龍のほこら はつこい A-5話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

2017/12    11« 1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29  30  31  »01
こんにちは!
篤サイドは漸く折り返し地点を過ぎました。
お待たせしておりますが、現在鋭意作成中です・・・気付いたら話数が増えていて・・・。
うん、5話に関しては現時点では2つ、ないし3つに分かれることになりそうです。
郁サイドでは郁が寝ていたのですっ飛ばした部分を篤サイドで補填する形になっておりまして、そろそろ矛盾が出て来てやしないかとヒヤヒヤしているのですが(笑)
後半は引っ付くだけですので、あと少しのジレジレにもう暫くお付き合い頂けたら幸いと思います。

それでは、「本編スタート」よりご覧くださいませ。






どれだけそうして郁を抱きしめていたのかはっきりとはしないが、声も掠れて泣き声も小さくなり鼻を啜る音だけになる頃ぐりぐりと肩に額を押し付けられて堂上は郁を見る。
落ち着いて、けど泣きすぎて恥ずかしい時の郁の癖のようなもので、堂上は落ち着いたのかと思い声を掛けた。

「大丈夫か?」

無理に顔を上げさせることはせず、声を抑えて聞けば郁から小さな頷きが返ってくる。
声は出ないのか小さな喉の奥が鳴ったような音だけだったが、それでも堂上はほっと息を吐く。

「そうか。」

堂上も言葉少なに返せば郁の服を掴んでいる手がきゅっと握りこまれて、今更ながら互いの距離の近さにドクリと心臓が飛び跳ねる。
スリッと猫のように肩口に擦り寄られてふわりと鼻孔を擽る甘い香りに一気に熱が上がりかけた堂上は、郁の精神状態を考慮する余裕もなく反射的に引き離した。
そして、何か離れる口実はないかと見渡して床に投げ捨てられた郁の鞄に気付き「ちょっと待ってろ。」僅かばかり掠れてしまった声で言いながら、郁の返事も待たずにその場を離れた。
郁が背後で何かを堪えるように固く目を瞑ってしまったことには気付かず、堂上は自身の戸惑いを隠すための時間を稼ぐのに必死になっていた。
少し離れた場所にある荷物のところまで行きそれを拾って郁の元に戻ると、漸く郁の様子がおかしいことに気付く。
気分が悪くなったんだろうかと不安になって顔を覗き込み、声を掛ける。
堂上の心配は、郁の大丈夫という言葉と声に否定されたがそれでも様子がおかしいのが気にかかり視線を外せなくなる。
暫く見ていると郁は恐る恐る顔を上げて、無意識なのか堂上に手を伸ばしてきた。
堂上がその手に応えるように自分からも手を伸ばし指を絡めるようにしっかりと握るときゅっと握り返される。
同時に不安に揺れていた表情がほっとしたような笑みに変わり、堂上はその笑みに釣られて口角を上げると近くの机に拾ってきた郁の鞄を置いた。
それから目の前に立つと郁は堂上が何をするつもりなのか判らないようで首を傾げてきょとんとした表情をして見つめてくる。
その様子が可愛くてクスリと笑いが零れたが郁には気付かれなかった。
そして一旦握った手を離すと郁の両脇に手を差し入れる。
ある程度の重さを覚悟で力を込めて郁を持ち上げると、思った以上に軽い感覚で郁を上へと持ち上げた。

「ひょぇ?!ああああ、篤ぃっ?!」

郁から妙な声の悲鳴が上がるが、堂上は知ったことじゃないとそ知らぬふりで流してそのまま郁を机の上に座らせる。
足元に跪くとそっと郁が庇った方の足を取って靴下を脱がせて様子を見る。
上靴は気付かなかったが暴れた時にでも脱げたのか少し離れたところに転がっていた。
堂上は腫れ始めて紅くなっている様子に眉をしかめると周囲の様子も確認する。
思うよりもひどく捻っているかもしれないと思うとあれくらいで一度見逃したのは甘かったかと苦るが、今はそこではないと思い直す。
郁は堂上が怪我の見分をしている間ずっとなにかをもごもごと言い続けていたが、堂上はさらっと無視して一言だけ伝える。

