龍のほこら はつこい A-3話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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こんにちは!
今日は何を更新しようかなとストックを眺めながら、お待たせしているこれがあったなと引っ張り出しました。
まだ後半戦が書き終わっていない篤編ですが、漸く折り返し地点に到達しました。

篤にも篤なりの葛藤があることを表現出来ていたらなと思うのですが、微妙かな?
見れば見るほど我儘な男にしか見えないなと近頃思ってしまっています(苦笑)
決してそういうつもりはなく、ただ色恋沙汰には疎すぎるスポーツ人間、青春小僧を目指していたはずなんですけども(笑)

まぁ、そんな愚痴はさておいて、今回も皆様に楽しんで頂けることを祈って公開です。
よろしければ、「本編スタート」よりご覧くださいませ。





翌日、郁が帰ってきた頃に堂上は教室で携帯を弄っていた。
今は休み時間で教師も居らず咎められることもない。
何かを組み立てては消してやり直している様子を後ろから小牧が眺めていた。

「堂上、さっきから何してるの?」
「っ?!こ、小牧?!お前、いつから・・・」

眺めていても気づかない堂上にしびれを切らしたのか、小牧がのしっと頭に手を置いて伸し掛かりながら堂上に声を掛けてきた。
携帯に集中していた堂上は小牧のその行動に驚いて、面白いほどに飛びあがると慌てて小牧を振り仰ぐ。
その様子にぶふっとくぐもった声を上げた小牧は笑いを堪えつつ堂上の手元を除き見る。
堂上の方は携帯を見られているのに気付いて慌てて画面を消すとポケットにしまったが少し行動が遅かったようだ。

「あ~・・・笠原さん、今日帰ってくるもんね。」

ちらりと見えた宛先で納得したように頷いた小牧に舌打ちをしてそっぽを向く堂上は、耳が僅かに紅くなっているが自覚はない。

「1か月も居ないのって案外寂しいよね?」

面白そうに堂上を見ながら、しかしからかいを含まずさらっと言った小牧の言葉に思わず視線を戻して凝視する堂上。
小牧はそんな堂上に苦笑しながら、だってクラスメイトだしと言う。

「笠原さんはムードメーカーでもあるからさ。」
「煩いだけだろ」

からかうでもない小牧の言葉に、僅かに肩から力が抜けて憎まれ口を叩いた堂上はしかしまた携帯を取り出してメール画面を開く。
今度は宛先を入れずに本文を眺めているだけだ。

「送らないの?」
「送らない。どうせ今日帰ったら会いに行くから。」
「そうなんだ。」
「ああ。」

深追いはしない小牧の態度にほっとしてありがたく思いながらメール画面を消すとポケットにしまう。
丁度予鈴が鳴り小牧も席に着いた頃に教師が入ってきて授業が始まった。
そんな時間は堂上にとって久しぶりにあっという間に過ぎた気がすると放課後になって息を吐く。
部活もあるが、今日は自主練の日だ。
軽く一通りの練習を流してさっさと帰ろうと鞄を持つと廊下に出た。

「堂上君!」

武道場に向かうため一歩を踏み出した所で呼び止められる。
振り返ると河野ではなく河野の友人だと言われた女子生徒だった。

「何か用か?」

河野が一緒ではなく、その友人だという女子生徒だけなのを訝しみ警戒しながら訪ねる。
女子生徒は僅かに竦みながらも口を開く。

「文美と別れたの?」
「言う必要があるのか?」
「今日、笠原さんのことばかり小牧君と話してたじゃない。」
「だから何だ。」

誰と、どの話をしようと自分の自由じゃないのか?と僅かばかり機嫌が降下するのを自覚する。
彼女が河野であることは否定しない。
今現状そういう関係であるということは事実だ。
しかし、だからと言って話題まで制限されるいわれはないと堂上は思う。
しかし、この目の前の女子はそうじゃないらしいと思えば不快さは上がる。
これが河野からの進言であれば多少は考えるが、相手は他人だ。
僅かばかり眉間に皺を寄せて、睨むとその女子生徒はどこか悔しそうな表情を見せて踵を返し立ち去って行った。
そして、そういえば彼女はクラスメイトだったかと今更なことに気付く。
やや面倒くさいと思い小さなため息を吐くと気を取り直して部活へと向かった。
部活を終えて堂上が家に帰宅したのは夕暮れも過ぎた頃だった、一度荷物を置き簡単に着替えると親に声をかけて隣の家に行く。
呼び鈴を鳴らすと郁の母親が顔を出した。

