龍のほこら はつこい 5話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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本日2つ目の更新になりました。
いえ、はつこいを今日更新するってツイッターで宣言したのに
うっかりすっかり忘れてたなんて言いませんよ、ええ、言いませんとも←

漸く話し合うきっかけを掴めた2人、距離を変えるために動くのか。
意外な・・・と、思われる人がたぶん登場しますw

それでは、本編スタートよりお楽しみくださいませ。


拍手[131回]





郁が泣き止んだのはそれから10分もした頃だろうか。
声が枯れて掠れるほどに泣いたのはいつ振りかと思うほどで、目はすっかりと腫れてさぞや不細工な顔になっていることだろうと思うと埋めていた肩から顔を上げられずぐりぐりと額を押し付ける。

「大丈夫か?」

郁が落ち着いたのに気付いたのだろう堂上から控えめにそんな声がかかる。
いつからだろう、いつもと変わらぬ言葉がこんなにも耳心地の良い低い声になったのは。
いつからだろう、自分が泣くたびに囲ってくれた腕がこんなにもたくましくなったのは。
いつも隣で同じように育ってきたのにこんなにも違う。
郁は何故かそんな考えが唐突に頭を過ぎり頬に朱が過ぎる。
しかし、そんなことで返事を返せないままでは逆に堂上に心配をかけると声を出そうとしたがうまく出ない。

「ん・・・。」

仕方なしに引き攣る喉から音を絞りだし頷くだけで返すとそうかという静かな相槌だけが返ってきた。
郁がただ相槌だけで動かない堂上に甘えてもう少しだけと肩にすり寄ると急に堂上から肩を掴まれて引き離された。
はっと我に返った郁は甘えすぎたと思い焦る。
そして、急な堂上の態度に理由も聞かず勝手に拒絶されたと判断しそうになる思考を必死に押しやり、滲んでくる涙を俯くことで隠そうとした。
堂上はそんな郁には気付かないのか、必死に涙を隠そうとする郁には聞こえなかったのだがちょっと待ってろと呟いてお構いなしでその場を離れていく。

「あ・・・。」

まだ離れて欲しくないと思ったのにという郁の思考は堂上に気付かれることはなく、あっさりと向けられた背にくぅっと喉が鳴る。
ぎゅっと目を閉じて、泣くのを堪えていると、目の前に再び気配を感じて顔を上げた。

「どうした?気分悪いか??」
「あ・・・ちが・・・だいじょぶ。」

顔を上げると視線の先には堂上が郁の鞄を手に心配そうに郁の顔を覗き込んでいた。
どうやら堂上は郁が最初に投げ出した、離れた場所にあった鞄を取りに行ってくれていたらしい。
郁は戻ってきてくれたことに安堵しながらももう一度離れるのは嫌だと無意識に手を伸ばすと、堂上はその手を取って指を絡める様に握り返してくれた。
それが嬉しくて、ホッとできて漸くほんの少しだけ笑みが浮かべれた。
そんな郁にホッとしたのか、堂上も表情を緩めると鞄を近くに置いてから郁の正面に立つ。
何をするのだろうと首を傾げた郁の握った手を一度離して両脇に手を入れると軽々と持ち上げて机の上に座らせた。

「ひょぇ?!ああああ、篤ぃっ?!」
「ん?」
「なっ、なっ、何やってっ?!」

まさかの堂上の行動に、私重いのにとか、何で跪いてんのとか、言いたいことも聞きたいことも一気に溢れて郁は裏返った声で叫ぶ。
しかし、慣れているとばかりに意に介さない堂上は郁の足元に跪いたまま、その足にそっと手を伸ばして触れてきた。

「えっ?えぇ??篤っ?!」

未だに思考が追い付かない郁は、堂上が足とはいえ素肌に触れていることに顔を真っ赤にして堂上を呼ぶ。
堂上はちらりと郁を見上げるとそのまま足を見分し始める。

「お前、さっき立った時びっこ引いただろ。」
「え?」

郁は言われたことがすぐに理解できず首を傾げた。
さっきというのは堂上が手を引っ張った時の事だろうと思うが痛みがあった覚えはない。
今は色々緊張しているせいで色んな感覚が麻痺しているせいもあるのだろうが、郁には自覚がなかった。
なのに、堂上はなんで気付くのだろう?と先ほどの羞恥も忘れて、真剣な表情で郁の足を見分している堂上を見つめる。
堂上がその視線に気づいたのかは定かではないが、不意に顔を上げて視線が絡むのにドキリと郁の心臓が脈打つ。