「お前、さっき立った時びっこ引いただろ。」

堂上の言葉に、訳が分からないと言いたげな郁の声が返り首を傾げている様が簡単に想像が出来た。
しかし、今の郁に怪我の判断を任せても緊張などから痛みがない状態では正しい判断は出来ないだろうと堂上は思う。
スプリンターは足が命である。
目標を漸く見つけ母親ともそれなりに和解出来たらしいと聞いている今、足を痛めるのはよくないと思いそれ以上は何も言わずに見分を続ける。
一通り見終わる頃、視線を感じて顔を上げると郁と視線が絡む。
カッと頬に朱を登らせた郁は言いようのないほどに女の色を纏って堂上を見つめてくる。
その様にゴクリと無意識に喉を鳴らしてしまい堂上は誤魔化すように憎まれ口を叩くと郁が食って掛かってくる。
一瞬で変わるその見たことのない郁の様子に堂上は何故か面白くないと思ってしまい顔を背けた。
しかし、郁からの視線はそらされることなくむしろ強くなる一方で小さくため息を吐くと近くに置いた鞄と離れていると言っても手を伸ばせば届く位置に転がる上履きの片方を手にすると上履きは郁に履かせてから手を差し出した。
視線を逸らしたまま差し出した手は、郁に何を言いたいのか汲み取らせなかったようで向けた横目には戸惑う郁の様子が映る。
しばらく待っても一向に動かない郁に堂上はどう声をかけるか考えあぐねてから無言で手を伸ばすと胸の前でオロオロとしている手を掴んで引っ張った。
郁は突然の堂上の行動に怯えることもなくなされるがままに机から床へと降り立つ。

「少し我慢しろ。」

立ち上がった郁に、何も説明せずにそれだけ声をかけて堂上は行動に移した。
何をするか言ってもよかったのだが、言えば郁が嫌がった時に無駄な押し問答と自分で歩こうとするのを止める労力が必要になるのが予測できた。
ならば、黙ってやった方が黙らせるのは簡単だと堂上は立っている郁の背中と膝裏に腕を回して軽々と抱き上げた。
細いとは思っていたが、予想以上に軽い身体に内心で驚く。
この身体のどこにあのスピードで走るためのバネが隠されているのかと。
それ以上にやわらかい肢体は服越しに暖かな体温を伝えてきて心臓が徐々に早くなっていくのを気付かれないかと不安になる。
しかし、見下ろした郁の様子を見てそれが杞憂だと悟ると少しだけ余裕が出来て、声も出ない様子の郁に恥ずかしかったら顔を伏せとけと告げた。
しかし、郁は顔を伏せるどころかそのまま顔をこれ以上ないほどに紅くして気絶してしまい堂上は慌てて声をかける。

「おい、郁?!」

何度か名前を呼ぶが、反応のない郁の口元に耳を寄せるとスーッと寝息のような長い呼吸が聞こえ気絶したのだと悟る。

「驚かせるな、バカ・・・。」

ほっとして、思わず呟くと郁から小さな声が上がり堂上は苦笑する。
そして丁度良いとばかりにそのまま郁を医務室に運び込む。
保険医は帰り支度をしているところだったが、堂上の来訪と郁の様子に快くベッドを開けて診察をしてくれた。
堂上の見立て通り予想よりひどく捻っている可能性が高くなったことを告げられた。

「専門医に見せられると良いんだけど、私も陸上関係の専門医っていうのは知り合いに居ないのよね。」

ベッドサイドの椅子に座った堂上の横に立ち、郁を見ていた保険医が顔を上げるとそう告げる。
堂上も自分の怪我ですら専門医に通ったことはないため知り合いも心当たりもなくどうしようかと考え込んでいた。
2人して考え込みしんとした医務室に、ガラッと扉の開く音が響いた。
堂上が顔を上げると中に入ってきた人物の大声が響く。

