龍のほこら はつこい 1話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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堂上と郁が幼馴染だったら。
年齢差はなく同い年だったらという設定。
家は隣同士で家族ぐるみのお付き合いは鉄板ですよね♪

拍手[111回]





「あれ?笠原さん、今日は堂上と一緒じゃないの?」
「あ、小牧。うん、篤・・・じゃなかった、堂上は彼女迎えに行ったから」
「え?」
「ん?あれ?小牧にはまだ言ってないの?あいつ」
「何も聞いてないよ。俺は笠原さんと堂上が付き合ってると思ってたし」
「そんなわけないよー。私とっくに振られてるもん!」
「そうなの?」
「うん。さ、この話はおしまい!詳しくは堂上に直接聞いてよね!」
「あ、うん。」
「じゃ、私移動だから。」

私が通う学校は選択授業制を取っていて、いくつかの教科は選択科目で教室移動がある。
私はこれ以上篤の話をしたくなくて、小牧との話を切り上げると早々に教室を出た。
目的の教室を目指して歩いていたはずだったけど、徐々に歪む視界に我慢しきれなくて
屋上に駆け込むと貯水タンクの影まで登って蹲った。

あれは、小学校に入って3年目くらいだった・・・。

「私、堂上君が良いな。ちょっと怖いけど、話すと優しいし。」
「えー・・・私は鈴木君かなぁ。」
「ねぇ、郁は?」
「え?」

何の変哲もない恋バナだったはずのそれは、けれど私の心を揺さぶったのは確かだった。
聞いているだけで内容が右から左へ抜けていく。
突然問われて私はとっさに返事が返せないまま、友達は特に興味もなかったのか話題は流れた。
当時、私は男勝りで休み時間も女の子より男の子と外で遊ぶ方が好きで、篤とも遊び仲間で、
その日はたまたま読みたい本があったから教室に居ただけだったのだ。
でも、その女の子たちの会話が私の心にそっと波紋を落とした。
篤が年齢の割にしっかりとしていて大人びて見えるのは知っていた。
私をいつも窘めてくれるのは篤だったから。
でも、ちょっと無愛想だからモテるとは思っていなかったし何よりいつも一緒に居たから
他の誰かが篤を見るなんて考えもしていなかった。
それに、篤と私は家が隣同士で生まれた時から一緒で兄妹同然で育ってきたから
その時心に落とされた波紋がどういうものなのか解りかねて、
話題が移ったのをいいことにだんまりを決め込んで本の世界に戻っていった。
そうして、その波紋が何なのか気付いたのは1年後の運動会だった。
お昼ご飯を食べ終わってグラウンドの席に戻る途中、
水筒を忘れてきたことに気付いて戻っているところだった。
近道で通っていた通路は校舎裏に面していた。
普段のそこは人気がなく、声が聞こえるなんてありえなかったけどその日、その時は違った。

「何?」
「あ・・・えっと、その・・・わ、私堂上君がす、好きで・・・。」
「え?」
「そ、その・・・よかったらお付き合いしてください!」
「・・・・あ・・・と、その。俺と?」
「う、うん。前からかっこいいなと思ってて、堂上君優しいし。」

聞こえてきた声は篤ともう一人、同学年で一番可愛いって評判の小さな女の子だった。
私は、その頃にはとっくに篤の背を追い越して学年中の女の子の中でも
頭1つ出てしまいそうなほど縦に育っていた。
それは小さなコンプレックスでちくちくと胸を刺激していたけれど、
篤とその子の並んだ姿はグッサリとトドメのようで、震える足を叱咤して
出来るだけ息を殺してその場を後にした。
そしてその日、私は初めて篤と一緒に帰らなかった。
後で篤に理由を聞かれた時は、両親に一緒に帰ろうと誘われたからだと言い訳したけど、
篤はいぶかしんだままだった。
その子とどうなったかなんて聞けなかった。
翌日、恐る恐る部屋を出ると戸口の前に篤が仁王立ちしていた。

「お前、昨日はなんだったんだよ。」
「え・・・と・・・。」

案の定、納得していなかった篤の尋問に嘘が苦手な私は視線があちらこちらへと移動する。
目、赤いのばれてないよね?なんてよそ事を考えてしまいがっしと私よりも大きい手に頭を掴まれて我に返る。

