龍のほこら はつこい A-4話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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こんにちは、本日2記事目はお待たせしております「はつこい」篤サイド4話です。
現在、すべての話を郁サイドと対比させて書かせて頂いておりますが・・・が・・・・。
5話は2部構成になるようですorz

と、いうことで目標は今月中に完結予定だったのですが間に合いません(苦笑)
来月半ばごろまでかかるかと思いますが、今しばらくお付き合いくださいませ。
それでは、篤サイド4話、お楽しみ頂けたら幸いです。
「本編スタート」よりご覧くださいませ。


拍手[85回]





郁が泣いていたと聞いてから1週間が経った。
あれから堂上は自分の気持ちに整理を付けようと必死になりどうにか自分の中で整理が出来たところだった。
そして我に返って気付いたのは自分の状況だった。
郁が好きだと自覚してこっち、河野と付き合っている自分の現状を忘れていた。
そして、自分の状況を無視して郁に詰め寄った自分に再び落ち込みかけたがとにかく今は河野とのことをどうにかしようと思いなおす。
それから改めて郁にきちんと気持ちを告げて振られるならその方が良いと考え直して今、河野を裏庭へと呼んでいた。

「堂上君から呼び出しなんてどうしたの?」
「答え、出たから。」
「え?」
「河野が転校するか、絶対に無理だと思うまで・・・だったよな?」
「あ・・・。」

待っていた裏庭に河野が嬉しそうな表情で顔を出したとき、堂上は罪悪感でチクリと刺された胸の痛みに気付かない振りをした。
少なくとも1度は断った。
どうしてもとの押しに負け条件を受け入れてしまったのは自分だが、だからこそきちんと断らなければならない。
そう思って河野と向き合った堂上は真剣な表情をしていたのだろう。
困惑した表情になった河野に正直に呼び出した理由を言えば、今度は河野は泣きそうな顔をして俯いてしまった。
しかし、堂上はもう揺るがないと決めていた。
だからそんな河野もまっすぐに見つめて堂上は静かに口を開いた。

「河野を異性としては好きになれない。」
「・・・・なんで?」
「昔から、自覚がなかっただけで俺の特別は一人だからだ。」
「・・・それは。」

僅かに戦慄いた唇から小さく漏れ出た音はしかし言葉にはならず堂上には届かなかった。
けれど、言いたいことはなんとなく判り否定も肯定もしなかった。
それは肯定しているも同然で、河野が震えるのをただ見つめている。
今、ここでかける言葉は優しくあってはならない。

「何が、違うの?」
「それは俺にも判らない。」
「どうしてもだめなの?」
「ああ、忘れられないし忘れたくない。散々待たせた結果がこれで悪いとは思う。けど、無理だと知ったから。」
「わかったわ。」
「・・・・ありがとう。」

堂上は河野が頷いたのを見て逡巡してから謝罪ではなく感謝を告げた。
自分を好きになってくれて、望んでくれたことへの感謝。
その言葉に河野の肩がピクリと跳ねるが堂上は手を乗せることも言葉をかけることもなくただ黙っていた。

「堂上君、この後部活でしょ?私、もうちょっとここに居るから。」
「そうか。」
「私も・・・。」
「ん?」
「ありがとう。」
「・・・どういたしまして。」

じゃあな、と声をかけて堂上はその場を立ち去っていく。
背後から堪え切れていない河野の泣き声が聞こえたが振り返ることはしなかった。
そのまま教室に戻り、荷物を手にすると部室へ向かう。
一つ懸案事項がなくなったからか昨日までとは違い部活に迎えた堂上は部長の号令で準備運動から始めた。
今日は乱捕り稽古で、その後総当たりの試合形式をやると言われていた。
無様な試合はしたくないと気合を入れると念入りに柔軟をし始める。
今日は階級は無視の総当たりで堂上は小柄な方なために重量級を何度も相手にすることになる。怪我などをしないためにも柔軟は念入りになる。
他の部員たちも今日の試合で今後の大会の選手なども決まる可能性があるためそれぞれ気合が入っている。
部員たちのアップが終わるころ、顧問である玄田が武道場に姿を現した。

「全員集合!!」

野太い声が武道場に響き渡る。と、古賀がビクリと飛び跳ねているのが堂上の視界に映った。
玄田の大声はいつものことで、普段なら古賀とて何とも思わないのにどこかおどおどとした表情で集合している。
基本的に古賀は小心者であることを知っている堂上は、何かあるんだろうか?と頭の片隅で考える。
しかし、部活に出ているなら何かあるとしても部活後であろうし何より堂上とは関わりがないと踏んで堂上は意識を試合へと向けた。
部員を集めた玄田が全員を見渡してから笑みを浮かべる。
「みんな身体は十分に温めたな!今より総当たり戦を行う!!呼ばれたものから中央に行け!!他の者は身体を冷やさないようにしながら見学だ!!」
「はい!」