「バカ、そんな顔してんな。」
「そ、そんな顔って!」

突然の言葉にどんな顔よ!と食ってかかれば、堂上は拗ねたような表情でふいっと顔を背けてしまう。
郁はそれが拒絶に見えてしまって、怒らせた?と不安になってビクビクしながら堂上の行動を見つめてしまう。
堂上は郁のそんな様子に気づかないのか近くに置いた鞄を手に取ると郁に手を差し出してきた。
拒絶を恐れる郁は堂上の行動がさっぱりと読めず、差し出された手と堂上の顔を交互に見ながら首を傾げてしまった。
少しして、いつまでも見つめるだけで動かない郁に焦れたのか堂上がさらに手を伸ばしてきて手を掴まれる。
軽くその手を引かれて郁が立ち上がると少し我慢しろと告げられて何をするつもりなの?とさらに首を傾げていれば突然の浮遊感に口から悲鳴が飛び出した。

「ひぁっ?!」
「煩い。」
「なっ?!やっ、あ、篤っ?!ちょっ、何やってんの?!私重いって!!」
「だから煩い、落とすぞ。」

慌てて声が大きくなった郁に耳元で叫ばれて顔を顰めた堂上に脅されて、その声に本気を感じとって郁はピタリと固まった。
固まったが、今の状況についていけない郁は顔を真っ赤にして堂上の顔を凝視している。
堂上の方はと言えば若干しかめっ面をしながらも片腕に郁の鞄を引っ掛けた状態で郁を両腕に抱きかかえている。
いわゆるお姫様抱っこというやつで、今までそんな扱いをされた覚えのない郁は口をパクパクさせながら堂上から視線を外せずにいた。

「足、結構酷いみたいだから保健室行くぞ。恥ずかしいなら顔隠してろ。」

抱き上げられて近くなった顔、落とされた低めの声は郁に知恵熱を出させるには十分だったらしい。
一気に頭に血が上った郁は少し前の恐怖や緊張も手伝ってかそのまま意識を失ってしまった。
次に目を覚ますと郁は自室のベッドの上でパジャマ代わりのスウェットを着て寝ていた。
ぼんやりとした寝起きの頭で、なんでここに居るんだっけ?と記憶を辿って昨日の夕方誰もいない教室で起こった出来事を思い出しカタカタと身体が震え始めるのを両腕で抱きかかえる。
しかし、すぐにその後の堂上とのやり取りを思い出して今度はかぁっと体温が一気に上がるのを感じてベッドの上で悶え始める。

「いっ?!つぅ・・・。」

悶え始めて少しもしない内に、足首に走った痛みにびくりと身体を跳ねさせると足を抱えて丸まった郁は上掛けを剥いで痛かった足を見た。
そこにはしっかりと包帯が巻かれ固定された足首があり、郁はそういえば堂上が足を怪我してると言っていたなと思い出す。
まるで他人事のような記憶だが痛みを伴って漸く自分が怪我をしたことを納得すると今度は痛みが出ない様に注意しながらそろりと起き上がって足を床に下した。
同時にかちゃりと音がして一番上の兄が顔を出した。

「お、起きたか。」
「大兄、どうしたの?」
「どうしたのってお前、昨日篤が背負って帰ってきたかと思ったら昏々と眠り続けて挙句にその怪我。何があったかは篤に聞いたし、先生にも報告してあるって言うから父さんも母さんも一先ずお前次第って黙ったけどな。」

顔を出した長兄に、きょとんとした表情で問いかければ困ったような笑みで閉めたドアに凭れ掛かって昨日のあの後を教えてくれた。
郁は話を聞いて全部を堂上に任せっきりにしてしまったと顔を顰める。
しかし、ドアから離れて近づいてきた長兄がぽんっと頭に手を置いてくしゃくしゃと撫でてくると携帯を指さされた。

「何?」
「たぶん、篤からメール入ってると思うぞ。」
「ん・・・。」
「あと、足な。この間合宿で世話になったコーチからタイミング良くお前に連絡入ったんだと。で、事情話してスポーツ医科学の先生紹介して貰ったらしいから着替えたら行くぞ。」

長兄は歳が離れている分、こういう時何も言わないのを郁は心地よくありがたいと思っていた。
頼ればしっかりと請け負ってくれるが、頑張ってる時には決して口を出さずに見守っていてくれるのだ。
今回も篤が説明したから余計なことは郁に言ってくるつもりはないんだろうと、撫でる手を受け入れて素直に頷けば仕上げにぽんぽんと二度叩かれた。
堂上と同じ様なしぐさなのにまったく違うなとぼんやり考える。