「おーい、折口!うちの秘蔵っ子と嬢ちゃん来てるか?」
「玄田君、もうちょっと声の音量下げて頂戴。」

声の持ち主は堂上の部活の顧問の玄田で、自分と郁を探しに来たらしい言葉に保険医である折口と共にカーテンから顔を出す。

「おう、居たな。今職員室寄ったらちょうど湯浅経由で嬢ちゃんに連絡が入っててな、事情説明して医者紹介して貰ったぞ。」
「え・・・?」
「あら、さすが玄田君ね。困ってたのよ、結構酷かったから。」

玄田は堂上と折口を視界に入れると楽しげな表情で近づいてくる。
手には1枚の紙を持っていて堂上に差し出してきた。

「ほれ、これが陸上選手の専門医の病院だ。日時は怪我しとらんでも念のため診て貰った方が良いって言って予約取って貰った明日の診療日時だ。」

紙を受け取った堂上に説明した玄田は、嬢ちゃんの様子は?と折口に尋ねている。
堂上はその間にメモの中身を一通り確認する。
住所、日時、医師の名前まで明記されていてその下に紹介者として湯浅ではない人物の名前があった。

「玄田先生、この名前はどなたですか?」
「ん?ああ、この間合宿で嬢ちゃんが世話になったらしいさっき湯浅に電話してきてたコーチの名前だ。その医者はコーチの紹介だ。」

堂上が訪ねると玄田はなんでもない風にすらすらと答えてくれた。
それに納得して頷くとそのメモはいったん郁の鞄のポケットに入れて堂上はカーテンから出てきた。

「古賀は?」
「たっぷりお灸据えといたからまだ畳の上でくたばっとる。」

問いかけに玄田が楽しそうな表情で返した言葉に、堂上は玄田直々に組み手でもされたかと思いそれ以上は何も言わずに頷くに留めた。
玄田は何も言わない堂上ににやにやと嫌な笑いを浮かべながらもからかいを口にすることはなかった。

「とりあえず、折口に見ててもらってお前着替え来い。」

玄田にそう言われて、改めて自分の姿を見下ろした堂上は道着の上がまだ郁の手の中だったなと思い出す。
しかし、振り返ってベッドの方を見ると取りに行くのは諦めた。
堂上がベッドに下した時、肩にかけた道着を外そうとしたら縋る様に伸びた郁の手が端を捕まえて抱き込んだのを思い出したのだ。
堂上は小さく息を吐くと判りましたと返事をしようとして玄田を見て、僅かに固まった。
玄田がにやにやと人の悪い笑みを浮かべて堂上を見ていたのだ。
玄田がそういう顔で何かを言うときは大抵とことんまでからかわれる時で、堂上は僅かに警戒する。
しかし、今日は何を思ったのか、玄田は何も言わずに早くしろと急かして保健室から堂上を追い出した。
堂上は折口やまして目が覚めた郁に何を言われるのかと戦々恐々とした気分を味わったが、気にして足取りが重いまま時間を費やしても良い結果は待っていないと足早に部室に向かう。
辿り着いた部室では武道場からどうにか戻って来たらしい古賀がベンチに座り込んで放心状態になっていた。

