龍のほこら はつこい A-6話 忍者ブログ

龍のほこら

図書館戦争の二次創作を置いている場所になります。 二次創作、同人などの言葉に嫌悪を覚える方はご遠慮ください。

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こんにちは!
大変お待たせしました、篤サイド6話の公開です。
篤サイドでは郁が寝ていた間や合宿でいなかった時の篤側で起こったことなどを詰め込んでおります。
そのため、郁サイド5話と対になる回では5話だけでは収まりきらず今回の6話まで至りました。
更に、前回の5話を切りの良いところで区切ったので6話はかなり詰め込むことになり、篤サイドの中でも「はつこい」の中でも一番長い回になりました。
当初は分けるか悩んでも居たのですが、分けるには少し中途半端だったので・・・^^;
色々と細かく書きすぎたかな・・・?と思いはするのですが、楽しんで頂ければと思います。

お付き合いくださる方は「本編スタート」よりご覧くださいませ。


※ 誤字直せてませんでした・・・!ご指摘その通りです(ノД//)←またやっちゃった・・・と思ってる人
  ありがとうございました!!(2014.06.17追記)

拍手[104回]




宿題も済ませてベッドに寝転がると思い出すのは昼間の事だった。
堂上が教室に駆け付けた時、郁はあられもない姿になりながらも必死に男たちから逃げようともがいていた。
それを下卑た笑みで見ている男たちに目の前が紅くも黒くもなり、初めて殺意というものを理解した気がした。
その場で叩きつけてやりたい気持ちが多大にあったが、それよりも優先すべきは郁だった。
男たちを感情のまま殴り飛ばせば抑え込まれている郁まで巻き込む可能性があった。
それだけが堂上を止める唯一のモノだった。

「・・・・無事で良かった。」

男に襲われて否が応でも性差を見せられて怯えたのに違いないのに自分の腕の中で安堵し泣く郁は、今までで一番か弱い女性そのものだった。
堂上は同時に抱きしめた時の郁の身体の柔らかさや甘い香りを思い出して今更ながらに頬に熱が上がってくるのを感じて慌てて頭を振って違うことを考える。
郁を襲った男たちを手引きしたのは古賀で間違いないだろう。
玄田が動けない程に絞るのは見込みがある場合か教育的指導をする時だ。
堂上が武道場を出て行く時、こちらは任せろと言わんばかりの言葉だったのだからあの後しっかりと絞られて洗いざらい吐かされているに違いない。
そこまで考えて、明日自分も呼び出されるだろうことを考慮に入れると堂上はゆっくりと目を閉じる。
瞼の向こうに見えるのは今まで散々見ていた郁の笑い顔だ。
早く決着をつけてしまいたいという想いとまだもう少しだけ頼られる存在で居たいという想いと混在する複雑な気持ちのまま、堂上は眠りに落ちた。
翌朝、目を覚ました堂上は郁の欠席を思い出し着替えて準備を終えると鞄を手に学校へと向かった。
正門をくぐった所で待ち構えていたらしい玄田に捕まり、荷物を教室に置く間もなく職員室の奥にある小部屋へと連れて行かれた。

「さて、詳しい話を聞こうか?」

部屋に入り中を見ると奥には郁を襲った男子生徒3人と河野、河野の傍に顔色の悪い女子が2人と古賀が居た。
人数の割に狭い室内は堂上と大柄な玄田が入ったことで非常に息苦しい空間になったが、玄田は気にすることなく空いている席に座るよう堂上を促し自分も席へと座った。
ここに担任が呼ばれてないのは玄田の気遣いだろう。
どちらに対しての気遣いかは判らないが、どちらにしろ担任にも頭の痛い事であるのは間違いない。
一応話はいっているのだろうが、詳細が解るまでは穏便にというのが玄田の意図だろう。
堂上が空いた席に着くと、まずは玄田が口を開いた。

「昨日、古賀に確認してお前ら3人は俺が迎えに行ったが・・・何したか解ってんだろうな?」
「な、何がだよっ!?」

玄田が切った口火に、堂上が入った瞬間から怯えていたにも関わらず男子生徒の内の1人は粋がった返事を返してきた。
玄田はそれを意に介さず、そうか、解らんか、と頷いて古賀へと視線を移す。
古賀に関しては郁がどういう目にあったのかは知らないのだろうただ玄田のお仕置きが効いていて視線だけでびくついて小さくなるばかりだ。
話にならないとため息を吐いた玄田が河野に視線を向けると、河野はまっすぐとその視線を見返して頷いた。

「私も、詳しいことは解らないんです。ただ、そこの2人が昨日帰る時に私に、『明日から笠原さんは堂上君に近づけなくなるから、気兼ねせずに甘えれば良いよ!』って満面の笑みで言われたんです。だから私、何かあるなら昨日だと思って慌てて堂上君探して武道場に・・・。」
「ほう・・・。で、そこの2人の言い分はどうなんだ?」