「あら、篤君どうしたの?」
「郁と会う約束してるんですが、お邪魔してもいいですか?」
「ええ、もちろんよ。どうぞ。」
「お邪魔します。」

郁の母親の問いかけに簡単に返事を返すとあっさりと通される。
部屋に居ると思うと言われてそのまま部屋に上がらせてもらうと扉の前で足を止めてノックをする。
しばらく待つが反応はなく、もう一度ノックすると隣の扉が開いた。

「あれ?篤?」
「あ、小兄。」
「郁ならたぶん寝てるぞ?」
「え?」
「入って起こせ。」
「いや、でも。」
「俺が許す、ほれ。」

隣から顔を出したのは笠原家の三男で部屋の前で困っている堂上を見て廊下に出てくると郁の部屋の扉を開けて堂上の背を押した。
堂上が遠慮していると、お前なら大丈夫だろと笑って部屋に押し込んで部屋の扉を閉めて出ていく。
堂上は信頼のされ方をどう解釈すべきか困りつつも、まぁいいかと扉のそばから一歩中へと入る。
三男の言う通り郁はベッドで上掛けもかけずにすやすやと寝入っていた。
1か月の合宿で疲れたのだろうと思い見れば涙の後が見える。
堂上はベッドサイドに寄ると床に腰を下ろし郁の頭に手を伸ばす。
同じ年だが郁は何かとよく泣いたりするタイプだった。
感情豊かで優しいと言えば聞こえはいいが、何をするにも少しのことで泣き出したり涙ぐんでいた。
郁が人前で泣かなくなったのはいつからだったか、堂上ははっきりと覚えてはいない。
ただ、兄との喧嘩が原因で泣くもんかと堪えるようになったのが最初だった気がすると、髪に指を絡めて撫で梳きながら思い出す。
堂上は笠原の3兄弟よりも郁の泣き顔が苦手だった。どうして良いのか判らず、兄が泣かしたことであっても堂上が撫でて宥め必死に泣き止ませていた。

「今でも泣き顔は苦手だな。」

深く眠っているのか、触れていても起きる気配のない郁に思わずぽろりと言葉が落ちる。
このまま寝入っているなら起こさずに帰ろうかと立ち上がったところで郁から声が漏れた。
小さな、ぐずるような声で起きようとしているのかと気付くが疲れているのに起こすのも忍びなく、眠りを促すようにいつもやるようにくしゃりと指を深く髪に絡ませ撫でた。
撫でたことで絡まった髪を解くように指を通していると徐々に呼吸が深くなる。
堂上はそんな郁を見て今日話したかったことを思い出す。

「お前にとって俺は何だろうな。俺にとってお前はただの幼馴染なのか、それとも・・・。この答えが出せなきゃお前にも、河野にも何も言えない。」

話せば解る気がしたのにと名残惜しい気持ちが心の表面を撫でる。
零れ落ちた言葉を紡いだ声は頼りなく、泣いている様に震えてしまった。
郁はそれに反応したのかぽつりと言葉にならない声を落とした。
囁くようなそれに耳を近づけるが、結局言葉としては聞き取れず、まだ吐息のような言葉を落とす唇を見つめる。
堂上は知らず指先を伸ばしその唇に触れていた。
スッと紅を引くように指を動かすと、「んっ」と鼻から抜けるような女を色濃く纏った声が漏れた。
堂上はその声に誘われる様にそのまま顔を近づける。
触れる寸前、ふと鼻先をカミツレの香りが掠め堂上は我に返った。
間近に迫った郁の顔に目を見開き、慌てて身体を引き離す。
ドクドクと血が体中を巡り全力疾走した後のような動悸が堂上を襲う。