「おい・・・。」
「ヒッ?!」
「二度とやるなよ。」

堂上が声を掛けると、古賀は玄田にでも散々脅されたのか引き攣った声を上げてベンチから転がり落ちた。
堂上はそれを見て、それ以上言うのは酷かと思うと忠告だけ言い置いてさっさと着替えると荷物を片付けて部室を出る。
古賀がその後どうしたのかは知らないが、玄田次第では明日もう一度呼び出されるだろうとは予想出来たが伝えることはしなかった。
古賀としては軽い気持ちだったのだろうと思う。
郁に声を掛けるチャンスがなく、あの3人が郁を連れ出していれば堂上の邪魔が入らず郁に声がかけれる。
ただそれだけのつもりだったのだろう。
そこまで悪い人間じゃないのは堂上も知るところだ。
しかし、頼んだ相手が悪かった。
あの3人組はばれなければ何をしても良いと思っていたに違いない。
軽い気持ちであっても、そう思っている人間は実際に何をしでかすかなど解らないのだ。
堂上は小さく息を吐くと足早に医務室へと戻る。
医務室にはもう玄田は居らず、帰宅準備の出来た折口が堂上を待っていた。

「すみません、お待たせして。」
「いいのよ。笠原さん、目を覚まさないから運んでくれる?」
「はい。」

折口に声を掛けるとにこやかに返されて、折口が郁の荷物を持って先に立つのを追う様に堂上は自分の荷物を肩にかけてから郁を抱き上げる。
車は職員駐車場だと言われたので背負わずに運んだ時と同様に横抱きにすれば、楽しそうな笑みを浮かべた折口が堂上を見てくる。
その視線に首を傾げると折口は何でもないわと笑って医務室のドアを開けてくれた。
堂上は両手がふさがっているのでありがたく通らせて貰うと折口と並んで歩き出す。
郁は揺れているにも関わらずすやすやと寝入っている。
先ほどの教室での出来事がよほどストレスだったのかもしれないと思うと堂上は唇を噛み締める。

「笠原さん、最悪の事態にはなってないから大丈夫だと思うけどしばらくは怖いと思うわ。」

車に辿り着いて後部座席のドアを開けてくれた折口が徐に口を開くのを、堂上は乗り込みながら静かに聞いた。
郁と堂上の家は学校からそう離れていない、徒歩や自転車での通学圏内だ。
車でなら10分もかからないだろう場所である。
その短時間で折口が堂上に伝えたのは今後の郁のケアと堂上のやるべきことだった。
不安がないとは言い切れないが、目を覚まさない郁の精神的な衝撃がどうだったかは今後カウンセリングしてみないと解らないこと。
堂上に対しては安堵を覚えているだろうこと。
そして、もしかしたら他人は暫くダメかもしれないことを言われて堂上は真剣に頷いた。
郁は後部座席に寝かせて堂上が膝枕をする形で車に乗せている。
堂上が無意識に髪を梳くように撫でると郁もその手に擦り寄ってくる。
折口はそんな2人の様子を見てたぶん大丈夫ねと内心で微笑むと、ここでと篤が言った場所で車を止めて降りるのを見送る。

「ありがとうございました。」
「いいえ、笠原さんの欠席は私から顧問と担任に連絡しておくから。」
「はい。」
「気を付けて。」

郁を背負って2人分の荷物を持った堂上に折口がそう声を掛けた。
それに頷いて、堂上は自宅までのあと数分の距離を歩き出す。
郁の家に着くと一度荷物を下に置いて郁を背負い直してからチャイムを鳴らした。
インターホンからは長兄の声が聞こえてきて、今日は自宅に居たのかと思いながらドアが開くのを待った。

「あれ?篤・・・郁、どうかしたのか?」
「ええ、ちょっと・・・。とりあえず寝かせてやりたいんですけど。」
「あ、ああ、そうだな。」

ドアが開き、顔を出したのは笠原の長兄だった。
長兄は堂上とその背に背負われた郁を見て驚いた表情をするとその驚きのまま問いかけてきた。
堂上が玄関先で話す事じゃないと暗に言えば戸惑いながらも玄関のドアを大きく開けて中に入れてくれた。
堂上はそれに礼を言って中に入るとひとまず郁の部屋へと足を向ける。
長兄が一緒についてきて部屋の前に着くとドアを開けてくれた。
郁をベッドに寝かせて荷物を机の近くへと置いてやると堂上はそのまま無言で部屋を出た。
長兄が入口でそんな堂上を見て、改めて何があったかを問いかけてきたが堂上は小さく首を横に振り長兄を見上げた。