楽しげに言う玄田はいつものことで、ことのほかこの乱捕りの総当たりを好んでいる節がある。
堂上はそんな玄田の楽しみ方に少しだけ物申したい時もあるのだが黙っている。
そもそも、堂上をここまで鍛えてくれたのは玄田だ。
中学の試合で自分を見初めた玄田が時々中学の武道場に顔を出しては勧誘と共に指導をしてくれた。
そのおかげで今自分はそれなりの実力を持っていると思っている。
ちらりと玄田の視線が向いたのを感じそちらに顔を向けるとニヤリと笑った玄田が顎をしゃくるのが見えた。
総当たりではまだ当たったことのない重量級の先輩を顎で示したようだ。

「・・・・勝ってみせろってことか。」

上等だ、と堂上は玄田の意図を悟って口角を上げるとまずは見学だったため武道場の隅に控えた。
当然ながら、他の部員たちも呼ばれていない人間はみんな隅へと控えている。
そこで、古賀がこっそりと武道場を出ていくのが見えた。
なぜ、今日はこう何度も古賀を視界に収め意識するのか堂上は自分でも判らなかった。
しかし、妙な胸騒ぎを感じて眉間にしわを寄せてしまう。

「始め!」

堂上が古賀を追いかけるか考えていると、玄田の声が武道場に響く。
その声で堂上は試合をする2人に視線を戻した。
この乱捕りはただ見学するだけではなく、他人の試合を見て自分なりに研究することも目的なのだ意識を逸らしていては意味がない。
そのために堂上は古賀が帰ってこないことに気付かないまま次々と行われる試合へと集中していった。
そして10分も経ったころ、カタンという音が響き誰かが武道場に入ってきた。
堂上は不意に集中を途切れさせたその音に意識を向けた。
すると、武道場の扉からそっと入ってくる古賀の姿が見えた。

「古賀?何やってんだ、あいつ・・・。」

そういえば1つ目の試合が始まったころに出てったなと思い出して、不審が募る。
しかし、今何かを言うわけにはいかず堂上は無理やり試合へと視線を戻した。
数秒で片方の部員が相手の奥襟をつかみ投げ飛ばした。
ズダンという音と共に勝敗が決まり、玄田が声を上げた。

「次!堂上と猿渡!!」

名前を呼ばれ立ち上がると堂上は中央へ進み出る。相手は堂上よりも一回りは大きくガタイも良い1つ上の先輩だ。

「お前と組むのは初めてか?」
「そうですね。」
「楽しませてくれよ?」
「努力します。」

挑発するような先輩の言葉にも落ち着いた返事を返す堂上に、猿渡と呼ばれた先輩はチッと舌打ちをして開始線の前に立った。

「両者、礼!試合始め!!」

玄田が号令を掛けるのに合わせて両者見合ったまま頭を下げると堂上が先に動いた。
小柄な堂上は玄田のアドバイスから技を掛けるスピードを重視してきた。
それと併せて体力をつけることにも重点を置いていたがいざ重量との組み合いになると力負けするのは否めなかった。
これまでは試合時間一杯を粘られて体力負けをした堂上が最終的に投げられるということが多く、堂上はその度に色々と自主練を組んでいたのだ。
今日はその成果を見るチャンスでもあり、堂上はまずは相手の様子を見るために組みに行く。
パシンという小気味良い音と共に堂上が組みに行った手は払われ、堂上は間合いを取る。
すると相手が間合いを詰めて来て堂上の襟を取ろうと手を伸ばしてくる。
こちらも払ってしのぎ、お互い譲らない状態が続き始めた。