「理由は言いたくないなら言わなくて良いけどな、一言言って帰れよバカ。」

心配するだろとぼやきながら掴んでいた手でアイアンクローが来るかと思ったらぽんぽんと撫でられた。
私はその手にほっとして、泣きそうな顔でうんと頷いた。
それからはいつも通りで、朝が苦手な私を迎えに来る篤。
篤が来ると思って頑張って準備をする私。一緒に家を出て、学校に通って、
それは偶然希望校が重なった高校まで続いていた。
そう、昨日までは・・・。

昨日、篤が珍しく家に来ていた。
名目は私に数学の宿題を教えるってことだったけど、そういうのは大抵私から篤の家に行っていたから
篤から来る時は私に話したいことがある時だった。
私は篤を家に上げてリビングで2人、宿題を開いた。
いつの頃からか篤は私の部屋に入らなくなったそして宿題はリビングでするようになり、
母さんは篤が来ると気を利かせたのかなんなのかいつの間にか姿を消している。
沈黙の中、カリカリとノートに文字を書く音だけが響く室内で篤が緊張した面持ちで声を掛けてきた。

「郁、俺1組の河野と付き合うことになったから」
「ん。」

それは報告と、もう一緒に居ないという宣言に相違なかった。
ズキリと胸の奥が痛んだけど気付かない振りで軽く頷く。
河野さんは少し前から篤にモーションを掛けてたのを知っていたし、並んだ時
篤とすごくお似合いだったのを思い出して泣きたくなるのを我慢しておめでとうと告げる。

「お前、明日からちゃんと学校来いよ。遅刻すんなよ」
「わかってるよ」

篤の心配性・・・と、心の中で呟いて苦笑を浮かべれば。
丁度2人して宿題が終わったところだった。

「篤、今までありがとね」
「何言ってる。今生の別れじゃあるまいし」
「うん、でももう篤に甘えられないし」

笑えてるかな?ちゃんと笑えてる??あの時の言葉は深く私の心に刺さって、私の恋心を凍らせた。
気付いたのは小学生の時、凍りついたのは中学生の時、それでも隣に立っていたくて
しがみついたけどそれもおしまい。

「なんだよ、ソレ。」

郁が必死に笑顔を作って告げた言葉は、堂上を僅かに不機嫌にさせたらしい。
ふてくされた声を返されて、郁は困ったような表情で首を傾げる。

「だって、河野さんから見たら私お邪魔虫じゃん。今までみたいに甘えたらダメでしょ?」
「それは・・・。」 
「きっと河野さん、篤が私に構ってたら嫌な気分になっちゃうよ。そりゃ、兄妹のように育って家族同然だけどさ。家族じゃないもん。」

郁がそう言い切ると、篤の方が一瞬泣きそうな表情をしてから僅かに頷いた。

「そうだな。じゃあ、明日からは別々だな。」
「そだね。ずっと一緒だったからちょっと寂しいな。」

堂上が肯定の言葉に、ぽろりと郁から本音が零れ落ちるが誤魔化す様に大きく伸びをする。

「さって、そろそろ明日の準備しなくっちゃ!篤もご飯の時間だし帰るでしょ?」
「ああ。ありがとうな。」
「やだな、私何もしてないよ」

2人で立ち上がって玄関に歩き出す。いつも互いが帰る時は玄関で見送るのが普通なのだ。
でもきっとこれも最後、と郁は堂上にばれないように寂しそうに笑ってその背中を見た。

「じゃあな。お邪魔しました、だ。」
「うん、また明日ね。」
「ああ、おやすみ。」
「おやすみ。」

そして今朝、いつもよりもずっと早くに目が覚めた郁は堂上が
普段よりも少し早めに家を出て行くのを扉の影に隠れて見送ってから家を出てきた。
正直なところ、寝た気は全くしないがそんなことを堂上に悟らせる訳にはいかないと会わないように教室も出てきた。
この移動教室は唯一郁が堂上と同じ教科で、郁はギリギリに教室に入り終わって直ぐ教室を出た。
その後は何度か堂上が河野と居る所を見かけてしまい痛い思いをしたが
気付かれない様に移動しては苦しげに息を吐く郁が居た。
堂上はとても誠実で優しい。
きっと長く続く。