河野の話を聞いた玄田が2人の女生徒に確認するが青い顔をしながらも違うと言いたげに声を上げる。
しかし、堂上はその内の1人が昨日の放課後、部活に行こうとした時に声を掛けてきたクラスメイトだと気付いていた。
玄田は堂上の方を見るが、堂上は口を閉ざしたまま他の人間を無表情に見ている。

「古賀、もう一度昨日俺に言ったこと話せ。」
「っ?!あ・・・。」
「嘘は吐くなよ?」
「・・・・き、昨日。勝崎から笠原を少し脅かして欲しいと頼まれて・・・。」

玄田に睨まれて、古賀は女生徒2人のすがるような目から逃げるように顔を俯かせながらポツリポツリと話していく。
その内容は郁を襲えという内容ではなかったことに、堂上はやはりなと納得したような気分で小さな息を吐く。
古賀は基本的には小心者で度胸はそれほどない。
部活でも自分で勝負が決まるというここぞという時には負けることが多い。
だから、ただ連れてきてほしいと頼んだだけなのだろうとは予想はしていた。
ただ、頼む相手と頼み方が問題だった。

「お、俺は!笠原を連れてきてほしいって頼んだだけで、襲えなんて一言も!!」
「ふざけんなよ!!手段はどうでも良いって言ったじゃねーかっ!!」
「そうだそうだ!!」
「あんなはねっ返り、何もせずに連れてくるとか無理に決まってんだろっ!」

古賀の言葉に郁を襲った3人が口々に抗議の声を上げるが、玄田と堂上が睨むのと同時に尻すぼみになり口を閉ざした。

「怪我はさせるなって言ったし、あんな・・・教室で襲うとか・・・!」

古賀は3人もいれば郁を1人連れてくるくらいは大丈夫だと思っていたのだろう。
堂上と居る時の朗らかな郁しか見ていない古賀にとって、郁がそこまで抵抗するような気性とは考えてなかったのだ。
連れてきて貰えれば上手く口説けるという自信もあったのかもしれないが、今まで口説けた試しもないのにどこからそんな自信が・・・とは、堂上は口にしなかった。
ただ、冷たい目で男たちを見つめている。

「と、いうことだが?勝崎、どうなんだ?」
「わ、私たちそんなこと・・・!!」
「俺らも一緒に聞いてたんだ、お前らだけ逃げるなんてずりぃぞ!!」
「そうだ!お前らが古賀に俺たち呼ばせたんだろうがっ!!」

言い逃れようとした勝崎と呼ばれた女生徒ともう一人に実行犯の3人が再び騒ぎ出す。
そして、言い逃れ出来なくなったのだろう、悔しそうな表情で唇を噛んだ女生徒2人は俯いたまま勝崎が口を開く。

「堂上君が文美と付き合い始めたのに笠原さんのことばっかり話してるから、文美だったら諦められたのに・・・。」
「そうよ!!なんであんな子を大事にするのよ!文美の方が可愛いし背だって!!」
「煩いっ!!お前らにそんなこと言われる筋合いはどこにもない!」

それまで黙っていた堂上は、女生徒たちが開き直ったように郁を貶め始めたのを聞いて我慢できずに途中で遮るように怒鳴りつけた。
鍛えられた堂上の腹筋から発された怒声は窓をビリリと揺らすほどだった。
まだ怒鳴ろうとした堂上だったが、すぐそばに居た玄田が頭を押さえつけるように揺らして来たことで僅かばかり冷静に戻ると椅子に座り直した。
河野も女生徒たちの言葉に僅か不快感を覚えたのか顔を顰めながら2人を見ている。

「つまり、お前ら2人が古賀に依頼して笠原を狙っていた古賀がちょうど良いと便乗して頼んだこいつらが暴走した結果、強姦未遂を働いたってことだな。全員共犯だな。上にあげれば実行犯のお前らは退学、提案したお前らも停学は免れんだろうな。」

しばらく室内を沈黙が包んでいたが、それを破って事実関係を要約したのは玄田だった。
それから堂上を見て、玄田は膝に置かれた手がきつく握られているのを見るとぽんぽんと頭を叩いた。

「お前らは、やっちゃいかんことと良いことの違いが何も分かっちゃいない、幼児並だ。人の恋路に足を突っ込むのはお門違いだと思わんか、ん?」

玄田は堂上には声を掛けず、原因となった生徒たちへと声を掛けていく。

「古賀も、本当に笠原が好きなら堂上を押しのけてでも声掛けるくらいの気概持てや。そうじゃなきゃぁ、お前には縁がないと思って潔く諦めときゃぁ、良かったんだ。」

言葉を掛けられた女生徒、古賀は目を合わせることも出来ず俯くとじっとしている。停学や退学という言葉にびくりと肩を揺らして、怯えるように震えだしている。
今更だが、事の大きさを理解したのだろう彼らの反応に堂上は冷たい視線を向けたままだ。