「俺は何を・・・。」

その場に蹲り、頭を抱えて小さくぼやく。
郁からまた、小さなぐずるような声が聞こえてきてそれが堂上の心を刺激する。
今までそんな対象に見たことがなかった郁が、しかし無防備に晒される寝顔に今にもどうにかしたい衝動に駆られる。
ぐっと手を握り締めると深く息を吐く。
そのまま部屋を出ようと思ったが、このまま夜になれば郁が風邪を引くかもしれないと思うとそのままにはできずもう一度大きく深呼吸してから郁に近づいた。
郁を抱き上げて上掛けを捲るとそっとベッドに戻して肩までかけた。
抱き上げた郁の軽さややわらかさ、甘い香りにくらくらとする己を叱咤すると電気を消してそっと部屋を出た。
扉の前で思わず脱力して蹲ると、下から郁の母親がお盆を手に上ってくるところだった。

「あら、郁は?」
「あ・・・合宿で疲れたみたいで、寝てます。」
「あら、起こせばいいのに。」
「明日でも明後日でも良いことなんで。」
「そう。」

郁の母親が郁を起こしに部屋に入ろうとするのを止めて断った堂上は、そのまま下に降りようと階段に身体を向ける。
ふと郁の母親に見られていることに気付き、堂上は郁の母親に向き直った。

「何か?」
「・・・・ねぇ、篤君。篤君から言ってくれないかしら。」
「誰に、何をですか?」

何か思いつめたような郁の母親の言葉に、訝しく思いながらも自分の母親への伝言かと聞き返す。
郁の母親は僅かに迷ったような表情で視線を宙に彷徨わせてから徐に口を開いた。

「郁にね、陸上はもう止めて女らしい文化部に入りなさいって。ほら、他の子は良いかもしれないけど郁はあんなだし、せめて部活くらい・・・。」
「それは、おばさんが郁を玩具にしたいってことですか?」
「え・・・?」

堂上は郁の母親の自分勝手な言い分に腹が立って思わず低く唸る様に言ってしまう。
郁の母親が本当は郁をとても大事にしていることは知っていた。
しかし、郁の気持ちも何もかもを無視して自分を押し付ける様を見せつけられて怒りの方が先行してしまったのだ。
ぽろりと落とした言葉はしかし取り返しはつかない。
堂上もそれを取り戻す気はなく、言葉の内容を理解して郁の母親が怒りに顔を青くし震えるのを見据えて睨みつける。

「郁は、今のままでも十分に可愛い女の子でしょう。不器用かもしれないけど、自分よりも他人を優先して気遣っていつだって笑って見せてる。確かに他の女子よりは元気かもしれないけど、あれだけ素直に成長してるのに何が不満ですか?」

郁の母親がヒスを起こして何かを言い出す前に、堂上は先手を打って口を開く。
先ほど唐突に気付いた異性としての郁、しかしそれ以前から女の子らしい郁を堂上はずっと見ている。
妹だと思っていたからそれに異性を感じなかっただけで、それを可愛くないなどとは思っては居ない。

「おばさんが理想とする女の子じゃないかもしれない。けど、郁は郁だ。貴女の娘なのに、なんで郁を信じてあげてくれないんですか。郁は自慢出来る娘さんだと思いますよ。」

堂上の言葉に口をはさめず黙り込んでいる郁の母親にそう言い切り堂上は返事も聞かずに階下へと降りて行った。
少しして郁の隣の部屋の扉が開いた音がしたが、堂上は振り返らずに玄関先で「お邪魔しました」と告げて自宅へと戻った。
翌朝、まだ今日は朝練がないらしい郁を置いて堂上は登校していた。
朝練を終えて教室に行くと少しして郁が教室に入ってきた。
黙って合宿に1か月も参加していたために入った瞬間からクラスメイトに群がられているのが視界に入る。
気にしない振りで横目で追えば、郁がこちらを見たのが見えた郁の表情を見るとどこかすっきりとした風に見えて郁の母親との話がきちんとついたのだと思えて堂上は無意識に口角を上げて微笑む。
そして、堂上が郁に声を掛けようとした時、廊下側から堂上を呼ぶ声がかかった。
そちらに振り向くと河野が顔を出して堂上に手を振っていた。
堂上は逡巡するが郁が帰ってきたなら話す機会はあるだろうと先に呼ばれた方の用件を聞くために席を立った。

