龍のほこら 等身大のポートレート 3話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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こんばんは!
本日は自宅でダラダラと過ごしてしまいました、龍春です。
皆様はいかがお過ごしでしょうか?

更新は、画家堂上さんと郁ちゃんの恋模様3話目となります。
今回は堂上と小牧のやりとりです。
堂上がその絵を描くにいたった経緯・・・までは書いていませんが、きっかけのような花にまつわる思い出話を小牧に聞かせています。

よろしければ、「本編スタート」よりご覧くださいませ。


※ 一部続話との矛盾が発覚したので直しました!すみません>x<;(2014/06/09 追記)

拍手[87回]





「ど、う、じょう♪」

その日、小牧がアトリエを覗くとスケッチブックを手にぼうっと外を眺めている堂上がいた。
先日、郁が画廊に訪れた時化粧で少しだけ印象が変わっていたものの堂上が描いていた少女に酷似していると気づいて咄嗟に引き止めることに成功した。
もちろん、面白そうだから堂上には言わないけどもう一度絵を見せてもらって確認をしたい。
そうなるとばれるかな?などとどちらでも楽しそうだとほくそ笑んだ小牧が堂上の肩にのしかかりながら声をかける。
もちろん、手が動いていないことは確認済みでの行動で堂上は嫌がるそぶりは見せながらも無理に振り払うことはしない。
これが小牧なりのスキンシップであり堂上にしかされないことであるのは承知しているからだ。
ただし、こういう風に声をかける場合は小牧が堂上をからかうことが多く、必要以上に警戒をしてみせるのだが小牧にはそれが面白くて仕方がない。

「何の用だ?売上だったら月末のはずだろ?」

画廊で展示会をしたいと言われて何点か手元にある売っても構わない絵を出品していた。
中には小牧が選んで持ち出した物もあるが、非売品とは名ばかりで購入希望者が居れば売ってもよいと伝えてあった堂上は楽しげに近づいてきた小牧に訝し気な視線を送る。

「うん、そうじゃなくてね。これ、買い手ついたんだけど。」
「・・・・それに・・・か?」
「うん。」

訝し気な表情で見てくる堂上に軽く苦笑しながら、小牧は手にしていた紙袋からがさりと音を立てて額縁とそれに収まった絵を取り出すと掲げて見せた。
小牧が掲げた絵には堂上も思い入れがあったので他のものよりもずっと愛着があった。
しかし、それ以上にまだ画家になりたての駆け出しの頃に描いたもので今まで何度か出品したものの買い手がつかなかったものである。

「物好きが居たのか。」
「物好きって・・・可愛い女の子だったよ?なんか、ここに描かれてる花に思い入れがあるみたい。これ見て泣いてたよ。」
「・・・・そうか。」

堂上の言いぐさに、小牧が呆れながらも買い手のことを伝えると堂上はわずかに目元を和ませて絵を見つめる。
小牧はその様子にやっぱり堂上にもこの絵と花に思い入れがあるのだなと悟る。

「この花、カモミールっていう種類なんだってね。俺、ずっと雑草か何かかと思ってたから調べなかったけどタイトル、花言葉だって?」
「そこまで知ってる子だったのか?」
「うん、大切だった人が教えてくれたって思い出を聞かせてくれたよ。」
「そうか・・・。それ、少しだけ手直ししてもいいか?」
「うん、そう言うんじゃないかと思って引き渡しは1週間後にしといた。持ち合わせがないって言ってたし。」
「すまんな。」
「どういたしまして。で、これにまつわる思い出って聞いてもいいの?」

額に入れたまま、絵を差し出した小牧は堂上が受け取るのを確認して手を放しつつ尋ねる。
言いたくないなら言わなくても構わないけど、出来たら聞いてみたいと思った小牧の言葉に堂上が視線を1つ寄越してから絵を大切そうに撫でる。

「これは、前に話したあの女性が好きだった花だ。自分で庭で育ててるんだと言ってな、病室にも旦那さんが植木鉢に移して持ってきたらしいのが置いてあった。」

額に入った絵を丁寧なしぐさでソファに立てかけた堂上は、それを見ながら過去へと意識を向ける。
思うように走れなくなった自分を引留めたのは彼女で、彼女の言葉は荒んで頑なだった堂上の心をゆっくりと解し曲がりそうだったそれを元の位置へと戻してくれた。

「絵を始めたらどうだと勧められたが、最初はやる気なんかなくてな、日がな1日ぼうっとしてた。何もやる気になれなくてリハビリだってやっても走れるようにはならん。このまま腐って消えてしまえば良いと思ってた。」