「堂上どうしたー!!」
「猿渡いけー!!」

白熱した試合に見学している他の部員たちも激を飛ばす。
堂上は何度目かの襟取りにいき、一瞬フェイントを入れて漸く組み合った。
体格差はあるものの力量は同等のようで、堂上が襟を取るのと同時に相手も襟を取ってきたためそこでこう着状態になった。
お互いに譲らないまま試合時間だけが過ぎていく。
そのままでは待てがかかることは間違いなく、せっかく組んだチャンスがダメになる。
堂上はじりじりと焦る心を必死に落ち着けながら猿渡とにらみ合った。
緊迫した空気が徐々に武道場を覆い始め、見学者達の息を飲む声すら聞こえそうな状態でジリジリと両者が畳を擦る音だけが響く。
どちらかが動いた時が勝負の決まる時と言わんばかりの雰囲気の中、唐突にバタン!と激しい扉の開く音と女性の悲鳴に近い声がその緊迫を切った。
堂上はその女性の声が聞こえた瞬間には無意識に渾身の力で相手の襟を掴む手を振り払いそのまま相手を背負い投げていた。
ダーン!と重たいものを叩きつける音が響き、辺りがシーンと静まり返った。

「一本!」

間髪入れずに玄田の太い声が堂上の一本を宣言する。わっと見焦った表情で扉に駆け寄る。
扉のところでは走り疲れたのか屑折れるようにしゃがみこんだ河野が肩で息をしながら空気を求めて喘いでいた。

「河野!郁が大変ってどういうことだ!?」
「わっ、私の友達がっ、さっき言ってたの!か、笠原さんを男の人たちにっ!」
「っ?!」

見学者が沸く中で河野は最後まで言葉を紡げなかったが、言った言葉だけで堂上は状況を把握すると血の気が引いていくのを感じてきつく目を閉じる。
深呼吸して目を開けると堂上の視界の端で部活の始まった頃から様子のおかしい古賀が部員の影に隠れて逃げようとしているのが見えた。

「古賀ァ!!」

堂上の怒声が武道場に響きその怒気に足を竦ませた古賀が「ひぃっ?!」と情けない声を上げてその場に尻餅をついた。
堂上は古賀のその態度に何かを知っていると感じて問い詰めようと踵を返す。
しかし、それを止めたのは駆け込んできた河野だった。

「堂上君っ、早くっ!!」

焦ったような河野の声に堂上は優先順位を思い出し玄田を見る。

「玄田先生!すみません、俺」
「猿渡に勝った褒美だ!要らん事は言わんでいいからさっさと行ってこい!古賀は俺が見ててやる。」

河野と堂上のやりとりだけで何事か悟ったらしい玄田が片手を振って堂上に許可を出すと、堂上は河野に礼の言葉だけ投げて走り出す。
 背中から河野が郁がまだ教室に居るかもしれないと叫ぶ声が聞こえ、それに応えて片手を振ると宛てなく走るより先にそちらへ確認しようと堂上は走る速度を速めた。
堂上は走りながら焦る気持ちを必死に抑える。
普段これくらい走っただけでは上がらない心拍数は先ほどの試合で焦った時よりもよほど高くなって堂上に息苦しさを与えるが、それ以上に郁に何かあったらという想いが先行して堂上の呼吸を邪魔してくる。
頼むから無事でいろ、そう願って教室を目指す堂上には5分で着くはずのその場所がとてつもなく遠く感じた。
河野がいつソレを聞き、武道場に着くまでどれほどの時間がかかったのか判らない。
同時に男たちがいつ郁に近づき手を出しているかもはっきりと判らないことが堂上の焦りを増長する。
それでも走り続け教室が近づいてくると、河野の予想が当たっていたのか郁の叫び声が聞こえてきた。

「やっ!やだっ!!!放しっ・・・」

最後の方は口でも塞がれたのか、聞こえなくなってしまったが間違いなく郁が危ないことを知らせる切羽詰った声に堂上は更に速度を上げた。
靴音を抑えるわけでもなく教室の手前まで来たが郁がかなり抵抗しているのか騒がしく中の人間たちは誰も堂上に気付くことはないようだった。
警戒心がないというか、よほど大丈夫だと手引きでもされているに違いないその様子に古賀の態度を思い出して間違いなく関わりがあると確信する。
そして教室の入り口に辿り着いた時、堂上は目に飛び込んできた光景に目の前が真っ赤になるのを感じた。
1週間前に感じた嫉妬よりももっと激しい怒りに声すら失くした堂上の目の前で未だに気付かない男たちは机に3人掛かりで押さえつけられている郁はブラウスを無理やり引きちぎられたのか胸元が破れ肌が露出されている。
1人は郁の口と手を抑え、3人が下卑た笑みで郁を見下ろして順番を相談しているところだった。
堂上は今にも殴りかかりそうなほどの怒りを腹の奥に押し留める。今無理やり郁から手を引き離せば、郁が怪我をする可能性もあると僅かに残った理性が気付いて止めたからだ。
しかし怒りは隠せず怒りを孕んで声が必要以上に低くなる。
絞り出した声は地を這うようなと表現するに値する低音だった。