「おじさんとおばさんにも説明します。」

堂上は内に籠る怒りを必死に抑え宥めながら一言そう言うと長兄と一緒に階下に降りた。
長兄は堂上のその常ならぬ姿にそれ以上問わず追いかけてきてくれた。
一階に降りた所で両親ならリビングに居ると声をかけてくれて、堂上は言われるまま勝手知ったる家の中でリビングに足を向けると郁の母親と今日は早く帰っていたらしい父親に挨拶をしながら声をかけた。

「郁が、今日学校で男子生徒に襲われそうになりました。」
「何ですって?!疲れて寝ちゃったとかじゃないの・・・?」
「すみません・・・。今回は、助けた後気を失ったんです。最悪の事態になる前には助けれましたが、足首を怪我したみたいで。」

堂上の単刀直入な言葉に郁の母親が叫んで郁の部屋に行こうとしたが、堂上の顔を見ていた父親がそれを止めたことで近くの椅子に座り込んだ。
郁の母親は堂上を縋る様に見て嘘だと言ってほしいと言いたげに確認をしてくる。
堂上は郁の母親のその視線から逃れようとする自分を叱責しながらまっすぐと見つめ返して、やがて緩く首を振った。
しかし、自分が言葉足らずだったことに思い至って言葉を足すと僅かばかり肩から力が抜けた郁の母親は俯いてしまった。
何も言わない郁の母親に、やはりもっと早く自分が辿り着けていればとあの時の焦燥感が堂上を襲ってきて手を固く握りこむ。

「郁を助けてくれてありがとう、篤君。」

そんな堂上に不意に掛けられたのは郁の父親からの礼の言葉だった。
堂上は掛けられた言葉に目を瞠り、掛けた本人である父親を見る。
真っ直ぐに堂上の視線を受け止めた父親は、ゆっくりと頭を下げてもう一度同じ言葉を告げてきた。

「おじさん、頭を上げてください・・・!!結局郁は怪我をしてしまったんですし、もしかしたら・・・。」

自分が原因かもしれない、とは自惚れた言葉かもしれないと堂上は途中で言いかけた言葉を止めた。
関わっている人間を考えると自分が原因の一端である気はするが、いかんせん犯人とは話せていないのだから何も解らない。
しかし、それをさておいても自分はそんな風に頭を下げてもらうようなことは何一つしていないと思い堂上は何度も言葉を重ねて漸く頭を上げて貰った。

「足の怪我だけでは済まなかったかもしれないんだ、きちんとお礼を言いたかった。ありがとう。」
「・・・・いえ。」

頭を上げた郁の父親に真剣に言われて、否定も出来なくなった堂上は僅かに視線を逸らして困ったような表情をしながらも1つ首を横に振った。
それから全員が落ち着いたのを確認して、堂上は出来る限り色んな感情を抑えて客観的に淡々と説明していく。
郁の怪我の具合、犯人である生徒たちの処罰、病院の予約の件を説明したところで、病院についての情報を郁の鞄のポケットにそのメモを入れたのを思い出す。

「すみません、明日スポーツ医科学研究所の専門医に予約が出来てるんですが場所などのメモを郁の部屋に置いてきてしまいました。」

取りに行っても?と問えば、それまで黙って聞いていた長兄が一緒に行くと告げた。

「明日休みだし、俺が送迎するよ。母さんも家のことあるし、親父は仕事だろ?」
「そうだな。母さんじゃ少し荷が重いかもしれん。」
「ああ、じゃあ、一緒にメモ取りに行ってついでに詳しいことはちゃんと聞いとく。」
「お前が付き添いなら安心だ。じゃあ、頼んだよ。」 