堂上の語る辛さは味わった者にしか本当の意味で伝わらないだろう。
しかし、小牧はそれを語るだけの強さを得た堂上を尊敬しているし尊重もしている。
話を聞きながら静かに絵に視線を向ければアトリエの中を柔らかな風が通り過ぎて頬を撫でた。
同時に絵の中の花も楽しげに揺れたような錯覚を起こす。

「彼女がな、言ったんだ。この花を旦那さんが持ってきた日、なぜかその花が気になって俺が眺めてるのに気付いたんだろう。」

彼女に絵を勧められてから数日後、旦那さんが持ってきた花は可愛らしい小鉢に植えられながらもまっすぐに枝葉を伸ばし揺れていた。
彼女はそれを嬉しそうに受け取って花に顔を寄せてふわりと幸せそうに笑っていたのが印象的で目が離せなくなった。
じっと見ていると、彼女がそれに気付いて小鉢を差し出してくれた。
反射で受け取り、手の中の小鉢を見ると見たことがない雑草のような花にも見えてまじまじと見つめてしまう。
ほんのりとリンゴのような香りがしたような気もしたが、その頃は五感はほとんど死んだ状態だった。
実際にはきちんと動いているが、生きる気力をほとんどなくしていた堂上には見るモノは精彩に欠け、料理は味もせず、心動くものはなかった。

「その花はね、とても強いのよ。そして、とても優しいの。何度踏まれても踏まれても翌日には枝葉を空に伸ばし精一杯を生きている。隣の草花を害虫から守り、私たちの心を和ませてくれる。」

私の大好きな花なの。そう言って笑う彼女の自慢気な表情は自信に満ちていて死を待っているような表情ではなかった。
今にも全快して退院するんじゃないかというほどに生気に満ちた彼女を、堂上はその時眩しいと感じた。

「貴方が退院する時、その花をあげるわね。育ててあげて、きっと貴方を励ましてくれる。その花の花言葉はね、苦難の中の力って言うの。何度でも立ち上がる様から敬意をもってつけられたんだと思うわ。」

眩しすぎて彼女から花に視線を戻した俺を見て、微笑んだような気配があった。
花の説明をしながら、貴方もこの花の様にもう一度立ち上がって前を向いて進みなさいと言われているのを感じてその時初めて鼻の奥がツンとなった。

「それまでは、泣けなかったんだ。誰も彼もが慰めてくれるがその裏には違う感情が渦巻いている気がして素直に受け止めれなかった。」

初めて泣いたよ、と苦笑を浮かべて呟いた堂上を小牧はただ見つめていた。
男が、特にこの我慢強く情に篤いこの男の涙というものは今まで見たことがない。
高校からの付き合いであったが、どれだけ苦しいことがあっても人前では決して泣かなかった。
昔から無鉄砲な面はあったがこれぞ漢だと思わせるような情に篤く懐の広い男だったなと、過去を思い出す。
今もそれは変わらないが昔よりずっと無鉄砲な面は減り、酷く落ち着いた雰囲気を持っていた。

「その時、泣いちゃったのか。」
「泣いたな。」
「後で恥ずかしかった?」
「かなりな。」

思い出してくくっと喉を鳴らすこの男は、昔のような熱さをまだ心に秘めているのだろうか?
小牧はそんなことを思いながら絵から視線を堂上に戻すと、にやりと笑う。
思い出話を聞くためだけにここに来たわけではない、小牧は自分の記憶が確かならこれを買おうとしているのは件の彼女だと思っている。
堂上には言わないが、会いたいなら手配をする心づもりで小牧は口を開いた。

「会いたい?」
「誰にだ?」
「この絵を欲しがった彼女に。」
「いや?泣くほど気に入ってくれたならそれで十分だ。」

からかい口調で訪ねる小牧に、しかし堂上はあっさりと首を横に振った。
もっと食いついてくるかと思ったのだが、堂上はもうあの絵の彼女との再会を諦めているのかもしれない。
堂上が彼女を見つけてから5年近く経つと言っていた、探さないのかと言えば何度か競技場に行ったが一度も会えていないのだから縁がないと言われた。
しかし、今ここに来て縁が出来そうなのにと、堂上の反応に僅かばかり面白くない小牧はしかしその気持ちを押し殺した。
これは自分が楽しそうだという気持ちが多い邪な想いだ、と。
彼と彼女の縁があの堂上が彼女に出会った時に結ばれていたなら、きっとこの先どこかで交わる。
そう思えば、それ以上堂上を説得することはせずに1週間後の納入前に品物を取りに来ると告げて小牧はアトリエを立ち去った。

この数日後、堂上と件の彼女が運命的な出会いをするとは思わずに・・・。
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