「河野は潔く諦めたんだろう?」
「はい、私じゃ笠原さんには敵いません。昨日、嫌ってほど思い知りました。」
「ああ、お前はイイ女だな。」

河野へと話題を振れば、きっぱりと返って来た言葉に玄田はニヤリと口元を笑みの形にする。
そして実行犯である男子生徒3人へと視線を向ける。

「お前らは厳重注意じゃ足りん。強姦は未遂だったとしても、笠原は怪我をした。このことは上へ上げるからな。停学処分は最低でも下るだろう。」
「なっ・・・?!」
「そんなっ!」
「お、俺たちそんなつもりはっ!!」
「今更だ。そういう覚悟もなかったのにやったのか、お前らは。それがどういう事なのか、停学中にしっかりと考えるんだな。」

縋るように玄田を見て声を上げる実行犯の3人に自業自得だと無慈悲な返事を返し、最後に堂上を見た。

「事の顛末はこうらしいが、なんか言うことあるか?」
「・・・・お前らが、軽い気持ちで考えたことがどれだけ大事で最低なことかよく考えろ。」

玄田に問われてわずかに考えた堂上は、静かに口を開くと怒りを孕んだ声でそれだけを告げた。
その声と言葉に女生徒2人はとうとう泣きだし、古賀も半泣きのような表情で唇を噛みしめて俯くと膝の上で手を握り締めた。
実行犯3人に置いては真っ青な顔で震えあがっている。
それを確認した玄田は、口を閉ざした堂上を確認してから声を上げる。

「よぅっし、んじゃぁ、まぁ、あとは担任に任す。デリケートな内容だからな、掲示板に張り出されたりはせんがそれぞれそれなりの罰があると思っとけ。外面的には何もなくても内申には記載される。今後の行いはよぉく考えろよ。」

締めの言葉を告げた玄田は席を立つと部屋のドアを開けて中の生徒たちを順番に外に出す。
最後に部屋を出たのは堂上だった。
ドアを閉める玄田を待って、頭を下げる。

「ありがとうございました。」
「なあに、可愛い秘蔵っ子とその嬢ちゃんのためだからな!ほれ、もう授業も始まる、さっさと行けよ!!」
「はい。」

がははと豪快に笑いながら、頭を揺らすようにガシガシと頭を撫でられ、若干ふらつきながらも玄田にもう一度深く頭を下げると堂上は自分の教室へと向かう。
荷物も下ろさずに来たために鞄は持ったままだ。携帯を取り出すと時間を見る。
そろそろ1限が始まる時間が差し迫っていたが、堂上は慌てるそぶりは見せずゆっくりとした歩調で歩きながらメール画面を開くと宛先に郁のアドレスを呼び出してメールを組み立てた。
昨日の具合から考えて起きるのはまだもう少し先だろうと予想して、夜の間に熱を出しただろう郁に身体や足の具合の確認と自分の用件を伝える内容を書いて送信する。
教室に向かう階段を登り切ったところで携帯をしまうと、待っていたのか河野が立っていた。

「堂上君」
「なんだ?」
「私、昨日あの前に笠原さんに会ったの。凄く良い子なのね。良い子すぎて、負けたって思っちゃった。」
「・・・そうか。」
「うん、あの子があんな子だったなんて思ってなかったから無謀な勝負挑んじゃった。今回のことも・・・」

立ち止まることもせず歩けば、河野は並んで教室に向かいながら話しかけてきた。
堂上はそれを受けてただ静かに返事を返す。
今回の件に自分のことが噛んでいることを、河野はよほど気にしているのだろう。
僅かも荷担していないのに謝罪の言葉を告げようとしているのに気付いて、堂上はそれを遮るように手を上げた。
突然の動きに河野が言葉を飲み込んだのを確認して堂上は足を止めて河野を見た。
河野もつられて一歩前で立ち止まると振り返って堂上を見てくる。

「あいつがあんな目にあったのは河野のせいじゃない。逆に、河野が知らせてくれたから間に合った。だから、謝罪は俺にも、たぶん・・・あいつにも要らないと思う。」
「でも・・・。」
「運が悪かったんだ。あいつらが河野の友達だったのは事実でも、それを隠さずに玄田先生に話したんだ。十分償ってるだろ。」
「・・・・そう、かな。」
「少なくとも、あいつは、郁はそう言う。」

自分の友人が事を起こしたことは少なからず河野の心の傷になっているのだろう。
郁の心にどれほどの傷が残っているかは判らないが、河野にとってもこの件は傷になったことは違いない。
堂上は郁だったらなんというか、想像してそのままを伝えた。
郁ならば、決して誰かを責めることはしないだろうと思うから。