「3人まとめてで良いから俺と遊んでくれよ。」

堂上がそう声を掛けると3人の男たちは漸くその存在に気付き慌てたように振り返った。
堂上はその3人を順番に睨んでから一歩を踏み出す。
最初は怯えた様だった男たちはしかし堂上が1人だったからか口々に追い返そうと言葉を投げてくる。
堂上はどれも聞くに堪えないと無視したが最後に発せられた言葉が怒りを増長する。

「邪魔だ!混じりたいなら後にしろよっ!!」

混じりたいなら・・・だと?と言った男を睨みつけると、その男の肩がビクリと揺れて僅かに後ずさる。
丁度郁の口元と手を抑えていた男で、隙が出来たのか口を押える手から逃れた郁が顔を上げ、堂上を見て驚いたように目を見開いた。
僅かに動いた唇が「なんで?」と動くのが見えて堂上は内心で苦い顔をする。
当たり前だろう!と叫びたくなるが、今はそれよりも前に男たちをどうにかしなければならないと視線をそちらに戻すとすぐ近くまでたどり着いたのと同時に一番手前に居る郁の足を掴んでいる男の襟首を引き寄せて再び言葉を発する。

「お前ら、郁に何してる・・・?」

静かな、しかし確実に怒りを伴った声で問いかけられて男は息を飲んだようだが、郁から手を離そうとはしない様子に堂上の片眉が上がる。
他の2人も襟首を掴んだ男が動かないからか反応を示さないことがより堂上の怒りを煽ってくる。
息の根を止めても良いだろうかと一瞬考えるが男たちに交じって向けられた郁の視線が辛うじて堂上のその凶暴性を押し留めていた。

「とりあえず、その汚い手を郁からどけろ。今すぐに・・・だ。」

堂上は情けだと警告してやる。顔は覚えた、この男子生徒3人は学内でも札付きで滅多に学校に来ることはないがたまに来ては古賀とつるんでいたのを記憶していた。
名前は判然としないが、そこは古賀を吊し上げれば良いだろうと捨て置くことにして、3秒だけ待つと告げると数え始める。
数えている間にも男たちは堂上の怒りを煽る言葉を吐いてくる。
堂上はそれに無言で怒りを溜めこむと、3秒経った所で襟首を掴んでいた男の手首を掴み急所を握りしめた。
堂上の握力は柔道をやっているがゆえにかなり強い。
力を込めるとミシミシと骨がきしむ音が聞こえてきた気もするが、堂上は容赦をする気がないため無視した。
目の前で痛みに叫び声をあげて郁から手を離してもがく男を冷たい目で見ながら他の2人にも視線を走らせる。

「おい・・・そっちの2人も早く放せ。」

もがき暴れている男を平然と片手でいなしながら声を掛けてくる堂上に漸く事態を把握したらしい残りの男2人も悲鳴を上げながら郁から手を離した。
それを堂上が確認するとがたがたと震え始める男たちを横目に郁に視線を戻した。
改めて見るとあられもない恰好になった郁にもう少し遅ければどうなっていたかと背筋が凍る思いが過る。
堂上がかける言葉も思いつかないまま、その恐怖に囚われていると起き上がった郁が無言の堂上に気付いて謝罪を口にした。そのことで堂上がはっと気づくと郁は身体を震わせて何かを必死に告げようとしていたがすぐに唇を噛むと俯いた所だった。
堂上は慌てて掴んでいた男の手を投げる様に手放すと郁をどうフォローするか考え、とりあえず服かと思い見渡すが良い物が見当たらず自分の道着の上を脱ぐと郁の肩へかけた。
男たちは堂上が郁の方へ意識を向けた隙に逃げて行ったようだが、堂上にとってはどうでも良いことで目を固く閉じて震えている郁をどう慰めるかで頭を悩ませることに意識を向けていた。
ふと気づくと道着が肩にかけられたからか、郁がそっと目を開けるのを見て心配で顔を覗き込むと視線を堂上に向けた郁が驚いてなのか怯えた様に後ずさった。
逃げられたと思った時には泣きそうな気分になったがすぐにさっきあったことを考え当然かと苦い笑みが浮かぶ。
堂上とて男なのだから、男たちの後で近くに寄れば怯えるのは当たり前のことだったと思い至る。
せめて、もっと早く来れていれば、あの時古賀の様子がおかしかったのを見逃さずにいれば、と後悔しても仕方がないが思うことが頭を巡り自嘲気味な笑みが浮かぶ。
しかし、それ以上郁を怖がらせるのも本意ではないと思えば身体を離し距離を取ろうと身体を起こした。