母親はオロオロとするばかりで何も反応しなかったが、落ち着いている父親が頷くと長兄は堂上を促して郁の部屋に行く。
部屋に入ると堂上はまっすぐに郁の鞄に歩み寄った。
鞄のメモを入れたはずの場所を堂上が探している時、長兄はなんとなく郁に手を伸ばしていた。
長兄が髪を撫でようと頭に手を置くと、撫でるより前に郁が酷く嫌がるように頭を振って拒絶を示した。

「おい、郁?」

起きているのかと思い声をかけるが、寝息のままの郁に気のせいかと思うが何度やっても逃げられてどうしたものかと郁を見つめる。
長兄が何度か郁を撫でるのに挑戦している間に堂上は見つけたメモを手にして長兄の方を振り返った。
長兄に声を掛けようと見た所で、郁を睨んで固まっている様子に首を傾げる。

「大兄、どうかしたのか?」
「ん?ああ、悪い。郁が頭撫でようとしたら派手に逃げるもんだからな。」
「は?」

考えても判らず埒が明かないとメモを片手に問いかければ、よくわからない返事が返ってきて思わず間抜けな声が漏れた。
わけが解らずそのまま長兄を見ていると無言でちょいちょいと手招きをされて堂上は呼ばれるままに近寄った。
傍まできた堂上に長兄は見てろよ?と声をかけると郁の頭に手を伸ばす。
もちろん、郁は寝たまま目を覚ましてはいない。
堂上の視線の先で伸ばされた長兄の手は郁に触れた途端イヤイヤと振られた頭に弾かれて拒否されていた。

「郁、起きてるんじゃ・・・?」
「それが、起きてないっぽいんだよな。篤も試してみろよ。」
「え・・・。」

あまりにもあからさまな光景に実は起きて薄眼を開けて見てるんじゃないかと疑うが手を振っても動く気配のない郁にやはり寝ているのかと納得する。
次に投げられた爆弾に堂上は固まると頬を引きつらせる。
あの激しい拒絶を見た後で自分にやれというのか、この兄は・・・。
そう思って見上げるとなんだか楽しそうな笑みで見られて気まずくなって顔を逸らす。

「ほら、早くしろって。」

長兄に急かされて逃げ場を失った堂上は、メモを差し出された長兄の手に預けると郁の頭の真横辺りに立った。
ごくりと喉を鳴らしてから無駄に緊張する自分を叱咤激励しながらそっと手を伸ばす。
先ほどの長兄は頭に手を置いただけで逃げられていた。
なら、自分はもしかして触れることすら叶わないのでは?と不安が頭をもたげる。
手が届くのは一瞬のはずなのに、ことさらゆっくりと時間が流れている様に感じる。
郁の頭にいつものように毛先を分けるように指を差し入れて、そっと撫でる。
ゆっくりと指の間をさらさらと落ちていく柔らかな髪に、緊張した心がゆっくりと緩んでいくその心地よさに二度、三度と手を置き、指を滑らせれば隣から盛大なため息が落ちて堂上はビクリと肩を跳ねさせた。
そういえば、隣には長兄がいて撫でようとしたところを逃げられて・・・と、経緯を思い出して恐る恐る横を見る。
手は撫でるのを止めようとするとむずがって追いかけてくるので何度でもその指通りの良い髪を梳き、乱れを直す様に整えている。
もちろん、ほとんど無意識にであるのは堂上すら気づいていないことである。
長兄と視線があった堂上は、長兄が浮かべているその表情に困惑の色を浮かべた。
苦笑のような、微笑ましいと言う様などこか拗ねても見える顔。