「たぶん、あいつならお前に礼を言うと思う。だから、堂々としてろ。」

責任を感じるのは実際に行動したやつらだけでいいと、言外に告げれば河野は泣きそうな顔で笑って頷いた。
それを確認して止めた歩みを再開するとチャイムと同時に教室へと入った。
小牧から何か言いたげな視線が寄越されるが、授業が始まる時間なのもあり堂上はさらっと無視して席についた。
教師には話がいっているのだろう、さっさと準備しろの一言で注意もなく授業は開始された。
そして昼近く、授業中に鳴った携帯を確認した堂上は郁からのメールを確認して目元を和ませる。

「俺もだが、あいつも端的だな。」

クスリと笑って呟いたのと同時にずっしりと圧し掛かられて、堂上は和んだ表情も一瞬に消し去って身体を動かした。
乗っかっているのは小牧で、何か言いたげな表情だったのを無視した午前中の授業でしびれを切らしたらしい。

「どーうじょー、話、してくれるよねぇ?」
「ここじゃ無理だ。」
「んー・・・・じゃ、屋上行こうか。」
「わかった。」

圧し掛かったまま、うっとうしい!と叫んでも退かない小牧の言葉に小さくため息を吐きながら返事を返せば、僅かに考えたそぶりのあと告げてきた移動の指示に堂上は頷く。
昼休みに入ったのだからと弁当を手に2人並んで屋上へと向かう。人はほとんどおらず、男2人だが出入口や先に居た団体からは離れた場所に陣取ると弁当を広げながら話始める。

「で、昨日何があったの?」
「・・・・詳しくは言えん。が、とりあえず河野とは別れた。」
「ふーん?やっと自覚したんだ?」
「ああ・・・。」
「で、笠原さん、今日休みなのは?」
「・・・・昨日、ちょっと事件があって郁が巻き込まれた。怪我したから病院だ。」

それ以上は言えないと口を閉ざせば、何があったのか知りたかったんだけどねと言う小牧をじろりと睨む。
多数の人間に知れて良い話ではない。例えそれが小牧であっても、あんな場面を早々説明などしたくもないと不快にゆがんだ表情で視線を逸らすと弁当をかき込む。
 しかし、小牧には多少でも内容を話しておくべきかもしれないという考えがないわけではなく食べる手を止めると堂上は小さく息を吐いた。
小牧を見ると堂上が話す気になるのを待っているのか、自分の弁当をつついている。

「昨日の事件な・・・郁を逆恨みした女が男子生徒に頼んで襲われたんだ。」

何をどう言えば良いのか、普段から口下手な堂上は真綿に包んだ言い方が思いつかずしばらく悩んでから声を潜めて小牧にだけ聞こえるように言う。
小牧は堂上の言葉を直ぐには咀嚼出来なかったのか、訝しげな表情で堂上を見返してきた。
堂上はその様子に信じられないのも仕方ないかと思うと自分を落ち着けるように深呼吸を1つしてから小牧を見る。

「郁が男3人に強姦されそうになってたんだ、教室で・・・。今朝ぎりぎりに教室に来たのは、玄田先生が犯人を指導室にしょっ引いてきてくれてて事情聴取みたいなもんだ。郁は悪くないから、出来るなら大げさにしたくない。」
「そっか、なるほどね。」

事情を説明すれば否が応でも昨日の郁の姿を思い出す。
怖い思いをさせた原因が自分にあるのかと思うと、傍に居て良いのかと僅かに不安になる。
その不安が小牧にも伝わったのか、原因については何も告げていないのに肩が軽くたたかれた。
いつの間にか俯いていた顔を上げると苦笑を浮かべた小牧が肩を竦めてみせる。

「堂上が何考えてるか、なんとなく解るけどさ。笠原さんがお前を拒否しないなら傍に居ても良いと思うよ?」
「・・・・そうか。」
「居なくなったらむしろ怒られるんじゃない?」
「そんなことは・・・。」

ない、と言おうとして言いたくない自分の心の内に気付く。
たとえ権利がなくても、郁の傍にどんな形でも居たいと思っているのが本心だから。
それに気付けば否定することも出来ずに中途半端な言葉尻で黙るとクツクツと隣から笑い声が聞こえてきた。
堂上の意気地のなさに対してか、言葉だけの否定すら拒絶したことへかは判らないが上戸のツボを押してしまったらしい。
笑い声を潜めて悶える小牧を放って堂上は食べ終わった弁当箱を片付けると立ち上がった。
時間は午後の授業が始まる10分前だ。
そろそろ移動しておかなければ走るのは遠慮願いたいと、笑う小牧にも声を掛けて屋上から教室へと戻った。
そして午後の授業も滞りなく終わり部活に向かう頃、堂上の携帯が震えメールの着信を知らせた。
差出人は郁で、病院の診察結果が簡単に書かれていてしばらくは松葉杖での生活を余儀なくされることになってつまらないと愚痴までついてきた。
そのことにクスリと笑みが漏れ、ほっとすると堂上は部活へ参加した。
いつも通り玄田が来るまでに部員全員でアップを済ませ、玄田が顔を出すと本格的な稽古が始まった。
稽古は昨日途中で乱取りを抜けた堂上の試合がいくつか残っていたが、それ以外は通常通りに進められて堂上の方もその試合をこなしてから通常稽古に混じった。
部活終了時間になり、ダウンするとぞろぞろと部員たちが部室へと帰っていく。
堂上は人があふれる部室に入るのも微妙な気分で人が引くのを待っていると玄田が近寄ってきた。