「諦められないよ・・・。きっと、ずっと好き・・・。」

誰もいなくなった廊下でポツリと胸の内を零した郁は1粒だけ涙を落とすと頭を振って涙を拭う。
顔を上げた郁はもう苦しげな表情もなくなり背筋を伸ばした凛とした姿で廊下を歩き始めた。

今、郁は授業の終わった廊下を歩いている。
外からの部活をする声や吹奏楽部の楽器を鳴らす音が僅かに響いている。
職員室まで歩いてきた郁は扉の前で1度深呼吸すると静かに扉を開ける。

「失礼します。湯浅先生いますか?」

声を掛けながら部屋内に入ってぐるりと見渡せば探していた教師は奥の自席でプリントをめくっていた。
近づいて声を掛ける。

「先生、今良いですか?」
「ん?ああ、笠原か。どうした?」
「この間のお話なんですけど、お受けしようと思って。」

顔を上げた教師は郁の姿に呼び出したかどうかを思い出しているのか視線を彷徨わせながら
返事を返したが、郁が用件を伝えるとガタンと音を立てて立ち上がった。
郁の両肩を掴むと俄かに騒ぎ出す。

「本当か?!受けてくれるのか!!」
「わっ、ちょっ、先生!!揺らさないでっ!!ぎゃーっ!!」

大騒ぎの教師に肩を掴まれたまま揺さぶられて頭がくらくらするのを必死に耐えつつ抗議する。
悲鳴を上げるころになって漸く正気を取り戻した教師は咳払いをしつつすまんと謝ってきた。
郁は苦笑しながらも大丈夫ですと答えて話の続きを促す。

「返事は来週までだが、構わないなら先方に了承の返事するぞ。」
「はい、お願いします。」
「分かった。」

陸上の顧問をしているその教師は興奮を抑えられないのか鼻息も荒く受話器を手にした。
もう電話する気らしい。
郁はその様子にお願いしますともう一度頭を下げると職員室を出た。
これで後戻りはできないと深く息を吐く。
数日前、教師から持ちかけられたのはオリンピックの強化選手。
その候補に郁が挙げられたこと。合宿に試験的参加しないかという打診があったという話だった。
合宿は長期に渡り、最低でも1か月は合宿先に滞在しなければならない。
陸上に打ち込んでいた郁には幸運なことだったが同時に堂上と離れることを躊躇もしていた。
合宿に行くということは、堂上と離れるということだ。
この合宿に行って成績を出せそうなら今後もそういう機会は増えていく。
増えれば増えるほど堂上とは離れるということで、郁はこれ以上離れたくないと思っていた。
家族としてでも良いから傍に・・・と。
しかし、現実は堂上に彼女が出来た、たったそれだけで平静を保てない自分が居ることに郁はひどく落胆した。
中学生の時、教室に忘れ物をして引き返したら途中の教室から堂上の声が聞こえて足を止めた。
どこだろうと首を巡らすと少し先の教室のドアが開いていて堂上の背中と数人のクラスメイトが話をしているのを見つけた。
郁は背中でも堂上が見えたことが嬉しくて立ち止まったまま見つめてしまった。
その時、すぐに足を動かしていればせめて今告白することくらいは出来たかもしれない。
けれど、その時は堂上が出てくる時に声を掛けたいと思ってその場に留まってしまった。
その時、堂上たちがどういう会話をしていたのかははっきり覚えていない。
ただ、女子の名前を上げては何か言い合っているのは解った。
そして、唐突に自分の名前が挙がってドキリとし、何を言われるのかと聞き耳を立ててしまった。
聞こえてきたのはクラスメイトがからかいを含んだ声で堂上をからかっているように見えたじゃれ合いと、堂上の言葉。