「昔からだが、本当に郁はお前だけだな。」
「え?」
「気付いてないのか?郁が甘えるのはお前だけだぞ?」

ぽつりと落とされた言葉に意味がつかみ取れず首を傾げた堂上は、齎された事実に目を見開く。

「兄妹だからな、肉親に対しての甘えはある。でも、全面的に預けきって子供のような甘えを見せるのはお前がいる時だけだ。たぶん、無意識でな。」

長兄の言葉に改めて郁を見た堂上は、自分の手に頭を擦り付けてくる姿にひたひたと心が喜びに満たされるのを感じる。
まだ、あの正門に迎えに来た男のことは話せていない。
けれど、今の堂上にはどちらでも良いような気がしてきていた。
アレが郁の彼氏であったとしても、あんな目にあった後実の兄たちより自分を選んでくれることが嬉しくて。
寝ている無意識の状態でなお、その手を間違えることなく甘えてくれるのが嬉しくて。
自分の中に澱んでいた黒い物が獣の形をし始めていたが、すぅっと影が薄まった気がした。
堂上が何度も愛おしげにその髪を撫で梳くのを見て長兄は小さな息を吐く。
長兄としては可愛い妹を攫っていく存在に違いないが、同時に可愛い弟分でもある。
その堂上がこの1週間ほど荒んだ空気やら落ち込んだ空気やらを纏って精彩に欠けているのが気にかかっていた。
同時に同じような空気を纏っていた妹と母親から聞かされた会話をしていたらしい事実。
十中八九喧嘩かと思っていたが、これほど長引き互いに避けている喧嘩は初めてだったのだ。
いつだって長兄が見守る2人は喧嘩はすれど互いに寄り添って言いたい放題だがお互いをきちんと見つめていた。
どちらも鈍感さは負けず劣らずで互いの想いには気付いてはいなかったが。

「で、篤。これは?」
「あ・・・ああ、ごめん。そのメモの住所が病院の場所で、これが医者の名前。この人がこの間の合宿で郁に目を掛けてくれてたコーチなんだけど、その人の紹介で予約が取ってある。」

暫く眺めていた長兄は、そこそこで堂上に本題を切り出すとはたと我に返った堂上が顔を赤らめながらメモの内容を説明していく。
玄田の達筆で読み易い字で書かれたそれらに目を通し、念のための電話番号を携帯に登録した長兄は明日この時間に行けばいいんだなと改めて確認した。

「うん、あと、今夜から結構腫れてくると思う。熱、出るかもしれないって。」
「わかった。」

堂上の言葉に頷いた長兄は手を伸ばすとぽんぽんと堂上の頭を撫でた。

「さて、俺は行くけどお前はどうする?」
「俺は・・・一緒に行く。」
「そうか。じゃあ行くか?」
「ん。」

堂上は長兄に声を掛けられて僅かな時間だけ迷ったが、最後にもう一度だけ頭を撫でて手を離すと一緒に部屋を出ると答えて郁の部屋を出た。
廊下でもう少しだけ話した後、堂上は郁の両親にも暇を告げて自宅へと戻った。
自宅に戻ると母親がおかえりと声をかけてくれ、それにただいまと返しながら自室に戻ると荷物を置く。
ラフな格好に着替えて階下に降りると母親が夕飯を準備してくれた。
共働きの堂上家では一家そろっての夕飯というのは少なく、母親が準備をしてくれるのを見ているのも少ない。

「篤、今日遅かったわね。」
「ああ・・・ちょっと郁が怪我したから隣送ってきた。」
「あら、仲直りしたの?」
「いや・・・まだ、でも話せるようにはなった。」

いつもより大分遅い時間に戻ってきたことを心配したのか、普段干渉してこない母親の問いかけに僅かに竦みながらも堂上が答えると目を瞬かせてさらに尋ねられた。
正直なところ、母親にまで郁と気まずくなっていることに気付かれているとは思っていなかった堂上は食べ始めた箸の手を止めてしまう。
しかし、嘘は何故か簡単に見抜かれてしまうことを理解しているので現状をそのまま伝えればよかったわねと微笑まれた。

「あんた、隣の二男君が来てから相当凹んでたもの。」

楽しげにのんびりと笑って告げられた言葉に、堂上はがっくりと肩を落とすしかなく早々に夕飯を済ませると風呂など諸々を済ませて早々に自室に引き上げた。

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