「なんだ?」
「ごめん、教科書貸して欲しくて。」
「忘れたのか、珍しいな。」
「うん、予習して入れ忘れたみたい。」
「教科は?」
「国語」
「ん。」

申し訳なさそうな顔で見てくる河野に不思議に思って訪ねれば、付き合い始めてから一度も聞いたことのない理由で思わず思ったことを口にする。
苦笑しながら答える河野にそれくらいはいいかと頷いて教科書を取りに戻り渡せば次の時間に返しに来ると言って河野は去って行った。
しかし、漸く落ち着いて郁と話せるかと思った頃には教師が来てしまい、堂上は郁に声を掛けるタイミングを見失ってしまった。
それから何度か声を掛けようとするがことごとく邪魔が入り上手くいかないまま、1週間が過ぎようとしていた。
何度か帰宅後に郁を訪ねて家に行ったがその度に郁は疲れて寝入っていて、その気持ちよさそうな寝顔に起こすことも出来ず堂上はただイライラとしていた。
今日は郁は部活が休みで教室を出て行くのを見かけていた。
堂上は部活があるため部室に向かっているところだった。
門前で男が誰かを待っている様だと囁く女子たちがこぞってそれを見に移動していくのを横目に部室に入り着替え終わったところだった。
部室を出たところで丁度走って来たらしい河野と会った。

「なんだ?何か用か?」
「よ、用って言うか、堂上君、笠原さんから聞いてるのかなって思って確認したくて。」
「何をだ?」
「ちょ、ちょっとまって!」

かなり急いできたらしく息が上がっていた河野が息を整えるための数秒を待って、その間に堂上が郁に聞いていることと言うのを考える。
しかし、メールでのやりとりは合宿の1か月でしていたが戻ってきて1週間はまともにメールも会話もしていない。
何を聞いていることがあるのだろうかと首を傾げた所に息の整った河野が口を開いた。

「笠原さん、今彼氏が迎えに来てて」
「・・・は?」
「だから、女の子たちが噂してた門前に居る男の子!気付いてなかったかもしれないけど、笠原さんのお迎えだったみたいで。迎えに来るってことは彼氏でしょ?」

堂上は河野の言葉に目の前が紅くなったのか黒くなったのか判らない心地を味わった。
ただ、冷静で居ようとしても出来ない程に頭に血が上っていることだけは自覚できた。
堂上は河野の言葉をそれ以上聞かずその場から走り出すと正門へと向かう。
背中から河野の声が追いかけきたが耳には届かなかった。

「はぁ、はぁ、あんのバカ・・・!」

いや、バカは自分か・・・と、堂上は走りながら思わず零れた言葉にどこか冷静な部分で訂正を入れながら正門前に急ぐ。
丁度門が見えた所で郁が男に声を掛けられて腕を取られたのが見えた。
思わず走り寄ろうとした堂上は、しかし言葉を返した郁の表情を見て足を止める。
気を許した、拗ねたような表情で文句を言っているらしい郁と慣れた様子の男の態度に堂上は腹の中が煮えくり返るような怒りとその光景を信じたくないという拒絶感で一杯になった。

「俺は、こんなにも・・・。」

ぎりぎりと部活の為に短くしてある爪が掌に食い込むほどに手を握りしめて郁がその男と正門を出ていく背を見つめる。
今更だ・・・と、しかしそれ以上にどうしてという想いがぐるぐると思考を巡っていく。
約束に縋ったのは郁じゃなく自分か・・・と、自重の笑みが零れる頃、漸く固まった足が動くのを感じて踵を返した。
確認しよう、それで最後にすれば良いと自分に言いきかえて堂上は部活へ向かった。
堂上は早めに部活が終わったこともあり、部室に戻るといつも以上に早く着替えて殺気立ちながら自宅へと帰った。
そして門前、荷物を置く時間も惜しいと郁の家へ尋ねる。