「篤は?」
「学校行ってるはずだぞ?後始末があるとか言ってたし。」
「・・・・そっか。」
「とりあえず、お前は病院。」
「ん、今から着替える。」
「ああ。母さんが心配してたから小言は覚悟しろよ。」
「えー・・・。」

 そんな兄妹の何気ないやり取りをして、長兄が出ていくのを見送ってから郁は携帯を手に取った。
長兄の言う様にメール着信のランプが点滅し、画面には未読メールのマークが表示されていた。
開いてみると差出人は堂上で、郁は何が書いてあるのかと躊躇しながらもメールを開く。

**************
From:篤
To:郁
Sub:no title
――――――――――――――
足結構酷く挫かされたみたいで熱
が出るって保険の先生が言って
た。
大丈夫か?
今日は保険の先生を通して欠席
連絡してある。ゆっくり休めよ。夜
そっち行く。寝てても良いが今日
は起こすから。




**************

ぷつぷつと用件だけが細切れに書かれたメールに、堂上らしいと感じてクスリと笑って返信ボタンを押す。
返事を書きながら、郁はやっぱり何度か夢心地の時に頭を撫でていたあの手は堂上ので間違いなかったと確信する。

**************
From:郁
To:堂上篤
Sub:おはよ
――――――――――――――
今から病院行ってくるよ。
結果はメールする。
夜待ってる。




**************

作成したメールは堂上のと変わり映えしない用件だけの短文で、それでも今までと同じように接して貰える安心感から笑顔で送信ボタンを押すと足に気を付けながら立ち上がって着替えた。
1階に下りていくと長兄の言う通り、母親が色々と小言を言ったり心配をしたりせわしなかったが連れ帰ったのが堂上だったこと、朝一番で教師から首謀者を把握していることなどの連絡があったらしく郁が想像するよりもずっと軽いもので終わった。
そして病院へは長兄が運転手を兼ねて付き添ってくれることになり送り出された。
行き道は割と長い道のりではあったが、長兄と他愛のない話で過ごした。
診察も問題なく、会計を長兄が済ませている間に郁は堂上に結果のメールをした。
そして長兄を待って車に乗り込むと帰り道に着いた。

「松葉杖にはなっちまったけど、まぁ、全治1か月もなくて良かったな。」
「うん。」
「で、お前・・・篤とどうなってんの?」
「うぇ?!」

携帯を鞄に仕舞う郁を横目に運転席でハンドルを握りながら長兄が口にした言葉は、郁には唐突すぎて目を白黒させながら横を振り返る。

「なっななななっ!なぁ?!」
「馬鹿だろ、お前。」

何そんなにどもってるんだと、郁の反応が面白かったのかお腹を抱えて笑いだしそうな長兄の様子に羞恥で涙目になって睨む郁。
長兄は郁を見ながら苦笑を浮かべてハンドルから片手を外すとぽんぽんと頭を撫でた。
郁はそれに拗ねた顔で唇を尖らすと上目遣いに睨む。
長兄はそれすら飄々とした表情で受け止めて、手をハンドルに戻すと口を開く。

「お前を連れ帰った篤の様子がな、すっごい怒り狂ってたからな。お前は篤以外の手だと判るのか嫌がったし。事件が事件だけどどうしたもんかって言ってたんだよ。」
「それでなんで…。」

長兄の説明と口振りに不満がそのまま口から出て行く。
郁はこの気持ちを一度として誰かに伝えたことはない。
決して言わないと決めた、けれど大切な気持ちだったから長兄の問いかけは無断で荒らされたような心地を味わった。

「お前、1週間くらい前に篤と喧嘩かなんかしただろう?その後篤もお前もお互いに避けてるみたいだったし。なのに昨日あんな風に帰ってきて、あまつさえ無防備無意識な部分で見せつけられたらな。」

郁の不満は承知だったようで苦笑を深める形で笑みを濃くした長兄が理由を言えば、そんなに分かり易かったのかと漸く自分たちの子供っぽさを自覚して郁は頬を染めた。
それから、景色が走る窓の外へ視線をずらし小さな声で事実だけを伝える。

「どうもこうも、篤とはただの幼馴染だもん。どうもこうもないよ。」

声が湿っぽくなるのはこの際許して欲しい、と郁は誰にともなく心の中で言い訳する。
長兄はそんな郁の様子を見て思うところがあったのか、そうかとだけ頷くとそれ以上は何も聞いてこなかった。
ただ、家に着く寸前でまた郁の頭を撫でながらこう言った。