「あいつら、一応処分することは決まった。まぁ、未遂だし大事にしたくないって方針みたいだからな、大々的に罰されるってこたぁないと思う。笠原の事も表には出んだろう。」
「そうですか。」
「古賀や河野の友人らは厳重注意だ。明日から俺とびっちり反省するための補習になったでな、こってり絞っといてやる。」
「ほどほどにしてください。」
「おうおう、余裕だな、お前。」
「・・・・あんまり酷くして郁が気付くのはちょっと・・・。」
「そうか・・・まぁ、そうだな。」

ほどほどにしといてやる、と笑って言うと玄田は堂上の頭をガシガシと撫で揺らしてからさっさと着替えて帰れよと声を掛けて職員室へと去って行った。
堂上も玄田の背中を見送ると人が減っただろう部室へと足を向けた。
シャワーなんて良い物はないし、あっても通常の部活では使用できないため適当に汗を拭きとると制服に着替えると部室を出る。
帰路に着きながら郁の家に行く前に風呂には入るかなどと考える堂上があった。
堂上は自宅に戻ると荷物を置き、予定していた通り先に風呂へと入った。
それから母親に郁の所に行ってくるとだけ告げて隣の家を訪れた。
呼び鈴を鳴らすと郁の母親が出て来て篤を見ると強張った表情ながらも微笑んで家へと上げてくれた。
郁の父親が帰っているか聞けば、リビングに居るとの返答に堂上は昨日の今日で帰ってこないわけがないよなと思いながら話があると伝えた。
郁の母親はそれを受けてリビングに先に入ると長兄を呼んで4人でリビングに集まった。
次男、三男は用事で出かけてまだ戻っていないらしく昨日と同じ状態だ。
ソファを勧められて座った堂上は出されたお茶で口を湿らせながら今日の内容を説明する。
逆恨みではあるが、根本で自分が悪いと言われれば否定が出来ない堂上だったが誤魔化すことはせず今日の会話の内容を口にしていた。
徐々に震えだした郁の母親に申し訳なさはあるものの、真っ直ぐに何の感情も浮かべずに聞いてくれる郁の父親に真摯に言葉を続けていった。
最後まで話終わると全員が詰めていた息を吐き出して場の緊張感が僅かに緩む。
郁の母親は自分の娘がそんな目に遭ったことが悔しいのか、悲しいのか、途中から郁の父親にしがみ付いていた。

「事情は分かった。篤君も大変だったな。」
「いえ・・・。」
「処分などは学校側に任せよう。郁も騒ぎが大きくなるのは嫌がるだろうし、君の言う玄田先生というのは信用できるお人の様だしな。」
「はい。」
「郁の顔を見ていくかい?」

郁の母親が何か言おうとしたが、その前に郁の父親がその肩を抱き、叩いたことで小さな息と共に言いたいことを吐き出したようだ。
堂上は郁の両親のやり取りを見ながら僅かに視線を落とす。
自分の曖昧な行動が郁にまで危害を及ぼすことになったことは落ち込む以外の何物でもない。
異性云々以前に、それとは別の次元で郁は堂上にとって大切な存在なのだ。
そんな堂上の落ち込みに気付いたのか長兄が頭を撫で揺らしてくる。
それに顔を上げると、郁の父親が会っていっても良いと言っているような問いかけをくれた。
郁には今夜行くと、寝てても起こすと言ったものの事情が事情だったので郁の両親が良しとしなければ諦めてメールをして帰ろうと思っていた。
本当に良いのだろうかと思いながらも、会いたい気持ちはあるので郁の父親の問いかけに頷いた。
長兄が案内を買って出てくれて堂上は促されるままに郁の部屋へと移動した。
長兄は部屋の入り口で郁はまだ寝ていると思うとだけ告げて、堂上の頭を軽く撫で叩くと自分の部屋へと戻って行った。
堂上はその背を見送ると竦む足を叱咤しながら郁の部屋のドアノブに手を掛ける。
起きていて、堂上を見た瞬間逃げられたらと思うと怖いと思いながら静かにドアを開けた。
中を覗くと明りの点いていない薄暗い室内でベッドに小さな山が出来ていた。かけ布団をかぶって小さく丸まっているのだろう郁の姿が簡単に想像出来て、緊張していたのも忘れクスリと笑ってしまう。
電気を点けて、入るぞと声を掛けてから中に入ったが郁は反応せずに小さな寝息だけが返ってきた。
堂上がそっと近づくと、身じろぎもせずに深い呼吸で熟睡しているのが判る郁が居る。
さらされている寝顔は普段よりも幼いかと思えば、寝ている表情の方が年相応で女を感じさせられて思わず見入る。
じっと見ていれば僅かに寄せられた眉と寝苦しそうな吐息が零れ、堂上は反射的に手を伸ばす。
慣れた動作で郁の柔らかい髪に指を差し込み、サラサラと指通りの良さを確かめるように梳く。
1度梳くごとに寄せられた眉が解れ、寝苦しそうな吐息が穏やかになっていく様が堂上の心を満たしていく。
何度も続けていると無意識に手に擦り寄ってきて、堂上はくしゃりと起きている時にする様に少しだけ乱暴にも見える動作で髪をかき混ぜた。
同時に思い出したのは郁の長兄の言葉で、自分への甘えが見て取れて照れを隠すために思わず顔を顰める。
郁の方はそれで擦り寄った手が誰の物か気付いたのか、唐突にぱかりと瞼が開き視線がかち合った。