「あら、篤君。」

郁の母親は先日の件から気まずい様子を見せたが、堂上が普通にしていると気を取り直したのか以前と変わらない様子になって郁が帰っていないことを教えてくれた。
ただ、今回は連絡が入っていて友達とお茶をしてから帰ると言っていたと教えてくれた。
堂上はそれにお礼を言って踵を返すと門の前で待つことにした。
荷物を地面に投げ捨て腕を組んで門にもたれかかる。郁はいつ帰ってくるのか。
時計を見るが時間が判るわけもなく、郁が帰ってくるはずの方向をじっと見つめていても人影は見えない。
自分は何をしたいのか、いや、あの男のことを確認するのは決定事項だが確認してどうしたいのか。
堂上は頭の中でぐるぐるとめぐる疑問や焦りに翻弄されてイライラとした気持ちが一向に収まらないことに眉間にしわが寄ってしまう。
郁と連れ添って正門を出ていった男の、その郁とのバランスの良さを思い出して舌打ちが零れる。
そんなことを考えながらどれくらいの時間が経ったのか、少し離れた場所から足音が聞こえた気がして道の向こうを見るとほっそりとした人影がこちらに歩いてきていることに気付いた。
遠目で、顔も確認出来ないがその姿だけで堂上にはそれが郁だと判断できた。
こんなにも郁を見ているのに、なんで自分は気付かなかったんだろうかと自身でも呆れ思わず睨みつけるように郁を見た。
郁はもう少し近づいてから一度足を止めてこちらを注視しているようだったが、やがて歩みを再開すると堂上まであと数歩というとこまでやってきた。

「おかえり。」

不機嫌であっても、思いのほかあっさりと出迎えの言葉が口から出たことに堂上はほっとする。
しかし、声は不機嫌なのはどうしようもできず、郁は疑問と安堵を抱えたような複雑な表情を見せた。

「ただいま。篤、こんなとこでどうしたの?」

いつもの調子で郁が問いかけてくるのを、無言で睨んでいれば夕飯はどうしたのかとさらに問いかけてくる。
堂上は急に自分が郁に何を言うつもりだったのか判らなくなり、視線を逸らし足元を見つめた。
郁はこんなにも変わらない、いつも通りなのに自分は何を言いたかったのだろうか?
しかし、他人の口から聞かされた郁の彼氏の存在、そしてそれを証明するような連れだって正門を出ていく姿が思い出されるとぎゅっと心臓を掴まれたような心地に襲われて歯を噛みしめる。

「篤?」

郁がすぐそばまでたどり着いて顔を覗き込んできた。
心配そうな声が自分の名前を呼び、少しして緊張した雰囲気が伝わってきた。
堂上は地面を見つめたまま、とにかくあの男の存在が何かを聞こうと決めると郁に視線を戻す。
郁はわずかに青ざめて、緊張を孕んだ表情で堂上を見つめている。

「郁、お前今日誰と一緒に居たんだ?」

まずはそこからだと思った。そこで誤魔化されれば、郁には言う気が・・・約束を守る気がないということなのだろうと堂上は考えた。
そして問いかければいったい何を聞かれているのかという表情で首を傾げる郁が居た。
それに対して、堂上はもう少し噛み砕いて言うかと思い河野に告げられた郁の彼氏について話してみた。
つい、口が滑って約束のことも言ってしまえば焦ったような郁が何か反論しようとする。
しかし、それが堂上には誤魔化して隠そうとしているように見えて冷静になろうとするよりも早く頭に血が上り始める。
それではだめだと思うのに、一度火がついてしまえば消すことが出来ないのかドンドンと気持ちは加速していく。

「でも?お互いに約束しただろ?付き合う相手が出来たら言うって、でも付き合い方は変えない。違ったのか?」

約束に縋っていたのは、郁ではなく自分だ。
この約束があるから自分や郁が誰かと付き合い始めても傍に居ると思っていた。
堂上の必死さがどこかで郁に伝わったのだろうか?
郁が困惑した様子で堂上を呼び見つめてくる。