「お前の良い所は素直なとこだと思うけどな、ダメなところはその頑ななとこだな。篤と直接話してないならちゃんと話せよ。」

何がとも何をとも言わない長兄の、しかし今一番最適だと思われるアドバイスなのだろう。
郁はそれを受けても返事を返せなかった。
ただふるりと首を振り泣きそうな顔で笑ってみせた。
それから郁は遅めの昼ごはんを食べて自室に戻ると何もする気になれずベッドに転がってうとうととしていた。
平日の昼間は中も外もそれほど音が響く要素はない。
微睡んでいる間にいつの間にか寝入っていた。
気付くと真っ暗な中でふわりふわりと髪を撫でていく何かがあった。

「んっ・・・。」

優しく撫でていくソレが気持ち良くて、身じろぎしながら頭を摺り寄せるとくしゃりと撫でられる。
その感触でそれが良く知った手の感触だと気付き、郁は慌てて目を開けた。

「あっ・・・ごめっ!!起きてるつもりだったのにっ!!」

目を開けた先には、眉間に皺を少し困ったような表情をした堂上が居た。
郁はワタワタとしながら足のことを忘れて勢いよく飛び起きようとして、堂上に止められてベッドに沈む。

「え・・・っと、篤?」
「バカ、急に飛び起きたら足が痛むだろ?」
「あ・・・ぅ、ごめん、ありがと。」

易々とベッドに戻されて目を瞬かせた郁が問うように堂上を見ると、堂上は小さなため息と共に止めた理由を告げる。
それに納得してお礼を口にすれば、んっという頷きと共に手を差し出された。
何?と思う間もなく堂上に手首を掴まれて足に負担がないように体を引き起こされる。
まるで壊れ物を扱うような仕草のそれに、郁はどぎまぎしてしまい高鳴る胸に沈まれ!!と内心で必死に叫ぶ。
ちらりと見上げる堂上の方は、何も思っていないのかいつも通りで少しだけ仏頂面をしてるのはやっぱり怒ってるからかな?などと思いながらベッドの上に座り込む郁。
デスクの椅子を引き寄せてそこに座った堂上は漸く落ち着いて郁を見つめてきた。
視線が合う、それだけで頬に朱が上りそうになるのを郁は必死に堪えて俯く。

「まずは、足・・・そんな酷くなかったみたいで良かったな。」
「あ、うん。ありがとう・・・篤来てくれなかったらもっと酷いことになってた・・・たぶん。」

郁が俯いたからか、反対側で堂上の僅かに唸るような口籠ったようなくぐもった声が聞こえた。
それから咳払いが聞こえて漸く声がかけられる。
その言葉に頷きながらあの時を思い出して知らずに身体が震えてくる。
もし、堂上が間に合わなかったら・・・そんなことを考えたくはないが酷いことになっていたのは間違いなく、震える身体を両腕で抱えるとキィッと椅子の軋む音が聞こえてぽんっと頭に手が乗る。
それだけで身体の震えがピタリと止まったことに思わず置かれた手の下からその持ち主を見上げる。
目の前に立って困ったような表情は相変わらずだが宥めるようにぽんぽんくしゃりと繰り返し撫でる手が優しくて目を細める。
郁が自然と表情を緩めるとスルリと降りてきた手が頬を撫でた。
驚いて目を見開くと、親指がするりと目じりを撫でていく。

「あ・・・つし・・・?」

丁寧に拭うように撫でる指のしぐさに、ドキドキして声が掠れ、とぎれとぎれにだが堂上の名を呼んだ郁。堂上がぎゅっと目を閉じて何かを悔やむように苦しげに言葉が落とされた。

「ごめん・・・。あんな目に遭わせて・・・無事で良かった・・・。」
「篤・・・。」
「河野が知らせてくれたんだ。」
「河野さん?」
「ああ。」

河野の名前が出てきて、僅かに身体が硬直するのを感じたのか堂上は目を開けて郁を見つめる。
心配そうな視線になんとか笑顔を繕うと頬を撫でていた手が後頭部に回って引き寄せられた。
自然と抱き込まれる形になって、郁は慌てて堂上の胸に手を突っ張る。

「ちょっ、ちょっ、篤っ?!」

郁の声に堂上の手が緩み、再び見つめ合うと堂上が先に視線を逸らせた。

「河野とは別れた。けど、それが遅くてお前にとばっちりがいったんだ。」

視線を逸らされて、抵抗したのはダメだったかと何故か不安が郁を襲う。
けれど、流されるのは良くないと思った矢先に堂上から落とされた爆弾は郁の思考を完全に停止させた。
別れた?そういえば振られたって言ってたような??男子生徒に襲われた出来事の方が大きく、その衝撃で飛んでいた河野との会話を思い出した郁は、それではいそうですかとは受け入れられなかった。
しかし、突っ張っていた腕の力は抜けてしまっていて、今度は簡単に堂上に抱き込まれた。立った時の身長差では出来ない体制で、堂上の胸元に顔を埋めて鼻孔を擽る香りに頭がくらくらすると固く目を閉じる。
無意識にきゅっと胸元に当てた手で堂上の服を握った。