「あっ・・・ごめっ!!起きてるつもりだったのにっ!!」

慌てたような郁の言葉に堂上は次の行動を予測してそれを止めるために動く。
案の定、足の怪我を忘れて飛び起きようとした郁をその前に止めるとベッドへと押し返す。
ボケた顔で見上げてくる郁に内心で苦笑が漏れるが、あえて苦い顔を作ったまま止めた理由をため息と共に告げると素直な郁はそれで納得したらしく礼の言葉が返ってきた。
それに頷くだけで返してから手を差し出した。どうせ意図は伝わらないだろうと、堂上は差し出した手をそのまま郁の手首まで持っていくとそっと引いて身体を起こさせる。
足に負担がかからないことを確認しながら引き起こせば郁はされるがままに身体を起こしてベッド上に座り込んだ。
余りにもされるがままの郁に嬉しいやら妙な気分になるやらで堂上は自然に仏頂面になっていたが、それを説明することは出来ずちらちらと伺ってくる郁の視線を気付かない振りでやり過ごした。
堂上はそっと郁から手を離すと部屋を見渡してデスク用の椅子を引き寄せると正面に据えてそこに座った。
一心地ついて郁を見ると、郁もこちらをずっと見ていたのか視線があった。
同時に僅かにだが頬が朱に染まるのを認めて堂上は緩みそうになる口元を引き締める。
オロオロと彷徨った視線が下に落とされて俯いた郁に思わず可愛いと言いそうになって言葉を飲み込むとぐぅっとくぐもった声が漏れた。
それを誤魔化す様に堂上は咳払いをすると漸く本題を切り出した。
一番最初に気にしたのは足。医務室に運んだあと、徐々に腫れてきた足は赤黒くなっていた様にも思えて不安だった。
昼過ぎに届いた郁からのメールには、全治に1か月もかからないこととしばらくは松葉杖を使うことになることが書かれていたが大したことはないと言われたとの言葉に深く安堵の息を零したのは内緒だと思っている。

「まずは、足・・・そんな酷くなかったみたいで良かったな。」

一呼吸置いてそう伝えると、俯いた頭がこくんと揺れて郁から返事が返ってくる。
しかし、言いかけで言葉が止まったと思うと郁はあの時を思い出したのか身体を震わせ始め自分で自分を抱きしめている。
堂上はそれを見てしまったと内心で苦ったが今更どうしようもなく、触れることに一瞬躊躇したものの前日の出来事を思い出して椅子から立ち上がると手を伸ばす。
キィッという椅子の軋む音を背に受けながら、俯き震えた郁の頭へぽんっと手を置く。
拒否されて手を払われる覚悟をして置いたその手は堂上の覚悟を余所に郁の震えを止めることに成功したらしい。
そっと下から伺うような郁の表情に頬が紅くなりそうなのを誤魔化すようにぐっと眉がよりしかめっ面になるが、手を離すことはせずぽんぽん、くしゃりといつものように郁を宥めるために繰り返し撫でると郁が猫の子の様に目を細める。
ゴロゴロと喉でも鳴らしていそうな緩んだ表情を見せてくれる郁が嬉しくて見ていれば、先ほど身体を震わせた時にこぼれそうになった涙に気付いた。
無意識に頭を撫でてた手を頬に移動させるとそっと撫でた。
それに驚いたのか、細められていた郁の目が真ん丸に見開き自分を見つめてくる。
堂上はその視線を受けて今日の朝のことを思い出す。
そっと目じりに指を這わせてとどまっていた涙を拭うと、掠れた声で途切れがちに名前を呼ばれて心臓を掴まれたようにぎゅっとなり苦しくなる。
きつく目を閉じるとあんな目に遭わせた要因が自分にもあることが悔しくて、苦しくて、喉を締め付けられる様な感覚に襲われる。
それでも、言わなければと声を絞り出すと自分でも相当だなと思える苦しげな声になったが何とか言葉を紡ぐことが出来た。