「・・・違わない。けど、今日この時まで篤と話す機会がなかったもん。」

少しの沈黙の後、郁の方が破ったそれは堂上にとって聞きたくない言葉だと思った。
話す機会がなかった、ということはやはりあの男は郁の・・・そう思うと無性に腹が立った。
黙っていた郁にもだが、何より自分に。
まだ何かを言っている様子の郁に、しかし堂上はその言葉を聞き届けるだけの冷静さを保てず郁に向かい合うと自分に怯えてか俯いたままの郁に食って掛かった。
郁がその勢いに押される様に一歩後ずさる。

「お前が・・・!」

郁が・・・何を言おうとしたのだろうか、唐突に思い出したのはあの約束をした時の郁の言葉。

「絶対それ、出来る訳ないじゃん!篤に彼女が出来たら、きっと彼女は私がそばに居るの嫌がると思うし私の彼氏だって仮に本当に出来たなら他の男なんて嫌がるよ。血が繋がってないんだもん。」

それは、郁の方が堂上よりもずっと正しく恋愛というものを理解していた証拠で、もしかしたらあの時からもう好きな男の1人や2人は居たのかもしれない。
そう思えば続く言葉など思いつくはずもなく、堂上は言葉を飲み込むと郁から視線を逸らす。

「っ・・もういいっ!!」

それだけ吐き捨てて堂上は荷物を拾い上げると自宅へと逃げ帰ることしか出来なかった。
郁がその後どうしたのかとか、何を思ったのかなど考える余裕もなく頭の中がいろんなことでごちゃごちゃになっている状態だった。
母親がご飯は?と聞いてくるが空腹感など感じることもなく、「要らない!」と叫び返して幼い子供の様に自室に引きこもってベッドにもぐりこんだ。
自分は郁を責めて何がしたかったのか、なぜ話を聞いて祝福してやれなかったのか。
郁が、自分が河野のことを告げた時そうしてくれたように・・・。
だが、それを思い返せば郁が自分を家族以上に思っていないことに気付いた。
取り乱すこともなく、堂上の彼女になった河野を気遣って堂上から距離を取ったのは郁だった。
女性だからこそ分かる気遣いだったのかもしれない。
郁はかわいい、異性としても、そうでなくても、女の子としてちゃんとしているのだからモテないわけがないのだ。
今まで彼氏が出来なかったのは郁の兄たち3人からの依頼とはいえ、自分が牽制し邪魔をしてきたせいで・・・。
堂上は少しの間ぐるぐると考えていたが、何をどう考えても苦しさだけが見えることに疲れ考えるのを放棄すると意識を手放した。
その日から見る夢はみんな郁が隣に笑っているのを嬉しく思い眺めていると、不意に現れた男が郁を呼び、郁が嬉しそうにそちらに走っていってしまう喪失の夢。
堂上はそのたびに郁の名前を呼びながら飛び起き、深いため息を吐いた。
そして、郁の幸せを祝えない自分の心の狭さに気まずさも感じて郁を避けるように登下校も授業も過ごすようになった。
1度だけ、郁と会ったあの日の翌日笠原家の次男が堂上のところに顔を出した。

「篤、お前郁と喧嘩したのか?」

部屋に通してお茶を出したところで徐にそんなことを尋ねられてぎくりと肩が揺れてしまった。
堂上にはあれが喧嘩なのかどうかも判別出来ず、ましてや考えるのを避けているとも言えなかった。
まっすぐに心を試すように見据えてくる次男の視線を真っ向から受け止める気力も堂上にはなかった。
そんな様子に次男は苦笑を浮かべるとぽんっと堂上の頭を撫でた。

「何があったのかとかは聞かないけどな、郁、今日学校休んだだろう?ずっと昨日の夜から泣きっぱなしなんだ。お前と話してたみたいだって聞いたからさ。あいつ、鈍いからお前が素直にならなきゃたぶん伝わらないぞ?」

次男は何がとは言わなかった。
そして、堂上にそれだけを告げると何も言わず堂上の返事も待つことなくぽんぽんと頭を撫でてから静かに部屋を出ていった。
堂上には次男の言葉の意味が理解できなかったが、それこそ今更だと思い聞かなかったことにした。
ただ、泣き腫らした目をしていると聞いて罪悪感がのしかかる。
しかし、まだ少し自分の気持ちと折り合いがつけれない今は、郁を祝福してやりたいと思うからこそ時間が欲しいと思った。

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