「郁に女を感じるほど飢えてないぞ?あいつは妹みたいなもんだしな。」

郁はその言葉が聞こえた瞬間、忘れ物を取りに来たとかそういう一切のことが頭から消え去り、
ただその場を逃げ出していた。
気付けば郁は人気のない校舎裏の生垣に出来た穴ぼこにすっぽりと身を隠して泣いていた。
かろうじて持ってきていた携帯で部活仲間に気持ちが悪くなったから休んでるとメールしてひたすら泣いた。
そして、郁は堂上の中で自分は女ですらなかったのかと、今更当たり前のことかと過去から今までを思い出し、
自分を構ってくれたのは女だからではなく妹の様な家族同然の人間だったから。
隣の家で小さいころから顔を合わせて、いつも一緒に居させられて仕方なく共にあるようになっていたのだと理解した。
そして、そんな当たり前のことにショックを受ける自分がどうしようもなく、もう手遅れなほどに堂上を好きだということを自覚したのもその時だった。
けれど、だからと言ってああまで言われてこの気持ちを打ち明けられるほどに自分の心に鈍くはなかった郁は、この気持ちは存在しないのだと言い聞かせ心の奥深くに大切に仕舞い込んだ。
それでも、どうしても傍に居ることだけはやめたくなくて郁は自分に条件を付けていた。
堂上に彼女が出来るまで、それまではどれだけ外野に文句を言われようと堂上が呆れようと傍に居たい、居よう、と。
そして、とうとう諦める時が来たのだ。郁は職員室から戻る道すがら滅多にない憂いを帯びた笑みを口元に浮かべていた。
過去を振り返っても楽しいと思った思い出しか浮かんでこない、それほどに堂上の傍は居心地がよく幸せだったと思えた。
そして、前を向いている郁は今後の自分に条件を設けた。いつか堂上が自分以外と結婚するときが来ても、きっと自分はその時も堂上以外を好きになれることはないだろうから、笑って祝福できるように。
そして堂上に自分のことをどこに行っても胸を張って話してもらえるような人間になろう。
自分が唯一胸を張れるのは陸上競技だから、その陸上競技で・・・と、決意すると郁は教室へ戻った。
郁が教室に戻ると堂上が郁の席に持たれて立っていた。入口を見つめていたらしく、顔を上げた郁とすぐに目が合う。

「おい、なんで今日避けた?」
「やだな、避けてないよ。朝は確かにちょっと気まずくて避けちゃったけど、他はただの偶然だよ?」

不機嫌な堂上に問い詰められて郁は先ほどの決意がぶれそうになるのを必死に立て直しながら堂上の言葉を否定する。

「・・・・なら、朝はなんで避けたんだ。同じ教室だろうが。」
「いやぁ・・・だって、堂上が言ってないとは思わなくて小牧にバラしちゃったから。」

嘘ではない、それ以外にもっと大きな理由はあったが、それは堂上に言うものではない。
郁は余計なことを口走らないようにきゅっと唇に力を込めて閉じ、堂上の反応を待った。
堂上は郁の返答に納得したのか小さなため息を吐くと軽く頷いてわかったと言った。
そして郁の鞄を手に取ると帰るぞ、と声をかけてきた。

「ふぇ?いや、いやいやいや、河野さんと帰るとこでしょ、ここ!」
「河野はもう送ってきた。お前今何時だと思ってんだよ。」

堂上の言葉に汗って時計を見れば時計はすでに18時を過ぎていて、冬も迫った秋の夕暮れはもう暗くなり始めていた。

「家帰ったらおばさんがまだだって言ってたから。お前昨日も別にどっか寄るとか言ってなかったし部活やってんのかと思ったら教室に鞄置いてあるし。」

遅くなるなら連絡くらいしてやれよとか小言を言いつつも帰るぞともう一度繰り返した堂上に、郁は泣きたくなる衝動を必死に堪えて精一杯の笑顔を見せる。

「堂上って・・・」

郁が言いかけると、堂上はこちらを振り返って片眉を上げた。

「それ、止めろよ。」
「え?」
「いつも通り名前呼べばいいだろ。」
「あー・・・でも、ほら、河野さんが・・・」

郁が指摘されて困ったような表情を見せ何か言う前に堂上はそれを遮って言葉を繋ぐ。

「郁に苗字で呼ばれるのは落ち着かん。」
「何それ、篤ってほんとお人よしで朴念仁。」

拗ねたような口調の堂上に、この気安さが嬉しいけど苦しいと郁は笑顔の裏で必死に堪えていた。
それでも傍に居られることが嬉しくて顔がほころぶのは止められない。
どうせ合宿まであと1週間だ合宿に参加すればそのあとはどう流れるか解らないが
、頑張っても堂上と過ごす時間も学校に居る時間も減るだろうと腹を括ると二人並んで学校を出た。
郁はその日の堂上の優しさとほんの少しの偶然に喜び、大事に抱え込むと翌日からは普通に過ごした。
暗くなる時間まで学校に残らないように、家に着いたら外に出ず自室で宿題や合宿に行く準備をする。
堂上も自分の部活や河野との付き合いもあるため、郁の様子を早々気にしているわけでもないと判断すると注意深く生活した。