「ごめん・・・。あんな目に遭わせて・・・無事で良かった・・・。」

そう告げれば、郁にはなぜごめんなのか解らないのだろう不思議そうに名前を呼ばれる。
先ほどの驚きに掠れた声ではなく、不思議そうな無防備な幼子のような声。
その声に促されるままに、少しずつ言葉を落とすと河野の名前を出した所で僅かに硬直する郁に気付いた。
ヒクリと頬も引き攣っていて、何か悪いことを言ったかと焦って目を開け郁の顔を覗き込む。
視線が絡まって、無理に笑おうとする郁を目の当たりにしてそんな顔をさせたかったわけじゃない堂上は頬を撫でていた手を後頭部に回すと自分に引き寄せた。
抱きしめようとすれば、胸元で手をついた郁が腕を突っ張って慌てたような叫びと共に拒んでくる。
どうして拒む?と苛立つ自分を押し隠しながら腕を緩めて郁を見れば、郁も同じ様に堂上を見上げてきた。
絡む視線に耐えきれず先に逸らしたのは堂上だった。
逸らした視線のまま、けれど郁を囲う手は離さずに襲われた原因を口にする。

「河野とは別れた。けど、それが遅くてお前にとばっちりがいったんだ。」

そう告げた途端、逃げ出そうともがいていた郁の動きがピタリと止まった。
堂上は今度はなんだと思ったがそれよりも前に力の抜けた腕に気付いて引き寄せる。
さっきまで突っ張るために突いていた手がきゅぅっと服を握るのが引っ張られて伝わってきた。
堂上はその仕草が可愛くて緩みそうになる心を告げる言葉を思い出して締め直しながら続きを口にする。

「河野の友達だって女たちが河野に黙ってあの男たちに郁をどうにかしろと言ったらしい。」

逃げないのを確認して片手を背に回し抱きしめる態を取ると後頭部に回していた手でゆっくりと郁の髪を梳く。
時折指先が髪の流れに沿って襟足を掠めると郁が擽ったそうに首を竦めて額を摺り寄せてくる。
それがどうにも堂上の庇護欲を擽ってこのまま話を止めてしまいたくなるのを堪えるのに背に回した腕の力を強めて引き寄せる。
隙間がまた少し狭まって、郁の動きに合わせて甘い香りが鼻孔を擽る。
引き寄せただけ郁の額を擦り付ける力加減も強くなるのに、郁も恥ずかしいのだろうか?と思考が若干横道にそれて行く。
そうなると、思考を戻すのは至難の業でぐりぐりと額を押し付けてくるその様子が可愛いと撫でる手を止められない。
顔はもう小牧が言うところの脂下がった表情でもしているに違いないと思うが、部屋に居るのは自分たちだけなのだからと開き直ることにした。
そして、肝心のことを伝えていないことを思い出してそれを伝えるために口を開く。

「あの男たちと河野の友達だっていう女2人は玄田先生に突き出しといた。」

そう伝えれば、撫でていた手を跳ね除けるように勢いよく上がった郁の顔がほんのりと紅く染まっていてそれがやはり可愛くて緩んだ表情そのままに見つめ返せば桜色だったのが頬などリンゴのように紅く染まっていく。
目の前の変化に堂上は期待せずにはいられなくて、緩む顔を戻すことは出来なかったが開き直ることにした。
郁がその表情をどう思ったかは判らなかったが撫でる手を跳ね除ける勢いだったのを思い出して、なぜ犯人が捕まったのかを説明すると河野の名前が出た所で僅かに顔が歪み、俯こうとするのに気付く。
堂上は咄嗟に撫でていた手で後頭部を掴み固定すると俯かれるのを防ぐ。
猫の子の様に首根っこを固定した郁は離れようと再びもがき始めるが堂上にとっては抵抗らしい抵抗にはならなかった。
そのまま視線を合わせれば羞恥にか戸惑いにか郁の視線があちらこちらへと彷徨う。
じっと見つめ続ければ逃げ惑った挙句観念したのかおずおずと見上げられた。
視線が絡んだのと確認して、堂上は事件の話ではなく自分たちの話をすることにした。
いつまでも後回しにはしたくない、切られるならばっさりと切られる方が諦めもつく。
しかし、今や少し前の反応を見た限りだと期待しても良いんじゃないかという気持ちが膨らんで焦る心を上手く抑えることが出来なかった。