「河野の友達だって女たちが河野に黙ってあの男たちに郁をどうにかしろと言ったらしい。」

腕の中に納まった郁の背に片腕が周り、後頭部にあった手はゆるゆると髪を弄っては梳いていく。
襟足を指が掠めていくのがくすぐったくて首を竦めると背中の腕の力が強まって郁は顔が熱くなるのを感じ、ぐりぐりと額を堂上の胸に押し当てた。

「あの男たちと河野の友達だっていう女2人は玄田先生に突き出しといた。」
「へ?」

名前も知らない、顔覚えも悪い郁では犯人も理由も捕まらないと思っていただけに、堂上の言葉は予想外で思わず撫でる手を跳ねのける勢いで顔を上げる。
すると、優しい目で自分を見つめる堂上と視線が合い一瞬で首筋まで熱くなった。
きっと真っ赤だななどと現実逃避に考える。

「河野が、こんなこと頼んでないって女2人に怒って、俺もあの男たち3人は顔知ってたからな。」
「そ・・・そっか。」

度々出てくる河野の名前に、顔を顰めそうになって郁は再び顔を伏せようとして堂上の手に阻まれ頭を抑え込まれた。

「あ、篤??ちょ、放してよっ!!」

強引に合わされた視線に紅くなっているせいもあり恥ずかしくて、視線を彷徨わせてそう言えば堂上の視線が強くなる。
おずおずと視線を堂上に戻すと、射抜くような漆黒の瞳とかち合う。

「俺はお前にちゃんと言ったぞ?河野と別れた。」
「そ、そうなんだ・・・。えと、その・・・。」
「お前は?あの男は・・・。」
「あっ、あれはっ!!」

じっと見つめられてオロオロしていた郁だったが、繰り返し聞かされる事実に頷いた直後問われた言葉に弾かれたように堂上の腕の中から逃れようともがきだす。
郁が暴れるからか、抑える腕の力が強くなっていく。

「つっ・・・やっ!やだっ!!」
「郁っ!!」
「やだっ!!やだやだっ!!!篤、私の話聞いてくれないもんっ!!」

背中に回された腕の強さに痛みを感じて声が漏れるが、それどころではないと必死に暴れ無意識に声に出して叫ぶ。
堂上がその郁の叫びに反応したのかピタリと動きを止めたのを機に腕から抜け出すと距離を取って堂上を睨みつける。

「私っ!ちゃんと言ったもんっ!!あの日、彼氏なんて居ないって!!あいつとは付き合ってないって言ったもんっ!!」

今にも零れ落ちそうなほどに涙を溜めて郁が堂上を睨むと、動きを止めたままの堂上はあの日を思い出しているのかしばし固まった後軽く目を見開いた。
郁はそんな堂上を見て話も聞いてもらえない程に嫌われていたのだろうかと斜め上に思考が走りかけて、溜めていた涙をポロリと零す。
郁の涙に我に返ったらしい堂上が、はっとした表情で郁に手を伸ばすが何も言わずに伸ばされたソレを郁は反射で払ってしまう。
パンッという乾いた音が響いてジンジンとする指先に郁は自分の行動に気付いて目を見開くと、押し寄せる後悔に涙腺が緩んでいく。

「うぅ~・・・」

堂上は払われた手を呆然としているように見えるが、滲み始める視界と今度こそ嫌われるかもしれないという思考に囚われてもうまともに考えられなくなっていた。
堪えようと思っても次々と湧き出てくる涙は止めようがなく、頭の片隅に残った妙に冷静な部分が最近よく泣くななどと考えるのを感じながら流れるに任せて泣き始める。

「うぅ~・・・っく、ひっ・・・あっ・・・あつっ・・・くっ、あつしのばかぁ~・・・」

郁は八つ当たりだと解っていてもどうしようもなく、そう言うと本格的に泣き始める。
手で涙を拭うように目をこすりながら子供のように泣く郁に、堂上は戸惑った様子を見せていたがしばらくするともう一度そっと手が伸ばされた。
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実写映画から図書戦に完全に嵌りました。暢気で妄想大好きな構ってちゃんですのでお暇な方はコメント等頂けると幸い。

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