そして、合宿へ向かう当日はやってきた。
郁は合宿に行くことを誰にも言っていなかった。
他校にいる親友とその彼氏にだけひっそりと伝えてあったが、教師には頼んで自分が合宿へ行ってから言ってもらうようにしてあった。
理由は色々あるが、自慢することではないと思うし終われば戻ってくるのに激励会などをされるのも居心地が悪かった。
何より、堂上に言いづらかったのが一番かもしれない。
親にすら口止めをした。
そもそも郁の母親はあまり良い顔をしておらず、誰かに言いふらすことはしなかったが。
郁は出発前の荷物確認をしていた。合宿は試しの2週間で、具合が良ければもう2週間の予定だ。
大きなキャリーバッグに2週間分の荷物を詰めて確認を終えると玄関に向かう。
部屋の外に長男が立っていて郁のキャリーバッグを引き取ると玄関先まで運んでくれた。
集合場所までは顧問の先生が送ってくれることになっている。

「郁、あなた本当に…」
「行くよ。母さんには悪いけど私は走るのが好き。走ることを仕事に出来るほどの何かがあるかはやってみないとわからないけど、胸を張っていたい。そのための精一杯の努力をしたい。これは、そのチャンスなの。」

出発の日にまでなんで、どうしてと子供のようにぐずる母親に顔を顰めながら譲らない郁は、
自分の気持ちをハッキリ伝えると黙り込んだのを確認して踵を返す。
玄関の扉を開けると丁度先生が車をつけたところだった。

「おはようございます!今日はお願いします。」
「おはよう、笠原。こちらこそ、ちゃんと送り届けるからな。」
「はい!」

挨拶をした郁に笑顔で答えた先生は荷物を確認すると荷台に積んでいく。
郁は兄や出勤前の父親に激励を受け、漸く諦めたらしい母親に心配されながら準備の出来た先生の後部座席に乗り込んだ。
我慢できず、隣の堂上家の2階を見上げる。
青っぽいカーテンの引かれた窓が堂上の部屋だ。
堂上は今日事の次第を知ったら怒るだろうか?嫌われてしまうだろうか?決心したのは自分だが、
黙っていたことが僅かな隙間に不安を詰め込んできた。
行くぞ、と先生が声をかけて両親と兄たちに視線を戻すと手を振った。
車のエンジンがかかり、動き出しす直前で郁の携帯がなる。
マナーにしていないそれが奏でたのは郁が堂上専用に設定している着メロだった。
しかも、通話ではなくメールの。びくりと肩を揺らし恐る恐るメールを確認する。
本文を読んで勢い良く振り返ると堂上の部屋の窓を見た。
カーテンが開いて怒ったような表情の堂上が窓の向こうから手を振っていた。
なんで、どうして、と頭の中で繰り返す。
どうして堂上は、いつだって自分のやることを許容してしまうんだろうか。
もう一度、郁はメールに視線を落とす。
そこには堂上らしいぶっきらぼうで端的な言葉で激励も気持ちが綴ってあった。

**************
From:篤
To:郁
Sub:
――――――――――――――
お袋から聞いた。
黙ってろって頼んだのは許せんが
、ちゃんと頑張ってこい。
胸張って頑張ったってお前が言え
るくらい頑張って帰ってきたら口止
めのことは許してやる。励めよ。



**************

きっと堂上は郁の堂上への恋心なんて知らない。
だからこその文章で、それでも郁にとっては何よりも頑張れる魔法の言葉になる。
郁は後部座席で携帯を抱きかかえ少しだけ声を殺して泣いた。
小さく、篤のバカ。と呟きながら。
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趣味:読書・昼寝・ネットサーフィン
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実写映画から図書戦に完全に嵌りました。暢気で妄想大好きな構ってちゃんですのでお暇な方はコメント等頂けると幸い。

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