「俺はお前にちゃんと言ったぞ?河野と別れた。」

そう問いかければ絡んだ視線が外れ再び惑い、定まらなくなった。
何を返すべきなのか迷う様に口籠る郁に、さらに問いかけを重ねる。
堂上は自分の気持ちを自覚し始めてからこっちずっと持て余しておりその男について聞いた最初の夜、郁の答えを完全に聞いていないことには気付いていなかった。
だから、重ねた問いは郁にそれを確認する問い掛けだった。
問いかけた郁の方はそんな問い掛けに反発するように再び暴れ出す。
堂上は逃げられたくなくて咄嗟に抑える腕の力を強くする。
郁がもがけばもがくほど強くなる手に、傷つけない様に力加減をするのに必死で声を掛けることも出来ない。
しばらくすると、逃げれないことに焦れたのか郁が拒絶の言葉を口にし始めた。
堂上は郁に嫌だと叫ばれた瞬間、頭が真っ白になりただ郁の名前を叫ぶことしか出来なかった。
咎めるような、懇願するような、そのどちらも混じったような声で堂上が名前を呼んだのと郁が必死のあまり拒絶する理由を無意識に口走るのは同時だった。

「篤、私の話聞いてくれないもんっ!!」

叫び返された内容に、堂上はピタリと動きを止めた。
考える方に意識を持って行かれ腕の力が緩んだ隙を突いて郁が腕から逃れベッドの端から壁の方へと後ずさり距離を取られた。
堂上が乗り上げなければ腕に抱き込めない位置で、涙目で睨みつけながら郁はさらに続ける。

「私っ!ちゃんと言ったもんっ!!あの日、彼氏なんて居ないって!!あいつとは付き合ってないって言ったもんっ!!」

そこまで言われて堂上はあの日から思い出したくなくて避けていた会話を思い返す。
夕暮れ時に一人で帰ってきた郁に少しだけ安堵しながら、同時になんで一人で帰すんだと相手の男にイラついていた。
そして、郁にお帰りと声を掛けた堂上は、不思議そうに自分を見る郁にそのイラつきが増して投げつけた言葉は、会話はと思い出す。

『郁、お前今日誰と一緒に居たんだ?』
『え?』
『河野が、郁にも彼氏が出来たんだって言ってたんだ。約束じゃなかったのか?』

問いかけても解らないと言いたげな戸惑った返事に、それでも冷静になろうとして問いかけていた・・・ハズだった。

『そ・・・れは、でも!』
『でも?お互いに約束しただろ?付き合う相手が出来たら言うって、でも付き合い方は変えない。違ったのか?』
『篤・・・?』

呼ばれた名前はなぜそんなことを言うのかという悲しそうな響きを含んでいた気がする。
なんと答えたら良いのか迷った郁の様子に、堂上は自分に言いづらいから黙っていたのだと思い込んでしまったがたぶん違うと今なら解る。
自分の剣幕に圧されて言葉を探しあぐねていたのだ、と思い至れば背筋を伝うのは冷や汗で、堂上は目を見開いて郁を見る。

『・・・違わない。けど、今日この時まで篤と話す機会がなかったもん。それに、私まだ誰とも付き合ってない。』

正確に聞いていた言葉、けれど後半は自分の思い込みでかき消してしまっていた言葉が脳裏に甦る。
”誰とも付き合ってない”それは、あの男が郁の彼氏ではないということを指していて自分の狭量さと短気さを後悔する。
きちんと最後まで冷静さを保てていたらと思うと申し訳なく、申し開く言葉も思いつかない堂上は黙り込んでしまう。
そうすれば郁が悪い方に取るのは昔からで、止める間もなく潤んでいた瞳からポロリと透明な雫が零れ落ちて堂上ははっと息を飲む。堂上は零れてしまった雫がそれ以上溢れてくるのを止めたくて、手を伸ばしたがそれは届く前にパシンッという音と共に払われた。
そして、払われた堂上よりもずっと痛い顔をした郁が泣くのを堪えるような小さな唸り声を上げ始める。
その瞳には見る間に涙が湧き上がり、1粒、1粒と溢れ、頬を伝って零れていく。
堂上はどこか遠くでそれを見ているような感覚で徐々に増していく雫の道筋を眺めていた。
堂上の目の前で郁は必死に堪えようとしていたがどうしようもなくなったのか涙だけではなく嗚咽も零れ始めた。
堂上がどうしたら良いのか迷っている間に、郁はとうとう限界に達したようだった。
酸素を求め、喘ぐように何度か口を開いたかと思うと堂上に馬鹿という言葉を投げつけると本格的に声を上げて泣き出した。
堂上はそうなって漸く硬直から抜け出すと手を伸ばしかけて戸惑う。
泣き出した郁を慰めたいと思うのと同時にさっきの様に手を払われて拒絶されたらという恐怖が湧きあがって伸ばして良いのか迷うのだ。
そうしている間も郁は子供のように何度も手の甲で目をこすり涙を拭いながら泣き続けている。
堂上はその様子を見て今度は払われてもその涙が止まるまで手を伸ばそうと意を決すると郁へそっと手を伸ばした。
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