しい表情をして私を見ている。私が何かを言うよりも前に言葉が紡がれてしまって、それが提案ではなく強制であることに私の中の反抗心がうずく。
仕事の話は必要なことだけど、格好のことにまで口を出される筋合いはないはずだ。先日と違って髪も短いし、一般の女性とは違って目立って女性を示すような容姿もしていない。
髪は元々短いのをあの日は長く見せるようにしていただけなのだから、今更だ。下町の皆は私のことを良く知っているし、だからといって誰彼かまわず吹聴するような性質の人間たちでもない。
上から押さえつける様な物言いに、モノ申したくなってむぅっと唇が尖るのを堂上様は咎めるように眉をしかめて見返してくる。

「お仕事の話はお聞きします。でも、この格好については貴方に言うことは一つもありません」

中に入ってぱたりと扉が閉まる音がする。私が入るのを待っていた堂上様を振り返って、挑むように睨みながら言葉を返せば堂上様の片方の眉が器用に跳ね上がった。
重なった視線は、どこか傷ついたような気まずさが浮かんでいる気がする……。

「……それもそうだな。なら、仕事の話をしよう」

数秒、交わった視線は堂上様から唐突に逸らされた。すっと横を通り過ぎる堂上様の雰囲気はつい少し前の柔らかさをどこかに捨てた様に硬質になった。
もしかして、堂上様は私に関する噂を何一つ知らないんだろうか?
そんなはずはないだろうと思うのに、その可能性を思いついたらさっきの自分の返事がとても失礼に感じて申し訳なくなった。
けれど、初対面でもっと失礼なことを言ったのは堂上様だし、シャットアウトされたように硬質になった雰囲気の中でもう一度弁明することは戸惑われて私は仕方なく無言で示されたソファに腰を降ろす。
紅茶セットが置いてあるが、堂上様は自分でお茶を淹れることはあまりないのか動きがぎこちない。

「……あの、私で良ければ淹れますけど」

迷うような動きが気になって、恐る恐る声を掛けるとはっとしたような表情で私を見た後、むっと怒る様な表情になった。
何か、気に障ることを言ったんだろうか? 首を傾げても堂上様の表情も雰囲気も変わらない。ただ、迷うように揺れた視線がもう一度私を見てから小さなため息が落とされて一歩下がった。

「悪い、頼む」

たった一言、怒ったような言葉が落とされたけれど内容は依頼だったので私は自分の中にある疑問とかを全部一度置いておいてお茶を淹れることにする。
用意されていたお湯を先にカップとポットに入れて温めながら茶葉を確認する。
茶葉を入れる容器の中に入っていたのは、見覚えのあるお茶で私は僅かに目を見開くと書類を手に手持無沙汰にしながら私に座る様に勧めたソファの正面に座る堂上様を見る。
何も言わない、無言の背中が視界に入るけれど視線を感じているだろうに振り返りもしない。何も、言いたくないのかもしれない……そう感じて小さく息を吐くと丁度温まったカップとポットを使ってお茶を淹れる。

――コトリ

いつも通りに丁寧に淹れたお茶を堂上様のテーブルの上に置くと、ありがとうと小さな声が返ってきた。
どことなく嬉しくて、ふっと口元が緩んだけれど何食わぬ顔で改めて指定された椅子へと座ると堂上様が手にしていた書類を差し出してきた。

「読め」

言葉が少ないのは性格なんだろうか……。
受け取った書類に目を通し始めると堂上様は別の書類を手にして仕事をし始めたみたいだった。
暫く読んでみると内容は私が普段自分の屋敷や教会で孤児の子とやっている様な内容だった。それを、もっと国を挙げて大々的にやろうという計画らしい。

「読んだか?」
「はい。これ……」
「上司から、君がこれを既にやっていると聞かされた。ノウハウもあるなら、是非頼みたい」

国を挙げての事業とするなら、今私がやっている様な小規模な物とは違うから勝手が違ってくる。
それくらいは、頭の悪い私にだってわかるけれど小規模でもやっていないところから始めるからそのとっかかりに、私がやっていることが知りたいということらしい。
堂上様の言う上司、というのがこの間の見合いの席を用意した人だったなら私に拒否権はない。国の最高権力者なのだとお父様から聞いている。
ただ、私はこういう書類の様にきちんとした状態でやり方を指示しているわけじゃない。その年、その月、もっと細かく言えば一日毎に様子が違うのだ。
自分で見て、確認して、こうした方が良いかもしれないとか何か問題が出た時に対策はないかと皆で考えた結果を実行しているだけだ。
少しだけ困って、伺うように堂上様を見ると真剣な眼差しで私の方を見つめていた。
視線が絡むと、ドクリと私の心臓が跳ねる。引き込まれる様に見てしまうその漆黒を、避けるように書類にもう一度目を落とすような仕草で外すと深呼吸する。
ドクドクと早鐘を打つような心臓が痛い。どうしてこんな風になるのか判らないけれど、それは寄せられた期待に対する恐怖や喜びからじゃないかと思う。

「わ、私がやっていることは本当に小さい規模で……。だから、こんな、大きな規模のお役に立てるかどうか」
「大きくても小さくても基本は同じだろう? やるべき最低限のことは変わらないはずだ」
「それは……そうですが」
「頼めるのか、頼めないのか」

頼めないなら他を当たる、そう、切って捨てられそうな冷たい雰囲気を感じてビクリと肩が揺れた。
ぎゅっと手にしていた書類を強く握って、もう一度深呼吸する。
やるのか、やらないのか……その問い掛けは、つまり、逃げるのか? と問われているのと同じだと感じた。
逃げるのは嫌。そう思った瞬間に脳裏に浮かんだのはさっきこの部屋に来るまで見ていた私より少しだけ肩の線が低い、けれど大きな背中だった。

――追いかけたい――

ふっと浮かんだ言葉に、私の中にあった迷いが消える。
追いかけるためには逃げるわけにはいかない、それを直感で感じたから。
もう一度書類に視線を向けてから顔を上げると先ほどと変わらない真っ直ぐな視線が私を射ぬく。それに負けない様に睨み返す勢いで見返して、大きく頷く。

「どこまでお役に立てるかは判りませんけど、やります! 私、絶対最後までやり通しますから!」

顔を上げて、はっきりと言い切った私に渋い顔をしていた堂上様の口角が一瞬だけ上がった気がしたけれどはっきりと見ることは出来なかった。
直ぐに仕事を始める段取りや、次からの日程の相談に入ってしまったから……。
それでも、これまで自分の中にあった何かが変わるかもしれない、そんな期待に私はまずはこの話し合いをしっかりと聞こうと意識を向けた。
そうして話し合いが終わる頃、堂上様から次の日程と迎えを寄越す旨を告げられたけれど迎えだけはしっかりと断ってお屋敷を辞去した。
帰宅してから心配して待ち構えていた麻子に捕まってこの日の出来事を根ほり葉ほり聞かれて、新しい玩具を見つけたような表情でにたりと笑われることになるのは帰路に着いた私には預かり知らぬところだった。
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職業:サボり癖のある事務員
趣味:読書・昼寝・ネットサーフィン
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実写映画から図書戦に完全に嵌りました。暢気で妄想大好きな構ってちゃんですのでお暇な方はコメント等頂けると幸い。

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