「・・・悪い、怖かったよな。」

そう言って怖がらせたことを詫びながら堂上が離れようとした時、郁から伸ばされた手が辛うじて堂上の手を掴んで握りしめた。
まだ恐怖に震えている手は小さく、細く、けれど縋る様にしっかりと握りしめられて堂上の下がろうとした一歩を止めた。

「郁?」

自分の手を握った途端に泣き出した郁に心配になって名前を呼んでみるが、声は届いていないのか喘ぐような呼吸を繰り返している。
そして、その合間に堂上に伝えたいことがあるのだろう必死に言葉を出そうとして口を開く郁が居た。

「あ・・・違っ・・・あつ・・ごめ・・・い」

何を言いたいのか、単語すら紡げない状態の郁に堂上もどうしたら良いのか判らない。
しかし、掴まれた手が行かないでと言う様にしっかりと握られていることに堂上はどこかほっとしながらどうしたら良いか思案する。
心の赴くままに引き寄せても良いのかと葛藤し始めた頃、郁の握る手から力が抜け始めて離れそうになるのに気が付いた。
郁が離れていく、そう感じた瞬間だった。堂上はとっさに離れそうになる郁の手を握り返すとぐいっと引っ張った。
堂上よりも5cmほど高い郁は、その身長とは裏腹に酷く軽く堂上の動きに逆らうことなく机から堂上に向かって飛び込んでくる。
床に足を付いた時、郁が無意識に片足を庇うのが見えて堂上は眉を寄せる。
掴まれたまま逃れようともがいたせいで痛めたのかもしれない。
そう思うがまだ泣き続ける郁を前にそんなことを言うのは後だと結論付ける。
そして、胸に飛び込んできた郁を抱き留めてその顔を肩に埋めさせると細く力を入れると折れそうな身体を大事そうに抱きしめて幼い頃と変わらないように頭に手を置いてぽんぽんと撫でる。
そうしていると抱きしめた直後は硬直していた身体から余分な力が抜け、胸元に置かれた手が堂上のTシャツを握りしめる。
小さな嗚咽が徐々に大きくなり、本格的に泣きだす頃には郁は堂上にしがみ付いて声を上げて泣き出した。

「あつし、あつしぃっ!!こわっ・・・・こわかっ・・・。」

先ほどの出来事に対する恐怖を吐き出す様に自分に縋って泣く郁に、堂上は言い様のない幸福感を覚える。
他の誰かがこの役をいずれするかもしれない恐怖もあるが、今はただ自分の名前を繰り返し呼んでくれる郁の声が心地よく堂上は無言でその背を撫でる。
抱きしめる腕に力を籠めて引き寄せれば同じ強さで抱きしめ返されて、そんなことを考えるのは不謹慎だと思うが郁が可愛いと思う。
しかし、昔から郁のこの涙に堂上はめっぽう弱く、郁の兄3人が郁を泣かした時でも大慌てで駆けつけて必死に宥めるのは堂上だった。
郁は小学校に上がる頃には滅多なことでは自分の為に泣いたりはしなくなった。
それでも泣くことが多かったのは、やれ何かが枯れただの、物語の主人公が切ないだの、他人の為ばかりに泣いていた。
それも、その頃には堂上に隠れて泣くので見つけ出すのが大変だったのだ。
郁が泣くと兄の3人の誰かが堂上を呼びに来る。
隠れて泣く郁を探すのは堂上の役目とばかりに引っ張ってこられて家じゅう探させられて、それでも嫌だと思ったことがないのは見つけた時こうやって縋ってくれる郁が居たから。

「郁・・・。」

まだ泣き止まない郁に気付かれない様に吐息に混ぜて郁の名前を呼ぶ。
もう少し泣き止むまでにかかりそうな郁を抱きしめて堂上はこの後のことを考える。
犯人は一部玄田が見張っていることもあり捕まえることは出来るだろうと、その前に必要なのは郁の足の治療だ。
郁は多分、恐怖や驚きで神経が高ぶってまだ自分の怪我に気付いていない。
もしかしたら自分に対しては疎かな分、今日痛みを自覚するという可能性は低いかもしれない。
なら、保健室に行こうと普通に誘っても郁は大丈夫だと言ってそのまま歩いて帰るのは今までのパターンで解りきった事実である。
それを阻止するためにも郁が何か言う前に動かなければと、堂上は頭の中でそう考えながらただじっと郁が泣き止むのを待ち続けた。
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